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難病「ハンチントン病」に低分子化合物の治療薬を開発

2020-04-30 | 医学
 大阪大学大学院医学系研究科の中森雅之特任講師(常勤)、望月秀樹教授(神経内科学)、産業科学研究所の中谷和彦教授らの研究グループは、根本的治療法のない神経難病であるハンチントン病の遺伝子異常を是正する低分子化合物を発見した。ハンチントン病は、遺伝子上のCAG3塩基の繰り返し配列(リピート)が異常に伸びることが原因の神経変性疾患である。リピートが長ければ長いほど重症となることが知られており、患者さんの神経細胞でも徐々にリピートが伸びて症状の進行につながる。こうしたリピートの伸長には、CAG繰り返し配列による特徴的なDNA構造が関与すると考えられていた。
 中森特任講師らの研究グループは、中谷教授により創製された、CAGリピートが形成する特徴的なDNA構造に結合する核酸標的低分子化合物ナフチリジンアザキノロン(NA)に、異常に伸長したCAGリピートを短縮させる作用があることを見出した。従来の遺伝子治療はウイルスベクターなどにより正常な遺伝子を導入して異常遺伝子の機能を補う方法が一般的であるが、本研究成果により、ハンチントン病の原因となる伸長したCAGリピートを短縮して正常化するという究極の遺伝子治療への道がひらけた。またこの治療法はCAGリピートの伸長が原因である脊髄小脳失調症など他の神経疾患へも同じ原理で効果が期待される。 本研究成果は、国際科学誌「Nature Genetics」に、2月15日(土)午前1時(日本時間)に公開。
 研究成果のポイント
 〇根本的治療法のない神経難病であるハンチントン病の遺伝子異常を是正する低分子化合物を発見
 〇ハンチントン病の原因となる、塩基繰り返し配列の異常伸長を短縮させる方法を世界で初めて報告
 〇同じ塩基繰り返し配列の異常伸長が原因となる脊髄小脳失調症や筋強直性ジストロフィーへの応用も期待
 〇核酸を標的とする低分子創薬は日本が世界に先行する分野であり、今後製薬企業も一体となった治療開発に期待
 研究の背景
 これまで、ハンチントン病や脊髄小脳失調症の一部は、CAGリピートの異常な伸長が原因で、これらのリピートはどんどん伸びて病状を悪化させる現象が知られていた。こうした疾患はいずれも神経難病で根本的治療法がなく、異常に伸びたリピートを短縮できるという発想すらなかった。
 これまでに、大阪大学産業科学研究所の中谷教授らは、核酸標的低分子化合物ナフチリジンアザキノロン(NA)が、CAGリピートが形成する特徴的なDNA構造に結合することを明らかにしていた。
 本研究の成果
 研究グループでは、ハンチントン病などでCAGリピートが異常に伸長する際に、CAG繰り返し配列による特徴的なDNA構造をとることが関係していることに注目し、このDNA構造に結合する低分子化合物によってリピートを短縮できないかという仮説に基づき研究を進めてきた。CAG繰り返し配列による特徴的なDNA構造に強く結合する分子として、NAが、ハンチントン病モデル細胞、モデル動物でCAGリピートの短縮作用を示し、モデル動物での神経変性を抑制することを実証した。このようなCAGリピートの短縮誘導には、生体に備わるDNA修復を介したメカニズムが考えられており、核酸標的低分子をもちいてDNA修復機構を制御することで、究極の遺伝子治療が実現する可能性がある。
 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究成果により、これまで治療法がなかったハンチントン病や脊髄小脳失調症などの神経難病の根本的治療法開発への道がひらけた。リピートが異常に伸長しておこる病気には、他にも筋萎縮性側索硬化症や筋強直性ジストロフィーなどがあり、これらの原因となる異常伸長リピート全般を対象とした核酸標的低分子化合物創薬にも期待がもてる。
 研究者のコメント
 核酸を標的とする低分子創薬は日本が世界に先行する分野であり、今後製薬企業も一体となって神経難病などに対する治療開発が進むことを期待しています。
 ◆用語説明
 〇ハンチントン病
 ハンチンチン遺伝子のCAG3塩基繰り返し配列が異常に伸びておこる遺伝性の神経変性疾患で、舞踏運動などの不随意運動や精神症状、行動異常、認知障害などを呈す。現在のところ根本的な治療法は残念ながらない。
 〇繰り返し配列(リピート)
 遺伝子上には塩基の繰り返し配列がいたるところに存在している。これらのリピートが異常に伸長することがあり、なかには病気を引き起こすものがある。具体的にはCAGリピートが原因となるハンチントン病、脊髄小脳失調症の一部や、CTGリピートが原因となる筋強直性ジストロフィーやフックス角膜ジストロフィー、CGGリピートが原因となる脆弱性X症候群、GGGGCCリピートが原因となる筋萎縮性側索硬化症などがある。
 〇CAG繰り返し配列による特徴的なDNA構造
 CAG繰り返し配列が異常に伸長することにより、本来のDNA二本鎖構造ではなく、CAG同士がくっついてヘアピン上のslipped strand構造をとる。CAGとCAG同士で二本鎖をつくるが、A-Aの塩基でミスマッチ構造が生じ、このスペースにNAが結合すると考えられている。
 〇ナフチリジンアザキノロン(NA)
 グアニン(G)と水素結合する「ナフチリジン」と、アデニン(A)と水素結合する「アザキノロン」の2つの構造を繋いだ「人工設計分子」。当初はG-Aミスマッチ塩基対に結合する分子として設計・創製した分子で、後日、CAG繰り返し配列が形成するヘアピン構造中のC-G塩基対で挟まれたA-Aミスマッチに結合することを発見した。
 〇脊髄小脳失調症
 歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らないといった運動失調を症状とする神経の病気である。このなかで遺伝性のものがあり、塩基繰り返し配列の異常な伸長が原因のものには脊髄小脳失調症1型、2型、3型、6型、7型、8型、10型、17型、31型、36型や歯状核赤核淡蒼球萎縮症などが知られている。

 今日の天気は晴れ。暫く雨が降らないので、畑で水やり。
 4月の末日になった。長い長い1月だった、来月は良い月になります様に。
 畑までの道、建物の小さなお庭で”アジュガ”の花が咲きだした。株から青紫色の小さな花(径1cm位)が幾重にも重なって付いた塔の様な花穂(かすい)が立ち上がり、この花穂が幾つも見える。花は特徴的な唇形で、上唇は2つに浅く裂け、下唇は大きく3つに裂け、真ん中の裂片が大きい。
 キランソウ属は、シソ科の属の1つで、ラテン名のアジュガ(Ajuga)で呼ばれることも多い。世界の熱帯・温帯地域に約50種が分布している。主に、”アジュガ”の名で見かけるのは、アジュガ・レプタンス(Ajuga reptans)である。これを、和名で”セイヨウジュウニヒトエ(西洋十二単)”と呼んでいる。
 因みに、「十二単(じゅうにひとえ)」とは平安時代の宮中の女官の正装である。花の名は、花が幾重にも重なって咲く様子を十二単に見立てた。
 アジュガ
 別名:西洋十二単(せいようじゅうにひとえ)、西洋金瘡小草(せいようきらんそう)
 学名:Ajuga reptans
 シソ科キランソウ属
 原産地はヨーロッパ、中央アジア
 開花時期は4月~5月


光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こす光触媒材料の開発

2020-04-29 | 科学・技術
 東京工業大学物質理工学院材料系の庄司州作博士後期課程3年と宮内雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員、高知工科大学の藤田武志教授、九州大学大学院工学研究院の松村晶教授、静岡大学の福原長寿教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応、ドライリフォーミングを起こすことができる光触媒材料の開発に成功した。
 ロジウムとチタン酸ストロンチウムからなる複合光触媒を開発し、光照射のみでドライリフォーミングを達成した。加熱を必要としないため、燃料の消費が大幅に抑えられるとともに、ヒーターなどによる加熱による触媒の劣化が起こらず長期間安定的に反応を継続することができ、地球温暖化ガスを有効利用できる方策として期待される。
 ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応であるが、800度以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒凝集並びに炭素析出による劣化の問題から、実用化には至っていない。
 本研究成果は2020年1月27日(英国時間)、英国科学誌「Nature Catalysis」にオンライン掲載。
 ポイント
 〇光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こすことに成功。
 〇複合光触媒を開発し、従来の光触媒とは異なる反応機構を解明。
 〇 球温暖化ガスの有効利用策として期待。
 研究の背景と経緯
 ドライリフォーミング反応は温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素の合成ガスに変換することができる(CH4+CO2→2CO+2H2)。生成した合成ガスはアルコールやガソリン、化学製品を製造する化学原料となるため、ドライリフォーミング反応は天然ガスやシェールガスの有効利用および地球温暖化抑止のために注目されている。
 しかし、この反応を効率よく進行させるためには800度以上の高温が必要となり、大量の燃料消費と高温条件における触媒の劣化が問題となっていた。本研究グループは、光エネルギーを使ってドライリフォーミング反応を起こす光触媒を開発した。従来の光触媒反応は水中の水素イオンが反応の媒体となって駆動する一方、乾燥条件で進行するドライリフォーミングに適した光触媒の探索が重要なポイントであった。
 研究成果
 開発した光触媒はチタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されている。この光触媒はチタン酸ストロンチウムとロジウム塩水溶液を密閉容器内で加熱処理することにより簡便に合成することができる。
 この光触媒に紫外線を照射すると、加熱をしない条件でも50%を超えるメタンと二酸化炭素転換率を示した。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500度以上の加熱が必要となることから、本研究グループの開発した光触媒の性能の高さが分かる。
 光触媒の各温度での活性を示す。本研究グループが開発した光触媒に光照射を行うことで、熱触媒の性能上限値を大きく上回る。また、この光触媒による水素と一酸化炭素の生成速度は、メタンと二酸化炭素の消費速度の2倍となった。このことから、光照射でドライリフォーミング反応が化学量論的に進行し、副反応がほとんど起こっていないことが示唆された。なお、光触媒として従来からよく知られる二酸化チタンを用いた場合は、本研究で用いたチタン酸ストロンチウムのような高い性能を示さない。
 この光触媒の耐久性を調べたところ、長期にわたり安定であることが分かった。反応前の光触媒と反応後の光触媒の超高解像度の電子顕微鏡写真を見ると、反応の前後でチタン酸ストロンチウムおよび、複合したロジウムに変化がないのに対し、従来型の熱触媒の代表であるニッケルを担持したアルミナの場合では、反応の前後で大きな変化が観察された。
 反応後に見られるチューブ状の物質は触媒表面で析出、成長したカーボンチューブであり触媒劣化、反応器の破壊の原因となる。すなわち、光触媒では加熱による触媒劣化が抑制されたのみでなく、工業的に致命的な副反応となる炭素析出が劇的に抑制された。
 次に、反応メカニズムを明らかにするため、開発した光触媒に対して実際の触媒反応の条件下で電子スピン共鳴法の解析を行ったところ、光照射によって生じた電子と正孔の電荷が反応を駆動していることが分かった。ドライリフォーミングは二酸化炭素の還元反応を含むため、種々の光触媒の中でも高い電子の還元力を持つチタン酸ストロンチウムが好適であることが分かった。
 さらに、同位体を用いた詳細な解析により、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにした。これまでよく知られている光触媒反応である水の分解や二酸化炭素還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応で、さまざまな気相反応への展開が期待できる。
 今後の展開
 本研究では光触媒として紫外線応答型のチタン酸ストロンチウムを使っているが、実用化に向けては太陽光の主成分を成す可視光の利用が重要である。一方で、本研究では酸素イオンが媒体となるエネルギー製造型反応の機構を初めて見いだし、今後この新しい反応機構をもとに、可視光を吸収できる光触媒材料に展開することも可能である。本研究成果が天然ガスやシェールガスの有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると期待される。また、低温で合成ガスを製造することができるため、既往の工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望める。
 ◆用語解説
 〇ドライリフォーミング
 メタン改質反応の1つ。反応式はCH4+CO2=2H2+2COで表される。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。
 〇ロジウムとチタン酸ストロンチウ
 ムロジウムは原子番号45の元素。元素記号はRhで表される。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はストロンチウムとチタンの複合酸化物で、ペロブスカイト型の結晶構造をとる。
 〇シェールガス
 粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料の1つ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。
 〇光触媒
 光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。
 〇化学量論的
 化学式通りの反応物量と生成物量を示す状態。ドライリフォーミングであれば、反応物と生成物の比が1:2になる場合に化学量論的に反応が進行したといえる。
 〇電子スピン共鳴法
 不対電子を持つイオン、ラジカルなどの検出が可能な実験手法。光触媒の中の電子や正孔など、多くの情報を得ることができる。
 〇同位体
 同一の原子番号で質量数が異なる物質。酸素の場合、質量数が16、17、18の同位体があり、地球上の99.8パーセントの酸素の質量数は16である。本研究では質量数18の酸素を触媒の中に導入し、質量分析装置を使ってその反応過程を追跡した。
 〇ペロブスカイト構造
 ペロブスカイト構造とは、結晶構造の一種である。ペロブスカイト(perovskite、灰チタン石)と同じ結晶構造をペロブスカイト構造と呼ぶ。例えば、BaTiO3(チタン酸バリウム)のように、RMO3 という3元系から成る遷移金属酸化物などが、この結晶構造をとる。
 理想的には、立方晶系の単位格子をもち、立方晶の各頂点に金属Rが、体心に金属Mが、そして金属Mを中心として、酸素Oは立方晶の各面心に配置している。酸素と金属Mから成る MO6 八面体の向きは、金属Rとの相互作用により容易に歪み、これにより、より対称性の低い斜方晶や正方晶に相転移する。
 これにより、この結晶の物性が劇的に変化する。例えば、対称性の低下により、モット転移を起こし、金属Mのサイトに局在していた価電子がバンドとして広がることができるようになったり、金属Mのサイト同士のスピン間の相互作用による反強磁性秩序が崩れ、常磁性に転移したりする。この歪みによる相転移は、温度の上昇による金属Rのイオン半径の増加や、金属Rサイトに不純物原子を導入することなどでコントロールすることができる。

 今日、4月29日は「昭和の日」と定められた祝日である。もともとは昭和天皇の誕生日を祝う祝日であったが、「みどりの日」を経て昭和の日となった。・・だんだんと遠くなる昭和の日々。
 道沿いのお庭の”ヒメリンゴ”。花が満開に咲いている。
 ”ヒメリンゴ”の果実は、小さなリンゴ(径1cm~2cm位)である。秋に、赤・黄色と熟す。
 ”ヒメリンゴ”の祖に、中国原産の犬林檎(いぬりんご)の別名説、犬林檎と蝦夷の小林檎(えぞのこりんご)の雑種説がある・・と言う。
 ヒメリンゴ(姫林檎)
 別名:犬林檎(いぬりんご)、実海棠(みかいどう)
 バラ科リンゴ属
 耐寒性落葉小高木
 開花時期は4月~5月(桜より遅れる)
 花は5弁花、花色は最初薄桃で満開時に白色となる
 果実は小さなリンゴ似(径2cm位)で、秋に赤・黄色となる
 果実の観賞期は10月~11月
 果実の数は春に咲いた花の数よりとても少ない。バラ科(リンゴ、ナシ、ウメなど)の多くは自家不和合性(自家受粉では受精しない性質)だから


自己免疫疾患の1型糖尿病発症の抑制に関わるCD8陽性制御性T細胞(CD8Treg)の誘導メカニズムを発見

2020-04-27 | 医学
 理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの下川周子客員研究員(国立感染症研究所寄生動物部主任研究官、群馬大学大学院医学系研究科生体防御学協力研究員)と大野博司チームリーダー、国立感染症研究所寄生動物部の久枝一部長らの共同研究グループは、自己免疫疾患の1型糖尿病(Type 1 diabetes;T1D)発症の抑制に関わるCD8陽性制御性T細胞(CD8Treg)の誘導メカニズムを発見した。
 本研究成果は、現代病(花粉症や自己免疫疾患)が増加したのは感染症が減少したからだとする「衛生仮説」を科学的に証明するとともに、T1Dの新たな予防・治療法の開発につながると期待できる。T1Dは、インスリンを分泌する膵臓の細胞が自分の免疫細胞によって破壊され、高血糖が引き起こされる自己免疫疾患で、近年患者が増加している。
 今回、共同研究グループはマウスを用いて、腸管寄生線虫のHeligmosomoides polygyrusが感染すると、T1Dの発症が抑制されることを見いだした。そしてそのメカニズムとして、寄生虫がトレハロースという糖を分泌することでRuminococcus属の腸内細菌が増殖し、この菌によってCD8Tregが誘導されることにより、膵臓の細胞の破壊が食い止められ、T1Dの発症が抑えられることを明らかにした。さらに、T1Dの患者では血液中のCD8Tregが減少しており、Ruminococcus属の腸内細菌が少ないことも明らかにした。
 本研究は、オンライン科学雑誌「Nature Communications」(4月22日付)に掲載。
 背景
 近年、衛生環境の改善によって、寄生虫病や結核などの感染症は減少したが、アレルギーや自己免疫疾患などの現代病は増加の一途をたどっている。特に、薬剤の普及により寄生虫の感染者数が劇的に減少した地域では、自己免疫疾患の患者数が増加していることが疫学的に証明されている。このように、現代病が増加したのは、感染症が減少したためではないかという考えを「衛生仮説」という。
 寄生虫に感染すると、宿主(ヒト、マウスなど)は免疫機能を発達させ、寄生虫を体外へ排出しようとする。これに対して、寄生虫は宿主の免疫機能を低下させるシステムを持つため、宿主の攻撃を回避できると考えられている。したがって、寄生虫の感染症の予防・治療にはそのシステムの解明が重要であり、寄生虫が誘導する(免疫抑制性の)細胞の種類や分泌する物質を同定する研究が世界中で盛んに行われている。
 共同研究グループは、自己免疫疾患の中でも、近年特に発症者が増加している1型糖尿病(Type 1 diabetes;T1D)をターゲットとし、寄生虫の一種である腸管寄生線虫の感染がT1Dに与える影響を調べた。T1Dとは、膵臓ランゲルハンス島のβ細胞が自己の免疫細胞によって破壊され、そこから分泌されるインスリンの絶対的な不足が原因となり、高血糖が引き起こされる疾患である。ちなみに、いわゆる生活習慣病である2型糖尿病(Type 2 diabetes;T2D)は、肥満などによってインスリンが出ていても十分に効かない、つまりインスリン抵抗性によって血糖値が上昇する病気であり、T1Dとは病態が全く異なる。
 研究手法と成果
 T1Dのマウスモデルは、ストレプトゾトシン(STZ)を低濃度で繰り返し投与することで作製した。STZは膵臓のβ細胞を特異的に破壊するため、マウスに投与するとインスリンが産生されなくなり、その結果、高血糖が引き起こされる。しかし、あらかじめ腸管寄生線虫であるHeligmosomoides polygyrus (H. polygyrus)をマウスに感染させると、T1Dを誘導しても血糖値の上昇が抑えられ、β細胞の破壊も見られなかった。このことから、H. polygyrusはT1Dの発症を抑制することが分かった。
 次に、そのメカニズムを調べるために、H. polygyrusが感染した際の免疫応答を調べた。これまでH. polygyrusの感染において、さまざまな免疫抑制性の細胞が誘導されることが報告されていたが、共同研究グループは、その中でCD8陽性制御性T細胞(CD8Treg)に着目した。実際、マウスにH. polygyrusが感染するとCD8Tregが増加し、感染マウスからその細胞を除去するとT1Dを発症した。また逆に、非感染マウスにCD8Tregを移入することで、T1Dの発症が抑制された。これらの結果から、H. polygyrusによるT1D 発症の抑制にはCD8Tregが重要であることが明らかになった。
 次に、H. polygyrusがどのようにCD8Tregを誘導するのか調べた。H. polygyrusは、主に小腸上部(十二指腸)に寄生する寄生虫である。そこで、H. polygyrus感染マウスの小腸内容物に存在する代謝産物を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)[9]を用いて解析した。すると、感染マウスでは腸管内で糖のトレハロースが増加していること、そのトレハロースはH. polygyrus自身が分泌していることが分かった。
 トレハロースは腸内細菌の餌になることから、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢の変化を解析したところ、H. polygyrusが感染することでRuminococcus属の細菌が増加していることを突き止めた。その中でも特にトレハロースを投与したマウスで増加したRuminococcus gnavus(R. gnavus)を野生型マウスに経口投与すると、CD8Tregが誘導され、さらにSTZを投与することでT1Dの発症を誘導しても血糖値の上昇が抑えられることが分かった。この結果から、H. polygyrusによるT1Dの発症抑制に関わるCD8Tregは、寄生虫が分泌するトレハロースで増殖したR. gnavusによって誘導される可能性が示された。
 さらに、T1Dの患者では血液中のCD8Tregが減少しているとともに、CD8Tregを誘導するRuminococcus属の腸内細菌が少ないことも明らかにした。
 今後の期待
 CD8Tregはこれまでに、多発性硬化症や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に効果があることが動物モデルで示されているが、その誘導メカニズムは分かっていなかった。今回の研究で、CD8Tregの誘導には、寄生虫が分泌するトレハロースとそれによって増殖した腸内細菌が必要であることが明らかになった。
 T1Dには膵移植や膵島移植といった治療も選択肢の一つとして考えられるが、ドナー不足などの問題から現実的ではなく、現時点では一生涯にわたるインスリンの注射による投与という、生活の質(QOL)に対する悪影響が極めて大きい治療法しかない。今後、このCD8Tregの誘導メカニズムや膵臓での抑制メカニズムが明らかになることで、T1Dの新たな予防・治療法の開発へつながると期待できる。
 ◆補足説明
 〇自己免疫疾患
 本来は、外来から侵入してくる全ての異物から生体を守るはずの免疫システムが異常を来し、誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう疾患。
 〇CD8陽性制御性細胞(CD8Treg)
 1970年に報告された白血球の一種で、これまでのさまざまな研究から炎症性疾患、腫瘍免疫、移植寛容、自己免疫疾患などに対する新たな治療戦略の糸口になると考えられている。しかし、いまだにその機能などの全貌は明らかになっていない。
 〇衛生仮説
 乳幼児期の衛生環境が、個体の免疫系の発達に影響を及ぼしているという仮説。近年アレルギーや自己免疫疾患の患者が増加している背景には、衛生環境の改善や生活水準の向上、予防接種の普及、食生活・栄養の変化、抗生物質の乱用による幼少時の感染症の減少が関与していることが、多くの疫学調査でも証明されている。
 〇Heligmosomoides polygyrus
 齧歯類に感染する腸管寄生性線虫の一種。さまざまな免疫応答を引き起こしながら数カ月以上感染しているため、慢性感染のモデルとして使用される。
 〇トレハロース
 グルコースがグリコシド結合してできた二糖の一種である。食品以外に化粧品、飼料などに使用されている。また、耐糖能改善の効果、神経変性疾患抑制の効果、細胞保護の作用など、多種多様な生理機能があることが知られている。
 〇Ruminococcus属
 セルロース分解能を持つグラム陽性菌。培養には強い嫌気度を要求する。
 〇膵臓ランゲルハンス島
 膵臓の内部に島状に散財する内分泌を司る細胞群であり、様々なホルモンを分泌している。
 〇ストレプトゾトシン(STZ)
 天然由来の有機化合物であり、特に哺乳類の膵臓のβ細胞への毒性を持つ。アルキル化剤系の抗がん剤としても使用される。
 〇ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)
  試料を注入口で加熱して気化させたガスをキャピラリーカラム(中空の細長いガラス管)に送り出し、ガスとカラム内部との親和性による移動スピードの違いやカラムを昇温加熱した時の沸点の違いを利用してガス中の成分を分離させ、質量分析計で測定する装置。
 〇次世代シーケンサー
 大量のDNA配列を高速で決定する実験機器。数千から数百万ものDNA分子配列を同時に決定できる。

 今日は晴れ、雲が少し多く、風が少し強い。
 近所のお庭に”ゲッケイジュ(月桂樹)”を植えている。お花が咲いている。このお花は雄花。”ゲッケイジュ(月桂樹)”は雌雄異株。雌の木には実が付く。
 日本には明治に渡来して栽培され、「雌木は少ない」と聴く。近所に雌木があり、チョット嬉しい・・でもまだ咲いていない。
 古代オンピックでは枝を冠(かんむり)にした月桂冠は、名誉の象徴となっている。現代では、葉・実は月桂葉・月桂実と言い、香辛料などで用いられる。
 ゲッケイジュ(月桂樹)
 別名:ローレル(Laurel)、スイートベイ(Sweet bay)、Bay tree(ベイ・ツリー)
 学名:Laurus nobilis
 クスノキ科ゲッケイジュ属
 雌雄異株
 常緑高木(樹高:5m~10m)
 原産地は地中海沿岸
 日本には明治9年頃に入ってきた
 日露戦争(明治37年~38年)の戦勝記念に日比谷公園に植樹されたのがきっかけとされる
 開花時期は4月~5月
 黄白色で先が4裂した小花が沢山集まり花房を形成
 実(約8㎜の楕円状球形)は10月頃に黒紫色に熟す


ワイル粒子を用いた不揮発性メモリ素子の原理検証に成功

2020-04-26 | 環境
 東京大学物性研究所の肥後友也 特任助教、Tsai Hanshen特任研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・物性研究所及びトランススケール量子科学国際連携研究機構の中辻知教授らの研究グループは、同研究所・同機構 三輪真嗣 准教授、大谷義近 教授、理化学研究所 近藤浩太 上級研究員、東京大学大学院工学系研究科の野本拓也 助教、有田亮太郎 教授らと共同で、反強磁性体中において、幻の粒子「ワイル粒子」の電気的制御に成功し、ワイル粒子の作る巨大電圧信号を利用した不揮発性メモリの動作原理を実証した。本研究成果は英国科学雑誌「Nature」に、2020年4月20日付けオンライン版に公開。
 ポイント
 〇幻の粒子「ワイル粒子」の電気的制御に世界で初めて成功。
 〇ワイル粒子の作る巨大電圧信号を用いた不揮発性メモリの動作原理を実証。
 〇ビヨンド5G世代に不可欠な超高速駆動・超高密度の次世代メモリの開発に大きな一歩。
 反強磁性体はスピンの応答速度が強磁性体に比べて2~3桁早いピコ秒オーダーであるため、メモリ素子に反強磁性体を用いると、超高速の情報処理を行える可能性がある。この超高速性はビヨンド5Gに必要とされる性能であり、すでに応用されている強磁性体を用いた不揮発性メモリでは到達不可能な領域である。また反強磁性体では、スピンの方向が互いにキャンセルするように秩序するため、漏れ磁場がなく、大容量メモリ素子を作製できる。このように反強磁性体の利用は、IoT時代のBig Data処理に不可欠な省電力・超高速駆動・超高密度な次世代メモリの開発にブレークスルーをもたらす。
 本成果の鍵となる「ワイル粒子」は、1927年の提案以来、ニュートリノなどの素粒子を記述すると考えられていたが、自然界では未だに存在が確認されていない幻の粒子である。しかし、2015年に物質中での存在が確認されて以降、それが持つさまざまな量子的性質に世界中で大きな関心が集まっている。特に、磁性体中のワイル粒子は結晶の乱れなどに強靭であり、かつ、巨大な電圧信号を示す。従ってワイル粒子の電気的な制御は不揮発性メモリ等への応用において不可欠な開発要素であった。
 発表内容
 ① 研究の背景
 現在のコンピュータやスマートフォンなどで情報の一時保存に用いられているメモリは、情報の維持に多くの電力を消費する。これは従来のメモリでは電力供給をしなければ情報が失われるためである。そのため、情報の維持に電力供給を必要としない「不揮発性メモリ」への代替が検討されている。不揮発性メモリのひとつとして、私たちの身の回りで磁石として使われている強磁性体を用いた磁気メモリが有望視されている。
 強磁性体では、原子ひとつひとつが持つスピンが一様な方向にそろい、磁化という強磁性秩序を示す。磁気メモリではこの磁化の向きの制御が情報の「書き込み・読み出し」に相当する。最近では、磁化の書き込み手法としてスピン流を用いた磁化反転現象が見いだされ、汎用化されている。特に強磁性体と非磁性重金属(白金 (Pt) やタングステン (W) 等)からなる多層膜に電流を流すことで起こる磁化反転現象は、スピン軌道トルク磁化反転と呼ばれ盛んに研究されている。
 既存の強磁性体を用いた磁気メモリを更に高性能化するために、最近では反強磁性体の利用が期待されている。反強磁性体は強磁性体に比べてスピンの応答速度が2~3桁速く、漏れ磁場の影響がないため、いっそうの高速化・高集積化が不可欠となるビヨンド5G世代の磁気メモリ材料として期待を集めている。しかし、反強磁性体では、隣接する原子のスピンが互いに打ち消しあう反強磁性秩序を形成するため、磁化がほとんどない。そのため、反強磁性体では磁化の向きを用いた情報の書き込み・読み出しは難しいと考えられていた。
 本研究グループは、2015年にマンガン (Mn) とスズ (Sn) からなる反強磁性体Mn3Snが、強磁性体に匹敵するほど大きな異常ホール効果(Nature誌 527, 212?215 (2015))や異常ネルンスト効果(Nature Physics誌 13, 1085?1090 (2017)) を室温で自発的に示すことを発見した。さらに、Mn3Snの研究を通じて、磁気秩序を起源としたワイル粒子を持つワイル磁性状態の存在を世界に先駆けて報告している(Nature Materials誌 16, 1090-1095 (2017))。すなわち、Mn3Snはワイル粒子を有する反強磁性体であり、運動量空間においてワイル粒子の作る仮想磁場は実空間換算で100~1000 テスラに相当し、上記の巨大応答の発現に重要な役割を担う。つまり、このワイル反強磁性体では磁化の代わりに仮想磁場の向き、すなわちワイル粒子の運動量空間での分布による情報の記憶が可能であり、大きな磁化を示す強磁性体に制限されない磁気メモリ材料の開発が可能となる。一方で、ワイル磁性体では、ワイル粒子を磁場で制御する手法は報告されていたものの、磁気メモリを作製する際に必要となる電流での制御手法は発見されておらず、新たな情報の書き込み手法の開発が強く望まれていた。
 ② 研究内容と成果
 今回用いたワイル反強磁性体Mn3Snはカゴメ格子と呼ばれる結晶構造をとり、磁性元素Mnの持つスピンが逆120度構造という反強磁性秩序を室温で示す。この反強磁性秩序は、運動量空間におけるワイル粒子の位置であるワイル点やその仮想磁場の向きと対応しており、反強磁性秩序を操作することでワイル点と仮想磁場に由来した応答を制御できることが、理論および実験的研究から明らかになっている。
 本研究では、ワイル反強磁性体Mn3Snと非磁性金属 PtやW、銅 (Cu) との多層膜からなるホール抵抗測定用の素子をシリコン基板上に作製し、外部電流によるホール電圧の変化を室温で測定した。その結果、Mn3SnとPtもしくはWを積層させた素子において、電流によるホール電圧の反転に成功した。① PtとWを用いた素子では外部電流によりホール電圧の反転が起きること、② PtとWを用いた素子では電圧の反転が逆符号であること、③ Cuを用いた素子では反転が起きないこと、を確認した。重金属のPtとWでは電流が流れる際に(それぞれ反対向きの)スピン流を生じるが、Cuは電流を流してもスピン流をほとんど生まない。本結果は、素子に電流を流すことで重金属層に生じるスピン流が、Mn3Sn の持つワイル点の位置分布とその仮想磁場に由来したホール電圧を反転していることを示している。これは従来の強磁性体からなる磁気メモリ素子で用いられているスピン軌道トルク磁化反転と同様の手法でワイル反強磁性体への情報の書き込みができるということを示してる。
 また、書き込み電流の大きさを変えることで反転するホール電圧の大きさをアナログ的に制御可能であることを確認した。本結果は、従来の計算システムで用いられている「0」と「1」の2つの情報単位だけでなく、3つ、あるいは、それ以上の情報を一つの素子で書き込み・読み出しできることを示している。このような多値記憶素子は脳型計算機や量子コンピュータの実現へつながる技術であり、近年盛んに研究が行われている次世代の情報記憶素子として多くの期待を集めている。
 ③ 今後の展望
 本研究によって、電流によるワイル粒子の制御、特にワイル点を単位とした情報の書き込み・読み出し手法と、素子作製に関する指針が築かれた。特筆すべきは、研究対象となったワイル反強磁性体Mn3Snでは強磁性体の場合と同様の素子構造を用いることができるため、現在磁気メモリで使われている技術が適用できるという点である。今後はビヨンド5G世代の磁気メモリ材料として、反強磁性体で期待されている超高速駆動・超高密度の不揮発性メモリの実現にむけた研究が期待される。具体的にはワイル反強磁性体を用いた素子の時間特性や、より実践的な特性である熱安定性の評価を経て情報機器への実装を進める必要がある。
 また、ワイル粒子の電流制御そのものは学術的にも大変興味が持たれている。2016年のノーベル物理学賞に代表されるように、物質のトポロジーに由来する性質は、近年の固体物理学において大きな注目を集めている。Mn3Snは電子構造にワイル粒子を有し、ワイル点が作り出す仮想磁場に由来した巨大な異常ホール効果や異常ネルンスト効果を示す物質として、世界中のグループで研究が行われている。今回、電流を用いてワイル粒子を制御できる手法を開発したことにより、これまで観測できなかったワイル粒子のダイナミクス等の非平衡物理やそれによる新しい現象の研究へとつながることが期待される。
 ◆用語解説
 〇スピン・強磁性体・反強磁性体
 磁性体は「スピン」と呼ばれる電子の自転運動に起因した微小な磁石を有する物質である。この磁性体は巨視的な数のスピンが何らかのパターンで整列する磁気秩序を示す。これらは①スピンが一様な方向に揃うことで磁石のように大きな磁化を示す強磁性体、②隣り合うスピンが反平行や互いを打ち消しあうように配列することで正味の磁化がゼロもしくは非常に小さくなっている反強磁性体、に分類される。
 〇ワイル粒子・ワイル点・ワイル半金属・ワイル磁性体
 1921年にヘルマン・ワイルが提唱したワイル方程式に従って記述される質量ゼロの粒子(ワイル粒子)を持つ物質はワイル半金属と呼ばれている。ニュートリノを記述する粒子として世界的に研究が進めらてスーパーカミオカンデでの実験でニュートリノが微小な質量をもつことがわかり、ワイル粒子は自然界に存在しない幻の粒子と思われていた。
 ワイル半金属においてワイル点は異なるカイラリティ(右巻き・左巻きの自由度)を持つ対となって発生し、このワイル点の対は運動量空間における磁石のN極とS極に相当する。通常のワイル半金属では物質の結晶構造に由来してワイル点が創出される。一方で磁性により創出されるワイル点を持つ磁性体をワイル磁性体と言う。ワイル磁性体では磁場などの外場によって磁気秩序を制御することで、ワイル点とそれに付随した仮想磁場の制御が可能であり、応用の観点からも魅力的な性質が見つかっている。ワイル点間に生じる仮想磁場は100~1000 テスラの外部磁場に相当するほど大きく、巨大な異常ホール効果等の起源となっている。
 〇漏れ磁場
 磁性体から外部へ出ている磁界のことを漏れ磁場という。漏れ磁場は磁化の大きさに比例し、自発的に磁化をもつ強磁性体では大きな値となる。磁石にクレジットカードを近づけるとデータが消えてしまうのと同様に、高集積記憶デバイスにおいて、漏れ磁場が隣の素子に作用し、情報を誤って書き換えてしまうなどの問題が生じることがある。
 〇スピン流
 エレクトロニクスでは電子の持つ電荷の流れ、すなわち電流が重要な役割を担っている。通常は電流における電子の持つスピンの向きはランダムである。電子のスピン自由度を積極的に利用するスピントロニクスでは、スピンの流れである「スピン流」を用いる。
 今回用いた非磁性重金属は、電流を流すと電流と直交方向にスピンの向きがそろったスピン流を生成する。多層膜を作ることで、重金属層で生成されたスピン流を隣接層へ注入することができる。
 〇異常ホール効果
 電気を流すことが可能な物質において、磁場・電流と垂直の方向に起電力が生じる現象をホール効果と呼ぶ。互いに垂直に磁場と電流を与えた際に、電流として流れている電子の運動方向が磁場により曲げられることが原因である。自発的に磁化を持つ強磁性体や、仮想磁場(波数空間に存在する有効磁場で、電子構造のトポロジーに起因する新しい物理概念)を持つ特殊な反強磁性体やスピン液体では外部から磁場を与えなくてもホール効果が生じるため、これらを異常ホール効果と呼ぶ。
 〇異常ネルンスト効果
 電気を流すことが可能な物質において、磁場・温度差と垂直な方向に起電力が生じる現象をネルンスト効果と呼ぶ。互いに垂直に磁場と温度差を与えることで、高温側から低温側へ向かう電子の流れが磁場により曲げられることが原因である。自発的に磁化を持つ強磁性体や仮想磁場を持つ特殊な反強磁性体ではゼロ磁場でもネルンスト効果が現れ、これを異常ネルンスト効果と呼ぶ。異常ネルンスト効果を用いると、外部から磁場を印加する必要がないため、温度差のみで発電が可能である。

 今日の天気は、曇り時々晴れ。黒い雲がやってきたけど、雨は降らなかった。
 今年も無事に近所の”ギョイコウ(御衣黄)”が咲いている。散歩道の桜(ソメイヨシノ)が満開の頃は、まだ葉も蕾も見えなかった。”ギョイコウ(御衣黄)”はサクラの栽培品種で、”ソメイヨシノ”より遅れて咲く。この地(仙台)では、桜より20日か1月遅れが開花期となるのかな。
 花は花弁数が十数枚(10~15位)の八重咲き。花色の初めは白~淡緑色で、中心に紅色の条線が見える。これが、次第に中心部から赤みが増し(紅変)、散る頃にはかなり赤くなる。花の大きさは数cmであるが、場所・時期により大きさや色合いなどに大きな差があると言う。
 名(ギョイコウ:御衣黄)の由来は、花色の黄緑色が貴族の衣服の萌黄色に似ていることから。
 ギョイコウ(御衣黄)
 学名:Prunus lannesiana cv. Gioiko
 バラ科サクラ属
  オオシマザクラ系のサトザクラ
  江戸時代に京都の仁和寺で栽培されたのがはじまり、と言われる
 落葉高木
 開花時期は4月下旬
 花色の初めは白~淡緑色、中心に紅色の条線が見える。
 これが、次第に中心部から赤みが増し(紅変)、散る頃にはかなり赤くなる。


金星の超高速風、探査機「あかつき」観測で仕組み解明

2020-04-25 | 天文
 金星の高層大気にはスーパーローテーション(SR)と呼ばれる超高速の風が常に吹いているが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と北海道大などの研究チームは、探査機「あかつき」による観測データから、「熱潮汐波」と呼ばれる大気中の波がSRの加速を担っていることを突き止めた。論文は24日付の米科学誌サイエンスに掲載。
 SRは、金星の上空70キロ付近を秒速100メートルもの高速で吹く東風。1960年代の観測で発見されたが、自転の60倍もの速度の風がなぜ吹き続けられるかは分かっていなかった。
 北大の堀之内武准教授らは、あかつきが撮影した金星全体の雲の動きや温度の分布などから、大気の循環の様子を分析。昼間に太陽熱で熱せられ、夜間に冷やされる大気が振動することで生まれる波(熱潮汐波)が、SRを加速していることが分かった。
 SRの加速をめぐっては、大気中の乱流などが原因との説もあった。今回の解析で、これらの乱流はむしろSRを減速させる働きをしていたことも分かった。
 ◆スーパーローテーション
 金星大気の上層部には4日で金星を一周するような強い風が吹いている。この風は自転速度を超えて吹く風という意味でスーパーローテーション(SR)といわれる。金星の上空70キロ付近を秒速100メートルもの高速で吹く東風、243日で一周するという自転速度の60倍以上。この風がなぜ吹き続けられるかは分かっていなかった。
 ◆金星
 金星(きんせい、英語: Venus )は、太陽系で太陽に近い方から2番目の惑星。また、地球にもっとも近い公転軌道を持つ惑星である。
 地球型惑星であり、太陽系内で大きさと平均密度がもっとも地球に似た惑星であるため、「地球の姉妹惑星」と表現されることがある。また、太陽系の惑星の中で最も真円に近い公転軌道を持っている。地球から見ると、金星は明け方と夕方にのみ観測でき、太陽、月に次いで明るく見える星であることから、明け方に見えるものを「明けの明星」、夕方に見えるものを「宵の明星」という。
 金星
 太陽からの平均距離:0.72333199au au:地球と太陽の間の平均距離を1auとする
                  1au=約1.5X10^8Km
 近日点距離 (q)= 0.718au 遠日点距離 (Q) =0.728au
 平均公転半径=108,208,930km
 公転周期 (P)=224.701日(0.615207 年)
 赤道面での直径=12,103.6km (地球は赤道面での直径=12,756.274km)
 質量:4.869×10^24kg(地球との相対質量:0.81500)

 天気は晴れ。朝から気温は上がらず、昼頃から少し暖かくなる。
 先日の雨が助けたのか、”シャクナゲ”の花が咲きだした。葉は輪生・光沢があり・丸みを帯びて細長い、大きな花が特徴だ。葉にはロードトキシン(Rhodotoxin)が含まれ、痙攣(けいれん)毒となるので有毒植物として扱われる。
 ”シャクナゲ”には日本シャクナゲとヨーロッパで改良された西洋しゃくなげに大別される。西洋シャクナゲは、ロードデンドロン、との名前で売られていることが多い。この”シャクナゲ”の葉を見たら、葉裏に小さな毛がない、”セイヨウシャクナゲ(西洋石楠花)”かな。
 シャクナゲ(石楠花、石南花)
  欧米で育成された園芸種などを総称して「西洋シャクナゲ」と呼ぶ
 別名:ロードデンドロン(Rhododendron)、セイヨウシャクナゲ(西洋石楠花)
 ツツジ科ツツジ属
 耐寒性常緑広葉樹、低木
 開花時期は4月~6月
 花径は5cm~10cm、花色は紅紫・白・桃・黄・赤など


加工性に優れた鮮やかな赤色の木材をつくる桑の秘密を解明

2020-04-24 | 園芸
 東京農工大学大学院農学研究院生物システム科学部門の梶田真也教授をはじめとする国内外の機関からなる研究グループは、大正時代に奥尻島で発見された桑の野生種である赤材桑が、鮮やかな赤い色の木材をつくる仕組みを解明した。赤材桑がつくる木材は、色が赤いという特徴だけではなく、通常の樹木がつくる木材よりも成分の分離が容易で、化学パルプや燃料、化成品の製造に適している(2020年2月19日発表)。今回の成果により、桑の木材に新しい利用の道が開かれると共に、他の樹種への応用も期待される。本研究成果は、米国植物生物学会の「Plant Physiology」誌への掲載が決定し、暫定版が公開された。
 現状
 約5000年前に中国で始められたとされる養蚕は、日本においても約2000年の歴史を持つ。この間、我が国独自の桑品種が数多く生み出され、今も茨城県つくば市にある農研機構の圃場を中心に、国内各所で数百品種が保存栽培されている。これらの中には、葉や茎の形質が特別な品種が多数あり、学術的に高い価値を持つものの、形質発現のしくみが遺伝子レベルで詳しく調べられた品種はこれまでほとんどなかった。
 赤材桑(せきざいそう)は、大正元年頃に北海道の奥尻島で発見された桑の野生種で、夏場の成長期、茎や枝に鮮やかな赤い木材をつくる。発見当初、同島では赤材桑を紫桑(むらさきぐわ)や薬桑(くすりぐわ)と呼び、養蚕に加えて、神事の供物や漢方薬の原料としても使っていたとされている。大正11年、当時東京の杉並にあった蚕業試験場に持ち込まれた穂木から苗木が作られたことを機に、同場の職員であった吉村武三吉氏によって赤材桑と名付けられた。それ以来、赤材桑は接ぎ木などで株分けされ、現在でも国内数か所で育てられている。
 黒檀に代表されるように、特徴のある色の木材をつくる樹木は珍しくないが、木材の顕著な着色は年を経て成熟する過程で起こる。従って、幹や枝の中で木材ができた直後は、多くの樹種で木材は淡いクリーム色をしており、赤材桑のように当初から真っ赤な色を呈する野生の樹種は過去に報告がない。これまでに赤材桑が赤色の木材を生み出す原因遺伝子や赤い木材の化学成分は、全く明らかにされていなかった。
 研究成果
 研究グループは、まず赤材桑と普通の桑の木材をチオアシドリシスと呼ばれる特殊な方法で処理し、木材の分解産物を調査した。その結果、赤材桑からはインデン骨格を持 った特殊な化合物が検出された。この化合物は、桑の木材に20%程度含まれる芳香族高分子であるリグニンに由来するもので、赤材桑のリグニンが特殊な構造を持っていることが推察された。次に、赤材桑からリグニンを単離し、核磁気共鳴分光法で分子構造を調べたところ、赤材桑のリグニンには先述のインデンの元になる多量のケイ皮アルデヒド類が取り込まれていることが分かった。この原因として、リグニンの合成に関与するシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)遺伝子の機能不全が疑われた。
 確かめるために、研究グループは次世代シーケンサーで赤材桑と通常品種のゲノムDNAを解読し、CAD遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果、通常品種では正常なCAD遺伝子が、赤材桑では一塩基の挿入によって完全に壊れていることが分かった。通常品種では、CADの働きによりケイ皮アルコール類が合成され、これが重合することでリグニンが生成する。しかし、赤材桑ではCAD遺伝子が破壊されているために十分な量のケイ皮アルコール類が合成できず、その代替としてケイ皮アルデヒド類が重合することにより、リグニンの構造が変化することが判明した。
 ケイ皮アルデヒド類のリグニンへの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、その後の酵素処理による木材からの単糖の回収率(糖化率)向上に寄与することが期待される。実際にアルカリ溶液で前処理した木粉をセルラーゼで加水分解したところ、事前の期待どおり赤材桑の木材では糖化率が格段に向上した。
 今後の展開
 木材は、適切な管理により持続して再生産することが可能なバイオマス資源である。現在、我々が使用する化石資源の一部を代替するため、木材から燃料や化成品を製造する技術の開発が世界中で進められているものの、木材からの効率的なリグニンの除去が大きな技術課題となっている。リグニンが取り除きやすい木材を蓄積する赤材桑を更に詳しく調べることは、桑だけではなく、他の樹種の木材の用途拡大にも貢献すると考えられる。
 ◆用語の説明
 〇チオアシドリシス
 木材に含まれるリグニン中のエーテル結合を特異的に切断し、リグニン由来の低分子分解物を溶出させる方法。
 〇インデン
 分子式がC9H8で表示される、二環性の炭化水素。
 〇リグニン
 植物の細胞壁の主要な構成成分であり、細胞壁を固く丈夫な構造に保つための高分子。生体内では、アミノ酸であるフェニルアラニンを経由して合成されるコニフェリルアルコール等のケイ皮アルコール類が重合して生成する。

 今日の天気。午前は曇り、午後から晴れ。気温は上がらず、少し寒い・・最高気温12℃。
 道沿いに”モチノキ”が植えられている、街路樹。花が咲き始めている。花・蕾とも薄い緑色、葉の緑色と混じり、目立たない。秋になれば出来た果実は赤くなり、目立つけど。”モチノキ”は雌雄異株、この木は雄株・・赤い果実は付かない。
 名(モチノキ;黐の木)の由来は、この木の樹皮から鳥餅を作るから。鳥餅(とりもち)とは、”モチノキ”や”タラヨウ”の樹皮から作る飴色の粘液物質。樹皮を水につけて腐らせると、粘液物質が残り、これを精製して製造する。昔はこれで野鳥を捕獲していたが、現在は禁止猟法である。猟の仕方は、鳥かごによくさえずるおとりを入れておき、その駕籠の周辺に鳥もちを付けた止まり木を仕掛けておく。
 因みに、”モチノキ”からの鳥黐は色が白いため、”ヤマグルマ(山車):ヤマグルマ科ヤマグルマ属”を原料とするアカモチと区別するため、「シロモチ」または「ホンモチ」と呼ぶことがある。
 モチノキ(黐の木)
 別名:ホンモチ、シロモチ
 学名:Ilex integra
 モチノキ科モチノキ属
 常緑広葉・小高木
 雌雄異株
 原産地:日本(東北南部以西)、朝鮮半島
 開花時期:4月~5月
 花弁は4個、楕円形で長さ約3mm
 雄花は2~15個。雌花は1~4個ずつ集まる。
 雌株は花後に径1cmほどの丸い果実を付け、秋に真っ赤に熟す
 結実期は10月中旬~12月下旬


単純な有機フッ素化合物から、10種以上の有機フッ素化合物の生成に成功

2020-04-23 | 科学・技術
 東京理科大学理工学部先端化学科の荻原陽平講師、坂井教郎教授、大学院理工学研究科先端化学専攻修士課程の穂坂晋太郎(2019年度修了)の研究グループは、単純なフッ化アシルを出発物質として、10種類以上の複雑なフッ化アシルを得ることに成功し、フッ化アシルをフッ素源として利用できることを示した(2020.04.09発表)。本研究をさらに発展させることで、これまでにない新たなフッ素分子の合成方法につながると期待される。
 研究の要旨とポイント
 〇単純なフッ化アシルを出発物質として、10種類以上の複雑なフッ化アシルを得ることに成功し、フッ化アシルをフッ素源として利用できることを示した。
 〇フッ素を含む有機化合物は医薬や農薬などの幅広い機能性材料に活用されているが、現在フッ素源として用いられる化合物は毒性や腐食性が強いため、取り扱いやすく反応性の高いフッ素化剤の開発が待たれている。
 〇本研究で見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性がある。
 フッ素原子は全ての元素の中で最大の電気陰性度を持つことなどから、有機化合物にフッ素原子を導入することで、化学・物理的性質や、生理活性に影響を与える。そのため、フッ素を含む有機化合物は医薬や農薬などの幅広い機能性材料に活用されている。フッ素を含む有機化合物は自然界にはほとんど存在しないため、合成においてはフッ素化が必要となる。しかし、フッ素源として用いられるフッ素ガスやフッ化水素は毒性や腐食性が強いため、取り扱いやすく反応性の高いフッ素化剤の開発が待たれる。
 研究グループはこれまで、RC(=O)Fの化学式で表される「フッ化アシル」という化合物群に着目し、研究開発を進めてきた。今回の研究では、パラジウム触媒によるフッ化アシルの炭素-フッ素結合の可逆的な切断と形成を介して、より複雑で付加価値の高いフッ化アシルを得ることに成功した。
 本成果はフッ化アシルをフッ素源として利用できることを実証したという点で、非常に示唆に富んでいる。将来的には、今回見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性がある。
 研究の背景
 フッ化アシルRC(=O)Fは安定性や反応性などが独特であることから、近年、遷移金属触媒による反応に注目が集まりつつある。フッ化アシルはR+、CO、F-の3つの合成フラグメントに分けることができるが、これまでに、炭素骨格("RC(=O)"あるいは"R")の部分の、有機もしくは有機金属系求核剤(電子密度が低い炭素などの原子に反応し、結合を作る物質)を介したクロスカップリング反応に関する研究が数多く報告されている。
 しかしその一方で、フッ素("F")の部分はフッ化アシルを特徴付ける重要な官能基であるにもかかわらず、フッ素部分の反応についての研究は非常に少ないのが現状である。そのため、これまではフッ素部分は生成物に残すことができず、廃棄物となっていた。
 研究グループは、このフッ素部分を活かした有機合成反応の実現を目指し、研究に取り組んできた。今回の研究では、荻原講師らがこれまでに発見した0価のパラジウム触媒によるフッ化アシルの炭素-フッ素結合の可逆的な切断と形成を基盤として、フッ化アシルのこれまでにない合成方法を開発することを目的とした。
 研究の詳細
 研究グループはまず、フッ化ベンゾイルと無水安息香酸は、フッ化アシルと酸無水物と同様の反応進行を示すという作業仮説に基づき、フッ化ベンゾイルと3,5-ジメチル-無水安息香酸を出発物質として、反応条件の最適化を行った。その結果、二座ホスフィンを配位子(特定の受容体に選択的に結合する物質)とした場合は概ね良好な触媒反応を示したが、反応性や入手容易性などを考慮した結果、DPPBを配位子として用いることにした。反応温度および無水安息香酸の量についても検討し、無水安息香酸をフッ化ベンゾイルの3倍量で80℃という条件で、収率71%を達成した。
 次に、得られた最適化条件の下で、パラジウム触媒によるフッ化アシルの生成という観点から、基質適用範囲の探索を行った。その結果、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)/DPPBを触媒とした際、多様なフッ化アシルが生成された。ベンゼン環の4位には、メトキシ基、チオメチル基、ハロゲン基など、電子供与基と電子求引基の両方があり、これらは触媒条件下でも耐性があり、フッ化アシルを生成した。
 生成されたフッ化アシルのいくつかについては、アシル交換反応についても調べたところ、4-メトキシベンゾイルフルオリドは3,5-ジメチル-無水安息香酸のフッ素化に対する反応性は低く、電子求引基を持つフッ化ベンゾイルおよび2-ナフチルフルオリドでは反応性が高く、43~70%の収率を達成した。
 研究を行った荻原講師は「本反応では、入手することが容易なフッ化アシルを出発物質として、より複雑なフッ化アシルを得ることができるため、フッ化アシルにより一層の価値を付加するものです。また、本成果はフッ化アシルをフッ素源として利用できることを実証したという点で、非常に示唆に富んでいます。今後、本研究で見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性があります。」として、応用への期待を示している。
 ◆アシル基
 アシル基(アシルき、英:Acyl group)は、オキソ酸からヒドロキシル基を取り除いた形の官能基である。有機化学では、「アシル基」と言えばふつう、カルボン酸からOHを抜いた形、すなわちR-CO-というような形の基(IUPAC名はアルカノイル基)を指す。ほとんどの場合、「アシル基」でこれを意味するが、スルホン酸やリン酸といったその他のオキソ酸からでもアシル基を作ることができる。特殊な状況を除いて、アシル基は分子の一部分となっていて、炭素と酸素は二重結合している。
 アシル基を含む化合物として、塩化アセチル (CH3COCl) や塩化ベンゾイル (C6H5COCl)といったハロゲン化アシルが知られている。これらの化合物はアシリウムカチオンを与えるので、他の化合物をアシル化する試薬としても用いられている。 アミド (RC(O)NR2)やエステル (RC(O)OR’)、ケトン (RC(O)R) やアルデヒド (RC(O)H) もアシル基を含んでいる。

 今日の天気は晴れ。10時頃、お日様が出ているが、小雨が降った・直止んだ・・天気雨;狐の嫁入り。
 出たり、降ったりの空、散歩で見つけたイベリス。花は径1cm位の白い4弁花、外側の2枚が大きく、内側の2枚が小さい。この小さい花が、纏まって半円球の様になっており、庭一面に白い絨毯の様に広がっている。
 イベリスは地中海沿岸(南欧・北アフリカ・西アジア)に20~30種が分布すると言う。種には、毎年開花する多年草と花後に枯れる一・二年草がある。
 名(イベリス)の由来は、イベリア(半島)に多く自生していたからと言う。因みに、イベリアはイベリア半島の国、特にスペインの別称である。
 イベリス
 別名:屈曲花(まがりばな)
 別名:キャンディタフト(Candytuft)
 学名:Iberis sempervirens
 アブラナ科イベリス属(マガリバナ属)
 秋まき一年草・多年草
 原産地は地中海沿岸、明治初期に渡来とされる
 開花期は4月から6月
 花は4枚の花弁を持ち、。花は小さいが、この小花が多数集まって大きな花房となっている
 花を咲かせた茎は太陽の方に向いて曲がりやすい性質がある
 花色は白が多く、ピンク・赤・紫などがある


副鼻腔炎、たんぱく質「セマフォリン4D」が鼻のポリープ形成を誘導する鍵分子

2020-04-22 | 医学
 大阪大学大学院医学系研究科の西出真之助教、津田武医師、猪原秀典教授、熊ノ郷淳教授らの研究グループは、セマフォリンというタンパク質が、鼻ポリープを形成する難治性のちくのう症である「好酸球性副鼻腔炎」の病態形成に重要な役割を果たしており、治療の標的となることを明らかにした。本研究成果は、臨床アレルギー学のトップジャーナルのひとつである米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)の機関誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に、2月6日(木)0時(日本時間)に公開。
 好酸球性副鼻腔炎は鼻ポリープを高い確率で合併し、手術やステロイド投与による既存の治療法では、一度治療した後の再発率が高く、正確な病態の理解に基づいた、安全かつ効果的な治療方法が求められている。
 研究成果のポイント
 〇難治性の副鼻腔炎において、セマフォリンというタンパク質がアレルギー反応や鼻ポリープの形成を誘導していることを発見した。
 〇セマフォリンの血中濃度が高い患者さんは、この病気が重症かつ難治であった。
 〇セマフォリンを抑制する抗体治療を行うと、動物モデルにおいて好酸球性副鼻腔炎が著明に軽快することを見出し、同疾患の今後の診断や治療に役立つことが大いに期待できる。
 研究の背景
 好酸球性副鼻腔炎は鼻ポリープを高い確率で合併し、多くの患者さんは鼻づまり・どろどろの鼻汁・嗅覚(におい)の障害を訴える。日本では、中等度から重症以上の患者さんの数が約2万人存在すると言われている。治療は内視鏡により鼻ポリープを切除する手術や、ステロイドの投与などが行われるが、一度治療した後の再発率が高く、正確な病態の理解に基づいた、安全かつ効果的な治療方法が求められている。
 セマフォリンは、もともと神経発生を誘導する因子として発見されたタンパク質であるが、近年では腫瘍免疫や、骨代謝・自己免疫疾患との密接な関連が報告されている。さらに好中球などの「顆粒球」と呼ばれる白血球におけるセマフォリンの機能もここ数年で明らかになり、血管炎やアレルギー疾患に対する創薬ターゲットとしても注目を集めている。しかし、難治性ちくのう症におけるセマフォリンの効果は調べられておらず、実際に診断や治療のターゲットになるのか詳細は分かっていなかった。
 研究グループが注目したセマフォリン4D(SEMA4D)という分子は、通常は色々な細胞の膜表面に存在する分子として存在しているが、細胞表面で刺激を受けて切断される。切断された遊離型のSEMA4Dは、細胞間のシグナル伝達に関わる。今回、研究グループは、鼻ポリープを形成する難治性の副鼻腔炎である「好酸球性副鼻腔炎」の患者さんの血液から、SEMA4Dとの関わりを調べ、治療の標的となるのかを検証した。
 本研究の成果
 研究グループにより、好酸球副鼻腔炎の患者さんの血中では、遊離型SEMA4D濃度が上昇しており、その濃度が重症度に相関していることが発見された。また好酸球副鼻腔炎の患者さんの白血球においては、好酸球特異的に膜型SEMA4Dが減少しており、好酸球上のSEMA4Dが切断され、膜上の発現が低下、その結果として血中の遊離型SEMA4D濃度が上昇していた。好酸球性炎症において遊離型SEMA4Dがどのような役割を持っているか、さらに追求するために、鼻腔上皮細胞株に対する刺激実験を行った結果、SEMA4Dは鼻腔上皮細胞において細胞内タンパク質のRhoAの活性化を介した、透過性の亢進に寄与することが示された。
 これは、好酸球上に発現しているセマフォリン4D(SEMA4D)が、好酸球の活性化に伴って細胞から遊離し、SEMA内皮細胞や鼻腔の上皮細胞に働きかけ、血管や上皮の結合を緩めて好酸球を通り抜けやすくすることが、アレルギー反応を悪化させ、鼻ポリープの形成に関与していることを示す。
 さらに、SEMA4Dは、インターロイキン6(IL-6)などの炎症を引き起こす様々な分子(サイトカイン)を上皮から分泌させることも分かった。
 これらを踏まえて、好酸球性副鼻腔炎の動物モデルにおいて、SEMA4Dに対する抗体を用いて中和実験を行ったところ、好酸球性炎症が軽快することを見出した。
 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究により、日本国内で患者さんが多い難治性のアレルギー疾患である好酸球性副鼻腔炎において、セマフォリン分子がアレルギー反応や鼻ポリープの形成を誘導していることを発見した。患者さんの中でも、セマフォリンの血中濃度が高い方は重症かつ難治性であることが分かった。さらに、セマフォリンを中和する抗体を用いると、動物モデルにおいて好酸球性副鼻腔炎が著明に軽快することを見出した。
 この結果から、血清の遊離型SEMA4D濃度は、好酸球性副鼻腔炎の病勢を反映するマーカーとして有用であり、好酸球由来のSEMA4Dはアレルギー炎症を増悪させる因子として、好酸球性副鼻腔炎における新たな治療ターゲットとなることが考えられる。
 研究者のコメント(津田武医師)
 好酸球性副鼻腔炎の患者様は様々な病気の経過をたどります。軽快しやすい患者様もいらっしゃれば、逆になかなか改善しない患者様もいらっしゃいました。「なぜ同じ病気でもこのように経過が全く異なるのだろう」という疑問をスタートとして、その病態解明の一助となる研究を行えたことを大変意義深く感じています。今後も好酸球性副鼻腔炎の患者様の治療に注力していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

 今日の天気は晴れ。朝は雲が多かったが、10時過ぎからはお日様が顔を出した。
 散歩道沿いのお家。お庭と道の境に”シバザクラ”が植えられている。色とりどりの花が咲き出している。満開の様で、色彩変化が綺麗な絨毯の様だ。
 名(シバザクラ:芝桜)の由来は、芝の様な広がりの花、桜の様な花・・とある。
 シバザクラ(芝桜)
 別名:花詰草、花爪草(はなつめくさ)
 英名:moss phlox(苔状のフロックス)
 学名:Phlox subulata
 ハナシノブ科フロックス属
 多年草
 原産は北アメリカ東部
 開花時期は4月~5月
 絨毯状に地面を覆い花が咲く
 花は桜に似ている
 花径2cm位、花色は紅・白・紫など


キラル結晶の右手系・左手系で反転する放射状スピン構造を発見

2020-04-20 | 科学・技術
 東京大学大学院工学系研究科の坂野昌人助教、理化学研究所創発物性科学研究センターの平山元昭研究員、東京工業大学科学技術創成研究院の笹川崇男准教授、東京大学物性研究所の近藤猛准教授らの研究グループは、東京工業大学理学院の村上修一教授、産業技術総合研究所の三宅隆研究チーム長、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一教授らの研究グループ、高エネルギー加速器研究機構の組頭広志教授らの研究グループ、東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授らおよび石坂香子教授らの研究グループと共同で、キラルな結晶構造に由来して発現する固体内スピンの特性を、テルル単体を用いた実験から明らかにした(公開日:2020年03月04日)。本研究成果は、米国物理学会学術誌「Physical Review Letters」に米国東部時間3月10日に掲載、特に重要な論文としてEditors’ Suggestionに選出された。
 ポイント
 〇キラルな結晶構造が発現するスピン特性を、テルル単体に着目した実験から解明した。
 〇鏡映しの関係にある右手系・左手系結晶では、放射状構造を持つスピンの向きが逆転することを見出した。
 〇電流印加や光照射でスピン流を原理的に生成可能なことから、スピントロニクスの応用に繋がることが期待される。
 キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を伴う物質では、電子の磁石としての性質であるスピンに由来した磁気的性質が、非磁性材料にも関わらず発現し得ることが、20世紀の半ばから知られていた。ところが、その物性を司るスピン偏極した電子構造の直接的な観察は、これまで成功していない。本研究では、最も単純なキラル結晶構造を有し、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つテルル単体に着目し、スピン分解・角度分解光電子分光実験を行った。その結果、キラルな結晶構造を持つ物質に対して初めて、スピン偏極した電子構造の観察に成功した。さらに、キラルな結晶の特徴として、スピン構造が放射状となること、また、それらのスピンの向きが“右手系結晶”と“左手系結晶”で反転することを実験的に示した。今回の結果は、強いスピン軌道相互作用を有するキラルな結晶が、有望なスピントロニクス材料であることを示しており、今後、電子・スピン変換デバイスの研究開発への進展が期待される。
 研究の背景
 自然界には、右手と左手、あるいは右ネジと左ネジのように、鏡に映した姿がもとの姿と重ならないものがあり、これらの性質をキラルであると言う。2つの非等価なキラルな結晶、いわゆる右手系と左手系の結晶は、自然界において、生物学的、化学的、物理的にそれぞれ異なる反応を示す。また、キラルな結晶構造の内部では、電気と磁気がお互いに関係しあうことが知られている。一方、固体内電子の電気的・磁気的関係を結びつけるためには、スピン軌道相互作用が必要であり、原子番号の大きな重い元素を持つ化合物で特にその作用が強くなる。
 キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つ物質は、非磁性であっても、スピン流などの磁気的性質を引き出し得ることから、スピントロニクス分野で特に注目されている。しかしながら、その特異な電気磁気特性の起源となるスピン偏極した電子構造を直接的に観測した例がこれまでになく、キラル結晶内の電子とスピンの結合状態は未解明であった。
 研究内容と成果
 本研究では、キラルな結晶構造を有するテルル単体を研究対象とし、スピン分解・角度分解光電子分光を用いて、スピン構造の直接観測を行った。重元素であるテルル原子は強いスピン軌道相互作用を有しているため、電子とスピンが強く結合した状態が期待される。本研究では、熱濃硫酸で表面処理した際にできる腐食孔の形によって右手系結晶と左手系結晶を判別し、それぞれの試料に対して、詳細な電子構造およびそれに付随するスピン偏極構造を観察した。
 左手系結晶に対してスピン分解・角度分解光電子分光実験を行い、スピン構造を調べた。その結果、電子のz方向の運動量が、z方向のスピンのみと結合していることがわかった。通常、スピン軌道相互作用は、電子の運動量と垂直な向きにスピンを結合させたがる性質がある。しかし、今回の結果は、それに反して、運動量と平行方向にスピンが結合していることを示している。つまり、スピンが運動量空間において放射状に広がる特異な振る舞いを同定したことになる。さらに、右手系結晶の測定も行うことで、左手系結晶とはスピン構造が反対向きになることを見出した。スピン構造に見られるこれらの特異性は、キラルな結晶構造に特有の電子状態に由来するものであるといえ、第一原理電子構造計算によって再現されることを確認している。
 今後の展望
 今回、最も単純なキラル結晶であるテルル単体において、キラルな結晶構造特有のスピン状態を実験的に解明した。本結果を起点として、さまざまなキラル結晶におけるスピン状態の解明が進むものと考えられる。また、スピンが電子の運動量と平行に向き放射状となる特異なスピン構造からは、非従来型のスピントロニクス機能が創発できる可能性があるため、キラル構造を有する物質をデバイス応用させる発展研究が今後期待される。
 ◆用語解説
 〇キラルな結晶構造
 右手と左手の関係のように、一方を鏡映しにしたときには他方と重なるが、平行移動では互いに重ならない2つの非等価な結晶構造を持つもの。
 〇スピン分解・角度分解光電子分光
 物質に光を照射すると、電子(光電子)が試料から真空中へ放出される。その光電子の運動エネルギー、および脱出角度を調べることによって、物質中の電子のエネルギーと運動量を直接観測できる実験手法である。さらに、スピン検出器を用いて光電子のスピンを測定することにより、物質中の電子スピンの向きを調べることもできる。物質中の電子が有する運動量、エネルギーおよびスピンが分かると、(スピン状態までを含めた)電子構造を完全に理解することができる。
 〇スピントロニクス
 電子の電荷を基にした現代社会を支えるエレクトロニクスを超えて、電荷だけでなく磁石的性質であるスピンをも利用して応用する分野のこと。
 〇スピン軌道相互作用
 電子自身が持つ磁気的性質(スピン角運動量)と電子の軌道によって発生する磁気的性質(軌道角運動量)との相互作用のこと。
 〇テルル
 テルル(英:tellurium)は原子番号52の元素。元素記号はTe。原子量は127.60。第16族元素の一つ。
 〇第一原理電子構造計算
 量子力学の基礎的な方程式を用いて、物質を構成する原子の種類と位置の情報から電子構造を計算する手法。結晶構造さえ決まれば非経験的に電子構造を得ることができるため、性質の不明な新物質に対しても威力を発揮する。

 朝から小雨。予報では夜まで、となっている。
 散歩は雨の中。塀越しに見える”ナシ”に花が咲きだしている。
 梨の種類は、大別して3種あり、和なし(日本なし、Pyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri) 、洋なし(西洋なし、P. communis )である。これらの実は、何れも食用として栽培される。日本語で”ナシ(梨)”と言えば通常、このうちの”和なし”を指す。雨に打たれた”ナシ”も”和なし”。
 ”ナシ”の語源には諸説がある。
  中酸(なす):江戸時代の学者新井白石は中心部ほど酸味が強いことから、中酸が転じたと述べている。
  風なし:風があると実らないから
  中白(なかしろ)・色なし:果肉が白いから
  梨子(らいし):漢語の梨子の転じたもの
 ”ナシ”という名前は「無し」に通じることからこれを忌ん(忌み言葉)で、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という反対の意味を持たせた呼称が用いられることがある。しかし、「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、鬼門の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良い利用法もある。
 ナシ:梨 (なし)
  その果実もナシ
 別名:有の実(ありのみ)
 ”ナシ”の種類には、皮が黄緑色の青梨:二十世紀など、皮が褐色の赤梨:幸水・豊水などのの2種類に分けられる
 学名:Pyrus pyrifolia var. culta
 バラ科ナシ属
 原産地:中国を原産とし中国や朝鮮半島、日本の中部地方以南に自生する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を基本種とする栽培品種群のこと。
 日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代頃とされ、登呂遺跡などから多数食用にされたとされる根拠の種子などが見つかっている。文献に初めて登場するのは「日本書紀」であり、持統天皇の693年の詔において五穀とともに「桑、苧、梨、栗、蕪菁」の栽培を奨励する記述がある。
 開花時期:4月頃、桜から1週間ほど遅れて開花する
 白い5弁花


ツタンカーメンの鉄剣は鉄隕石を材料にした

2020-04-19 | 歴史・考古
 千葉工業大学地球学研究センター及び惑星探査研究センターの合同研究チームが、エジプト考古学博物館にてツタンカーメンの鉄製の短剣の化学分析を行った(記者発表は、2020年2月28日)。この鉄剣は、紀元前14世紀に鉄隕石を材料として造られたと考えられている。進んだ製鉄技術を持たない当時の人々が鉄隕石をどう加工したかは謎に包まれており、今後の詳細分析で製造技術の解明を目指す。人類の製鉄の歴史に迫る研究という。尚、本調査は在エジプト日本大使館、JICAのご協力をいただいた。
 ポイント
 〇エジプト考古学博物館において、ツタンカーメンの鉄剣の現地調査を行った。
 〇非破壊・非接触分析により、鉄剣中の元素の二次元分布情報を得た。
 〇鉄剣に硫黄・塩素・亜鉛などの元素が含まれていることを明らかにした。
 〇データの解析を進め、鉄剣の製造方法および由来の解明を目指す。
 概要
 2020年2月9日及び10日に、千葉工業大学地球学研究センター所長の松井孝典率いる研究チームがエジプト考古学博物館を訪れ、ツタンカーメンの棺から発見された鉄製の短剣の現地調査を行った。この鉄剣は紀元前14世紀に製作されたものであるが、棺の中で保管されていたため非常に保存状態が良く、錆などの劣化の影響が小さい。紀元前14世紀のエジプトには製鉄技術は存在しなかったため、当時の人々は宇宙からもたらされた鉄隕石を加工して鉄剣を製造したと考えられていた。
 同鉄剣は、1922年に考古学者のハワード・カーターによってツタンカーメンのひつぎから発掘された。紀元前14世紀に製作されたものである。2016年にイタリアの研究チームが鉄剣の調査を行い、鉄・ニッケル・コバルト濃度の測定から、鉄剣の材料が鉄隕石であることを確認した。しかし、「製鉄技術を持たない当時の人々がどのようにして鉄隕石を加工したのか」についての有力な手掛かりは得られていなかった。
 千葉工業大学の研究チームは、ポータブル蛍光X線分析装置(ELIO, XGLab)による元素分布の分析と、4K高感度カメラ(α7s, Sony)による表面の微小組織の撮像を行った。調査は全て、エジプト考古学博物館において非破壊・非接触で行った。本調査で得られる鉄剣中の元素の二次元分布情報・表面組織を、鉄隕石のものと比較することにより、鉄剣の製造方法の解明を目指す。
 本調査によって鉄剣中に10-12%のニッケルが含まれていることが明らかとなり、これはオクタヘドライトに分類される鉄隕石が材料として使用されたことを示す。一方で、オクタヘドライト特有のウィドマンシュテッテン模様や、それに伴う鉄・ニッケルの縞状分布は確認されなかった。鉄剣の製造過程で鉄隕石を加熱したことにより、これらの特徴が失われた可能性が考えられる。また、本調査では鉄剣の黒色部分に硫黄・亜鉛が含まれていることを明らかにした。これらの黒色部分は、オクタヘドライトに一般的に含まれる硫化鉄鉱物であるトロイライトの痕跡である可能性が高い。トロイライトの痕跡が残っていることから、鉄剣製作時の加熱温度について制約が与えられると期待される。黒色部分には腐食により大気中から混入したと考えられる塩素の存在も確認された。この腐食がいつ起きたのかについては、短剣が棺から初めて出された当時の写真を入手するなどし、検証を行う。
 ◆用語説明
 〇蛍光X線分析
 蛍光X線分析では、X線を分析対象試料に照射し、発生する蛍光X線の測定により試料中の元素濃度を決定する。本調査で用いたELIOは、装置を精密xyステージ上で移動させることで、二次元の元素分布分析が可能である。
 〇ウィドマンシュテッテン模様
 ウィドマンシュテッテン模様とは、ニッケル濃度の低い鉱物であるカマサイトと、ニッケル濃度の高いテーナイトが交互に晶出することによって見られるオクタヘドライト特有の帯状模様である。

 天気は曇り、時々小雨が降る。風が少し強い。
 お日様が出ている時の散歩道沿いのお庭で、塀から少し枝が伸びている”ハナカイドウ”に花が咲き出した。花は桜の花より大きく、枝に花が下向きで「たわわ」に付いている。花弁の外側は赤、内側が白であり、花は赤白と綺麗、蕾は赤く垂れ下がっている。昔から美人の代名詞として使われるほど綺麗、唐の玄宗皇帝が酔って眠る楊貴妃を例えた。
 中国原産で、日本には江戸時代初期に渡来した。15世紀中頃に既に渡来していた海棠(実海棠:みかいどう)があり、花が美しいので「花海棠」と命名された、と言う。
 カイドウ(海棠)
 別名:花海棠(はなかいどう)、垂絲海棠(すいしかいどう)、南京海棠(なんきんかいどう)
 学名:Malus halliana
 バラ科リンゴ属
 耐寒性落葉高木
 中国原産、江戸時代初期に渡来
 開花時期は4月~5月
 花色は淡紅色
 花後に林檎に似た小さな実が付くが、付かない事が多い
 付いた小さな赤い果実は食べれる


日本最古の天文記録「日本書紀」での「赤気」は「扇形オーロラ」だった

2020-04-18 | 天文
 国立極地研究所の片岡龍峰准教授と、国文学研究資料館の山本和明教授を中心とする研究グループは、日本最古の天文記録として知られる「日本書紀」推古二十八年(620年)のくだりに記された「赤気」について、近年の古典籍を用いたオーロラ研究で解明されてきた「扇形オーロラ」と整合的であることを明らかにした。着目したのは「形似雉尾」という表現である。緯度の低い地域で見られる扇形のオーロラを目撃した当時の日本人は、雉がディスプレイ行動や母衣打ちで見せる扇形の尾羽でオーロラを例えたのだろう、という解釈を新たに提唱した。倭の人々の感性をうかがい知ることに加え、多くの初期の写本に「似碓尾」と書いてあるのは「似雉尾」が誤写されたものであろう、とする明治の研究者・飯田武郷による先行研究を裏付ける、文理融合による研究成果でもある。
 研究の背景
 令和2年で編纂から1300年になる「日本書紀」には、日本最古の天文記録として、推古天皇二十八年(620年)に以下のような記録が残されている。
 十二月の庚寅の朔に、天に赤気有り。長さ一丈余なり。形雉尾に似れり。
 この記述はオーロラのことか、あるいは彗星か、どちらの説も決め手に欠け、科学的には謎めいた記述として知られてきた。中国の歴史書には、同年620年にオーロラらしき記述や巨大黒点が出た、という記述は見つからず、日中記録によるダブルチェックのような常套手段が通じない。また彗星と解釈しようにも、「日本書紀」では箒星として区別して書かれていること、色味が「赤」からは程遠いことなど、幾つかぬぐえない不安が残る。また、形状に関する当該箇所は「雉」でなく「碓」と書いてある写本も多く、明治になり、飯田武郷によって「雉」に落ち着いたと考えられていた。
 研究の内容
 「日本書紀」では、赤気の形状が「雉の尾」のようであった、と書いてあるが、雉の尾羽の際立った特徴として、ディスプレイ行動や、母衣打ちで見られる、扇形の形状が知られている。近年、国文学研究資料館と国立極地研究所が中心となって進めて来た文理融合の研究成果では、日本のような中緯度で見られるオーロラは赤く、扇形の構造を示すものである、ということを明らかにした(過去の複数のプレスリリース参照(注))。
 以上の2点を組み合わせることで、「日本書紀」の赤気はオーロラであろう、という新たな根拠を得ることができた。また、飯田武郷の研究により、「日本書紀」の該所は文献学的に「碓」ではなく「雉」に落ち着いたと考えられているが、それを科学的にも裏付けたことになる。
 当時の日本の磁気緯度は現在よりも10度ほど高かったため、大規模な磁気嵐が起これば、日本でオーロラが見えても不思議ではない。夜の長い新年、新月で月明かりもない真っ暗な夜空という、オーロラ観測の好条件も整っていた。特に扇形オーロラは真夜中前に出現し、際立って明るいものであり、就寝前の出来事として目撃されやすく、空に現れた巨大な扇は、深く人々の印象に残るものだったと想像出来る。それを見て驚いた当時の倭の人々が、天の使いと考えられていた雉の、ときおり魅せる美しい尾羽に例えたことは、十分に納得のいくものと言えるであろう。ただし、現代の鳥類研究者でも、雉が尾羽を扇形に開く様子を目撃することは多くない。日本人のルーツとなった倭の人々の、鳥との距離感や観察眼の鋭さを前提とする必要がありそうだ。
 今後の展望
 近年の文理融合的な研究成果から新たなヒントが得られ、また鳥類研究者が国立極地研究所にいたことも機縁となり、この「赤気」はオーロラと考えるのが最も自然であり、また「碓」ではなく「雉」である可能性を指摘した。
 当該記述がオーロラであろうという根拠が得られたことは、当時の日本は現在よりもオーロラが観測しやすい状況にあったという地磁気モデルとの整合性を支持する材料であり、過去の地球物理的な状況を特定するデータとしての価値がある。
 中国で見られたオーロラは、旗や城に例えて恐れていた例が一般的なのに対し、同じ自然現象を見た倭の人々は、美しい動物に例え表現していたことは、倭の人々の感性をうかがい知るうえで、今後の人文学的な研究にも一定の視点を与えるものである。
 ◆用語説明
 〇ディスプレイ行動
 雉のオスがメスに対して尾羽をアピールする行動のこと。
 〇注;過去のプレスリリース
 1958年に日本で見られた扇型オーロラの実態を解明(2019年5月12日)
 https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20190521.html
 〇磁気嵐
 普段は極地域でしか出現しないオーロラが、緯度の低い地域にまで地球的に広がる状況。

 今日は朝から雨。小雨だが強い雨にもなる。風は昼頃より強くなる。
 雨が降っていない日の散歩、見つけた満開の”ネモフィラ”の花。”オオイヌノフグリ”の花にそっくりに見える、でも良く見ると色・姿形は一見似ているが花弁の数が”オオイヌノフグリ”の4枚に対し5枚あり、葉の形も違い、大きさも3倍位違う。数日前のTVで、国営ひたち海浜公園の”ネモフィラ”の花を映していた・・人出が見えない風景。
 散歩での花は、径2cm~3cm程、花色は薄青と白で中心部に黒い点が5つある。和名は”ルリカラクサ(瑠璃唐草)”。最もポピュラーなのは、ネモフィラ・メンジーシー(Nemophila menzisii)・・本草かな。
 ”ネモフィラ”には変種が多く、アトマリア(白に紫色の斑点が入る)、ディスコイダリス(濃紫で白い縁取りが入る)や園芸種のインシグニスブルー(花がやや大きめ)、ペニーブラック(黒に近い紫色で白い縁取りが入る)、スノーストーム(白地に紫の斑点が入る)などが知られている。
 因みに、海浜公園のネモフィラは、”インシグニスブルー(青空のような)”とか。
 ネモフィラ
 別名:瑠璃唐草(るりからくさ)、小紋唐草(こもんからくさ)
 英名:Nemophila、Baby blue eyes
 学名:Nemophila menziesii
 ハゼリソウ科ネモフィラ属
 一年草(秋にタネを蒔き、春に花が咲く)
 原産地は北アメリカ
 開花時期は3月~5月


ロータリーエバポレーターのマクロ回転で、ねじれたキラル分子の合成に成功

2020-04-17 | 科学・技術
 東京大学 生産技術研究所の石井和之教授、半場藤弘教授、黒羽みずき大学院生、南部翔平大学院生、服部伸吾研究員(現:横浜市立大学助教)、北川裕一大学院生(現:北海道大学特任講師)、新村和寛大学院生、水野雄貴大学院生のグループは、ロータリーエバポレーターを使用して、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニンキラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。会合体の"ねじれ"構造は分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の"ねじれ"も計算することで、キラル誘起機構を提案した。本研究成果は10月31日(木)(中央ヨーロッパ時間)に、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン版)に掲載。
 発表概要:
 分子は、その構造の鏡像と重ね合わすことができない性質(キラリティー)を示すことがあり、医薬品や材料の開発などにおいて極めて重要である。最近、マグネティックスターラーなどのマクロな機械的回転を使用した渦運動によって、超分子または高分子をねじってキラリティーを発現させる例が報告されており、生命のホモキラリティー起源の候補であることやキラルな触媒を用いない新たな合成法などの観点から注目を集めていた。一方、ロータリーエバポレーターのマクロな機械的回転を使用したキラル化合物の合成例も報告されていたが、再現性が低く、キラリティーを誘起する機構も不明であった。
 今回の発見は、マクロな機械的回転(~10-1m)とナノスケールの分子キラリティー(10-7~10-9m)に結びつけている点から、新しい科学分野となりえるだけでなく、生命のホモキラリティー起源を考える上での手がかりも提供している。さらに、キラルな触媒を用いずにキラル分子を合成する合成法やキラル光学材料へ調整する方法へと発展することが期待できる。
 発表内容
 背景
 分子は、その構造の鏡像と重ね合わすことができない性質を示すことがあり、これを分子のキラリティーと呼び、そのような分子をキラル分子と呼ぶ。アミノ酸には、D体、L体の鏡像異性体が存在するが、生物を構成するアミノ酸は、片方の鏡像異性体のL体のみである。これを生命のホモキラリティーと呼び、生命の起源に関わる未解決の難問である。また、分子のキラリティーは、医薬品や材料の開発などにおいて極めて重要であるため、キラルな触媒を用いた不斉合成(片方の鏡像異性体を選択的に合成すること)が数多く実施されており、更なる研究開発も盛んに行われている。
 渦運動は本質的にキラルであるが、スケールの違いにより、マクロな渦運動はナノスケールの分子のキラリティー(10-7~10-9m)には影響を与えないと考えられてきた。最近、マグネティックスターラーなどのマクロな機械的回転(~10-1m)を使用した渦運動によって、超分子または高分子をねじってキラリティーを発現させる例がいくつか報告されており、①地球の回転運動によって引き起こされる渦運動(コリオリ力)が生命のホモキラリティー起源の候補の一つであること、および②キラルな触媒を用いない新たな不斉合成法などの観点から注目を集めている。しかしこれらは、超分子やポリマーにキラルな"ねじれ"を与えることに相当し、キラル化合物を合成する方法ではなかった。一方、ロータリーエバポレーターのマクロな機械的回転を使用して、キラルではない分子の溶液を濃縮することにより、キラル会合体を合成した例も報告されてはいたが、①再現性が低いこと、②分子のキラリティーを誘起する機構が不明であったこと等から、マクロな機械的回転を使用して、ナノスケールのキラル化合物を合成することは、挑戦的な課題であった。
 研究
 本研究グループは、ロータリーエバポレーターにより、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニン キラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。ここで、合成されたキラル会合体は、溶媒を完全に除去することで固定化されている。会合体の"ねじれ"構造は、円偏光二色性分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の"ねじれ"も計算することで、キラル誘起機構を提案し、その機構をマグネティックスターラー実験によっても確認した。
 今回の発見は、マクロな機械的回転(~10-1m)とナノスケールの分子キラリティー(10-7~10-9m)に結びつけている点から、新しい科学を開拓しているだけでなく、生命のホモキラリティー起源を考える上での手がかりも提供している。さらに、キラルな触媒を用いずにキラル分子を合成する合成法やキラルな光学材料を調整する方法へと発展することが期待できる。
 ◆用語解説
 〇ロータリーエバポレーター
 溶媒を除去(留去)するために一般的に用いられる蒸留装置である。 フラスコを回転させることによって蒸発の効率を高めるとともに、突沸を防ぐ効果もある。
 〇キラル分子
 分子構造が、その鏡像と重ね合わすことができない性質を分子のキラリティーと呼び、そのような分子をキラル分子と呼ぶ。キラル分子は、ちょうど右手と左手のように互いに鏡像である1対の立体異性体を持ち、これらは互いに鏡像異性体であるという。アミノ酸や糖では、D体、L体の鏡像異性体が存在する。

 〇生命のホモキラリティー
 生物におけるアミノ酸はL体のみ、糖はD体のみであることを生命のホモキラリティーと呼び、その起源は未解明である。現在、①地球の自転運動による渦運動(コリオリ力)、②円偏光を用いた光化学反応、③磁気キラル二色性を用いた光化学反応の3つが、生命のホモキラリティー起源の候補となっている。
 〇フタロシアニン
 さまざまな場面で利用されている青・緑色の染料・顔料であるとともに、多様な応用の観点(光記録媒体、光伝導体、太陽電池、光がん治療など)からも注目される光機能性分子である。
 〇単量体と会合体
 同じ分子が集合することを会合と呼び、その集まりを会合体と呼ぶ。集合していない分子を単量体と呼ぶ。

 今日の天気は晴れ。風もなく、穏やかな日だ。夜から雨・風が強くなる、予報。
 藤川沿いの散歩で見つけた”ユスラウメ”の花。開花期間が短いようで、タイミングが合わないと見過ごす。でも、6月過ぎには径1cmほど赤く熟した果実を見ることができる。
 果実には、赤実種と白実種がある。この木は赤実種かな、赤実種は柄の短いサクランボの様に見える。白実種は果実が大きく、赤実種に比べると採れる量は少ない。果実は生食のほか、果実酒にも利用できる。
 名(ユスラウメ)の由来は、朝鮮語の”移徒楽(いさら)”が転訛して”ゆすら”となったとの説、揺すったら果実が落ちるからとの説などがある。
 ユスラウメ(桜桃・梅桃・山桜桃梅)
   桜桃(おうとう)はサクランボの別名でもある
 別名:ゆすら
 英名:downy cherry、Nanking cherry
 学名:Prunus tomentosa
 バラ科サクラ属
 落葉低木(丈は2m~3m)
 中国・朝鮮半島の原産、江戸初期に渡来
 開花時期は3月~4月
 花びらは5枚で径2cm前後、枝を覆うように沢山咲く
 花色は白・淡紅
 6月頃に赤い果皮の実(径1cm位)となる、熟した果実には光沢がある
 果肉は薄い白で、果皮が白色の品種もある


統合失調症の妄想、脳の訂正機能が低下している可能性

2020-04-16 | 医学
 東京大大学院医学系研究科の河西春郎教授や柳下祥講師らが、「統合失調症で妄想が生じるのは、脳で間違った学習を現実に合わせて訂正する機能が低下している可能性が高い。」と発表(3月22日)。論文は英科学誌ネイチャー電子版に掲載。
 統合失調症は約100人に1人が発症するとされる。幻覚や妄想などの症状がある。若年での発症が多いが薬の効果は限られている。統合失調症の薬は神経細胞でドーパミン受容体の働きを妨げるが、なぜ効くかは不明だった
 河西教授らは、マウスに低い音を聞かせ、水が飲めると学習させる実験を行った。その際、脳の「側坐核」と呼ばれる部分を調べると、神経伝達物質「ドーパミン」の濃度が上昇し、ドーパミンを受け取る1型受容体のある神経細胞群が働いて水を飲める条件を学んでいた。次に高い音を聞かせると、実際には水が出ないのにマウスは水をなめようとした。ただ水が期待通り出てこない周波数は学習し、水を飲む動作も減った。
 脳のドーパミンの量を過剰にすると学習できなくなった。統合失調症の薬でドーパミン受容体を阻害すると学習できるようになったことから、ヒトではこの学習障害が妄想を引き起こすとみている。
 統合失調症患者の治療には、2型受容体に作用する抗精神病薬が使われている。今回の研究により、ドーパミンが過剰になり、1型受容体の神経細胞群により誇大な妄想が生じた場合、抗精神病薬を使うと現実に合わせて訂正されるという仕組みが考えられるという。

 天気は晴れ。風もなく、穏やかな日だ。
 駐車場の”ユキヤナギ”の花が満開だ。枝が弓状に湾曲して真っ白い花が咲いている。開花してから暫くたつから、散り始めるころかな。
 ”ユキヤナギ”の花は白い小さな花の集合で、名の如く雪が降り積もった様見える。中国名でも”噴雪花”と見た様子が分かる命名である。
 名(ユキヤナギ:雪柳)の由来は、柳(やなぎ)の様な葉と枝(枝垂れ)に雪の様な白い花を咲かせるからと言う。名に”ヤナギ”と付くが”ヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)”の仲間ではない。柳の様な葉は細長い披針形(ひしんけい)で、別名に小米花(こごめばな)や小米柳花(こごめやなぎ)があり、この花が咲く様子を表している。
 ユキヤナギ(雪柳)
 別名:小米花(こごめばな)、小米柳花(こごめやなぎ)
 学名:Spiraea thunbergii
 バラ科シモツケ属
 落葉低木、丈は1m~2m
 日本原産、中国原産説もある
 開花時期は3月~5月
 花は径7mm位と小さい
 花色は白
 ピンク色の蕾の”紅花雪柳(フジノピンク)”がある
  園芸品種、雪柳の赤花品種
  蕾は綺麗なピンク、花は薄桃色の白
 若葉が黄金色の”黄金ユキヤナギ”がある


がんが免疫の攻撃から逃れる新メカニズムを発見

2020-04-15 | 医学
 筑波大学医学医療系の渋谷和子教授らの研究グループは、がん細胞が「可溶型CD155」というタンパク質を産出することで、免疫細胞の攻撃から逃れるという仕組みを発見したことを発表した(2月10日)。
 正常な細胞ががん化すると、がん細胞の表面にCD155タンパク質(膜型CD155)が増加する。免疫細胞は、この膜型CD155と免疫細胞上の活性化受容体「DNAM-1」が結合することで、がん細胞を攻撃し排除している。また、がん患者さんは、健常者と比較してCD155の変異体「可溶型CD155」が血清中で高いことがこれまでに報告されている。
 研究グループは、可溶型CD155を産出する悪性黒色腫(メラノーマ)の腫瘍株と、産出しない腫瘍株をマウスに移入し観察。結果、可溶型CD155を産出する腫瘍株で、有意に多くの肺転移が起こることを見出した。また、可溶型CD155が免疫細胞であるNK細胞上のDNAM-1に結合することで、DNAM-1と膜型CD155の結合を阻害し、NK細胞ががんを排除できなくなっていることもわかった。
 この仕組みは、免疫細胞の1つT細胞の攻撃から逃れる免疫チェックポイントとは異なる、「がんが免疫の攻撃から逃れるもう1つの仕組み」で、がんの免疫療法として新たな可能性がある。
 研究グループは、今後の展開として次のように述べている。
 「本研究により、がん細胞は可溶型CD155を分泌することにより免疫逃避を行っていることが明らかになりました。このことから、体内から可溶型CD155を除去すれば、身体が本来持っている免疫システムによってがん細胞が排除されると考えられ、がんの新しい治療法の開発につながることが期待されます。既存の免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞への抑制シグナルの阻害による治療法でした。一方、可溶型CD155の除去は、活性化シグナルを促進するものであり、作用機序が全く異なります。従って、免疫チェックポイント阻害剤の効果が薄い患者への治療にも役立つ可能性があります。」

 今日の天気は晴れ。風も穏やか。気温は最高気温20℃とあったが、そんなにない感じ・・少し寒い。
 散歩中に鉢植えの”セイヨウサクラソウ(西洋桜草)”の花を見つけた。早春の花が少ない時期に咲くので、春到来の花として人気がある。一般に”プリムラ(Primula)”と呼ばれる。”プリムラ”は、世界で600種以上あると言われる程に種類が豊富。これは、”プリムラ・マラコイデス(Primula malacoides) ・・と思う。
 原産地は中国(雲南省・四川省)で、イギリスで品種改良されたものが、日本へ明治末期~大正初期に渡来した。
 因みに、葉っぱには弱い毒(プリミン)があり、皮膚の弱い方はかぶれる可能性がある・・ご注意。
 セイヨウサクラソウ(西洋桜草)
 別名:乙女桜(おとめざくら)、プリムラ・マラコイデス(Primula malacoides)
 サクラソウ科サクラソウ(プリムラ)属
 日本では半耐寒性一年草(二年草)
 原産地は中国、イギリスで品種改良
 開花時期は2月~4月
 花は、径1.5cm~8cm、 花色は白・赤・ピンク


江戸時代の歯石DNAから当時の食物を復元

2020-04-13 | 歴史・考古
 琉球大学の澤藤りかい研究員、新潟医療福祉大学の佐宗亜衣子助教、理化学研究所の須田亙副チームリーダー、早稲田大学理工学術院の服部正平教授、東京大学の植田信太郎名誉教授らの研究チームは、江戸時代の古人骨に付着する歯石からDNAを抽出・解析することで、当時の食物や生活習慣を個人レベルで明らかにした。研究成果は、国際的な学術雑誌「PLOS ONE」誌に2020年3月5日午前4時(日本時間)に掲載。
 発表のポイント
 〇どのような成果を出したのか
 歯石(歯垢が石灰化したもの)には口内細菌だけでなく、食べかすなども含まれる。江戸時代の古人骨に付着する歯石からDNAを抽出・解析することで、当時の食物や生活習慣を個人レベルで明らかにした。
 〇新規性(何が新しいのか)
 歯石にDNAメタバーコーディング法を初めて適用し、江戸時代の食性・文化を歯石から直接的に復元できることを示した。
 〇社会的意義/将来の展望
 この手法を先史時代など様々な遺跡の資料に適用することで、過去の食性・文化の新たな側面を明らかにできると期待される。
 研究の背景
 過去のヒトの食物を知る分析手法として、様々な手法が現在までに開発されている。例えば、遺跡から出土した骨・炭化種子などの形態分析、炭素・窒素安定同位体分析、土器残存脂質分析、プラントオパール・花粉・デンプン粒など微化石の形態分析などである。これらの手法にはそれぞれ利点があるが、多くの手法で容易に克服できない問題となっているのは、食べられていた動物・植物の属・種レベルの同定が困難であるということである。動物では骨などの硬組織が遺跡からよく発掘されるが、葉・茎・根などの柔組織のみからなる植物は、土壌中で分解されやすいため、形を保ったまま発見されることは滅多にない。ただ、低湿地にある遺跡では有機物が分解されにくく、古い時代の植物の柔組織が残っていることがある。このように、過去の食物の実態を品目レベルで復元するためには、新たな手法の開発・応用が必要であった。
 研究アイデア
 琉球大学医学部の澤藤研究員らの研究チームは、この難点を克服する手法として、古人骨に付着する歯石のDNA分析に着目した。歯石とは歯垢が石灰化したもので、歯石に含まれるDNAを分析すると、約99%は口内バクテリアである。ただし、食べかすなどに由来する動物・植物・菌類のDNAもわずかに含まれていることが分かっていた(Warinner et al. 2014)。今回、研究チームはこの植物DNAに着目し、DNAメタバーコーディング法などを用いて、効率的に食物を復元することを考案した。
 DNAは目で見える形が残らないものにも存在している。また、国際的なDNAデータベースに様々な生物種のDNA配列が登録されている。歯石に含まれる植物DNAを配列解読し、データベースと照らし合わせることで、どのような植物が歯石に含まれるのか、調べることが可能となる。また、この手法を用いれば、植物を科・属レベルの細かさで同定できる。この手法により、過去のヒトの口内から直接的に、食物を復元することを試みた。
 研究内容
 研究チームは、江戸時代後期、深川(現在の東京)から発掘されたヒト(町人)13個体の古人骨に付着する歯石からDNAを抽出・配列解読し、当時の食物を復元した。まずPCR法により、当時の主食であったコメのDNAが歯石中に含まれるか調べた結果、半数以上(13人中8人)の個体からコメのDNAを得ることに成功した。また、それ以外の食物が歯石に含まれているか、DNAメタバーコーディング法を適用した。その結果、植物に関して、シソ属やネギ属、ダイコン属など、合計で7科・10属を同定した。この結果を当時の文献と照らし合わせたところ、全て江戸時代に食用とされていたもの、あるいは利用されていた種を含んだ分類群であると確認できた。動物に関してもDNAメタバーコーディング法を適用したが、歯石にはヒト由来のDNAが多く含まれており、優先的に検出されてしまうので、ヒト以外の動物のDNAをこの手法で検出することはできなかった。
 食物だけでなく、タバコ属の植物DNAなど、当時の生活習慣に由来すると考えられる植物のDNAも検出された。なかでも特に興味深いものは、フタバガキ科の植物DNAが検出されたことである。この植物は、野生では、マレーシアなどの熱帯にしか生息していない。当時の文献を紐解いてみると、「龍脳」というフタバガキ科の植物から得られる樹脂が、庶民の歯磨き粉の原料として用いられていたことが分かった。江戸時代の浮世絵からも、歯磨きの習慣が庶民に広まっていたことが分かる。
 このように、本研究で使った手法を用いることで、過去の人々の食物や当時の生活文化を個人レベルで復元することが可能になる。また、フタバガキ科の植物の例のように、当時の交易の様子も明らかになると期待される。また、手法の改良によって、歯石からヒト以外の動物DNAの解析も可能にしていきたいと考えている。
 ◆用語解説
 〇DNAメタバーコーディング法
 生物種の特定のDNA領域をバーコードのように種の識別に用いることによって、資料に含まれる複数の生物種を一挙に同定する手法。
 〇炭素・窒素安定同位体分析
 動物の歯や骨に含まれる炭素・窒素の安定同位体比を測定することにより、その動物が生前、主に摂取していたタンパク質源を推定する手法。
 〇土器残存脂質分析
 土器に付着して現代まで残っている脂質を分離・分析し、脂質がどのような動物由来であるか推定する手法。
 〇プラントオパール
 植物に由来する珪酸(けいさん)体。ガラス質なので土壌中などで残りやすく、特にイネ科植物などに多く含まれる。

 朝から雨。小雨が降り続く。気温が低く寒い、最高気温8℃・最低気温6℃とか。
 今日は雨なので、晴れた日の”タンチョウソウ”のお話。
 見つけたのは、色々な草花に囲まれて、咲いている”タンチョウソウ(丹頂草)”。
 長い花柄の頂部に集散花序、白い小さな五弁花を密集して咲いている。五弁花であるが白い萼と白い花弁が重なり10枚の花弁がある様に見える。花の中心が赤く見え(雄しべの花粉)、頭に赤い所がある丹頂鶴を連想させる。
 名(タンチョウソウ)の由来は、この赤い頭部ではなく、背高く白い花が密集する様を「丹頂鶴」に見立てた。
 葉の形は掌(てのひら)状の八手(ヤツデ)に似ており、岩場で自生している。これから”岩八手(いわやつで)”とも呼ばれる。この葉は秋の終わりには枯れてしまう(休眠する)。
 タンチョウソウ(丹頂草)
 別名:岩八手(いわやつで)
 学名:Aceriphyllum rossii
 ユキノシタ科イワヤツデ属(ムクデニア属)
 多年草、花茎は10cm~30cm
 半日陰で、湿気のある環境を好む
 原産地は中国東北部~朝鮮半島
 開花時期は3月~5月
 花色は白色
 果実は蒴果(熟すると下部が裂け、種子が散布される)