Cyber Night Syndrome

あまねく夜光生命に捧ぐ

シリーズ「正確な1秒を求めて」 第9回 ここまでのまとめ

2006年10月07日 | 正確な1秒を求めて
ずいぶんと時間が空きました。次の話に進む前に、
今回はこれまでに書いた内容をまとめておきます。

ぼくが研究の対象としているのは「原子時計」という、
ものすごく正確な時計です。その正確さは数千万年に1秒
もずれないほどです。日常生活における時間管理では、
そのような水準の正確さはまったく必要ありませんが、
高速ネットワーク技術や、GPSによる位置情報の精度向上
には欠かせませんし、物理学的な意味も大いにあります。

原子時計の前にまず一般的な「時計」について説明します。
「時計」の構成要素は
1.規則正しく振動するもの
2.振動回数を数えて、表示するもの
にまとめられます。

例えば皆さんのケータイの中には水晶が入っています。
これに電圧をかけると規則正しい振動が発生します。
この回数をカウントして、32768回振動したら秒針を1秒進める、
という過程を繰り返すことで時を刻みます。

水晶の振動が規則正しいといっても、実際にはだんだんとずれを生じます。
しかしケータイには、基地局からの時間情報を受信して、
そのずれを補正する機能がついています
(ひょっとするとauだけかもしれませんが)。
この時間情報というのが、世界の公共の時間を基準にした情報であり、
それを作り出しているのが「原子時計」なのです。

原子時計にも、規則正しい振動があります。
それは原子の電磁波による共鳴です。
電磁波とは、「電磁場」の振動が空間中を伝わっていくものです。
電磁波が原子に当たると、あるときに原子は電磁波に「つられて」振動します。
しかし、いつでも「つられる」わけではなく、
電磁波の周波数がある特定の値になったときだけです。
これを共鳴と呼びます。
原子がいつも共鳴した状態でいるように、電磁波の周波数をコントロールする。
結果、その電磁波は極めて規則正しい振動となります。
この振動をカウントすることで、時計のできあがりです。
これが原子時計のしくみです。

原子、そして電磁波、この2つが原子時計における最重要ポイントです。
ちなみに、原子というと原子力や原子爆弾を想像するかもしれませんが、
そのような激しい(高エネルギー)状態は原子時計では発生しません。
原子時計で被曝した、という話は聞いたことがありません。

次回は電磁波の前に原子のことを説明しましょう。