ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

EVE×30

2013年12月01日 00時00分17秒 | 小説
長い階段を何とか昇りきった。顔を上げると、カラフルな光に目が眩む。

広場のサイズには不釣り合いな程背の高いモミの木が、

派手なライトと飾りをこれでもかと纏って、得意気にふんぞり返っている。


周りを見渡すと、ここ数日で一番の冷え込みにも関わらず、大勢の人がツリーを囲んでいる。

ある者は立ったまま白い息を吐き、ある者は階段に座り込み、

その多くは、各々隣に異性を侍らせ……

ゆったりとした人の挙動とは裏腹に、風は慌ただしく吹き荒び、照明はせわしなく点滅する。

街は、いつでもせっかちだ。



ツリーの前に立ってみる。

綺麗、なのだろうか。まあ、素直に受け止めれば、そうなのだろう。

広場の幅と同じ高さはあろうかというツリーは、根元から見上げる俺など気にもとめてない様子で、

広場の観衆に豪奢な光をぶちまけている。

その観衆はというと、好んでツリーを取り囲んでいる割には、

謙虚さとは無縁な、ツリーのド派手なアピールにはすでに関心を捨てているように見える。


ツリーは、そんな彼らのことすらお構いなしに、相変わらず大袈裟に輝く。

まるでステージの上で自分に酔っている、品の無いダンサーを見ているようだ。

その衣装を剥げば、所詮は黒ずんだ地味なモミの木に過ぎないじゃないか。

分不相応、とでも言おうか。いや、違うな。

無様だ。吐き気がする程に。


派手な光を冷静に眺めると、他にも何か違和感がある。

……いや、時期、というのは別問題として、だ。

小さい。この木、あまりに小さい。

広場が狭いせいで錯覚させられるが、この程度の木、自然に生えていても何の注目も置きはしない。

地面から真っ直ぐ生えたその立ち姿は、なるほど林に群れる同胞達とは一線を画している。

だが、葉に覆われた部分の幹は、微妙に傾いている。

三角形に整ったシルエットも、人の手で切り揃えられた結果だろう。

まあ……それは、この木に限った話ではないが。


この木は、どこから運ばれて来たのだろうか。

作り物のツリーを飾る選択もある中、生木を取り寄せたというのは、何らかのこだわりがあってのことか。

しかし、まだ12月にもならないという時期からステージをこしらえてしまうとは、

毎年のことながら、広告会社の焦りすら感じる。

もちろん、人間は非日常が無ければ生きていけないだろうが、

かと言って、イベントが無ければ死んでしまうのか? まさか。


もはや、この下品な木にすら同情の念が湧いてきた。

まだ秋が終わるかといった季節に、まるで前座のように人前に引っ張り出されて、

彼女は本番とも言える「その日」、満足に輝けるのか?

……思わず「彼女」と言ってしまったが、モミの木に性別などあるのか?

どうでもいいか、そんなことは。



寒い。そろそろ、道草を食うのは終わりにしよう。

ツリーに背を向け、階段を少し降りた所で、振り返った。

やはりツリーは、人目を憚らず堂々と立っている。


折角だ。1ヶ月後の事を、少し考えてみようか。

その夜、鐘の音と共に、街に雪が降り出す。

そして空から、ソリに乗ったサンタが颯爽と現れるんだ。

この小さなツリーは、自らの惨めさと虚しさに気付き、

恨み言のように光を瞬かせて、巨大なトナカイの角で倒されてしまうだろう。


サンタは穏やかな笑顔で、プレゼントの箱をばら撒く。

プレゼントは爆発して、大人しく眠ろうとしないビルを吹き飛ばしてしまう。

欲に塗れた愚かな大人達は、みんな爆弾の餌食だ。

そうしてまっさらになった聖夜に、この街を覆う程の、バカでっかいモミの木がその広場から生えてきて、

その枝の間から、無垢な子供達にプレゼントを落としていく。



そんな下らない事を考えていたら、思わず顔がにやけていた。

階段を降りる前にもう一度、ツリーのてっぺんに輝く星型の飾りを見上げた。

広場に立つパフォーマーの象徴ともいえるその星に、

親指を下に向け、思い切りブーイングを送ってやった。



今日は11月25日。

クリスマスまで、あとちょうど30日だ。




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