前回、Broken Windows Theory について触れながら、バンクシーの芸術にまで高められた落書きが、消されることなく大事にされ、世界に様々な問題があることを問いかけてきたことについて書いた。でも、よく考えると、自分がバンクシーのことをどれほど知っているかと恥ずかしくなり、どんな絵をこれまで描いてきたか、彼の作品が掲載された本を探して読んでみることにした。
「銃の代わりに花束を描く!”アートテロリス" バンクシーを読む」(宝島社)
1番驚かされたのは、パレスチナの分離壁に、壁を打ち破ったかのような絵を描いたり、”The World Off Hotel" というホテルを作り、そのホテルに観光客が集まり、現地の人の雇用を産んでいること。彼が、パレスチナへの強い問題意識を持ちコミットしてきたことだ。こんな基本的なことすら知らなかった。本を読んでよかったと思った。
他にも、石のかわりに花束を投げつける男の絵”Flower Bomber"や、銃を下ろさせられたイスラエル軍の兵士を少女が身体チェックをしている"Girl Searching Soldier" 、ロバにまで身分証チェックをするイスラエル兵を描いた"Donkey Documents",などの作品など、多くの作品が残されていることなどが分かった。初めてみる作品がいっぱいだ。ホテルの室内の作品や、ホテルで開かれた「謝罪パーティー」という劇めいた仕立てのイベントもあったようだ。ガザの破壊された壁に描かれた”Kitten"。イスラエルの監視塔に回転ブランコをつけて子どもが遊ぶ様子を描いた”Watch Tower Swing" 想像以上の素晴らしい作品に驚かされた。バンクシーとひと目でわかる作風。陰影でディテールを抜かしているのに、そのものがしっかり浮かび上がるようなその独特な描き方。美術品としても、本当に消すのがおしい素晴らしいものが多いと再認識した。
驚いたことには、バンクシーにインタビューをしたことがある鈴木沓子さん自身が書いた「バンクシーはなぜパレスチナで書き続けるのか」という文章も掲載されていたことだ。現地の人には冷ややかにいう人もいるようだが、私はマリア=テレサの「愛の反対派憎しみでなく無関心」という言葉を思い出し、バンクシーの行いは彼のパレスチナや他の社会問題に「無関心でない」態度の表出として断然評価する。それに、彼の作品には、人々の心の中にそうした問題への「関心」を呼び起こす力があると思った。
”The Son of a Migrant from Syria"という作品では、シリア難民だったスティーブ・ジョブスが描かれていて、彼を受入れたことが今のアップルが世界にもたらした人類への財産に繋がっていることを、人々に思い起こさせる。以前、日本で難民問題に取り組んでいるWELgeeの代表の渡部清花さんが「難民の人もそれぞれに優れた才能をもった人なんです」と言っていたことを思い出した。難民を厄介者のように考えることの間違い。難民も自分と同じ人権を持ち、才能を持ち、未来を切り開く権利があるのだ。その視点の大切さを再認識した。
バンクシー、私の想像以上の人でした。
ところで、偶然ですが、今、日本でバンクシー展をやっているようだ。お近くの人は、コロナ禍でどうなっているか確認の上、実際の作品に触れてみるのもよさそうだ。きっと感じることが多いと思う。映画もあるようだし、本も他にもあるようなので、覗いてみよう。
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