ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

天井の幸福理論

2009年04月09日 14時15分13秒 | 小説
目の前には、白い世界が広がっている。

鮮やかな色は何ものっていない、彩りを得ることのなかった世界。

その白い平面も僅かにくすみ、灰色や黒の染みに覆われ始めている。

モノクロの世界に住み始めて、どれくらいになるだろう。


目の前に広がる天井を眺めていると、そんなおかしなことを考えてしまう。

布団の上に寝転がって天井を見上げ、一時間、二時間、そして一日。

そんなことで世界を語って、わかった気になれる。

眠気の残る半開きの目を擦り、しばたかせると

また白い世界が頭を埋め尽くす。


天井に、小さな羽虫が止まっている。

重力に逆らって天井に足をつけた虫は、モノクロの染みの中に埋もれながらも

その存在を示すに足るだけの力を見せつけていた。

ある人は、虫が止まっている場所の示し方を考えて

座標という概念を編み出したという。

ならばこの虫は、僕に人生というものについて諭してくれるというのか。

小さな虫の複眼を覗き込むように、視線を一点に注ぐ。


次の瞬間、虫の脚は支えを失ったように天井から離れ、

羽を動かすこともなく床にぽとりと落ちた。

羽虫は腹を天井に向けたままピクリとも動かない。

生気の無い虫の眼に視線を合わせながら、問いかける。


お前は今、幸せか?



世界から脱落した虫と同じ格好のまま、天井に焦点を戻す。

視界の左端の照明から、紐がぶら下がっている。

紐は鎌首をもたげるかのように先についた重りを持ち上げると、

結び目を作って輪の形になった。


輪の前に、見知らぬ男の姿がぼんやりと浮かび上がる。

男は無表情のまま紐に首をかける。

思わず欠伸をした後、もう一度男を見たときには

男の足は宙に浮き、頭の横にだらりと垂れ下がっている。


男は血走った眼で見下ろしてくる。

視線を外し、布団の横の床をぼんやり見ていると

男を支えていた紐が音をたてて切れ、男の頭が目の前に現れた。

男は飛び出した眼球をぎろりとこちらに向け、口を開く。


こっちへ来ないの?


腕を頭の後ろに回し、仰向けの格好で目を瞑る。

真っ暗な自分だけの世界が現れ、一層眠気を誘う。

再び目を開けると、照明から下りた紐が揺れている。

床には、塵一つ落ちていない。

一つ息をついて、また天井に目をやる。



よく見ると、天井に一つ小さな緑色の染みができている。

ここ数年、この世界で見ることのなかった色だ。

目をぐっと瞑り、もう一度目を開いてみたが
モノクロの板の片隅に、確かにその緑の点はあった。


この世界が鮮やかな原色で満ちていた頃が、脳裏に焼き付いている。

空の青、夕陽の赤、草花の黄、そして・・・『緑』。

だが、緑が「死んだ」あの日、全ての色は一瞬にして失われた。

あの時、自分の世界を支えていたのは、『緑』だった。


長年映すことのなかった色を捉えた目が、緑の光に焼かれる。

思わず閉じた瞼の裏に、緑色のスポットが写り込む。

真っ暗な世界は、深い緑に満たされた。

逃げるように目を開ける。


白い天井に、緑色の影法師が浮かび上がった。

緑の影は色を変えながら一面に広がり、何かの姿を形作る。

緑に染まった瞳に映ったのは、見覚えのある笑顔。

あの日からずっと追い求めてきた、僕を支えていた笑顔だ。


思わず身を持ち上げ、右手を天井に伸ばす。

影法師は天井に染み込むように消えていく。

高くて届くはずの無い天井に、呻きながら必死に手を伸ばす。


待ってくれ、行かないでくれ。


目の前に、また元の白い世界が広がる。

無気力に苛まれ、布団の上に体を落とす。

床に身を預け、死んだように眠る。



モノクロの夢には、空から光は差さない。

目の前には、空高くから下ろされた縄。

反射的に縄をつかみ、上ろうとすると

表情に悲しみを湛えた、モノクロの影が浮かび上がる。


縄が、大蛇のように体に絡み付く。

もがけばもがくほど、強く締め上げられていく。

薄れゆく意識の中、モノクロの影に手を伸ばす。

彼女の目には、突き刺すような痛みがあった。



死んだのは、君の方よ。



気が付くと、視界には天井が広がっていた。

呼吸を整えながら、染みの数を数える。

染みの数は日を追う毎に増えていく。

いつか世界が汚れて、真っ黒になるのを待っているのだろうか。


ふと思い出し、天井の端に顔を向ける。

天井の隅に、小さくとも鮮やかに映える、緑の染みがあった。


その瞬間、僕の体は息をするのを忘れていた。

しばらく動くこともできず、穴が開くほどに染みを見ていたが、

その色だけは決して幻でも影法師でもなかった。

あの頃の幸福の象徴は、手が届きそうで届かない場所に光っていた。


我に返り、いてもたってもいられず布団を撥ね飛ばす。

起き上がり、男の幻を踏みつけ、ドアに手をかける。

本能にまかせ、外に飛び出した。


ドアの向こうには、真っ赤な夕陽が沈みつつあった。

頭上の空はまだ深い青色を残し、星が輝き始めている。

地平のあたりから空は少しずつ色を変え、

街を包むように、緑のベールが広がっている。

世界は、色で溢れていた。




生きよう。

そう思った。



大長編予告

2009年04月01日 12時00分00秒 | 小説
それは突然起こった

全てのものを停止に追いやり

延々同じことを繰り返させた……

だがそれはせいぜい数日、人々はそう思っていた

だがそれは間違いだったのだ……




突然あらわれた謎の存在

それは何度も自身の名前を叫び

何度もあらわれた



何者かを聞いても

「いいえ、誰でも」

なにが目的かを聞いても

「血層になる」



動物を引き連れ

人間を呼び出し

洗脳する



人々はそれに対し恐怖し、何度もその名を叫び、抗議した

だが与えたダメージはほんの僅か

その名を叫ぶことをとめることしかできなかった



そんな中一人の勇者が立ち上がる

「すいません、遅れました」







こうして戦いが始まるのであった