東京農工大学大学院農学研究院生物システム科学部門の梶田真也教授をはじめとする国内外の機関からなる研究グループは、大正時代に奥尻島で発見された桑の野生種である赤材桑が、鮮やかな赤い色の木材をつくる仕組みを解明した。赤材桑がつくる木材は、色が赤いという特徴だけではなく、通常の樹木がつくる木材よりも成分の分離が容易で、化学パルプや燃料、化成品の製造に適している(2020年2月19日発表)。今回の成果により、桑の木材に新しい利用の道が開かれると共に、他の樹種への応用も期待される。本研究成果は、米国植物生物学会の「Plant Physiology」誌への掲載が決定し、暫定版が公開された。
現状
約5000年前に中国で始められたとされる養蚕は、日本においても約2000年の歴史を持つ。この間、我が国独自の桑品種が数多く生み出され、今も茨城県つくば市にある農研機構の圃場を中心に、国内各所で数百品種が保存栽培されている。これらの中には、葉や茎の形質が特別な品種が多数あり、学術的に高い価値を持つものの、形質発現のしくみが遺伝子レベルで詳しく調べられた品種はこれまでほとんどなかった。
赤材桑(せきざいそう)は、大正元年頃に北海道の奥尻島で発見された桑の野生種で、夏場の成長期、茎や枝に鮮やかな赤い木材をつくる。発見当初、同島では赤材桑を紫桑(むらさきぐわ)や薬桑(くすりぐわ)と呼び、養蚕に加えて、神事の供物や漢方薬の原料としても使っていたとされている。大正11年、当時東京の杉並にあった蚕業試験場に持ち込まれた穂木から苗木が作られたことを機に、同場の職員であった吉村武三吉氏によって赤材桑と名付けられた。それ以来、赤材桑は接ぎ木などで株分けされ、現在でも国内数か所で育てられている。
黒檀に代表されるように、特徴のある色の木材をつくる樹木は珍しくないが、木材の顕著な着色は年を経て成熟する過程で起こる。従って、幹や枝の中で木材ができた直後は、多くの樹種で木材は淡いクリーム色をしており、赤材桑のように当初から真っ赤な色を呈する野生の樹種は過去に報告がない。これまでに赤材桑が赤色の木材を生み出す原因遺伝子や赤い木材の化学成分は、全く明らかにされていなかった。
研究成果
研究グループは、まず赤材桑と普通の桑の木材をチオアシドリシスと呼ばれる特殊な方法で処理し、木材の分解産物を調査した。その結果、赤材桑からはインデン骨格を持 った特殊な化合物が検出された。この化合物は、桑の木材に20%程度含まれる芳香族高分子であるリグニンに由来するもので、赤材桑のリグニンが特殊な構造を持っていることが推察された。次に、赤材桑からリグニンを単離し、核磁気共鳴分光法で分子構造を調べたところ、赤材桑のリグニンには先述のインデンの元になる多量のケイ皮アルデヒド類が取り込まれていることが分かった。この原因として、リグニンの合成に関与するシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)遺伝子の機能不全が疑われた。
確かめるために、研究グループは次世代シーケンサーで赤材桑と通常品種のゲノムDNAを解読し、CAD遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果、通常品種では正常なCAD遺伝子が、赤材桑では一塩基の挿入によって完全に壊れていることが分かった。通常品種では、CADの働きによりケイ皮アルコール類が合成され、これが重合することでリグニンが生成する。しかし、赤材桑ではCAD遺伝子が破壊されているために十分な量のケイ皮アルコール類が合成できず、その代替としてケイ皮アルデヒド類が重合することにより、リグニンの構造が変化することが判明した。
ケイ皮アルデヒド類のリグニンへの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、その後の酵素処理による木材からの単糖の回収率(糖化率)向上に寄与することが期待される。実際にアルカリ溶液で前処理した木粉をセルラーゼで加水分解したところ、事前の期待どおり赤材桑の木材では糖化率が格段に向上した。
今後の展開
木材は、適切な管理により持続して再生産することが可能なバイオマス資源である。現在、我々が使用する化石資源の一部を代替するため、木材から燃料や化成品を製造する技術の開発が世界中で進められているものの、木材からの効率的なリグニンの除去が大きな技術課題となっている。リグニンが取り除きやすい木材を蓄積する赤材桑を更に詳しく調べることは、桑だけではなく、他の樹種の木材の用途拡大にも貢献すると考えられる。
◆用語の説明
〇チオアシドリシス
木材に含まれるリグニン中のエーテル結合を特異的に切断し、リグニン由来の低分子分解物を溶出させる方法。
〇インデン
分子式がC9H8で表示される、二環性の炭化水素。
〇リグニン
植物の細胞壁の主要な構成成分であり、細胞壁を固く丈夫な構造に保つための高分子。生体内では、アミノ酸であるフェニルアラニンを経由して合成されるコニフェリルアルコール等のケイ皮アルコール類が重合して生成する。
今日の天気。午前は曇り、午後から晴れ。気温は上がらず、少し寒い・・最高気温12℃。
道沿いに”モチノキ”が植えられている、街路樹。花が咲き始めている。花・蕾とも薄い緑色、葉の緑色と混じり、目立たない。秋になれば出来た果実は赤くなり、目立つけど。”モチノキ”は雌雄異株、この木は雄株・・赤い果実は付かない。
名(モチノキ;黐の木)の由来は、この木の樹皮から鳥餅を作るから。鳥餅(とりもち)とは、”モチノキ”や”タラヨウ”の樹皮から作る飴色の粘液物質。樹皮を水につけて腐らせると、粘液物質が残り、これを精製して製造する。昔はこれで野鳥を捕獲していたが、現在は禁止猟法である。猟の仕方は、鳥かごによくさえずるおとりを入れておき、その駕籠の周辺に鳥もちを付けた止まり木を仕掛けておく。
因みに、”モチノキ”からの鳥黐は色が白いため、”ヤマグルマ(山車):ヤマグルマ科ヤマグルマ属”を原料とするアカモチと区別するため、「シロモチ」または「ホンモチ」と呼ぶことがある。
モチノキ(黐の木)
別名:ホンモチ、シロモチ
学名:Ilex integra
モチノキ科モチノキ属
常緑広葉・小高木
雌雄異株
原産地:日本(東北南部以西)、朝鮮半島
開花時期:4月~5月
花弁は4個、楕円形で長さ約3mm
雄花は2~15個。雌花は1~4個ずつ集まる。
雌株は花後に径1cmほどの丸い果実を付け、秋に真っ赤に熟す
結実期は10月中旬~12月下旬
現状
約5000年前に中国で始められたとされる養蚕は、日本においても約2000年の歴史を持つ。この間、我が国独自の桑品種が数多く生み出され、今も茨城県つくば市にある農研機構の圃場を中心に、国内各所で数百品種が保存栽培されている。これらの中には、葉や茎の形質が特別な品種が多数あり、学術的に高い価値を持つものの、形質発現のしくみが遺伝子レベルで詳しく調べられた品種はこれまでほとんどなかった。
赤材桑(せきざいそう)は、大正元年頃に北海道の奥尻島で発見された桑の野生種で、夏場の成長期、茎や枝に鮮やかな赤い木材をつくる。発見当初、同島では赤材桑を紫桑(むらさきぐわ)や薬桑(くすりぐわ)と呼び、養蚕に加えて、神事の供物や漢方薬の原料としても使っていたとされている。大正11年、当時東京の杉並にあった蚕業試験場に持ち込まれた穂木から苗木が作られたことを機に、同場の職員であった吉村武三吉氏によって赤材桑と名付けられた。それ以来、赤材桑は接ぎ木などで株分けされ、現在でも国内数か所で育てられている。
黒檀に代表されるように、特徴のある色の木材をつくる樹木は珍しくないが、木材の顕著な着色は年を経て成熟する過程で起こる。従って、幹や枝の中で木材ができた直後は、多くの樹種で木材は淡いクリーム色をしており、赤材桑のように当初から真っ赤な色を呈する野生の樹種は過去に報告がない。これまでに赤材桑が赤色の木材を生み出す原因遺伝子や赤い木材の化学成分は、全く明らかにされていなかった。
研究成果
研究グループは、まず赤材桑と普通の桑の木材をチオアシドリシスと呼ばれる特殊な方法で処理し、木材の分解産物を調査した。その結果、赤材桑からはインデン骨格を持 った特殊な化合物が検出された。この化合物は、桑の木材に20%程度含まれる芳香族高分子であるリグニンに由来するもので、赤材桑のリグニンが特殊な構造を持っていることが推察された。次に、赤材桑からリグニンを単離し、核磁気共鳴分光法で分子構造を調べたところ、赤材桑のリグニンには先述のインデンの元になる多量のケイ皮アルデヒド類が取り込まれていることが分かった。この原因として、リグニンの合成に関与するシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)遺伝子の機能不全が疑われた。
確かめるために、研究グループは次世代シーケンサーで赤材桑と通常品種のゲノムDNAを解読し、CAD遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果、通常品種では正常なCAD遺伝子が、赤材桑では一塩基の挿入によって完全に壊れていることが分かった。通常品種では、CADの働きによりケイ皮アルコール類が合成され、これが重合することでリグニンが生成する。しかし、赤材桑ではCAD遺伝子が破壊されているために十分な量のケイ皮アルコール類が合成できず、その代替としてケイ皮アルデヒド類が重合することにより、リグニンの構造が変化することが判明した。
ケイ皮アルデヒド類のリグニンへの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、その後の酵素処理による木材からの単糖の回収率(糖化率)向上に寄与することが期待される。実際にアルカリ溶液で前処理した木粉をセルラーゼで加水分解したところ、事前の期待どおり赤材桑の木材では糖化率が格段に向上した。
今後の展開
木材は、適切な管理により持続して再生産することが可能なバイオマス資源である。現在、我々が使用する化石資源の一部を代替するため、木材から燃料や化成品を製造する技術の開発が世界中で進められているものの、木材からの効率的なリグニンの除去が大きな技術課題となっている。リグニンが取り除きやすい木材を蓄積する赤材桑を更に詳しく調べることは、桑だけではなく、他の樹種の木材の用途拡大にも貢献すると考えられる。
◆用語の説明
〇チオアシドリシス
木材に含まれるリグニン中のエーテル結合を特異的に切断し、リグニン由来の低分子分解物を溶出させる方法。
〇インデン
分子式がC9H8で表示される、二環性の炭化水素。
〇リグニン
植物の細胞壁の主要な構成成分であり、細胞壁を固く丈夫な構造に保つための高分子。生体内では、アミノ酸であるフェニルアラニンを経由して合成されるコニフェリルアルコール等のケイ皮アルコール類が重合して生成する。
今日の天気。午前は曇り、午後から晴れ。気温は上がらず、少し寒い・・最高気温12℃。
道沿いに”モチノキ”が植えられている、街路樹。花が咲き始めている。花・蕾とも薄い緑色、葉の緑色と混じり、目立たない。秋になれば出来た果実は赤くなり、目立つけど。”モチノキ”は雌雄異株、この木は雄株・・赤い果実は付かない。
名(モチノキ;黐の木)の由来は、この木の樹皮から鳥餅を作るから。鳥餅(とりもち)とは、”モチノキ”や”タラヨウ”の樹皮から作る飴色の粘液物質。樹皮を水につけて腐らせると、粘液物質が残り、これを精製して製造する。昔はこれで野鳥を捕獲していたが、現在は禁止猟法である。猟の仕方は、鳥かごによくさえずるおとりを入れておき、その駕籠の周辺に鳥もちを付けた止まり木を仕掛けておく。
因みに、”モチノキ”からの鳥黐は色が白いため、”ヤマグルマ(山車):ヤマグルマ科ヤマグルマ属”を原料とするアカモチと区別するため、「シロモチ」または「ホンモチ」と呼ぶことがある。
モチノキ(黐の木)
別名:ホンモチ、シロモチ
学名:Ilex integra
モチノキ科モチノキ属
常緑広葉・小高木
雌雄異株
原産地:日本(東北南部以西)、朝鮮半島
開花時期:4月~5月
花弁は4個、楕円形で長さ約3mm
雄花は2~15個。雌花は1~4個ずつ集まる。
雌株は花後に径1cmほどの丸い果実を付け、秋に真っ赤に熟す
結実期は10月中旬~12月下旬
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