平和のつくりかた

「戦争のつくりかた」という絵本を読み(今の平和を守るためには、何かをしなければ!)とこのブログを始めることにした。 

明日2月1日はミャンマー軍政権から1年の日。私たちは忘れない!

2022年01月31日 16時25分21秒 | 平和のつくりかた

  昨日、NHKがテレビとラジオで相次いで、明日2月1日で1年を迎えるミャンマー軍事政権関連の情報を特集で流していた。10年続いた民主主義を守ろうとする民衆を殺戮も厭わず圧殺した軍部が政権を取って1年。黙らされたまま、軍事下の生活を受け入れたかのような首都ヤンゴン。でも、その風景をよく見ると、静かに民衆が反軍事政権の意志を、国営宝くじや、軍関連のたばこの不買運動で続けていることを伝えてくれていた。特に、軍政下のミャンマーを知らず、自由で豊かになったミャンマーで育った若い世代が、武器を手に闘い始めているという。

  また、ラジオでは、日本の若い高校生ゆなさんが、父親の仕事でミャンマーに滞在中にクーデターが起き、ミャンマーの変貌を目の当たりにしてきた体験と、ミャンマーのことを他国の事と考えずに一緒に考えよう!と「YANGONかるた」を作って、ミャンマーという国について同世代に伝える活動をしている話が、本人が出演して伝えられた。記者も登場、実際に若い兵士たちに取材した生の声も聞けて、2月1日のサイレント「沈黙のストライキ」を心から応援したいと思った。

  「YANGONかるた」のゆなさんが、サイトの最初の言葉で、「日本に帰ってきて、最初に感じたのは違和感でした。日本では、ミャンマーのことを聞くと「クーデターが起こっている怖くて物騒な国」というイメージで、ミャンマーがそもそもどこにあるのか、何語が話されているのか、知りません。私たち若い世代は、世界のことにあまりに無関心なのではないかと感じました」と言っている。

  「平和のつくりかた」というこのサイトを2017年5月に開設して、もう少しで5年になる。5年の間に「どうやったら、世界は誰もが生きていることを心から愉快と思える幸せな国にできるのだろう」という視点で世界や日本をみつめてきた。そして、だんだん分かってきたのは、自分の利益、自分の家族の利益、自分の国の利益という狭い視野で物事を考える人たちが世界を牛耳っている間は、自分たちの幸せだけは確保したつもりになっても、必ず歪みが生まれ、しっぺ返しを食い、不幸が訪れるのだという当たり前の事実だ。

  まずは、自分以外の人たちに自分の国以外の人たちのことにも興味を持ち、知ること。そして、互いに理解して、共に幸せに歩む道をみつける努力が当たり前にできる人たちが増えていくこと。これが平和への道だ。

  ミャンマーの軍事政権1年について、NHKの番組は、昨日私がみた放送「クーデター1年~ミャンマーの人々は今」で、ラジオでは「ミャンマー軍事クーデターから1年~未来に向かうZ世代~」として、昨日の放送時間から1週間まで「NHKプラス」見逃し配信、ラジオは登録なしでも「聴き逃し配信」で、視聴できる。 是非、まずは他国の民主主義の危機を、自分のものとして、しっかり捉えてみよう。

   *2月6日(日)各午後6時と午後3時まで

  そして、大事なのは、知ってどうするか。自分の身近な足下の問題から解決していくのも、ひとそれぞれに、自分のこの世にいて最良と思われる方法で、幸せな平和の道に世界を近づけていく努力をしていきたいものだ。そうすれば、きっと、平和の道は私たちの前に開けてくるだろう。    


「海の中から地球を考える」(プロダイバーが伝える気候危機)

2022年01月28日 21時29分24秒 | 地球の視点で考える

     児童向けの本だが、内容は濃い!この本のタイトルから、考えて「地球の視点で考える」というカテゴリーを作りました。持続可能な社会をめざす「SDGs」としてもいいかとも思いましたが、自分の家族や自分の国のことだけを考えるのでは、もう自分たちの生活もままならなくなる現実を知るにつけ、このタイトルを加えてみることにしました。過去の記事でも、これに当たるものもあると思いますが、今回からスタートしました。

   さて、最初は37年のダイバーが海をみての気づきから:

   ダイバーとして海に潜った作者の目で見た気候変動・・・太平洋のど真ん中でも、人間の廃棄したペットボトル、ビニール袋、漁網が浮かび、2050年には、海にいる魚の量を海洋プラスチックゴミが上回るという予測もある。水温の上昇がもたらしたと思われる珊瑚の死滅(白色化)

   1984年にプロダイバーになり、翌年に神奈川県藤沢市に「パパラギ」というダイビング会社を作った著者。

   *この「パパラギ」の由来となった100年前に出版された、自然と共生するサモアの酋長のヨーロッパ旅行記のタイトルから取った名という。この本、読んでみると示唆に富んでいたので、是非簡単に読めるしお勧めです。

    この本で、一番ショックを受けたのは、白色化が進む珊瑚についての話でした。珊瑚は褐虫藻(かっちゅうそう)という陸の植物のようにCO2を吸収して酸素を出す光合成を行う植物プランクトンを身体の中にたくさん住まわせて、その栄養の1部をもらい、動物プランクトンも食べながら生きている。そして、褐虫藻と珊瑚が作り出す環境が、たくさんの生き物の「生命のゆりかご」になっているそうだ。

   陸地の森林火災で森が失われている話はよく聞くが、この海中の珊瑚礁の瓦礫化は、一旦始まるともどせないという。2011年に国連生物多様性条約事務局がレッドリストを発表した際にも、「人の目に触れない海が最も危機的である」と述べていたという。陸の森林に当たる海藻も光合成を行うが、これも「磯焼け」と言って日本全国で減少しているという。

   そして、この太陽光が届く場所に住む海藻類や植物性プランクトンの光合成が、地球の酸素の3分の2を作っているという。

   さらに注目しないといけないのが、海が大気中のCO2を吸収する力のこと。海は大気の中にある約50倍のCO2を蓄えており、人間によって出されたCO2も約30%吸収してくれているという。今、光合成を行ってくれている海藻や植物プランクトンが減少していくと、大気中のCO2は大気に残ってしまうのだ。

   また、海というのは、山、川、海岸と深い関連性をもっていて、降った雨や、雪が溶けて川になり海に流れ込む。この自然の循環を、山にスキー場ができて保水力が失われ土砂崩れが起こったり、海岸線にコンクリ土台を作ったリゾートホテルや何かができて砂浜が減少すると、問題が起きた。海を健康にするには、山や川も大切なのだ。 襟裳岬の百人浜一帯ではこの問題の解決に広大なクロマツの植林を漁師が行い、襟裳の海が守られた話が載っていた。気仙沼でも、海で養殖のりの生産をしていた人々が、大川の上流に広葉樹の植樹を行った話がある。(そういえば、前回のNHKの朝ドラ「お帰りモネ」でも山と海は友達~という話が取り上げられていた)

   2006年の米国科学雑誌サイエンスには、2048年には海から食用の魚がいなくなると書かれていたという。海水温の上昇、陸地からの海水汚染などが予測されるからだ。持続可能な漁業のあり方。日本で普通のイルカのショーが、外国の人には残酷と見られている(鯨を食用するのと似ている?)話。火山噴火で5年全島避難があった三宅島の海は、驚くほどの生物が育っていたという話から、海洋保護区の設定をして、海の生物を乱獲から守ろうとの訴え。「海の公海は地球表面の半分。そこに大規模な海洋保護区を国連が国際条約で作ろうとしている」と書かれていた。

  「海を守ることが、地球全体の命を守ることに繋がる」

  海が光合成に重要な働きをしている認識が全くなかったので、これには驚嘆した。もっと多くの人に理解してもらわないといけないと思った。

  また、核実験や兵器、戦争による環境破壊ほど有害なものはない。プラスチックはリサイクルすればいいという話もあるが、リサイクル率85%といっても、中身が問題。リサイクルの6割は「熱回収」といって、プラスチックゴミを燃やした熱で発電するのに使っている。(詳細は、一般社団法人プラスチック循環利用協会HPへ)日本では、熱利用することを「サーマルリサイクル」と言っているが、海外では燃やすことをリサイクルとは認めていないという。

    *因みに、このHPにアクセスしたら、ココに下のような「2020年のプラスチック再利用フロー図」が出ていた。

   

   熱利用と思われるものを足し込んで全体から割合を調べたら、6割ちょっとが「熱回収」2割ちょっとしか「再生利用」されていないのが分かった! 6割は熱にする時にCO2もだしているのだ。

   「3Rが大切。リサイクルよりリユース。リユースよりもリデュース」(リサイクルより再使用。再使用より使用を減らす)

  著者は自分の店エコストアー「パパラギ」で講習会を行い、環境問題を人々と考えてきたという。そういう皆で身近に環境問題に意見交換する場をもつのは、とても大切だと思った。また、そんな中で、著者は、神奈川県の横須賀石炭火力発電所建設中止の活動もしているという。

  石炭火力発電については、NPO「気候ネットワーク」の平田仁子さんが、環境部門のノーベル賞といわれる「ゴールドマン環境賞」を取って去年大きく話題となって私も凄いことだと思った。彼女たちの働きで住民達も動き、50基の石炭火力発電計画の17基が計画中止されたのは快挙だと思った。ただ、彼女の話を聞くと、現在166基の石炭火力発電が稼働中で、CO2を排出し続けている現状。いまだにそんな中で、新設石炭火力発電の建設をしようとしている日本の問題点を、国民はもっとしっかり見ていかないといけない。原発の廃炉どころか再稼働や、海外への売り込みを続けようとしていた日本。今は、石炭火力発電を海外に売り込もうとしている! 本来なら、福島原発事故の当事国として、先頭にたって廃炉技術を磨き、それを海外に売れるほどに進めるのが日本の進むべき道なのに!!!!

                *平田仁子さんの受賞スピーチはとても素晴らしいので、10分で聞けるので是非ココから聞いてみよう!

  石炭火力は、CO2排出が液化天然ガスLNGの2倍と言われ、世界的に脱石炭が潮流になっている今、新しくこの時期に新技術と言いつつ排出ガス量の大きい石炭を新設するのはおかしすぎる!日本は、COP26で不名誉な化石賞を連続もらっているが、原発再稼働や、CO2を再利用する新技術と言い出したり、エネルギー政策は迷走中だ(嘆息) 再生可能エネルギーに全力を注がないので、菅元首相が「脱炭素が2050年にゼロに」とは言ったモノの、実現は疑わしい。

  皆で、エネルギー問題を自分のこととして考えていきたいものだ。

  まず知ること。そして、知ったら、自分のこととして行動すること。

  この本の著者も、平田さんも、人々に呼びかけ、どうしたらいいかを語りかけ続けている。耳を傾けよう。

  福島原発事故で、なぜコンセントの先のことを考えてこなかったのかと思った方、その反省の気持ちを忘れずにエネルギー問題や地球の温暖化の差し迫っている問題から目を背けずに1歩前に踏み出しましょう。

  

 


「ご当地電力はじめました!」(著:高橋真樹)

2022年01月22日 22時17分29秒 | 平和のための勉強資料

   最近、「脱炭素100%を2050年までに実現」して、地球の平均温度上昇を1.5°以下に抑えようという声が、やっと日本でも高くなってきました。その脱炭素100%の実現に日本では今、まだ原発の再稼働が炭素をださないと組み入れられていたり、脱炭素と言いながら外国から輸入した化石燃料を新技術で炭素を少なくするとか・・・まだまだ後ろ向きである感が拭えません。

   世界はどんどん自然エネルギーの割合を増やしているのに、日本はまだ立ち後れています。COP26でも、いまだに石炭火力発電への依存度の高さに化石賞という有り難くない賞をまたもや頂いてしまいました。

   そんな日本に将来はあるのか?と心配になった時に、「ご当地電力はじめました!」をみつけて読みました。この著者の高橋さんは世界70ヶ国を持続可能な社会をテーマにまわったノンフィクション・ライター。この本は2015年に書かれたものですが、この東日本大震災から数年の短期間の間に、これだけいろいろな人がエネルギーについて問い直し、行動を起こしていたということに驚き勇気をもらえました。

   今は、震災から11年目、ドイツでは福島原発事故をきっかけに原発から自然エネルギーへと大転換を果たしたというのに、日本の現状は悲しいばかりと嘆いていましたが、この本を読んでいて、(嘆いている場合じゃない。ここでしっかり日本も市民から立ち上がって、「脱原発&脱炭素」を実現していかねば!)と思いました。最新情報が手に入っていませんが、この2015年の以前の段階で、この本に書かれていた多くの地域の人々がしてきたことが、きっともっともっと日本に広がっているはずです。

   では、この本に書いてあった自然エネルギーの実践例を手短にあげてみましょう。

  1 神奈川県相模原市・藤野電力  独学で代表がミニ太陽充電器のキットを設計。その充電器づくりのワークショップをした。やがて、山間部で電動スクーターや電動自転車の利用が多いことから、太陽光充電ステーションを人が集まる場所に設置。誰でもコンセントが使えるようにした。2014年までに「大地を守る会」などの支援もあり、5号機までできた。

  2 小田原・ほうとくエネルギー  実は、1930年代以降に電力の国家管理体制ができるまでは、地域で水力発電をしたりした例はあり、小田原にも小水力発電の遺構が残っていた。報徳(ほうとく)二宮金次郎の精神~飢饉に苦しむ農村で収穫を分け合い、ぜいたくせずに残った物を将来に備えるを胸に小水力発電を復活。市と地域の企業や人が協議してすすめた。

  3 北海道・生活クラブ生協  震災よりずっと前、1999年にNPO法人「北海道グリーンファンド」設立。風力発電。2014年までに秋田、青森、茨城県などに12基の風力発電。市民出資が23億円にあったという。

  4 長野県飯田市・おひさまの町  市民出資で集めたお金で町ぐるみで協力。公共施設や民間企業の屋根にソーラー。

  5 福島・えこえね南相馬 ソーラーシェアリングで、太陽光発電の下でブルーベリーとナタネを栽培。

  6 福島・いわき市「おてんとSUN」 耕作放棄地に有機コットンを栽培、小規模分散型の太陽光発電。

  7 福島・会津電力  太陽光発電、今後水力発電やバイオマスへ

  8 兵庫県宝塚市 株宝塚すみれ発電 宝塚市の新エネ課と市民が立ち上げたNPOがタグを組んで実現。太陽光発電。補助金のような一時的にもらう形でなく、市民参加で持続する形に。第3者のISEP(飯田哲也が代表)のアドバイスが入ったのも働いた。

  9 岐阜県郡山市 人口300人の過疎の町に、平野さんがきてNPO地域再生機構を作り、地元の人たちと農業用水を利用した地元の木などを使った手作り小水力発電を実現。稼働率の悪かった農産物工場にも電気を送ったことで町おこしにもなり、町のトウモロコシの加工品や水車そのものも評判になり、人が集まるようになった。

  10 東京都多摩市 たまでん 次世代育成プログラムで大学の学生達の参加もよびかけ、広がりを産み出した。

  11 長野県上田市 養蚕をして大きい屋根がある家の屋根を利用。太陽光発電のパネルを多めに他の人が出資する「相乗りくん」のアイデアで太陽光発電を広めた。45世帯分の電力を作り出した。

  12 徳島県・徳島地域エネルギー 4000世帯以上の発電を扱っているが、それはすべてを所有しての数字でなく、ノウハウを自治体や企業、市民に提供したりした上でその総計。 設備に投資してくれたお返しに、地域の物産品を送ることで地域の産業活性化にも。関わる人たちにメリットがある皆がハッピーになることを目指した「佐那河内みつばち発電所」もそのひとつ。

  13 ソーラーブドウカン ロックバンド「シアターブルック」タイジさんが、みんなにできないと思われながらも武道館のライブを自然エネルギーでまかなって実現。その後も野外ライブでも自然エネルギーを使って開催している話

このように、小さな1歩1歩がだんだん積み上がり、人々を繋げ、社会を動かしていく!と高橋さんは多くの現場を見て確信しているようです。読んでいて、明るい気持ちになりました。そして、そうした実績の上記の紹介だけでなく、下のような「自然エネルギー」の地域に結びついて成果を生んでいったこと以外に、他のエネルギーについてのコメントも、文の中のあちこちに入っていて、示唆に富んでいました。

(補足)

・エネルギーには、「電気エネルギー」だけでなく、暖房や給湯に使う「熱エネルギー」、乗り物を動かす「燃料」がある。太陽の光を電気にいったん変換してから熱を作り出すより、そのまま活かす方が効率がいいはず。太陽熱温水器というのがあったが、もっと有効利用してもいいはず。(p26)

・電気に変換してから使うのは、発電時にも無駄に熱を出し、送電して遠くから送ってくる段階で電気を大半失っていて非常に効率が悪い。「オール電化住宅はエコ」「IH調理器はエコ」なんていうのは、嘘! 家庭の中で電気だと二酸化炭素は出さないが、家庭にくるまでに6~7割のエネルギーをロスしていて、化石燃料には2013年で27兆払っている。あまりにもったいない! (p37)

    *(化石燃料は輸送の時にもエネルギーを使い、二酸化炭素を出している)と思う。経済産業省が、化石燃料の輸入額が10兆円増えたことを理由に原発再稼働を~と世論を作ろうとしていたが、それは化石燃料の値上がりとアベノミックスで円安となり支払う額が増えたことによると説明(P44)  原発も有害な放射能汚染物質を出す危険なエネルギー。その再稼働はあり得ない選択。

   さてさて、とても勉強になることが満載の本でした。トップの人たちが頭で考えた施策をするだけでは、自然エネルギーはなかなか進まないということが、この本を読んでよく分かりました。

   地元の人々が、人間関係やネットワークを使い、自分の地域の特性を知って、役所や国を巻き込んで進めていく先に、地に足がついた地域に豊かさをもたらすエネルギー政策が実行されるようです。太陽、風、森を味方につけて、人々が日本中で持続可能なハッピーな社会を作り出してくれる。そんな未来が思い浮かびました。

   ただ、それは、コンセントにつなげば電気はどこからか来るからというのでは、始まらない!!!ということも分かりました。

   自然が与え続けてくれる力に、私たちが 人任せでなく、自分たちの手を差し伸べて、受け取らないとだめなのです。でも、受け取るために地域で人々が協力しあう先には、地域の人々が仲良く手も繋ぎ合わせ暮らす、なんとも素晴らしい社会が待っていそうではありませんか。

   脱原発、脱炭素は、地域の自然エネルギーの活用へ踏み出すこと。私には、何ができるか。そして、あなたには。まずは、あなたも、本を読んでエネルギーをもらってみませんか。


中村哲 わたしは「セロ弾きのゴーシュ」

2022年01月15日 19時55分29秒 | 平和のつくりかた(ペシャワールの会)

    2019年12月4日中村哲さんが銃撃を受け亡くなられてから2年。去年新しい本が出た(?)というので入手して読んだ。

    NHK「ラジオ深夜便」というインタビュー番組で、中村哲さんが1996年から2009年に出演時の話をそのまま再現したものが主。それに、2004年ペシャワール会報に57才の中村さんが宮沢賢治学会主宰のイーハトーブ賞の受賞に寄せて書いた<わが内なるゴーシュ>という文章と、中村哲さんが亡くなったその日発行の会報によせた2020年の<年たる年も力を尽くす>と73才で中村さんが書いた絶筆が加えられていた。又、本のちょうど真ん中に宮沢賢治の「セロ弾きゴーシュ」の話が載っていたのも有り難かった。簡易な子どもの話でしか読んだことがなかったので、こういう話だったのかと興味深かった。

   1.パキスタンに最初赴任してみると、都市部は結構医者がいる。そこでハンセン病が多い無医村地域で始めた。すると医療機器はないし、日本国内で、それなら助けようという組織ができた。後にこれがペシャワールの会になる。でも、医療というより、お金がなくて足の裏に傷つきやすいからサンダル履けといってもサンダルが買えない。病気を直すより防いだ方が安く済んで人々にもいい。サンダル工房を作って安く売った。患者が以前より戻ってこなくなった。現地の医者にハンセン病の初期症状などを教えたのも、だんだん浸透した。

    *ペシャワール会は、2005年時点の話で、会員1万3000人ほどが4億円以上を出してくれたと書いてあった。

   2.女性を隠す習慣があるので、女性の看護師が大きな力になった。高級な医療機器は、停電も多い現地では難しく、修理もできなかったり、現地に寄り添って工夫された援助でないと役に立たない

   3.凄くお金をかけて移植手術をしたりする。でも、やたら寿命を延ばすだけが医療か?日本は豊かなはずなのに、みんなが不平にあふれているように思える。人が生きて死ぬということの意味を、日本人は忘れていないか。

   4.自分はアフガニスタンとパキスタンと地続きだけどちょっと中が悪い地域を行ったり来たりして医療活動をしたが、病気は国境を越えてしまうので、病気を直していくという「希望を共有する」ことでチームがまとまった。それは誇りを感じている。

   5.大震災があると、なんで日本でなく、そんな遠くで活動するかと言われたけれど、結婚だってどうして奥さんと結婚したか。縁。自分も出会って、そこで自分が役に立つことがあって、やっている。ペシャワールに住んでシンプルに幸せに生きている。苦労しても生きがい、やりがいがある。

   6.温暖化が大きな問題。4000mを超える高山があって、そこに冬に積もる雪が、夏に溶け出して豊かな水をもたらすのだけれど、温暖化で雪が以前より上の方にしか積もらない。水不足、夏に干ばつ。砂漠化してしまう。(2004年時点で、25年前に雪が夏線は3300mが温暖化で、4000mになっていた)

   7.まずは、水が不潔で病気をもたらしていたので、井戸掘りをした。でも、やがて温暖化で掘った井戸が使えなくなったりした

   8.9.11の報復で、オサマ・ビンラディンを殺すとアフガニスタンを米、英軍が空爆した。カブールの陥落で、ごく一部にブルカを付けないで女性が歩けるようになったのはあった。でも、空爆の死者も負傷者が数千人でた。さらに、政治の混乱、空爆の影響で食料輸送が滞るなどで、代償に100万人の餓死者が出た。アフガニスタンの大半の民衆は英語も話せず、自分たちの気持ちと違う上の一部の人が、外国の国際世論に流れる。本当は、タリバンでも、外国の傭兵になる人も、本来は干ばつ前は豊かな水で農業をして、幸せに暮らしていられた。それが、干ばつとかでお金がなく、農業から兵隊へ。本音は正しく農産物とか生産して生きて行けるならそれがいい。政治指導部と一般の民衆は180度考えが違う。人々の大半は反米。外国の軍隊に荒らされるのは嫌だと思っている。テロリストの征伐とかいって、犠牲になったのは、一般市民や農民が多く、地元の人は反感をもった。アルカイダの征伐で、兵隊が入り戦闘地区ができることで、私たちが深い絆をもってやってきたところが、平和のためと入ってくる軍隊の血なまぐさい事件が起こることで一時停止に追い込まれたりした。

   9.井戸を掘って、安心な水を確保したのはいいが、それでは食べる手段がない。灌漑で農地を戻して、暮らしていけるようにしないといけないと考えた。6000m~7000mの高い山ならさすがに数世紀は涸れるないだろうと、用水をひっぱってくるには、そこから来る太い川からの水を、地元で維持できるような用水のつくりかたをした。(日本の伝統的な治水のやり方の智恵を使った)人は、難民がアフガニスタンに戻ってきても、干ばつで生産手段がないので、日本のペシャワール会からのお金で賃金を払って現地の人にメンテナンスも伝えながら工事をした。

    地球温暖化と関係があって、アフガニスタンの水源は山の雪解け水なのに、近年雪がそこそこ降っても急激にどっと暑さで溶けると、洪水になって流れてしまって、あと水が少なく川の水が低くなって取り入れられない。比較的低めの山のところでそのような傾向があった。

    2021年、用水路では、16500ha 65万人の命を繋いでいると言われる。

   10.命を粗末にする風潮が世界に広がっている。自殺も命を粗末にすること。人が生まれてきて、生きて死ぬ実感をなくしつつあるのではないか。10才の息子を病気で亡くした中村さん。命への思いは死に現地で接することも多かったことからことさらに一人一人の個人の一生涯を終える死の重さを感じて生きてきたのだと本を読んで感じた。

   11.農作物とか、試験農場も作って収穫祭で試食したりいろいろしたが、そばはダメ、米が結構上手くいき、サツマイモは種芋をこっそりもっていくのもいて、サツマイモは蔓からでも増やせるから、「蔓も盗っちゃいかん」と噂を流したら蔓も盗られた。彼らにいいと思われるものは、自然にそうやって普及していった。

   文化の違う人にも、同じ人間としてよりそう。本当の幸せは、だれにとっても人を殺したりすることであるはずが無く、自分の土地を耕し、子どもを安全に育てる。その共通の地盤に立って、国を超えて支援し、命を助けたのが中村さんだったと感じた。ただ生きているだけでは、生きているといえるかはわからない。軍隊が入ってしあわせになった例などひとつもないと語った中村さんの言葉を、是非覚えておいてほしい。

   そして、最後は、わたしがこの本を読んで一番共感した、中村さん自身の言葉で締めくくる。少し短くはしてあるが、本書の163~165ページにある言葉だ。

   今、起きている水害や洪水、旱魃など、桁外れの破壊作用があちこちで起こっている。それをしってもらいたい。それまでは平和にくらしていた地域があっという間に砂漠化して、人が住む空間がなくなってくる。この恐怖感。これは戦争どころではない。武力を行使する前に、もっと考えなければならないこと。実施しなければならないことがたくさんある。これを痛切に思う。

   「平和、平和」というけれど、それは政治的にどうこうというよりも、みんなが考えて、智恵を出し合って、それが人間が作り出した災害であるならば直すようにするとか、この旱魃でこまったところを、もうちょっと支援して危機もってもらうとかいうことがないと、大きな動きにならないと、わたしは思います。

    水路の完成で、砂漠化するというところに24時間、使いたい放題の水が来る。何よりも水くみという労働をしなくていい女の人たちが喜んだ。子どもにしても、水遊びをして毎日遊んでいると病気にならなくなる。やっぱり命というのは、水が元手なんだなぁと、わたしはつくづく思いました。 中村 哲

   

*「セロ弾きのゴーシュ」と中村さんとの関係については、是非、お話もこの本の中に掲載、中村さん自身の「イーハトーブ受賞」の言葉も入っているこの本で確かめて下さい。