Cyber Night Syndrome

あまねく夜光生命に捧ぐ

シリーズ「正確な1秒を求めて」 第6回 共鳴とは何か(前編)

2005年06月25日 | 正確な1秒を求めて
原子時計は,原子の「共鳴」という現象を利用するものだと,前回に説明しました。
さて,この共鳴とはいったいどういうものでしょうか。

共鳴を理解するには,まず「振動」を理解しなければなりません。振動とは,
簡単にいうと,ある場所を中心に物体が行ったり来たりすることです。
たとえば,振り子ならば,おもりが左右に行ったり来たりしますね。
振り子は,放っておく(自由に揺れる状態にしておく)とある決まった周期で振動します。
その振動数(1秒に何回振動するか)をその振り子の「固有振動数」とよびます。
仮に,ある振り子の固有振動数が1Hz(1秒に1回振動する)としましょう。
ここで,この振り子を,外からある振動数で強制的に揺さぶることを考えます。
どんな振動数で揺さぶるともっとも振り子は大きく振れるでしょうか?
正解は,振り子の固有振動数と等しい,1Hzのときです。それよりも高くても低くても,
振り子の振れ幅は小さくなってしまいます。

このように,振動する物体の固有振動数と等しい振動数で外から揺さぶると,
非常に物体が大きく揺さぶられることを,「共鳴」と呼びます。

振り子,といってもイメージはわきづらいかもしれません。
もう少し身近な現象から考察してみたいと思います。

1.ブランコ(公園にある遊具)

ブランコも振り子の一種と考えられます。
ブランコに人が座って,その人は何もしない(こがない)とします。
自由に揺らしておくと,ぶーらぶーらと揺れますね。これがブランコの固有振動です。
その振動数は0.5Hz,といったところでしょうか。つまり,2秒で1往復です。

さて,もう一人,ブランコに乗っていない人が,乗っている人の背中を押して,
ブランコを揺らす状況を考えてください。
どんなふうに押せば,ブランコは大きく揺れるでしょうか?
戻ってくるときは,何もしないのがよいでしょう。
押してしまうと,ブレーキがかかりますから。
向こうへいくときに,ぐいっと押してアクセルをかけてやるのがよいでしょう。
押すタイミングが重要ですね。
要するに,ブランコの自然な動きをできるだけ妨げずに力を加えるのが理想的です。

ブランコが自然とブラブラする動きにあわせて,
外から押してやり(または引いてやり),その結果ブランコが大きく揺れる。
これはまさに,「ブランコの固有振動数」と等しい振動数でもって
外部から振動を与えているということです。
つまり,ブランコは,外から加わる振動に「共鳴」しているのです。
言い換えれば,ブランコが共鳴を起こすような振動を外から加えているのです。
ブランコに乗っている人の背中を押す人は,共鳴を起こせばブランコが大きく
揺らせる,ということを経験的にわかっているわけですね。

2.お寺の鐘

お寺の鐘は,とても重いです。「ゆく年くる年」などで見たことがあるでしょうか,
丸太のような木の棒で一発ボーンと叩いても,
ブランコのように大きく揺れることはありませんね。
ところが,小さな子どもでも,この鐘をゆっさゆっさと揺らす方法があるのです。
ボーンと叩いた後の鐘をよく観察してみましょう。ゆーらゆーらとゆっくり,
小さな幅で振動しています。この鐘も,ある固有振動数で振動しているのです。
その振動数を見極めたなら,それに合わせて鐘を押したり引いたりしてみましょう。
そうすると,だんだんと鐘の振れ幅は大きくなっていきます。
悪ノリしてどんどん続けていると,ついには鐘が落ちてしまうかと思うほど
大きく揺れるはずです。これは,鐘が振り子の一種になっていて,
外からの揺さぶりに「共鳴」しているからだと理解できます。

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このように,振動する物体を強制的に振動させるとき,
物体の固有振動数と一致した振動数であれば,
物体は大きく反応して振動する,というのが共鳴です。

共鳴は,振り子に限った現象ではありません。次回は「音の共鳴」をとりあげます。

シリーズ「正確な1秒を求めて」 第5回 原子時計入門

2005年06月01日 | 正確な1秒を求めて
いきなり本題に入ります。

真空中に原子が1個,浮いている(止まっている)とします。
その原子に対して,電磁波を当てます。電磁波は波ですから,周波数があります。
この周波数を少しずつ変えていくと,あるところで急に原子が電磁波を吸収します。
その周波数というのが,非常にぴったり合っていないと原子は何の反応も示さないのです。
逆に,周波数をぴったりと合わせると原子は必ず電磁波を吸収します。
このような現象を共鳴とよびます。そして「ぴったりの周波数」を共鳴周波数とよびます。

原子時計は,この共鳴を利用するものです。

たとえば共鳴周波数付近の約9.2GHz(ギガヘルツ)の電磁波を作りだして,
それをセシウムという原子に当てる。
もし原子がその電磁波を吸収すればその周波数は正解。
吸収しなければ,その周波数は不正解。
周波数を上げるか下げるかして,また原子に当ててみましょう。
そうして,いつも正解になる(吸収する)ように,
電磁波の発生源をコントロールしましょう。
そうすれば,この電磁波は,常に1秒に9,192,631,770回,
「規則正しく振動するもの」になるでしょう!
これが現在,世界の1秒を定義している
原子時計(周波数標準器)のしくみです。

前回の「振動する部分の周波数が,どれだけ正しいかを調べる部分」が
原子時計である,という意味,わかっていただけたでしょうか?

きわめて簡単に説明すると以上です。
しかし原子,電磁波,共鳴といった物理用語が出てきていますので,
次回からはこの辺を少し詳細にみていきたいと思います。

質問は,どなたでも気軽にどうぞ!