その後も折にふれミッシェルはルシフェールに練習を見てもらったが、ある日を境にそれは不可能になった。その日、ミッシェルが自室のある二階から一階に降りると、施設の少年たちが興奮した様子で接客室の前に集まっていた。 「あっ、ミッシェル。やっときたのか、おせーよ!」 「おそい? 何が・・・?」 「マルスがうちに来ているんだよ」 「えっマルスってあの・・・」 「そう、護国の英雄だよ」 「ええっ!? どうしてそんなV I Pがこんなところに・・・?」 「よくわからねーが、ルシフェールさんに用があるみたいだ」 「ルシフェールさんに!?」
「できたじゃないかミッシェルくん、それがきみの霊力だ」 「これが、ぼくの霊力?」 ミッシェルはサファイア色の美しく輝く剣を垂直、水平に振っている。 「何の霊力が使えるかは各精霊ごとに千差万別であり、生まれつき定まっている。きみのは、霊力を武器に実体化させるタイプのようだ・・・」 「ありがとうございますルシフェールさん、あなたのおかげでぼくにも霊力が使えるようになりました・・・!」 「きみの地力だよミッシェルくん。これからその能力をうまく活かしてゆくことだ」 剣を持ったまま感激した表情で礼を言うミッシェルにルシフェールは静かに答えた。朝靄の中、ようやく昇り始めた太陽が両者を照らしていた。
ルシフェールは話を続けた。 「霊は通常見ることも触れることもできないが強力なエネルギーを持っている。それが霊力だ。ぼくらは人間のような外見をしているが、これは霊力を具現化させて造った姿なんだ。・・・そして、いいかい此処が大事だ・・・この霊力を具現化させる能力を応用して、敵を攻撃するものに霊力を具現化させるのがぼくらの戦闘スタイルなんだ」
それから2週間ほど経過したある朝、ミッシェルとルシフェールがやはり施設の庭にいた。あのときから両者がここで霊力を使う練習をするのが習慣になっていた。とはいえルシフェールから霊力を習いたいと思うものは非常に多いと思われたので、皆に知られぬよう朝のまだ誰も起きていない時間に練習するというのが常であった。 「・・・・・・!」 ミッシェルが両目を閉じ右手を突き出し、念を集中する。右掌に一瞬サファイアのような青い光が生じたが、すぐに消えてしまった。 「あきらめないで、心を一点に集中し続けるんだ」 ルシフェールが傍から語りかける。 「ぼくたち陽月界の住民は大なり小なり霊力を行使することができる、ぼくらの存在自体が霊力から成っているからだ。人間界の住民は物質から成る体を持っているが陽月界の住民は本質的に体というものを持たない。人間界では妖精や精霊などと呼ばれている実体のない存在でありこの体は仮のものなんだ。本来ぼくらは実体のない霊だけの存在だ」