バアルは思った。 (我らは霊力で異国の言葉を話すことが出来る。 しかし我らが異国の言葉を話す霊力を使う際は火が燃えたり羽が散ったりすることは決してない。 我らとは異なる霊力を使うとは、この娘は一体・・・) ここで百合亜はふと思い出した。
ここでミッシェルは自分が今会話している相手の名前を知らなかったことに気づいた。 「あなたの名はなんと言うのです」 「風渡百合亜、だけど?」 「百合亜さん今陽月界のケルビム王国地方の言葉を話しているじゃないですか」 百合亜は驚いた。 気がついてみると自分はミッシェルたちの言葉で会話している。 ミッシェルの言葉は日本語に転換されて耳に聞こえ、自分は日本語で考え日本語で話そうとするのだが、舌が勝手に動いてミッシェルたちの言葉で発声しているのである。ミッシェルとバアルもこの現象に動揺していた。
百合亜が熱さに頭をすくめると数秒ののちその火は消え、そして火が消えたさらに数秒ののち、火があった位置から何枚もの7色に光り輝く羽が百合亜の周囲に落ちてきた。 それらの光り輝く羽は地面に落ちると消えた。 「い・・・いま何が起きたの?」 呆然とする百合亜にミッシェルが言った。 「話せるんですか?」 「え?」 「陽月界の言葉を話せるんですか?」 「あたしにあなたたちの言葉が話せるはずがないじゃない?」 「しかし・・・あの」
「え? 何?」 戸惑う百合亜にさらに発言しようとすると、バアルが理解できない言葉で叫びながらミッシェルに斬りつけた。 「・・・・・・・!!」 「・・・・・・・!!」 ミッシェルも同じ言葉で叫びながらバアルの剣を自分の剣で受けた。 「・・・そこ! 危ない! ・・・!」 「・・・・・・!!」 ミッシェルは百合亜に何かを伝えようとしているのだが、バアルはミッシェルの事情にはかまわず母国語で叫びながら斬りかかってくる。 ミッシェルもそれに応戦しようとすると母国語に戻ってしまう。 「それはあたしが危ないの? あなたが危ないの?」 「・・・うしろが危ない! ・・・・!」 「・・・・・・!!」 混乱するばかりの状況に、百合亜は思わず言った。