交通事故などの強い衝撃により髄液が漏れ続け、慢性的な頭痛や目まいを引き起こす「脳脊髄液減少症」の新たな診断ガイドライン作りを、医学系8学会の代表らが参加する研究班が進めている。現行のガイドラインに該当せず、「原因不明のむち打ち損傷」とされた患者の治療と補償が進むとみられる。新ガイドラインは来年3月以降に公表される見通し。
 研究班は2007年度、厚生労働省の科学研究費補助金を受けてスタート。主に磁気共鳴画像装置(MRI)を使い、髄液が漏れているかどうかを判断する現行のガイドラインを11年10月に公表した。
 研究班は、より精度の高い診断方法の確立に向けて研究を継続。16年度から日本医療研究開発機構(東京)の研究費を受け、立ち上がると頭痛の症状が出る患者のうち、MRI画像では漏れがはっきりしない「疑い」所見の見極め方を検討してきた。
 症状のない正常な人の画像と比較するなどして、ごく少量の漏れでも判別できる新ガイドラインを固めた。
 16年1月の厚労省先進医療会議に提出された資料によると、14年7月〜15年6月に現行のガイドラインの診断に基づき、「ブラッドパッチ」と呼ばれる髄液漏れの治療が全国で約570件行われ、8割超で有効だった。
 研究班代表で、前日本脳神経外科学会理事長の嘉山孝正山形大医学部参与は「客観的で科学的なデータを積み重ね、過小または過大にならない診断基準になる。診断がつかなかった患者が適切な医療を受けられるようになる」と説明する。
 患者団体は「ブラッドパッチ」の有効性を踏まえ、現行のガイドラインに当てはまらない患者も治療が受けられるよう求めてきた。
 東北や関東各地の患者で組織する「東北脳脊髄液減少症患者の会」の及川恵美代表は「現行のガイドラインに当てはまらず、苦労する患者は少なくない。今後は(精度の高い診断を基に)より良い治療と補償を受けられるようにしてほしい」と話した。

[脳脊髄液減少症]脳への衝撃やストレスによって脳や脊髄を覆う硬膜に穴が空き、内部を満たす髄液が漏れて慢性的な頭痛や疲労など多様な症状を引き起こす。回復には安静が大切で、硬膜の外側に患者自身の血液を注射し、漏れている箇所をふさぐ治療法「ブラッドパッチ」が有効。16年4月から保険が適用された。