ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

第一章 最後の晩餐

2009年02月13日 21時50分53秒 | 小説
短髪の男の言葉で緊張が解け、

レストランの中に和やかな空気が流れ始めた。



「じゃ、何か頼むか」


2人は不自然なほど分厚いメニューを広げた。


「・・・こんな時によくこれだけ材料が集まりましたね」


茶髪の男は、カウンターに立っている店員の方を見た。


「お客様に、今一番食べたいものを提供させていただくためですから」




「しかし何でもあると迷うな」


「これが最後だと思うとな・・・」


まだメニューは半分も読まれていない


「ちょっと前まで、『最後の晩餐』なんてのを経験すると思わなかったしな」


「定番の質問・・・ってぐらいにしか考えてなかったな。

そもそも、あれを本気にする奴がどこにいる?」




少し経って、吹っ切れたように茶髪が言った。


「もういいや、普通にカレーにする」


「待てよ、まだ読んでる途中だろ」


「悩んでるくらいならとっとと食った方がマシだ」


茶髪の男は手を挙げて店員を呼んだ。


「カレー中辛ルー多め、肉抜きで。代わりにチーズ入れてくれる」


「かしこまりました、少々お待ちください」


店員は厨房の奥へ入っていった。

短髪の男は呆れ顔で茶髪を見た。


「肉の無いカレーなんて何が美味いんだ」


「そんなの人それぞれだろ。それよりお前はどうするんだ」


「とりあえず最後まで読む。どうしてあんなにあっさり決められるかな」


「小学校の卒業文集に『世界が終わる前に何が食べたい?』っていう質問があったんだよ。

その時『カレー』って書いてたし、それが一番かなって」


「ふーん、よく覚えてるな」


いつの間にか、短髪はメニューに目を落としていた




「もういいや、普通にラーメンにする」


「さっきの俺と同じこと言ってるよこいつ」


今度は茶髪が呆れた顔をしている


「とんこつラーメン、チャーシュー多めで」


短髪は厨房に向かって叫んだが、返事は無かった。


「聞こえてないみたいだな」


「後で頼めばいいだろ。ところでさぁ」


茶髪が急に小声で話し始めた。


「あの店員、幽霊とかじゃないよな?」




冗談を無視されて、茶髪の男は話題を変えた。


「『もし世界が終わるなら~』みたいな話、他に何かなかったか?」


「特に無いんじゃないか。何食うかと何するかぐらいだろ」


「なら、最後に何するつもりだ?」


「・・・普通に過ごす」


「なんだそりゃ」


「別に今さら何かしなくても・・・」


「だからさっきのんびりメニュー読んでたのか」


「じゃあ何しろと」


「例えば家族と・・・」


「父親はとうに死んでる。母親は宗教にのめりこんでるし、俺は一人っ子だ」


「・・・じゃあ」


「彼女ならこの前選ばれて飛んでった」


短髪は無表情のまま上を指差した。


「こんな時にやりたいことやれるわけないだろ」


触れてはいけないことを言ってしまったと思ったのか、

茶髪はそれきり黙ってしまった




しばらくして、店員が料理を運んできた。


「・・・あ、聞こえてたのね」


両手にはカレーとラーメンを載せていた。

店員は料理を二人の前に置くと、すぐに厨房に戻ろうとした


「店員さんは、最後に何がしたい?」


茶髪が呼び止めて言った。

店員は振り返らずに答えた。


「最後までこの店にいるつもりです」


「こんな時に、仕事なんかしてていいの?」


店員は振り返って薄く笑みを浮かべた。


「私は仕事が好きなので」




二人は各々自分の料理を黙々と食べ始めた

茶髪は水も飲まずにカレーを掻き込んでいる

短髪はまた少し水を飲んで、思い立ったようにメニューを開いた。


「やっぱ他のも食いたい」


「そんなに食えるのか?残しちゃあの子に悪いぞ」


「えーっと、ペペロンチーノと・・・蕎麦で」


「・・・麺ばっかじゃねぇか」


茶髪はまるで変な物を見るような目になっている

すぐに、厨房から声がした。


「蕎麦は冷たいのと温かいの、どちらになさいますか」


「・・・じゃ、冷たいので」




「俺だって色々やりたいことあったぜ」


短髪は自分から口を開いた。


「でもな、今じゃできないことだって数え切れないほどある。

滅亡宣言からやりたいことやり尽くしてきたつもりだったけどな、

何だ、親孝行したい時分に・・・ってよく言ったもんだな」


「親孝行に限らずな」


茶髪は明るく笑い飛ばした。


「こんな時に好きな物食えるなんて、俺たちついてるよな」




今度は3分も経たないうちに、パスタと蕎麦が運ばれてきた

ラーメンの右側にパスタ、左側に蕎麦


「うどんとか焼きそばとかはいいのか」


茶髪がまた場を茶化し始めたが、短髪は見向きもしなかった


短髪の男はしばらくテーブルの上の料理を眺め、

何かに気付いたように突然箸を置いて

蕎麦の向こうに置かれていた水を一気に飲み干した。




序章 2人の男

2009年02月12日 17時45分44秒 | 小説

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・で・・・これま・・・ニュー・・・をお伝・・・」


「・・・え・・・い・・・すか!?・・・は、は・・・りました・・・」


「えー、ここで臨・・・ースです。アメ・・・・・によると・・・・・・を観・・た結果・・・」


「近い将来、こ・・・・・・によって、空前・・・・・・・が起こ・・・・」


「つ、つま・・・ですね、近い・・・来・・・」




「近い将来、地球は滅亡するとのことです」







それから月日は流れ・・・




滅亡の日を間近にして、絶望に沈んだ街。

最後の夜を迎えた街は、数年前の喧騒が想像できないほど暗く、

動くものひとつ無い廃墟同然の姿だった。



そんな中、まばらに光る明かりの中に

とある小さなレストランがあった。

その中に男が2人

向かい合って座っている


一方は短髪眼鏡の男

もう一方は長めの茶髪

二人は言葉を交わすでもなく

妙な緊張感に包まれていた。



店員と思しき女がテーブルに水を置いた。

2人はほぼ同時にグラスを手に取ったが、

茶髪の男は口にすること無く、すぐに元の場所に戻した。

短髪の男はそのまま水を半分ほど飲んで、グラスを置いた。



「さて」


茶髪の顔を見て、短髪の男が口を開いた。


「これから最後の話をしようか」