ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
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未来人の遊び ~スモールライト~

2010年05月30日 18時54分21秒 | 小説
昔から平凡な生活だった。


何か特別なことがあるわけでもなく、

毎日学校に行っては帰ってくる

それだけ

休みの日もどこへ行くでもなく

家でじっとしているだけ

どこかに旅行に行った記憶もない

今までにあったことといえば

小学校で鉄棒から落ちて骨折したとか

中学校のスキー旅行で風邪引いたとか

ろくでもないことばかり



そんなだから、小さい頃から平凡なことが大嫌いだった。

人より優れた人間になろうとした

結果、確かに周りからは評価されるようになった

ただ、自分が平凡でないからといって

周りが変わるわけでもなかった

むしろ、懸命に勉強したために

大きな分かれ道のはずの高校受験もあっさり終わってしまった



小さい頃から、冒険を夢見た。

自分の住んでいる世界とは全く違う、

世界の果てで生きる探検家たちの話に心を躍らせた

ただ、生まれつき体力には自信が無く

いくら努力してもその水準には達しなかった




そんな俺が、一度だけ経験した「冒険」がある。






その日、俺はいつも通り学校に向かっていた。

別に何があるわけでもない見慣れた道

あまりにもつまらないので

そのへんに転がっていた石を蹴りながら歩いていた



突然、目の前から強烈な光を浴びせられた。



俺はその時石を目で追って下を向いていたから

何があったのかは分からない

ただ、懐中電灯のようなものを持った男が立っていた気がする




恐る恐る目を開けた。


横に大きな岩があった。




それが、さっきまで自分が蹴っていた小石だと気付くのに時間はかからなかった。



左を見ると、巨大な草が生えている。

ズンと音がしたかと思うと、それは人の足だった。

その奥には、ジェット機のような轟音を立てて走る

化け物のような車が走り抜けて行った

思わず耳をふさいだ


もちろん驚いた。

人間がいきなり小さくなるなんてあってたまるか、と。

夢に決まってる、と。


ただ、心のどこかで喜んでいる自分がいた。


冒険に憧れていた、昔の自分を思い出した。



夢でもいい。学校へ行ってやろうじゃないか。



俺は歩き始めた。

何故か、自身に満ち溢れていた。



大河のような排水溝の横を歩きながら、冷静に計算してみた。

学校まで1キロ。

いつも15分ほどで着いている。

今の俺の身長は、多分大体1.5センチぐらいだろう

ということは、学校まで・・・


25時間


俺の自信は一気にしぼんだ。


それでも歩いたのは、夢に決まっているという確信があったからだろう



歩き始めて1時間も経っただろうか。


目の前に崖がそびえたっていた。


正体は階段。

一段15センチ程度

俺の「身長」の10倍

登ろうにもつかまる場所すらない


右側にスロープがあった。

バリアフリーに感謝した


といっても、坂は30分近くも続いた

10mの坂も、この時の俺にとっては1キロぐらいに感じられた



歩き続けていて一番つらかったのは、

周りの人間が自分に気づかないことだった

自分が無視されているようにさえ感じた

はるか高い所から見下ろされているということが悔しかった

早く夢から覚めないかと思い始めたのもこの頃だった



横にはアリ

さすがにアリより小さいということは無いが、

下手をすれば襲われそうだった

前には空き缶

あまりにも大きい

中で休めるんじゃないかと思ったが

中から目がのぞいた時は全速力で逃げた

上からは水

雨上がりだったこともあって

時々目の前に水が落ちてきて腰を抜かした

常に後ろを気にした

何かに狙われているような気がしていた

小さくなっているという頼りなさからだったのかもしれない



さすがに疲れが出てきていた。

日が傾いてきていた

今までどれだけ歩いただろう。

半分は歩いただろうか

さっきあの電柱があったからだいぶ近付いて来たはず


そのうち、真っ暗になった

もう無理かもしれない

とりあえず、どこかで休もうと考えた。

前の角で猫を見かけてかなり慌てていた



逆さになった植木鉢の中で、色々なことを考えた。

これは冒険じゃないとまで思い始めた

いつもの場所を、ただ延々と歩いているだけ

もううんざりだ



夜が明けた。

一睡もできなかった

また歩き始めた

学校に行けばどうなるわけでもないのに

ただ歩いた




光が差した。





気がつくと、学校の前だった。

身長は元に戻っていた

うれしいとも感じなかった

ただほっとした



一目散に教室に向かった。

ドアを開けた。

出席をとっている途中だった

クラス中が不思議そうな目で俺を見ていた

笑ってごまかした

俺はその後も延々と笑い続けた。






あれが夢だったのかは分からない

少なくとも俺はあの出来事を忘れない。







【スモールライト】
 光を当てると、物を小さくすることができる。

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