伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

伝統工芸「遠野和紙」、かつて県登録のいわき和紙からの名称変更が承認された

2023年03月31日 | 遠野町・地域
 遠野で産する和紙は、1997(平成9)年に、遠野和紙最後の職人となった故瀬谷安雄氏が伝統工芸品に登録した際はいわき和紙の名称となっていた。しかし、その後、全国的にも域内でも遠野和紙と呼ばれることが一般的であり、このため、瀬谷氏存命のおり、和紙製法に関する指導を受けていた遠野和紙ボランティア(現、伝統工芸遠野和紙・楮保存会)が、いわき和紙から遠野和紙に名称を変更することを求める届を福島県知事あてに提出していた。

 申し立てを受けた県は、きょうまでにいわき和紙の名称を遠野和紙に変更することを認め、保存会に通知してきた。

 名称変更の届けに関しては、追加資料が求められ、保存会会員でもあることからその原案を以下のように作成した。

  「いわき和紙」の名称変更に関する補足資料
2023年3月21日


 「和紙文化研究事典」(久米康生著、2012年10月30日、法政大学出版局刊)を開くと「とおのがみ(遠野紙)」の項があり、いわき市遠野町の上遠野、入遠野、根本、大平、深山田、根岸などで産出されたコウゾ紙で、棚倉藩が遠野町根岸に紙楮会所を設けて市販紙づくりを奨励した結果、上方では「岩城物」の名で流通し、岩城抄紙が江戸市場の帳簿用紙として愛用されたなどとされている。

 また同事典には「いわきのべがみ(岩城延紙)」の項もあり、福島県岩城地方に産したコウゾ紙で、江戸中期の「和漢三才図会」は上遠野紙、磐城紙などといわれ、いわき市の科とのが主産地であったとも記されている。

 これらの説明からは、いわき市遠野町で産出されるコウゾ紙は、古くから流通の課程の中で「遠野紙」「岩城抄紙」「岩城延紙」「磐城紙」など、様々な名称で呼ばれ、重用されていたことが分かる。

 しかし近年、「いわき紙」と呼ばれる機械は激減し、全国的にも「遠野和紙」という名称で統一される傾向が浮彫りになっている。

 まず地元、いわき市遠野町における遠野産和紙の名称に対する認識を考えたい。

 遠野町で最後まで和紙を漉いていた瀬谷安雄氏(故人)が、2010(平成22)年に和紙製造を廃業して以降、遠野地区住民有志などが地域の伝統を後世に残すため、瀬谷氏の指導のもとボランティアで和紙製造の技術継承に努めた。

 2014(平成26)年に瀬谷氏が亡くなり、翌15年には地域おこし協力隊を導入し、協力隊と地元ボランティアとの協働のもと、コウゾの白皮作りまでを基本とした紙料作りから紙漉きまでの一連の和紙製造の技術継承が進められてきた。

 ボランティア活動は、遠野町地域づくり振興協議会とのかかわりの中で活動を続けてきたが、その位置づけは明確でなく、組織的な保障も求められていた。こうしたことから、ボランティア活動に参加する人々を母体として、遠野地域に伝わる和紙作りの伝統継承のための組織的な保障となる伝統工芸遠野和紙・楮保存会が2022年6月25日に発足した。

 このような経過で伝統継承をはかる取り組みが進められてきたわけだが、この中で「いわき和紙」という名称が使われたことはなく、「遠野和紙」と呼称されることが常だった。地域的にも「遠野和紙」の名称使用が一般的になっているためであり、保存会発足にあたって「遠野和紙」の名称使用に異論がもちだされたことは、ボランティア及び遠野地域内からもなかった。

 2つ目に、全国的な名称の浸透の状況を見てみたい。

 全国手すき和紙連合会のホームページに、全国各地の和紙産地が紹介されている。その中で福島県の和紙については、上川崎和紙、山舟生和紙とともに遠野和紙として掲載され、「遠野紙(2尺×3尺)はコウゾ100%の寒漉き未晒し紙です」と紹介している。

 この例のように、インターネットの検索では「遠野和紙」で検索される情報がはるかに多く、「いわき和紙」で検索される事例は少ない。遠野和紙の名称が広く浸透している状況を垣間見ることが出来る。

 また文献を見ると、先の和紙文化研究事典での「遠野紙」の項での名称の紹介にとどまらず、「和紙ってなに① 東日本の和紙」(2020年10月、理論社刊)では、福島県内の和紙として川崎和紙とともに遠野和紙の名称をかかげ、2010年に最後の職人が廃業した後に地域おこし協力隊が技術を受け継ぎ、紙漉きを行っていると紹介している。

 これらの状況から推察されるのは、遠野町で製造される和紙は、現在では「遠野和紙」の名称で全国に浸透しているということである。

 この状況を踏まえるならば、遠野産和紙の継承と今後の普及拡大を考えた時に、十分浸透していない「いわき和紙」の名称を使用するより、すでに広く浸透している「遠野和紙」の名称を使用することが産地及びいわき市・福島県にとっても有利であり、理にかなうと考えられる。

 また、地域でも全国的にも普通に「遠野和紙」の名称が使われている現状では、「いわき和紙」の名称に違和感を覚える状況であり、このようなねじれた状況を改善するためにも、現状に即して遠野地域で製造される和紙を「遠野和紙」とすることが、遠野地域で和紙作りに携わってきた過去そして現在の人々の願いにも合致するものと考えられる。
 以上、名称変更に関する意見を記述したが、以下に引用文献等の写しを添付する。

 ※以下、引用文献の画像を添付。

 当初の申請、また、追加資料などによって、地元の要望が通ったことに感謝をしたいと思う。
 問題は、今後の遠野和紙の継承発展の事業の進展をしっかり図ること。和紙・楮保存会の1員として、できるだけのことはしたいと思う。


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