芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

光陰、馬のごとし 皐月賞後記

2016年08月04日 | 競馬エッセイ

 ドゥラメンテの俊敏さと瞬発力、豪快な切れ味は素晴らしい。しかし、一瞬の間隙を突いた横っ跳びの俊敏さは進路妨害となった。むろんミルコ・デムーロ騎手の責任である。終始後方で馬と折り合うデムーロは、やはり上手い。一方、にこやかで穏やかそうな風貌に似ず、荒々しい危険な騎乗もする人だ。本当なら降着ものだろう。
 先週の桜花賞を制したレッツゴードンキに続いて、父キングカメハメハ、母の父サンデーサイレンスという配合の血統が、先ず春のクラシック二冠を獲ったわけである。
 ドゥラメンテの能力についてデムーロは「三冠を狙える」と言ったが、それはおそらく難しかろう。その理由のひとつは距離である。ドゥラメンテの父キングカメハメハは、典型的なマイラー体型で力馬だと思われた。そのダービーは実に力強いものだったが、彼にとってあの2400メートルが限界の距離だったと思われる。キングカメハメハ陣営もそれを百も承知で、神戸新聞杯(2000メートル)を貫禄勝ちしたあと、菊花賞(3000)には見向きもせず、天皇賞・秋(2000)を狙った。しかし直前の脚部不安からそのまま引退して種牡馬となったのである。
 彼の娘のアパパネも強い牝馬だったが、その距離の限界は2400メートルのオークスまでだったと思われる。牡駒のローズキングダムやルーラーシップの限界も2400までで、わずか100メートル延びただけで勝てなかった。むろんドゥラメンテが、現時点でダービーの最有力馬であることは間違いなかろう。
 三冠が難しいもうひとつの理由は、今年の三歳馬は牡牝ともに全体的に質が高く、ライバルたちも強力だと思われることである。質の高い年と、質の低い年は三冠馬が出にくい。質の低い年は団栗の背比べのためである。
 先ず、この皐月賞以後のクラシック戦線で消えたのは、北島三郎の愛馬キタサンブラックと、タガノエスプレッソ、コメートであろう。三頭とも父ブラックタイドである。この種牡馬はディープインパクトの全兄だが、どちらかというと早熟型の短・中距離馬だからである。キタサンブラックは3着に粘ったが、彼の母の父は短・中距離のサクラバクシンオーで、この後の路線をマイル戦に絞れば活躍するだろう(※)。コメートもタガノエスプレッソも路線を短・中距離に絞るべきだろう。
 2着のリアルスティールは、終始好位にいながらドゥラメンテとの追い競べに負けた。完敗といっていい。ダービーで逆転するには、やはりドゥラメンテより前の好位置にいて早めに抜け出し、彼より長そうな距離適性に賭けることになるだろう。直線の長い府中の追い出しは騎手の腕の見せ所だろう。
 1番人気のサトノクラウンは、直線目の前でドゥラメンテに横っ跳びされ、その不利も響いてか6着に敗れた。その能力からダービーでの逆転は十分あり得る。クリストフ・ルメール騎手は、何かを掴んだことだろう。この馬はかなり有力な一頭に違いない。
 惨敗したダノンプラチナの高い能力も捨てがたく、距離も問題ない。父ディープインパクト、その父サンデーサイレンスには珍しい芦毛だが、おそらく母系のフォルティノや、ネイティヴダンサーの毛色が出たのだろう。
 ブライトエンブレム、ダノンリバティ、クラリティスカイは、おそらくダービーの距離が適性ぎりぎりだろう。期待の新種牡馬ハービンジャー産駒のベルーフは、切れ味に欠ける。もっと距離が延び、あるいは古馬となってその能力が発揮できるだろう。
 おそらくハービンジャー産駒は2400メートル以上の、ゆったりとしたペースで進むレースに向き、強い馬は力でねじ伏せるような勝ち方をするのではないか。かつてのダイナガリバー、メジロデュレン、メイショウサムソンのようなタイプに育つのではなかろうか。つまり菊花賞なら狙える。
 距離が延びて良いのはミュゼエイリアンである。父はスクリーンヒーロー、その父はグラスワンダー(長距離向き、晩成型のロベルトの血を引く)で、中・長距離向きの晩成型であろう。しかも母の父は、フランスのGⅠイスパン賞に2着、サンクルー大賞典(GⅠ)とフォワ賞(GⅡ)を勝ち、凱旋門賞(GⅠ)に2着した、あのエルコンドルパサーである。エルコンドルバサーが、日本の競走馬と競馬界に国際化の扉を大きく開いてみせたのである。ミュゼエイリアンも父スクリーンヒーロー同様、意外性を持っているのではないか。
 距離が延びる菊花賞は、夏以降に台頭するトーホウジャッカルのような上がり馬も出るだろう。皐月賞14着に敗れたベルラップが面白い。父はハーツクライ(サンデーサイレンス産駒だが、どちらかと言うと中・長距離向きで晩成型)、母の父シンボリクリスエス(その父系はロベルト) である。
 皐月賞に出なかったが、早くから期待が大きかったポルトドートウィユや、あのオルフェーヴルの全弟アッシュゴールドがダービーを勝つ目はほとんどあるまい。この二頭はきさらぎ賞で牝馬のルージュバックに完敗している。アッシュゴールドは牡馬としては小柄である。古馬となって実が入ってからを期待したい。陣営はこの小柄な馬をあまり使い過ぎないよう願いたい。
 スピリッツミノルは脚の四白と額から鼻に掛けた白(作と呼ばれる)と、尾花栗毛の派手な馬で、一年後にはもっと華麗な姿になるだろう。本田優調教師の管理馬である。本田優は、かつて四白流星の華麗な尾花栗毛で知られたゴールドシチーの騎手であった。彼の目には、ゴールドシチーとスピリッツミノルが重なっているかも知れない。スピリッツミノルは父ディープスカイ(本質的にはマイラーだった)、母の父ラムタラである。父も、その父アグネスタキオンも、母の父のラムタラも栗毛だった。夏以降のスピリッツミノルに期待したい。歴史的名馬ラムタラの、母の父としての奇跡が見てみたい。
 ちなみに桜花賞は、スローペースに持ち込んだレッツゴードンキが勝ったが、今後は苦戦が続くだろう。10着のココロノアイとは実力的に伯仲している。1番人気で9着に敗れたルージュバック、4着のクイーンズリングが、やはり実力では上位であるまいか。
 アメリカ産馬のアルビアーノ(3戦3勝、フラワーC優勝)もかなり強い。さらに故障休養中のショウナンアデラ(4戦3勝、阪神ジュベナイルF優勝)も秋には復活して来るだろう。彼女たちなら男馬と闘っても遜色あるまい。 


 このエッセイは2015年4月20日に書かれたものである。それから早くも一年以上が経ってしまった。
 それにしても競馬は難しい。なんとマイラー系の早熟タイプと思われたキタサンブラックが、長距離の菊花賞と春の天皇賞を勝ったのである。しかも差し返すなど素晴らしい根性勝ちでる。血統論者をこれほど裏切ってくれた馬は久しぶりである。やはり彼は右回り、特に京都が合うのだろう。好走のパターンとしては、内枠を引き、スローの先行・逃げに持ち込み、4コーナーから直線に入るときに内が大きく開くのでその最短コースを突く。
 いやあ競馬は難しい。それにしてもキタサンブラックは大した馬である。


               

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