北部病院では、午後の外来をやってない時間に受診希望の問い合わせをされた患者さんを、事務の方から開業医に紹介される場合があります。先日の夕方4時半過ぎに、そのようにして当院を紹介されたという患者さんのご家族から電話がありました。当院には、受診されたことのない方です。
ご家族から症状をお聞きすると、首の片側全体が腫れて、声が出にくくなっているとのことです。この症状をお聞きして、直感的に、頸部に膿瘍ができて、喉頭に浮腫が起きているなと思いました。そうであれば、すぐ大きな病院での治療が必要です。電話の話だけですから確かな診断ではありませんが、こちらに受診してもらってから、改めて紹介するのでは、5時を過ぎてしまいます。5時を過ぎると、病院のスタッフも手薄になってしまい、最悪の場合北部病院の受け入れが無理で、遠くの病院を探さなければならなくなります。そうなると、治療が手遅れになる可能性もあります。
私の直感がはずれて軽い病気であれば、私が恥をかけば済むだけなので、すぐに北部病院に電話し、耳鼻科の先生に直接お願いしたところ、北部病院の先生もすぐ入院できるベッドを探してくださり、私から患者さんの方に電話して、直接北部病院に行っていただくことになりました。
今日、そのご家族がわざわざ当院にいらっしゃり、北部病院でそのまま緊急手術になって、経過は良好であることを報告してくださいました。
耳鼻科の研修医になってまずたたき込まれることは、常に癌を疑って診療しろ(隠れた癌を見落とすな)ということと、のどの急性炎症を甘く見るなということです。喉頭は、唯一の呼吸の道であり、ここが腫れて詰まったら、窒息します。また、のどから首にかけては、けっこうすかすかのスペースがあり、これが胸の中(縦隔)まで続いているので、そこに膿が貯まると、急速に進行して致命的になることがあるのです。
もちろん今回は特別な例です。時間的余裕が無かったので、電話だけで判断したのは、苦肉の策とも言えます。実は軽い病気だった可能性もあったのですから。でも、直感に従って、良かったです。