Cyber Night Syndrome

あまねく夜光生命に捧ぐ

シリーズ「正確な1秒を求めて」 第8回 電磁波の正体(前編)

2005年09月01日 | 正確な1秒を求めて
原子時計は,原子が電磁波に対して共鳴を起こすことを
利用するものだと話しました。
さて,この電磁波というのはいったい何なのでしょうか?
名前はぎょうぎょうしいですが,実は我々のまわりに
ごく普通に(しかもたくさん!)存在しているものなのです。

電磁波は,波(物理では波動とよびます)の一種です。
まずは,波動について説明します。

波動というのは,簡単にいうと,何かの振動が伝わっていく現象です。

たとえば,水面に立つ波紋を想像してください。
静かな水面に,水滴をポチャンと落とすと,
まず落ちた場所の水が上下に揺れます。
そして,その揺れは周囲の水へとどんどん広がっていきます。
このとき,水自身が流れているわけではなく,
振動だけが伝わっているのです。

サッカーや野球の試合で観客が起こす「ウェーブ」を見たことがあるでしょうか。
あれも,広い意味での波動です。
左の方の人が立ち上がったら,自分が立ち上がる。
右の方の人が立ち上がったら,自分が座る。
全員がこれをやると,人間自身はまったく移動していませんが,
「立ち上がっている人間」
というのは次々と左から右に動いていくのです。

海の波を考えてみましょう。波が遠くから近くに押し寄せてきます。
波が動いているのは,水が平行移動しているからではありません。
水の粒がその場でくるくると回転していて,その運動を
次々と隣に伝えているからです。
もちろん,水自身の流れというものもありますが,
波だけを考えるときには海水の一粒一粒は
その場にとどまっていても構わないわけです。
(海水浴場の水もプールの水のようにある程度は
そこにとどまっていると考えられます,ゾーッといたします)

空気を伝わる音も波動の一種です。
音の場合は,空気の「圧力」が伝わっていきます。
太鼓を叩くと,太鼓の膜が周辺の空気の粒(窒素とか酸素とか)を
大きく揺さぶります。その振動が空間を次々と伝わっていき,
人間の鼓膜を揺さぶると,太鼓の音が聞こえる,というしくみです。

このように,波動というのは,振動する物体が
空間中に満ち満ちていることで成立します。
このように振動を伝える物体を媒質とよびます。
水の波でいえば水の粒が,音であれば空気の粒が,
観客が起こすウェーブであれば人間が波動の媒質であるといえます。
ある物体が振動すると,隣の物体がそれにつられて振動をする,
するとその隣の物体が・・・というふうに,振動が伝わっていくのです。

ところが,電磁波は媒質のない空間を伝わっていきます。
さっきの段落で書いたばかりのことを否定するようですが,
電磁波は「真空」を伝わるのです。
さて,電磁波とはいったい何がどのように
振動して伝わっていくのでしょうか。
それが次回のお話です。