認知症
認知症は水を飲んで治す時代だ 田原総一朗 ・・・・・・11
第1章 「認知症は水で治る」はほんとうか ・・・・・・17
認知症との出会い ・・・・・・19
認知症は「脳の病気」ではない? ・・・・・・21
異食症は「孤独」が引き起こす ・・・・・・26
水を飲ませていたら、認知症の症状がとれてきた ・・・・・・28
認知症は、症状がとれれば治ったと言える ・・・・・・31
「認知症は治る!」をもっと知ってほしい ・・・・・・34
第2章 認知症とは何か ・・・・・・39
認知症とは「認知の障害」である ・・・・・・41
自分はなぜここにいるかが「認知」できない ・・・・・・43
そもそも「認知」とはどういうものか ・・・・・・46
私たちは言葉を介して世界を認知している ・・・・・・50
意識がはっきりしていないと認知できない ・・・・・・54
田原総一朗は認知症? それとも、もの忘れ? ・・・・・・57
みんな、認知症じゃないかと不安になっている ・・・・・・59
その場にマッチしていれば生理的なボケ ・・・・・・64
第3章 認知症のいろいろな型 ・・・・・・67
夜になると興奮状態になる「身体不調型」 ・・・・・・69
新しい環境になじめない「環境不適応型」 ・・・・・・70
「わからない」という認知の障害が強く出る「知的衰退型」 ・・・・・・74
状況に向かって挑んでいる「葛藤型」 ・・・・・・76
身も心も現実から離れてしまう「遊離型」 ・・・・・・81
その人の古きよき時代に戻ってしまう「回帰型」 ・・・・・・85
第4章 なぜ、認知症に「水」が効くのか ・・・・・・89
水を飲むと覚醒レベルが上がる ・・・・・・91
脱水を防ぐには、どれくらい飲ませればいいか ・・・・・・96
「認知力」を高めるには、「水、運動、食事、排便」が大事 ・・・・・・99
4つの基本ケアで認知症の3分の2が改善する ・・・・・・103
運動している人は認知症になりにくい ・・・・・・106
バランスよく栄養を摂る、噛むことも大切 ・・・・・・109
水を飲まない人には飲ませる工夫を ・・・・・・110
第5章 「認知症かな?」と思ったら ・・・・・・117
水不足は認知の障害を起こす ・・・・・・119
認知の障害がいつ起こっているかを確かめる ・・・・・・122
介護やケアは身内だけではできない? ・・・・・・124
家族にできること、プロにまかせること ・・・・・・127
周囲が「苦痛共同体」を作る ・・・・・・132
その人の中の「前知的な知」を見ることができるか ・・・・・・135
「認知症」は「慢性混乱症」である ・・・・・・137
認知症予防には、趣味を持つことも大切 ・・・・・・141
「認知症かな?」と思ったら、どうしたらいいか ・・・・・・146
認知症の未来を目指して 竹内孝仁 ・・・・・・155
竹内式 認知症の6つの型 その特徴と対処法 ・・・・・・161
<竹内先生に聞く>認知症をもっとよく知るためのQ&A ・・・・・・175
竹内先生が
『夜間に興奮してどなるのは「脱水」を原因としていることがほとんど。必ず水分のことを
考える必要がある』 とおっしゃっているページがありました。
祖母は、祖父が興奮し暴力をふるったりすることがあったので、大変困っていました。
ところが、この先生のコメントがひとつのきっかけとなり、祖父に水分の補給を十分
したところ、祖父が興奮することがほとんどなくなりました。
残念ながら、通っている病院、またその他で、一切そのようなことは教えて頂いたことは
ありません。 「水分を十分にとる」。 たったこれだけのことなのに、入院中、興奮したり
すると、お薬を飲まされたり、注射をされ、おとなしくさせられたりしていました。
これは介護向けに発行されている小冊子 「ハナさん」 を偶然読んだ一般の方からの投稿メールである。祖母が、孫(メール投稿者)から教えられたとおりに「水分を十分に取った」ら祖父の認知症の症状が取れたと言うもので、つまり「認知症が治った」と言うもの。このケースは“夜間不穏と言う症状を水分補給で治した”といえる。この他、「ちょっと注意したりすると乱暴する」と言うような症状も、正しく対応すると症状が消える。
ここまで読まれた諸兄は、“たまたま症状が取れただけではないのか?”とか、“これが「治る」ということなのか?” “認知症はどんどん悪くなるだけで治らない病気だろう”など疑問に感じておられると思う。
いや、これは偶然ではなくきちんとした根拠があることなのだ。また精神の病では「その症状が取れることを治った」というのである。
http://jinrokukai.web.fc2.com/2011111.html
小生、高齢者の「自立支援・介護予防の手法」の開発・普及に関わり、そこから「認知症を治す」方法の実践と普及にも関わってきた。最近はこの方法がわずかながら理解され始め、「認知症が治ってきた」というTV放映も時々見られるようになった。とはいえ、まだまだ知られていないのが現実。そこで今回投稿の依頼を受けたのを良い機会に是非紹介しようと思った。しかし、本格的に「認知症を治す」理論を語ればかなり長くなる。今回はその理論の入り口「エキス」だけ(と入っても長くなるが)を紹介し、もし諸兄に関心があり機会があれば再度続きを書くことにする。
1.「認知症」が“治る”とは
認知症になったら治らない、どんどん悪くなるだけ。これは思い込み。特に医師をはじめとする「専門職」にこの考えの人が多い。困ったことでもある。
身体(physical)の病は、“発熱”や“痛み”などの症状が取れても治ったとはいわず、バイタル検査を始め、色々な検査結果が良くなってはじめて「治った」という。
それに対し精神(mental)の病は、症状が取れれば「治った」というのが精神医学の常識である。統合失調症(旧・精神分裂病)では治療によって幻覚(幻聴、幻視)や妄想などの症状が取れれば「治った」といわれる。
「認知症」は高齢者に多い「精神の病」のひとつであり、したがって認知症の「周辺症状」が取れて認知症になる前の状態に戻ること、これを「治る」「治った」と竹内教授はいう。
2.「認知症」はどういう病気?
では「精神の病」とする「認知症」とはどんな病気か考えてみる。
私たちはある状況のもとに置かれ、その状況に対に対して何らかの行動をとることを求められている。
状況にあった行動をとるためには、先ず状況を正しく「認知」する必要がある。その状況を正しく認知できないことを「認知障害」という。状況を正しく理解できなければ、その状況にマッチした行動が取れない。
状況にマッチしない行動のことを、認知症の「症状」とか、認知症の「周辺症状」という。 “認知心理学”や“認知科学”では「認知」の働きを、『その人が置かれている状況を「認識」「理解」「判断」する「総合的な精神」の働き』と説明している。
3.「認知症」は脳の病気?
いま多くの人が、認知症は脳の病気だと思い込んでいる。しかし昔から「認知症=脳の病気」という原因説に否定的な学者も少なからずいた。
* Tom・ Kitwood 先生 : 「認知症は社会心理的病気」。つまり認知症とはその人がおかれた環境から生まれる心理的病気である。( person centered care 提唱者)
* Busse.E.W 先生 : 認知症と脳を結び付けるべきではない。認知症は社会環境が生む病。
* Rotschielde 先生 : 脳の組織学的変化と認知症との間には質的にも量的にも厳密な関係はない。
* 新福 尚武 先生 : 認知症は、精神構造の解体によるもの。認知症の進行には脳の器質的変化は関係ない。
* 金子 仁朗、新福 尚武 : 認知症とは、生理的なボケが、重い病気や寝たきり、重いストレス、心的外傷(トラウマ)などの「外因」によって「病的なボケ」になったもの。
* 竹内 孝仁 先生 : 認知症とはその人がおかれた環境から生まれる心理的状況と、身体的な状態が関与した病気。
4.認知症を治すためには、「身体的活動」を重視
身体活動とは、“年をとって体の動きが鈍くなる”“病気で体を動かせなくなる”“寝たきりで立ったり歩いたり出来ない”などのこと。これが認知症と大いに関係する。
最近の認知症研究・22年間のコホート研究から。
* Abotto 先生 : 1日2マイル、週2~3日歩いている人は、その習慣のない人に比べ認知症発現率は42%低い。
* Scameas 先生 : 余暇活動を行う人は、余暇活動を行わない人に比べ認知症発現率が38%低い。
* Helmer 先生 : 3つ以上の余暇活動を行う人は、行わない人に比べ80%低い。
5.なぜ「体の動き」が認知症と関係するのか
“認知心理学”や“認知科学”では、「人は体を動かすことにより周囲の状況を認知している」という。逆に言うと、「体が動かないと周囲の状況を認知できない」となる。
高齢者の活動性を失わせる(動きが鈍くなる)要因は、
1)脱水(水分不足)
人の体の6割は水分。これが不足すると「脱水症」となり動きが鈍くなる。意識レベルも低下する。(ちなみに、「熱中症」は「脱水症」のことである)
2)低栄養(栄養不足)
一日に必要な食事量が不足したり、食べても消化吸収が悪いと「低栄養」となり、「低体力」となり、体の動きを失わせる。消化吸収は胃腸の働きが正常でなければならず、「便秘」や長期の「下痢」は起こさぬようにしなければならない。
3)運動不足、寝たきり
体を動かすことが億劫の人、家に閉じこもっている人など、これら「運動不足の人」 は認知能力を失わせる。また運動不足は食欲低下にもつながり、二重に認知症に関係する。
「認知症」は、自分の置かれている状況が理解できず(認知障害)、状況にマッチしない行動を取る(認知症の周辺症状)。「認知症」は「認知障害」が原点。
高齢者は体の動きが鈍くなると「認知症発現率」は高くなる。からだの動きが良いためには、水分の確保、栄養の確保、栄養を確保するために排便リズムの確保、運動不足にならないことが必須である。
「認知症」には先ず何より、みず(水分)、めし(栄養)、くそ(排便リズム)、運動、が重要で、それを実践すれば「認知症」の60%が治るという実績が出ている。
「認知症」を治すには、他に「役割」「社会関係」の要素もある。そして何より「アセスメント」が重要である。と今回はここで終わるが、これらについては機会があれば書くと言うことで。
http://www.aricept.jp/alzheimer/e-clinician/vol59/no608/sp08_02.html
12
幻覚・妄想・誤認の治療とケア
【幻覚への対応】
どんな認知症であれ、まず身体疾患・内科的問題(感染、心不全、脱水、電解質異常、疼痛など)の有無を評価して治療することが先決である。ストレスとなる環境因子に対する介入を行うことも大切である。これらの対処だけでせん妄や幻覚が軽快することがある。また薬剤性幻覚も見逃してはならない。抗コリン作用のある薬剤(総合感冒薬、三環系抗うつ剤、尿失禁治療剤など)、抗不安薬、睡眠導入剤、H2阻害剤、抗パーキンソン薬などは認知症高齢者では幻覚を誘発する可能性がある。
ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AchEIs)はAD、DLBともに有効であり14)、幻視の改善が期待できる15)。また漢方薬の抑肝散や抑肝散加陳皮半夏が効くこともある。
しかし攻撃性や不安を伴っていなければ、必ずしも幻視を消すことを目標とする必要はない。DLBではある程度病識が保たれていることも多く、本人に「幻視があっても悪さはしないから大丈夫ですよ」と安心させる指導をしたり、本人や家族が幻視に触る(そうすると消えることが多い)対応をするなどで、幻視があっても訴えが減少して生活障害が改善することがある。
幻覚が攻撃性や不安・不穏を伴う場合には非定型抗精神病薬の使用を検討する。クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどを少量から使用するが、認知症では保険適用外であり、死亡率も高める可能性があるので、家族や本人に事前に説明し了解を得る必要がある。
【妄想への対応】
ADの人が盗害・被害妄想を呈する心理的背景として、物事が思うように運ばないことから生じる不全感や不安、家族の態度が以前とは変わってくることによる寂しさや疎外感があるように思われる16)。それらの不安、不満が周囲への反発や被害者意識に転じるとき、「自分ではなく、相手が悪い」との訴えになるのは自然な感情の流れとして了解できる。したがって妄想に対する対応としてまず重要になるのは、患者の訴えの奥に流れる孤独感、不全感を汲み取り、その辛さに寄り添うことであろう。表面的な攻撃性に周囲の人が反発するのではなく、訴えを共感的に聞くことで、物盗られ妄想が軽減することはしばしばある。ただし心理社会的要因はあくまで一因子にすぎず、介護者の努力で全ての妄想が改善するわけではないが、心理要因が関係することを念頭において周囲が試行錯誤することは大切である。
ADやDLBの妄想に対する治療としては、AchEIs、抑肝散、非定型抗精神病薬などが効果がみられる場合がある。Shigenobuら17)は物盗られ妄想に対するリスペリドンの有効性を報告しているが、筆者らの経験ではリスペリドンが妄想そのものを改善するというより、妄想に伴う攻撃性や興奮を緩和することで訴えの強度・頻度を軽減しているように思われる。認知症における妄想の治療は必ずしもそれを完治させることを目標とせず、妄想に伴う興奮や暴言・暴力など気分や行動の障害を軽減することで、妄想があっても穏やかに生活できる状態にすることを目標にするのがよいと思われる。
【誤認への対応】
DLBにおける誤認への対応は物体誤認と人物誤認を分けて考える。物体誤認は環境が誘発している場合が少なくないため、誘因となる状況(影や暗い場所、誤認の対象になる物)がないかどうかを検討するとよい。人物誤認はADでもDLBでも改善が困難で、対応に苦慮することが多い。AchEIsにより軽減することはあるが、DLBでは治療によって幻視は改善しても誤認は残ることがあり、一般に薬物治療への反応は芳しくない。DLBの人物誤認には辺縁系機能不全による記憶と情動の障害が関与する18)と考えられ、感情を安定させるべく介護者が叱責するのをやめると訴えが軽減することがある。人物誤認は対象となる介護者のストレスが高いので、介護者に対する心理教育とサポートが大切である。
文献
1)松下正明編:老年期の幻覚妄想―老年期精神科疾患の治療論、新世紀の精神科治療3、中山書店、東京、2009年
2)長濱康弘:レビー小体型認知症のBPSD、老年精神医学雑誌、21、858~866(2010)
3)Rubin, E. H., et al. : The nature of psychotic symptoms in senile dementia of the Alzheimer type. J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 1, 16-20 (1988)
4)Hirono, N., et al. : Distinctive neurobehavioral features among neurodegenerative dementias. J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci., 11, 498-503 (1999)
5)Stavitsky, K., et al. : The progression of cognition, psychiatric symptoms, and functional abilities in dementia with Lewy bodies and Alzheimer disease. Arch. Neurol., 63, 1450-1456 (2006)
6)Aalten, P., et al. : Neuropsychiatric syndromes in dementia. Results from the European Alzheimer disease consortium : part 1. Dement. Geriatr. Cogn. Disord., 24, 457-463 (2007)
7)Engelborghs, S., et al. : Neuropsychiatric symptoms of dementia : cross-sectional analysis from a prospective, longitudinal Belgian study. Int. J. Geriatr. Psychiatry, 20, 1028-1037 (2005)
8)Bassiony, M. M., Lyketsos, C. G. : Delusion and hallucination in Alzheimer's disease : review of the brain decade. Psychosomatics, 44, 388-401 (2003)
9)Nagahama, Y., et al. : Classification of psychotic symptoms in dementia with Lewy bodies. Am. J. Geriatr. Psychiatry, 15, 961-967 (2007)
10)小阪憲司、羽田野政治:レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック、メディカ出版、大阪、2010年
11)Ikeda, M., et al. : Dementia-associated mental and behavioral disturbances in community dwelling elderly : findings from the first Nakayama study. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 75, 146-148 (2004)
12)Fuh, J. L., et al. : Neuropsychiatric profiles in patients with Alzheimer's disease and vascular dementia. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 76, 1337-1341 (2005)
13)Nagahama, Y., et al. : The Cambridge Behavioral Inventory : validation and application in a memory clinic. J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 19, 220-225 (2006)
14)Mori, E., et al. : Donepezil for dementia with Lewy bodies : A randomized, placebo-controlled trial. Annals of Neurology (2012), http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.23557/abstract
15)Mori, T., et al. : Correlation of visual hallucinations with occipital rCBF changes by donepezil in DLB. Neurology, 66, 935-937 (2006)
16)松田 実:症候から認知症の人の思いを読む、本間 昭、木之下 徹監修、認知症BPSD―新しい理解と対応の考え方、日本医事新報社、東京、19~39、2010年
17)Shigenobu, K., et al. : A structured, open trial of risperidone therapy for delusions of theft in Alzheimer disease. Am. J. Geriatr. Psychiatry, 11, 256-257 (2003)
18)Nagahama, Y., et al. : Neural correlates of psychotic symptoms in dementia with Lewy bodies. Brain, 133, 568-579 (2010)
認知症は水を飲んで治す時代だ 田原総一朗 ・・・・・・11
第1章 「認知症は水で治る」はほんとうか ・・・・・・17
認知症との出会い ・・・・・・19
認知症は「脳の病気」ではない? ・・・・・・21
異食症は「孤独」が引き起こす ・・・・・・26
水を飲ませていたら、認知症の症状がとれてきた ・・・・・・28
認知症は、症状がとれれば治ったと言える ・・・・・・31
「認知症は治る!」をもっと知ってほしい ・・・・・・34
第2章 認知症とは何か ・・・・・・39
認知症とは「認知の障害」である ・・・・・・41
自分はなぜここにいるかが「認知」できない ・・・・・・43
そもそも「認知」とはどういうものか ・・・・・・46
私たちは言葉を介して世界を認知している ・・・・・・50
意識がはっきりしていないと認知できない ・・・・・・54
田原総一朗は認知症? それとも、もの忘れ? ・・・・・・57
みんな、認知症じゃないかと不安になっている ・・・・・・59
その場にマッチしていれば生理的なボケ ・・・・・・64
第3章 認知症のいろいろな型 ・・・・・・67
夜になると興奮状態になる「身体不調型」 ・・・・・・69
新しい環境になじめない「環境不適応型」 ・・・・・・70
「わからない」という認知の障害が強く出る「知的衰退型」 ・・・・・・74
状況に向かって挑んでいる「葛藤型」 ・・・・・・76
身も心も現実から離れてしまう「遊離型」 ・・・・・・81
その人の古きよき時代に戻ってしまう「回帰型」 ・・・・・・85
第4章 なぜ、認知症に「水」が効くのか ・・・・・・89
水を飲むと覚醒レベルが上がる ・・・・・・91
脱水を防ぐには、どれくらい飲ませればいいか ・・・・・・96
「認知力」を高めるには、「水、運動、食事、排便」が大事 ・・・・・・99
4つの基本ケアで認知症の3分の2が改善する ・・・・・・103
運動している人は認知症になりにくい ・・・・・・106
バランスよく栄養を摂る、噛むことも大切 ・・・・・・109
水を飲まない人には飲ませる工夫を ・・・・・・110
第5章 「認知症かな?」と思ったら ・・・・・・117
水不足は認知の障害を起こす ・・・・・・119
認知の障害がいつ起こっているかを確かめる ・・・・・・122
介護やケアは身内だけではできない? ・・・・・・124
家族にできること、プロにまかせること ・・・・・・127
周囲が「苦痛共同体」を作る ・・・・・・132
その人の中の「前知的な知」を見ることができるか ・・・・・・135
「認知症」は「慢性混乱症」である ・・・・・・137
認知症予防には、趣味を持つことも大切 ・・・・・・141
「認知症かな?」と思ったら、どうしたらいいか ・・・・・・146
認知症の未来を目指して 竹内孝仁 ・・・・・・155
竹内式 認知症の6つの型 その特徴と対処法 ・・・・・・161
<竹内先生に聞く>認知症をもっとよく知るためのQ&A ・・・・・・175
竹内先生が
『夜間に興奮してどなるのは「脱水」を原因としていることがほとんど。必ず水分のことを
考える必要がある』 とおっしゃっているページがありました。
祖母は、祖父が興奮し暴力をふるったりすることがあったので、大変困っていました。
ところが、この先生のコメントがひとつのきっかけとなり、祖父に水分の補給を十分
したところ、祖父が興奮することがほとんどなくなりました。
残念ながら、通っている病院、またその他で、一切そのようなことは教えて頂いたことは
ありません。 「水分を十分にとる」。 たったこれだけのことなのに、入院中、興奮したり
すると、お薬を飲まされたり、注射をされ、おとなしくさせられたりしていました。
これは介護向けに発行されている小冊子 「ハナさん」 を偶然読んだ一般の方からの投稿メールである。祖母が、孫(メール投稿者)から教えられたとおりに「水分を十分に取った」ら祖父の認知症の症状が取れたと言うもので、つまり「認知症が治った」と言うもの。このケースは“夜間不穏と言う症状を水分補給で治した”といえる。この他、「ちょっと注意したりすると乱暴する」と言うような症状も、正しく対応すると症状が消える。
ここまで読まれた諸兄は、“たまたま症状が取れただけではないのか?”とか、“これが「治る」ということなのか?” “認知症はどんどん悪くなるだけで治らない病気だろう”など疑問に感じておられると思う。
いや、これは偶然ではなくきちんとした根拠があることなのだ。また精神の病では「その症状が取れることを治った」というのである。
http://jinrokukai.web.fc2.com/2011111.html
小生、高齢者の「自立支援・介護予防の手法」の開発・普及に関わり、そこから「認知症を治す」方法の実践と普及にも関わってきた。最近はこの方法がわずかながら理解され始め、「認知症が治ってきた」というTV放映も時々見られるようになった。とはいえ、まだまだ知られていないのが現実。そこで今回投稿の依頼を受けたのを良い機会に是非紹介しようと思った。しかし、本格的に「認知症を治す」理論を語ればかなり長くなる。今回はその理論の入り口「エキス」だけ(と入っても長くなるが)を紹介し、もし諸兄に関心があり機会があれば再度続きを書くことにする。
1.「認知症」が“治る”とは
認知症になったら治らない、どんどん悪くなるだけ。これは思い込み。特に医師をはじめとする「専門職」にこの考えの人が多い。困ったことでもある。
身体(physical)の病は、“発熱”や“痛み”などの症状が取れても治ったとはいわず、バイタル検査を始め、色々な検査結果が良くなってはじめて「治った」という。
それに対し精神(mental)の病は、症状が取れれば「治った」というのが精神医学の常識である。統合失調症(旧・精神分裂病)では治療によって幻覚(幻聴、幻視)や妄想などの症状が取れれば「治った」といわれる。
「認知症」は高齢者に多い「精神の病」のひとつであり、したがって認知症の「周辺症状」が取れて認知症になる前の状態に戻ること、これを「治る」「治った」と竹内教授はいう。
2.「認知症」はどういう病気?
では「精神の病」とする「認知症」とはどんな病気か考えてみる。
私たちはある状況のもとに置かれ、その状況に対に対して何らかの行動をとることを求められている。
状況にあった行動をとるためには、先ず状況を正しく「認知」する必要がある。その状況を正しく認知できないことを「認知障害」という。状況を正しく理解できなければ、その状況にマッチした行動が取れない。
状況にマッチしない行動のことを、認知症の「症状」とか、認知症の「周辺症状」という。 “認知心理学”や“認知科学”では「認知」の働きを、『その人が置かれている状況を「認識」「理解」「判断」する「総合的な精神」の働き』と説明している。
3.「認知症」は脳の病気?
いま多くの人が、認知症は脳の病気だと思い込んでいる。しかし昔から「認知症=脳の病気」という原因説に否定的な学者も少なからずいた。
* Tom・ Kitwood 先生 : 「認知症は社会心理的病気」。つまり認知症とはその人がおかれた環境から生まれる心理的病気である。( person centered care 提唱者)
* Busse.E.W 先生 : 認知症と脳を結び付けるべきではない。認知症は社会環境が生む病。
* Rotschielde 先生 : 脳の組織学的変化と認知症との間には質的にも量的にも厳密な関係はない。
* 新福 尚武 先生 : 認知症は、精神構造の解体によるもの。認知症の進行には脳の器質的変化は関係ない。
* 金子 仁朗、新福 尚武 : 認知症とは、生理的なボケが、重い病気や寝たきり、重いストレス、心的外傷(トラウマ)などの「外因」によって「病的なボケ」になったもの。
* 竹内 孝仁 先生 : 認知症とはその人がおかれた環境から生まれる心理的状況と、身体的な状態が関与した病気。
4.認知症を治すためには、「身体的活動」を重視
身体活動とは、“年をとって体の動きが鈍くなる”“病気で体を動かせなくなる”“寝たきりで立ったり歩いたり出来ない”などのこと。これが認知症と大いに関係する。
最近の認知症研究・22年間のコホート研究から。
* Abotto 先生 : 1日2マイル、週2~3日歩いている人は、その習慣のない人に比べ認知症発現率は42%低い。
* Scameas 先生 : 余暇活動を行う人は、余暇活動を行わない人に比べ認知症発現率が38%低い。
* Helmer 先生 : 3つ以上の余暇活動を行う人は、行わない人に比べ80%低い。
5.なぜ「体の動き」が認知症と関係するのか
“認知心理学”や“認知科学”では、「人は体を動かすことにより周囲の状況を認知している」という。逆に言うと、「体が動かないと周囲の状況を認知できない」となる。
高齢者の活動性を失わせる(動きが鈍くなる)要因は、
1)脱水(水分不足)
人の体の6割は水分。これが不足すると「脱水症」となり動きが鈍くなる。意識レベルも低下する。(ちなみに、「熱中症」は「脱水症」のことである)
2)低栄養(栄養不足)
一日に必要な食事量が不足したり、食べても消化吸収が悪いと「低栄養」となり、「低体力」となり、体の動きを失わせる。消化吸収は胃腸の働きが正常でなければならず、「便秘」や長期の「下痢」は起こさぬようにしなければならない。
3)運動不足、寝たきり
体を動かすことが億劫の人、家に閉じこもっている人など、これら「運動不足の人」 は認知能力を失わせる。また運動不足は食欲低下にもつながり、二重に認知症に関係する。
「認知症」は、自分の置かれている状況が理解できず(認知障害)、状況にマッチしない行動を取る(認知症の周辺症状)。「認知症」は「認知障害」が原点。
高齢者は体の動きが鈍くなると「認知症発現率」は高くなる。からだの動きが良いためには、水分の確保、栄養の確保、栄養を確保するために排便リズムの確保、運動不足にならないことが必須である。
「認知症」には先ず何より、みず(水分)、めし(栄養)、くそ(排便リズム)、運動、が重要で、それを実践すれば「認知症」の60%が治るという実績が出ている。
「認知症」を治すには、他に「役割」「社会関係」の要素もある。そして何より「アセスメント」が重要である。と今回はここで終わるが、これらについては機会があれば書くと言うことで。
http://www.aricept.jp/alzheimer/e-clinician/vol59/no608/sp08_02.html
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幻覚・妄想・誤認の治療とケア
【幻覚への対応】
どんな認知症であれ、まず身体疾患・内科的問題(感染、心不全、脱水、電解質異常、疼痛など)の有無を評価して治療することが先決である。ストレスとなる環境因子に対する介入を行うことも大切である。これらの対処だけでせん妄や幻覚が軽快することがある。また薬剤性幻覚も見逃してはならない。抗コリン作用のある薬剤(総合感冒薬、三環系抗うつ剤、尿失禁治療剤など)、抗不安薬、睡眠導入剤、H2阻害剤、抗パーキンソン薬などは認知症高齢者では幻覚を誘発する可能性がある。
ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AchEIs)はAD、DLBともに有効であり14)、幻視の改善が期待できる15)。また漢方薬の抑肝散や抑肝散加陳皮半夏が効くこともある。
しかし攻撃性や不安を伴っていなければ、必ずしも幻視を消すことを目標とする必要はない。DLBではある程度病識が保たれていることも多く、本人に「幻視があっても悪さはしないから大丈夫ですよ」と安心させる指導をしたり、本人や家族が幻視に触る(そうすると消えることが多い)対応をするなどで、幻視があっても訴えが減少して生活障害が改善することがある。
幻覚が攻撃性や不安・不穏を伴う場合には非定型抗精神病薬の使用を検討する。クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどを少量から使用するが、認知症では保険適用外であり、死亡率も高める可能性があるので、家族や本人に事前に説明し了解を得る必要がある。
【妄想への対応】
ADの人が盗害・被害妄想を呈する心理的背景として、物事が思うように運ばないことから生じる不全感や不安、家族の態度が以前とは変わってくることによる寂しさや疎外感があるように思われる16)。それらの不安、不満が周囲への反発や被害者意識に転じるとき、「自分ではなく、相手が悪い」との訴えになるのは自然な感情の流れとして了解できる。したがって妄想に対する対応としてまず重要になるのは、患者の訴えの奥に流れる孤独感、不全感を汲み取り、その辛さに寄り添うことであろう。表面的な攻撃性に周囲の人が反発するのではなく、訴えを共感的に聞くことで、物盗られ妄想が軽減することはしばしばある。ただし心理社会的要因はあくまで一因子にすぎず、介護者の努力で全ての妄想が改善するわけではないが、心理要因が関係することを念頭において周囲が試行錯誤することは大切である。
ADやDLBの妄想に対する治療としては、AchEIs、抑肝散、非定型抗精神病薬などが効果がみられる場合がある。Shigenobuら17)は物盗られ妄想に対するリスペリドンの有効性を報告しているが、筆者らの経験ではリスペリドンが妄想そのものを改善するというより、妄想に伴う攻撃性や興奮を緩和することで訴えの強度・頻度を軽減しているように思われる。認知症における妄想の治療は必ずしもそれを完治させることを目標とせず、妄想に伴う興奮や暴言・暴力など気分や行動の障害を軽減することで、妄想があっても穏やかに生活できる状態にすることを目標にするのがよいと思われる。
【誤認への対応】
DLBにおける誤認への対応は物体誤認と人物誤認を分けて考える。物体誤認は環境が誘発している場合が少なくないため、誘因となる状況(影や暗い場所、誤認の対象になる物)がないかどうかを検討するとよい。人物誤認はADでもDLBでも改善が困難で、対応に苦慮することが多い。AchEIsにより軽減することはあるが、DLBでは治療によって幻視は改善しても誤認は残ることがあり、一般に薬物治療への反応は芳しくない。DLBの人物誤認には辺縁系機能不全による記憶と情動の障害が関与する18)と考えられ、感情を安定させるべく介護者が叱責するのをやめると訴えが軽減することがある。人物誤認は対象となる介護者のストレスが高いので、介護者に対する心理教育とサポートが大切である。
文献
1)松下正明編:老年期の幻覚妄想―老年期精神科疾患の治療論、新世紀の精神科治療3、中山書店、東京、2009年
2)長濱康弘:レビー小体型認知症のBPSD、老年精神医学雑誌、21、858~866(2010)
3)Rubin, E. H., et al. : The nature of psychotic symptoms in senile dementia of the Alzheimer type. J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 1, 16-20 (1988)
4)Hirono, N., et al. : Distinctive neurobehavioral features among neurodegenerative dementias. J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci., 11, 498-503 (1999)
5)Stavitsky, K., et al. : The progression of cognition, psychiatric symptoms, and functional abilities in dementia with Lewy bodies and Alzheimer disease. Arch. Neurol., 63, 1450-1456 (2006)
6)Aalten, P., et al. : Neuropsychiatric syndromes in dementia. Results from the European Alzheimer disease consortium : part 1. Dement. Geriatr. Cogn. Disord., 24, 457-463 (2007)
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8)Bassiony, M. M., Lyketsos, C. G. : Delusion and hallucination in Alzheimer's disease : review of the brain decade. Psychosomatics, 44, 388-401 (2003)
9)Nagahama, Y., et al. : Classification of psychotic symptoms in dementia with Lewy bodies. Am. J. Geriatr. Psychiatry, 15, 961-967 (2007)
10)小阪憲司、羽田野政治:レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック、メディカ出版、大阪、2010年
11)Ikeda, M., et al. : Dementia-associated mental and behavioral disturbances in community dwelling elderly : findings from the first Nakayama study. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 75, 146-148 (2004)
12)Fuh, J. L., et al. : Neuropsychiatric profiles in patients with Alzheimer's disease and vascular dementia. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 76, 1337-1341 (2005)
13)Nagahama, Y., et al. : The Cambridge Behavioral Inventory : validation and application in a memory clinic. J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 19, 220-225 (2006)
14)Mori, E., et al. : Donepezil for dementia with Lewy bodies : A randomized, placebo-controlled trial. Annals of Neurology (2012), http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.23557/abstract
15)Mori, T., et al. : Correlation of visual hallucinations with occipital rCBF changes by donepezil in DLB. Neurology, 66, 935-937 (2006)
16)松田 実:症候から認知症の人の思いを読む、本間 昭、木之下 徹監修、認知症BPSD―新しい理解と対応の考え方、日本医事新報社、東京、19~39、2010年
17)Shigenobu, K., et al. : A structured, open trial of risperidone therapy for delusions of theft in Alzheimer disease. Am. J. Geriatr. Psychiatry, 11, 256-257 (2003)
18)Nagahama, Y., et al. : Neural correlates of psychotic symptoms in dementia with Lewy bodies. Brain, 133, 568-579 (2010)
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