連日のように猛暑が続いており、埼玉県熊谷市では我が国の観測史上最も高い気温となる41度1分を記録した。これは日本だけのことではなく、アメリカやアフリカでも最高気温50度以上を観測するなど、この夏は世界的に異常な暑さが続いている。しかし、実は、いまの地球は「温暖化」ではなく「ミニ氷河期」に向かっているという事実をご存知だろうか。遠い未来の話ではない。早ければ約20年後に、である。

本稿では私の専門とする地球科学の観点から、なぜこのような事態が起きているのか、そして今後の予想を述べたい。

東京が「熱の島」になっている

 折しも8月5日から全国高校野球大会が始まるが、会場の甲子園は今年で100周年を迎える。そこで近年の盛夏が100年前より暑くなっているかどうか、またその原因を最先端の気象学に基づいて考えてみよう。
 最初に首都圏3500万人を代表して、東京の最高気温と最低気温の記録を調べてみる。気象庁によれば東京では夏の最高気温は過去100年に1.5度上がり、最低気温は2.7度上がった。すなわち、最低気温の上昇の方が大きいため、朝も晩もより暑苦しく感じるようになってきたのだ。
 これについて地球科学的にはスケールの異なる二つの原因が特定されている。すなわち、「ヒートアイランド」と呼ばれる地域的な現象と「地球温暖化」という世界規模の現象である。

 
パソコンの普及も温暖化に影響

 ヒートアイランド現象とは、都市の中心地域の気温が郊外とくらべて高くなることである。英語を直訳すれば「熱の島」で、気温の分布を見ると都市の中心だけが島のように孤立して暑いことから命名された。夏の大都会が以前とくらべて熱がこもっているように感じられるのはこのためである。
 たとえば、東京で気温が30度を超える時間(日数ではなく時間)は、ここ20年で2倍ほどに増えている。また、都心部と郊外との日中の気温差が10度近くになることもしばしば観測されている。
 ヒートアイランド現象を引き起こす原因の第1は、建物や工場、自動車などから出る排熱である。経済活動にともなって、工場やオフィスからは大量の熱が排出される。エアコンやパソコンの普及によって、都市からの排熱は年々増加の一途をたどっている。

 そして第2は、熱吸収率の高いアスファルトやコンクリートで地面が覆われるようになったことだ。こうした人工物で地面が覆われると、日中、植物が葉の表面から蒸散することで熱を逃がす効果や、大きな樹木が日射を遮る効果がなくなってしまう。また、水を保持する土の地面が減ると、水の蒸発によって温度を下げる効果が減る。

 第3は、建物の密集化による風通しの悪さである。都市に高いビルが密集すると、地表近くを通る風が弱くなり、空気が入れ替わりにくくなる。特に高層建築物の谷間では、夜に熱が上空へ逃げにくくなっている(くわしくは拙著 『せまりくる「天災」とどう向きあうか』 ミネルヴァ書房を参照)。

中略

今年の猛暑は日本だけではなく世界的現象なので、こうしたグローバルな地球温暖化が一つの原因にはなる。これに加えて首都圏を始めとして日本の大都市では、先に述べたヒートアイランド現象が加わったものだ。いったんヒートアイランド現象が起きるとエアコンの使用が増え、さらに加速されるという悪循環が起きている。
 今夏の関東では南から北へと風が流れ、暑い空気の固まりが北に運ばれ気温上昇が顕著になっている。国内最高気温を記録した埼玉県熊谷市はこうした場所にある。

約20年後に「ミニ氷河期」が到来

 こうした猛暑のなか、なぜ現在の地球は温暖化ではなく「ミニ氷河期」に向かっているのだろうか。

これには「長期」および「短期」という時間の異なる二つの事象がある。
 まず地球を何十万年という地質学的な時間軸で見れば、現在は氷期に向かっている。今から約13万年前と約1万年前には、比較的気温が高い時期があった。また、平安時代は今よりも温暖な時期だったが、14世紀からは寒冷化が続いている。

 すなわち、長い視点で見ると、現代は寒冷化に向かう途中の、短期的な地球温暖化にあるというわけなのだ。
 加えて、今後の数十年間の気候は大規模な火山活動などによって寒冷化に向かうと予測する地質学者も少なからずいる。確かに、20世紀には大規模な火山活動によって地球の平均気温が数度下がる現象が何回も観測された(くわしくは拙著『 地球の歴史 』中公新書を参照)。

「江戸小氷期」に酷似している

 次に、短期的な事象について述べよう。地球の気温は太陽からくるエネルギーに支配されている。こうした太陽の活動が約20年後には現在の60%程度まで減少し、「ミニ氷河期」が到来するという予測がある。
 太陽の活動度は表面に見える黒点から判断されるが、2014年をピークに黒点の数は減少に転じている。これは300年ほど前の江戸時代に世界中が寒冷化した時期と良く似ている。すなわち、1645年から1715年までの70年間に黒点が減り、地球の平均気温は1.5度ほど下がった。その結果、ロンドンのテムズ川やオランダの運河が凍結し日本では大飢饉となった記録が残っている。我々地球科学者が「江戸小氷期」と呼んでいるものだが、将来にわたり今の勢いで猛暑が継続するかどうかは必ずしも確定的ではないのだ。

 実際、自然界には長短さまざまな周期の変動があり、最近の異常気象と思われる現象も長い時間軸で捉えなければならない。よって、「長尺(ちょうじゃく)の目」で判断する私は、「ミニ氷河期」という涼しい未来を見据えながら、今年の猛暑をやり過ごしている。英国の哲学者フランシス・ベーコンが説いたように「知識は力なり」。地球科学の知識を「頭を冷やしながら」身につけ、猛暑を乗り切っていただきたいと願う。


鎌田 浩毅(かまたひろき)/京都大学大学院人間・環境学研究科 教授


1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。火山や地震が専門の地球科学者。京大の講義は毎年数百人を集める人気で、教養科目1位の評価。著書に『せまりくる「天災」とどう向きあうか』(ミネルヴァ書房)、『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)、『西日本大震災に備えよ』(PHP新書)、『地球の歴史』『理科系の読書術』(中公新書)、『富士山噴火』『地学ノススメ』(ブルーバックス)、『地球とは何か(上・中・下)』(サイエンス・アイ新書)。

鎌田 浩毅

図1:ヒートアイランド現象を起こす原因。(出典=鎌田浩毅著『せまりくる「天災」とどう向きあうか』ミネルヴァ書房)

 


 

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