「おじいさん煙草はやめてくださいな。体に悪いとあれだけ言っているじゃありませんか」 「そういうな愛依子、このパイプを手放すとどうも調子が出ないんだ」 「だいたいあなたはスキーがしたいと言ったり服はイギリス製の生地でないと着れないと言ったり・・・低額所得者がそんなこだわりを持ってどうするんです」 百合亜の家族、風渡一家は百合亜と祖父、祖母の3人で構成されていた。祖父は昔有名な新聞社の支局で記者をやっており、退職後の今はこの地で「HOLLY」という名のペンションを経営していた。若い頃からスキーが好きで、それが高じて有名なスキー場があるこの地でペンションを経営することにしたのだった。だが客は少なくてほとんど趣味でやっているようなものだった。両親はデザイナーをしていたそうだが、百合亜が生まれて間もない頃出張先のヨーロッパで事故に遭い亡くなったとのことで、彼女は物心がついたころからこのペンションで祖父母に育てられたのだった。