「アメジスト・ライン・オブ・エッジ」 走り出そうとすると背後でそう声がし、直後自分の右横から逃げようとする方向に向かって紫色の光線が飛んだ。すると、光線が当たった地面が光線に沿って大きく切り裂かれた。 「きゃああああ!?」 慌てて足を止める百合亜。振り返るとバアルが紫水晶のように輝き透き通った剣の切っ先を彼女に向けている。 「おとなしく従ってもらいたい」
「始めましてお嬢さん。わたしはバアルと申すものです」 「バアルって・・・あなただれ!?ミッシェルの知り合い!?」 この予想外の出来事を前に百合亜は狼狽しまくっていた。 「わたしのことをミッシェルから聞いていないのかね。 わたしは紫水晶のカレイドスコープナイト・・・サファイアのミッシェルとは戦友だった・・・もっとも今のわたしは悪魔だが」 百合亜はバアルを指差すと、頓狂な声を上げた。 「あー! あなたミッシェルを装ってわたしを呼び出したのね!?」 「おや、今頃お気づきで? なら目的もわかるだろう、時の鏡の欠片をわたしてもらいたい」 「いやよ! 公文書偽造する人なんかに!」 こういうのは公文書とはいわないのだが、そう言うと百合亜は背を向けて走った。
初めて見たときミッシェルは駅前で [ かかみのけからおさかしてます みつけたひとは おしてえくらさい ]と書いた看板を出して竪琴を弾いていたのだった。ここでふと百合亜の脳裏に疑問が生じた。 (あんなでたらめな立て看を出す人に昨日の手紙が書けるものなの?) その疑問はひとたび生じるや胸に渦巻いていった。 すると!
「それにしても本当にいい天気になったな」 気を取り直し再度空を見上げた。彼女の言うように今日は絶好の行楽日和で、ここまでバスに乗ってきたのだが車内は家族連れでにぎわっていた。もっとも彼らは近くにある 『ふれあい動物農場』に行くらしく一つ前の停留所で下車したため、現在この広大なコスモス畑にいるのは彼女とアンジェだけだった。ここは子供のころから何度も訪れている場所であるが、今はコスモスの花々がもっとも色づいている時期で、日差しを浴びた花々は一際華麗に感じられた。(そういえば初めてあの人を見た日もここへ来て、それで鏡を拾ったんだっけ) 百合亜はその日のことを思い出した。