伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

遠野和紙ボランティアの最も忙しいシーズンを乗り越えた

2024年04月23日 | 遠野町・地域

 私が遠野和紙のボランティア活動に初めて参加したのは2020年11月だった。以来、当時のボランティアが担っていた作業内容を身に着け、その後、和紙の材料作りから紙漉きまでの作業手順を覚えてきた。

 「覚え」と書くのは理由がある。全部を身に着けたという程に技量が向上していると言えないからだ。

 まあそれはともかく、和紙の材料作りの作業である「しょしとり」(たぶん「表皮とり」が訛ったものかと思う)がこの時期までずれこんだのは、この3年間で初めてのことだった。それだけ、楮の収量が増えたということ。喜ばしいことではある。

 「しょしとり」作業の際、最近の私は、しょしとり後の白皮を水で洗って黒皮などのごみを流し去り、傷や汚れをハサミを使って取り去る作業をしている。

 皮を1枚1枚点検し、瑕疵があればそれを除去する作業になるので、それなりに時間がかかる。作業が押して、白皮が桶にたまった時には投げ出したい気持ちにもなるが、とにかくはさみを握って白皮に向き合い続ける。

 そんなこんなでとにもかくにも、今日も最後の1枚の白皮まで処理を続けた。

 今日の作業では「しょしとり」に加え、冷蔵庫の排水を確保するホースの取り付けもした。

 冷蔵庫は昨年新たに導入したものだ。

 それまでは家庭用の冷蔵庫を使っていたが、紙漉きに材料を保管するには容量が不十分だった。特にネリ(トトロアオイの根から抽出する粘り成分)は大きめの容器に作るが、その容器は入らない。そこで、十分な容量を持った商業用の冷蔵庫を新たに導入したのだ。

 ところがこの冷蔵庫には配水管があった。設置された場所は基本ドライエリアとして使用している。排水を考慮した設備はない。垂れ流されている排水が、コンクリートの乾いた床がびしょびしょに濡らしていることもあった。しかも、木製台にビニールシートを張ったデッキの上に冷蔵庫が設置されているため、排水がデッキを腐らせる危険性もある。改善は喫緊の課題だった。

 冷蔵庫の位置から排水溝まではおおよそ10m。ホームセンターで必要な材料を調べると、冷蔵庫の排水パイプに合わせた太めのホースを使うとかなりのコスト高になる。材料だけで数万円を超えそうだった。そこで、より安価に入手できる、庭の水撒きに使う程度のホースを利用することにした。塩ビ管用の継ぎ手を利用して接続すると、5,000円程度の材料費で排水溝までの導水を確保できた。

 まだその効果を確認できていないが、良い仕事ができたのではないだろうか。

 

好評だった紙づくり体験

 

 今日の作業前には、先週実施された紙づくり体験で漉かれた和紙を相手方に引き渡すための準備をしてきた。

体験者が漉いた和紙。無事乾燥できてほっとした

 体験会は18日午後に行われた。

 保存会が紙づくりの体験を始めたのは昨年12月のことだった。

 保存会は一昨年6月にそれまで20年程の期間、遠野和紙作りを支えてきたボランティアのみなさんを母体にして発足した。昨年3月にはアクアマリンふくしまのイベントの一環に、はがき漉きの体験を組み入れていただき実施した。11月には建築士会のイベントに参加させていただき同様の体験を実施した。

 その後に、ミドルベリー大学日本校のみなさんの体験を受け入れることになったのだが、この体験をどんな内容にするかを考えた。それまでのイベントのように紙漉きをして、加えて和紙の製造工程を説明するだけの内容にとどめたくはなかった。一定の時間も確保されているし、和紙の材料づくりから体験してもらい、和紙作りの工程の大変さを経験してもらうことで和紙の魅力や価値を知り、また、和紙への興味や関心を高める機会にする。そんなことを考えて、和紙の材料づくりからの体験をしてもらうことにした。

 和紙の材料づくりは、春の楮の育成から始まるが、その部分は時期的にもできないので、楮の伐採からの体験をしてもらうことにした。

 楮の伐採からの作業は通常次のようになる。

①楮の伐採

②ふかし(伐採した楮を裁断して束ね釜でふかす)

③楮はぎ(ふかし終えた楮から皮をはぐ)

④しょしとり(皮から表皮等を削り取り白皮を作る)

⑤寒晒し(剥いだ皮を束ね竿にかけて自然乾燥させる)

⑥水洗い(乾燥した白皮を水に浸けてごみ等を流すとともに柔らかくする)

⑦煮熟(白皮を炭酸ソーダを溶かしたお湯で煮る)

⑧水洗い(煮た白皮を水に浸けて灰汁や汚れを洗い流す)

⑨塵取り(白皮からごみや傷跡などの汚れを取り去る)

⑩打解(塵取り後の白皮を木槌で叩いてほぐす)

⑪ビーター(一定打解した白皮を機械でさらにほぐし繊維を作る)

⑫この他、事前にトロロアオイの根を叩いて水に浸けて「ネリ」(粘性の液体)を抽出しておく。

これで紙漉きに必要な材料が揃う。

 材料が揃ったら漉き舟に水をはり、繊維を入れて十分攪拌し、ネリを投入し水に粘りをつける。これで紙漉きの準備が整うことになる。

 「紙づくり体験」では、これらの作業のうち「伐採」「ふかし」「楮はぎ」「しょしとり」「塵取り」「打解」の材料づくりと、「紙漉き」を実践してもらうようにした。

 もちろん、時期によっては体験の材料がないために実践できない項目もある。今回の体験では、すでに終了した「伐採」「ふかし」「楮はぎ」は除いた各作業を進めてもらった。

 ただ体験で作った材料は、その体験のうちに使うことができない。体験用に必要な材料は、

①黒皮(未処理の皮)

②白皮(煮熟して水晒ししたもの)

③白皮(塵取りをしたもの)

④繊維(ビーターにかけた白皮)

となるが、これは事前に準備しておくことになる。

 それがこの間、忙しかったと感じる原因だった。

 体験の準備は9日に始まった。

 9日は保存会の定例作業日だったが、この日に乾燥白皮3kgを水にさらした。一昼夜おいた白皮を翌10日、釜に火を入れ煮塾した。釜の火を落とし、白皮は釜に入れたまま1晩放置する。翌11日に釜揚げして水にさらした。12日と13日はそれぞれ午前中に塵取りし、約2kgのきれいな白皮にした。所要時間は合計7時間になる。

者熟後の水晒し。茶色の液体が淀んでいたが、洗い流されて透明な水になった

 14日は和紙を離れて八潮見城探検隊の散策コースから倒木等を除去する作業に参加。15日に塵取り後の白皮を打解し、16日、17日は保存会の定例作業日に参加。当日の18日、打解した白皮をビーターにかけて繊維にした。

 毎日、何らかの作業が続いた日々は忙しさを感じさせるに十分だった。

 こうして準備した体験会の本番が始まった。

 私は、和紙作りの工程の説明を学舎の道具を紹介しながら進め、流漉きと溜め漉きの実演、体験者の紙漉きの援助を担当した。

 参加者16人で1人2枚を溜め漉きで漉いてもらう。溜め漉きは、簀桁に汲んだ水が桁から滴り落ちて繊維がある程度定着するのを待って新たに水を汲む。待機時間が多く時間がかかる。1つの漉き舟で8人に2枚ずつ漉いてもらうだけでもほぼ2時間がかかり、体験の終了時刻まで紙漉きの援助にかかりきりだった。

 このため、他の体験メニューの活動の様子は良く分からないのだが、終了後に聞いた感想ではおおむね好評だったようだ。

 最も良かったのは、紙づくりの体験そのものというより、実際の作業をいっしょに進める中で、当初緊張感が出ていた体験者の顔が緩み会話と笑顔を浮かべながら作業を進めるようになっていった。この交流で生まれた連帯感のようなものが後に活きるという点にあったように思う。なるほど紙づくり体験にはこういう効用もあるのか。

 私自身は、紙漉きの援助を通して、ほぼ初めての紙漉き体験なのに、どの体験者も上手に紙を漉き上げていたことは驚いた。私が初めて紙を漉いた時よりも、はるかに上手に思えた。その紙漉きセンスの良さを遠野和紙に関わらせる機会がいつかくれば良いなあとつくづく思った。

 

乾燥

 

 体験会翌日の19日は、保存会員独自の紙漉きを実施した。前日までに用意した材料を活用しきり、卒業証書用紙とするための紙漉きだ。午前9時頃から午後5時頃までかかって、私ともう1人の会員でだいたい70枚を漉いた。

紙料を汲み上げた簀桁に浮かんだ泡が偶然に魚の形になった

 この時、私自身は不幸に見舞われた。紙の元となる紙料をほぼ使い切ったその時、漉いた紙を重ねた紙床に紙を剥がした後の簀桁を落としてしまったのだ。これでだいたい10枚の湿紙がだめになったが、30枚程が救われたことは幸いともいえる。

 だめになった10枚は紙料に戻して漉きなおして、この日の紙漉きは終了。翌日の乾燥に備え使途の上に板を乗せて重量をかけて、ゆっくりと自然脱水をしておいた。

 20日、鉄板で乾燥する機械乾燥を午前10時から始めた。乾燥には午前5時過ぎまでかかった。

 通常の乾燥と比較すると時間がかかりすぎている。それにはわけがあった。

 この間、湿紙を乾燥させる際に、紙がうねる失敗が続いていた。

 当初は、乾燥にかける際の技術の未熟さ、具体的には鉄板の張り付け方が弱いことに原因があると考えていた、しかし、経験が浅い者ばかりでなく、それなりに経験を積んだ者も同じような失敗をしてしまっていた。

 とすると技術ばかりの問題ではないかもしれない。体験会で漉かれた紙もきちんと乾燥をして手渡したいという思いもあった。そのため、まず原因を見つけたいと考えていた。

 この間、相談をして試された対策があった。鉄板の温度を高くしないことだ。

 紙のうねりは、乾燥途上で鉄板から紙がはがれることで生じる。紙の部分で乾燥温度の上昇にムラがあり、早く乾いた場所が収縮に耐えられなくなってはがれてしまうのだ。はがれた場所とはがれていない場所の温度差で、紙面の収縮が一様でなくなりうねってしまっているようだ。

 どうしてそうなるのか。

 乾燥機のボイラーを交換したことにあるかもしれないと漠然と考えていた。新しいボイラーは、以前のボイラー程に温度が上がらない。どこか使い勝手が違うのだ。その新ボイラーでは、到達しうる高温(新ボイラーでは38度程度)で失敗が続いたため、低温(30度程度)にすれば紙がはがれることがないかもしれないと考え試してみた会員がいた。紙がゆっくり乾燥するからだ。

 やってみたら比較的うまくいったという話を聞いていたが、私は別のことも考えていた。乾燥機の鉄板の汚れだ。

 この間汚れが気にはなっていたのだが、ピカピカの鉄板では紙を乾燥した際に張り付いてしまい、表面に毛羽立ちが生じることがある。鉄板はピカピカでない方が良いととは漠然と思われていた。そこでこの間は、基本的に汚れを落とさずに使用していた。

 汚れを落とし、しかも、低温で使うならば失敗がなくなるのではないか。そう考えて、今回の乾燥作業でははじめに乾燥面の鉄板の一部をきれいにし、きれいな部分と、汚れた部分でそれぞれ乾燥してみることにした。

 乾燥機の温度30程度に調整し、鉄板を一定程度拭きあげて水を絞った紙を張り付け、汚れた部分にも紙を張り付けてみた。

 30分待った。これだけの時間をかけても紙は生乾きの状態だった。さらに10分。まだ乾かない、時間ばかりが過ぎていくので温度を少し上げ、空いている部分にも紙をはっていった。

 たぶんだが、汚れがひどいとそこに紙からはがれた繊維も残ってしまい、鉄板への紙の圧着を邪魔するとともに、付着した繊維の厚みで隙間ができ、そこに入った空気が温度の上昇で膨張し、張り付けた紙をはがれやすくしていたのではないかな。

 やがて試行の結果が分かった。きれいにした部分の紙にうねりは生じず、汚れた部分の紙にはうねりが生じた。失敗の原因は、乾燥機のよごれすぎにあったのだ。

 張り付けた紙の乾燥を待って全体の汚れを落として乾燥作業を進めた。私が漉いた30数枚の半分程度はうねった紙になってしまったが、汚れを落として以降に乾燥した紙は基本的にきれいに乾燥できた。もちろん体験で漉かれた紙もだ。

 こうして本格的な乾燥が進んだのはお昼近くなっていたのだから、作業が午後5時過ぎまでかかってもおかしくない。

 それにしても無事にうねりのない紙を準備できたて本当に良かった。

学びや気付きがあった体験会

 今回の体験会が好評を博して安心した。楽しんで取り組んでいただけたのは準備した側にとっても幸いなことだったが、同時に、準備から実施までの過程で学びや気づきもあった体験会になったことに感謝もしたい。

 その一つは、先に書いた乾燥でうねる紙にしない方法だ。乾燥機は汚れた方が良いという考えは「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」で、程度の問題だということを知って物事に対応することが必要だということ。

 乾燥機の乾燥面をある程度きれいにしておくことが湿紙の乾燥に失敗しないコツ。肝に銘じておきたい。

 2つ目に、漉き方や紙の用途によって楮の繊維の作り方を変えることが大事ということ。

 この間の体験会は、基本的に溜め漉きによる紙漉きを体験してもらってきた。その機会に体験者が漉いた紙を見て、以前からどこかもこもこしてもったりした紙にならないようにどうしたら良いだろうと考えてきた。

 以前から、紙を漉いた際、材料を入れた直後の濃い紙料(楮の繊維とネリを加えた水)から漉いた紙はももったりした紙になり、薄い紙料から漉いた紙は滑らなすっきりした紙になると思っていた。濃い紙料には繊維の長く大きめの繊維が多く、薄くなった紙料にはよりきめ細かい繊維が残っているからに違いないと考えていた。

 溜め漉きですっきりした紙をめざすなら、最初から短い繊維を用意しておけばきれいに漉きあげることができるのではないか。そう考えたのが、先月のアクアマリンふくしまでのはがき漉き体験の準備の時だった。

 繊維はどうすれば短くなるのか。

 以前読んだ何かに、発明されたばかりの頃の紙漉きの方法は溜め漉きで、この頃はネリもなかったことから人の力で徹底的に打解しきめ細かな繊維に仕上げて紙を漉いていたとあった。きめ細かな繊維は簀の隙間を埋め簀桁からの落水を緩やかにし、簀を揺すって繊維の散らばりを平均化する時間的余裕を作っていた。

 今は紙料にネリを入れる効果で落水を緩やかにしているが、繊維がきめ細やかならば、紙の表面がもったりとした印象になることは防げるだろう。そう考えて、いつもより白皮の打解をしっかりした上で、ビーターにかける時間も長くしてみた。

 こうして準備して臨んだはがき漉き体験は以前よりきれいに漉けていると実感した。今回の業証書版の紙漉きにあたっても同様にきれいな紙が漉けていたように思う。こうした経験が、見通しを確信に変えた。

 溜め漉きにはきめの細かい繊維を用意する。もちろん流し漉きの場合、この限りではない。従来のような打解やビーターのかけ方で良いだろう。これが2つ目の気付き。

 3つ目の気付きは、和紙にする楮の繊維は鮮度が大事。

 先週の体験会で使った繊維は、当日の午前中にビーターにかけて作った。翌日の保存会の紙漉きは、最初のうちは冷蔵庫に保管していた前日に残った繊維を使った。

 前日の体験者たちの漉く紙は、繊維が均等に散らばり滑らかに漉きあがっていた。しかし、同じ繊維を使いながら、翌日に保存会が漉いた紙は、繊維にムラがあり、出来栄えがあまり良くないと感じた。繊維が十分に拡販されていないかもしれないと考え、紙料をかき混ぜて繊維をほぐしたり、簀桁にくみ上げた資料を強めに揺すって繊維をほぐそうとしたが、どうもうまくいかない。固まっているとまでは言わないが、繊維がある程度まとまっているようなのだ。

 紙はどうやって形を成しているのか。

 水に添加するネリは粘着成分ではあるが、その役割は水に粘りをつけて繊維を水に均等に浮かべることにある。漉きあげた紙の中にあるネリの成分は、ある程度の時間が経過、あるいは熱が加わると分解してしまうため、繊維同士を接着する効果はないという。

 ではどうやって紙ができるかというと、繊維同士が水素結合で固まっているのだという。とすれば、保管時間が長くなれば同様の仕組みでひかれあってほぐれにくくなると考えることも可能である。あくまで仮定の話だが、こうした状況を防ぐためには作った繊維をできるだけ早く使うことが大事そうだ。

 繊維は鮮度が大事。肝に銘じておこう。

 また、今後は冷蔵保管は打解済みの白皮として、紙漉きをの当日にビーターで繊維加工するようにした方がよさそうだ。

これからのシーズンは基本的に畑仕事

 「しょしとり」を終え、和紙づくりの体験を終えて、これからの保存会ボランティアの活動は基本的に楮の育成やトロロアオイの栽培など畑での作業となる。

 地元で起業した元地域おこし協力隊員の活動と保存会活動の調整や、新たな地域おこし協力隊員の活動などでどんな保存会活動に落ち着いていくのか、今後の模索が進むだろうが、兎にも角にも今シーズンは新たな保存会活動のステージとなりそうだ。



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