9月30日12時2分配信 毎日新聞
◇「本当に何もなくて感激」--利用者、年々増え
1日に数本ある電車以外にたどり着く方法がなく、険しい山中にある無人の「秘境駅」が、静かなブームになっている。山間部を走る大井川鉄道井川線の尾盛駅(川根本町)に置かれたノートには「本当に何もなくて感激」など、全国から訪れた人々が新鮮な驚きや感動を書き連ねている。【稲生陽】
大鉄の名物・SLの終点千頭駅で1日4往復しかないアプト式(歯車で急こう配を上る方式)鉄道に乗り換えて1時間20分。突然、無数の一升瓶が転がった野原に出る。そこが「本当に何もなくて社員も驚く」(大鉄)尾盛駅だ。あるのは小さなプレハブ倉庫とタヌキの像2体だけ。民家はおろか、トイレも屋根も道もなく、携帯電話も通じない。
だが同駅の利用者は06年度176人、07年度は254人と増えている。今年度は7月末までで98人と年間300人ペースだ。いつからか駅に置かれたB5判のノートには、「あるのは静寂のみ」「降りるのが恥ずかしかった」と感想が並ぶ。
全国500近くの秘境駅を訪れ、ブームの立役者となった広島県三次市の会社員、牛山隆信さん(41)は「あの大自然にのみ込まれた感が面白かった。一升瓶が転がっているのも、在りし日のロマンを感じた」と振り返る。牛山さんの評価では、尾盛駅は北海道や飯田線・小和田駅(浜松市天竜区)に次ぐ全国3位の大秘境駅だ。
同駅は元は大井川上流の井川ダムの建設作業員用として設けられた。1957年のダム完成でほぼ役割を終え、今は民家も道もないが、それでも廃止できない理由がある。
中部電力や大鉄によると、中電がダム建設のために井川線を開いた際、当時川を使って木材を運んでいた木材業者への補償として、各駅で木材搬出に協力する契約を結んだという。林業の衰退で搬出の実績は40年近くないが、契約は有効。勝手に駅を廃止できないのだという。
牛山さんは「帰りの電車もあり、手軽に探検気分を味わえるのが秘境駅の面白さ。きちんと予習していけば、にぎやかだった当時を想像してロマンに浸れる」と話している。
(Yahoo!ニュースより)