米島勉のセカンドオピニオン

ここでは,広い意味で健康に関するセカンドオピニオンを考えてみたいと思います。

金に転んだ八千草薫と三国連太郎―越えてはならぬところを越えてしまった

2009年06月04日 | Weblog

 最初にお断りしておきますが,八千草薫も三国連太郎も決して嫌いなわけではありません。むしろファンといってもいいでしょう。
 しかし,この二人は,ある「健康食品」のテレビコマーシャルに出演したことで,俳優が決して越えてはならない一線を越えてしまったのです。
 俳優は,有名であればあるほどテレビCM出演に際して守らなければならないモラルが求められます。それは,特定のメーカーあるいは特定の商品を名指しで推薦してはならない,ということです。なぜいけないかというと,メーカーや製品を特定して推薦するからには責任が求められる,ということです。どこまで責任が求められるか,ということは別に放送コードで規定されているとは思いませんが,効きもしないいわゆる健康食品のたぐいのテレビCMに出演して,「私はこれを長期服用しています」とか「私はこれを欠かせません」とか「私は一生使い続けます」といえば,一般消費者は八千草薫が,あるいは三国連太郎が本当に愛用しているかのように信じてしまうからです。
 商品名をはっきり特定しましょう。「皇潤」です。主成分は低分子量化したヒアルロン酸だそうです。ここ数年に急成長?したいわゆる「健康食品」の一つで,そのテレビ露出度はすさまじいものです。
 数年前にはわずかなチャネルにわずかな時間スポット広告を挟んでいただけなのに,今や東京12チャネルの2時間映画番組のスポンサーとしてばかりでなく,ほとんど絶え間なくテレビCMを挟んでいます。
 これだけの広告を続けるには,それなりの資金が必要でしょうが,「皇潤」の発売元は大変な資金をテレビに回す余裕ができたものと思われます。いや,見方を変えれば,乾坤一番テレビに打って出て顧客をつかむ戦略に出たとも見られます。そして,それが図に当たったのだと思います。
 そもそも,ヒアルロン酸を「内服して」関節の潤滑機能にどれだけまわるのか,まったく分かっていません。もちろんそういった研究がなされている気配もありません。
 それはそうです。関節の潤滑剤としてヒアルロン酸が機能している,ということは解剖学的に確認されているかも知れませんが,ではヒアルロン酸を「内服して」体内に吸収され,それが選択的に関節部分に集まる,ということはあり得ないのです。なぜなら,ある物質を経口的に服用した場合,まず胃の中で強塩酸の存在下で塩酸の作用を受け,内服したものが高分子量のものであればあるほど多くの場合分解されて低分子量化されます。当然です。低分子量化しなければ細胞膜を通して体内に吸収されないからです。そこが人体のうまくできているところです。
 例えばタンパク質ならば,その構成分子であるアミノ酸まで分解されます。もちろんこの過程には,胃から先の臓器での種々の分解酵素の働きがあってのことですが。そして,タンパク質や炭水化物などの分解物は小腸に至って血液中に吸収されて体内に行き渡るのです。
 ヒアルロン酸は元々吸水性が高く粘性の高分子物質です。とろろ芋みたいなものといってもいいでしょう。経口的に取り込まれたヒアルロン酸,あるいはそれを分解して低分子量化したと称する低分子量ヒアルロン酸であっても,それが小腸で血中に取り込まれる,という保証はまったくありません。いや,皆無のはずです。もしそんなことがあるとすれば,血中に取り込まれた時点で,血液はヒアルロン酸の増粘作用でどろどろになってしまい,血栓を起こしてしまうかも知れません。
 最近では,この矛盾に気付いたメーカーが,ヒアルロン酸の前駆物質と考えられているグルコサミンをヒアルロン酸の代わりに配合した,とする健康食品も流行り始めています。しかし,これも関節部分に選択的に分配されてヒアルロン酸に変化する,といった保証もありません。
 要するに,関節部分には潤滑剤としてのヒアルロン酸がある→加齢と共にこのヒアルロン酸が失われていく→だから,ヒアルロン酸を補充すればよい,という単純な三段論法の図式に根拠を置いているだけで,この連関が本当に起こっているのか,その作用のメカニズムはどうなっているのか,をまったく無視しているのです。どうしても関節にヒアルロン酸を送りたければ,粘度の高い天然のヒアルロン酸を,局部麻酔した上で関節に直接注射すればよいのです。経口内服などという持って回ったプロセスをとるからおかしいのです。もっとも,経口内服であれば,医師を必要としませんし,通院することもありません。手軽であることも販売元の狙いでしょう。
 ですから,ヒアルロン酸製剤のテレビCMには,必ず見えないような小さな字で「これはお客様の感想であって,製品の効果効能を保証するものではありません」と断り書きを入れているのです。しかし,お客様(カモ)と見られているテレビCM視聴者の大部分は高齢者であって,こんな小さな文字に注意を払う人は皆無に近いと思われます。そこが販売元の狙いでもあるのです。ちょうど保険会社の契約書のように,保険会社が免責になるような肝心な部分―契約者にとって損になり,保険会社にとって有利になる部分―のようなものです。虫眼鏡でもなければ,そして根気が無ければ読み切れないような小さな文字の部分と同じ狙いです。
 そして,こんな手口に乗せられる人が多いからこそ「皇潤」の発売元は大発展したわけでしょう。
 奇怪なのは,厚生労働省が,こういった半ば詐欺まがいの商品を黙認していることです。そもそも健康食品の類には効能を謳ってはいけない,という妙な制約まで設けてあるのです。
 つまり,サルノコシカケのようなある種のキノコががんに効く,といって販売したら犯罪なのに,作用するかどうかも分からないものを「健康食品」と称して販売するのは合法なのです。ですから,現下の法律では「ヒアルロン酸を販売すること自体は違法ではない」のです。ただし,カプセルあるいは錠剤といった医薬品を連想させる剤型で販売することには問題があるはずですが,なぜかこの部分はお目こぼしにあっているようです。お客には,カプセルや錠剤で売ることにより,いかにも薬まがいの薬効がある,と思わせているのです。
 そして,「ヒアルロン酸カプセルを売る」というテレビCMに,お客様の感想として「皇潤」を服用したら「階段が楽に上れるようになった」とか,「関節の痛みから解放された」とか,「お客様の声として」いわせておいて,「お客様の個人的感想であって,効果効能を保証するものではありません」と見えないような小さな文字で書き込んで免責の根拠にしているのです。この矛盾に関しては次の機会にさらに書くつもりです。
 こういった手口を使えば,儲かって儲かってしょうがないことになるのでしょう。当然です。原価が幾らか知りませんが,効かないものをいかにも効くと見せかけて売っているのですから。付け加えておけば,CMに出てくるいかにも粘りけのある液体は,食用の贈粘剤,たとえばカルボキシメチルセルロース(CMC)の1~2パーセント水溶液でも見た目は同じです。原価はただ同様です。
 この当然をこのまま見過ごしていてよいものでしょうか。
 金に転んだ八千草薫や三国連太郎の情けない姿を見たくはありません。


キッチンペーパーでマスクを作る?―幼児の工作に過ぎないばかりか,危険だ

2009年05月26日 | Weblog

 新型インフルエンザ・パニックに便乗したマスクの品切れに対応する苦肉の措置として,関西では小学生にキッチンペーパーを利用したマスクの作り方を教えたり,中高生向けには教員が手製のマスクを作って配布したりしています。
 しかし,この措置にはかなりの疑問があります。
 そもそも健常者が,ウイルスが自由に通過するような穴だらけのマスクを着用しても何の効果もないことは,よく知られているはずです。
 それを,子供達が本来の使用目的ではないキッチンペーパーと輪ゴムとホッチキスでマスクのようなものを作っても,インフルエンザ・ウイルスの防止には何の役にも立ちません。残念ですが,こんなマスクでは鼻と口を塞ぐこともできません。
 現在市販されているマスクの大半は花粉症対応であり,よく設計されたものも少なくないのですが,直径の大きな粒子である花粉ならばともかく,電子顕微鏡でしか見ることのできないウイルスに対しては無力です。インフルエンザ感染者の咳とくしゃみで飛散するウイルスが周辺に拡散する量を少なくするのが精一杯なのです。
 ましてや,キッチンペーパー製のマスクは,作らされる子供達には気の毒ですが,おもちゃの域を出るものではありません。
 それどころか,子供達が無邪気にもキッチンペーパー・マスクを信じて,これを着けていればインフルエンザは大丈夫,などと誤解したら悲劇です。
 繰り返しますが,マスクの市場払底から生まれたキッチンペーパー・マスクは意味がないどころか,誤解による感染を広めかねません。


健常者がマスクをかけても予防にならない―誤解の下のマスク景気

2009年05月21日 | Weblog

 WHOによれば,新型インフルエンザはパンデミック寸前の状況だが,パンデミックを意味するフェーズ6までは達していない,とのことです。また,現在のところ毒性は通常の季節性インフルエンザのレベルである,ともいっています。
 日本では,古くからマスクの着用が社会的に認知されており,街中をマスク姿で歩いてもあまり抵抗がないようです。昭和の初め,その頃は真っ黒な厚手硬質のマスクでしたが,着用するとまるでカラストンビ(鳶)に見えたものです。冬には,肩掛けの真っ黒いマントを羽織って,真っ黒なマスクを着用した,文字通りのカラストンビが横行したものです。
 しかし,日本では流行性感冒とも云われるインフルエンザを予防するのに,これまでもマスクが使われてきましたが,マスクは本当にインフルエンザの予防に役立つのでしょうか。
 新型に限らず,インフルエンザがウイルスによるものであることは小学生でも知っています。しかし,それではウイルスとはいったいどのようなものなのでしょうか。この質問になると,かなりの人が答えられないのが現実です。
 多くの病気が細菌によるものであることは,19世紀フランスのルイ・パスツールらの貢献により明らかになり,対細菌の処置によって多くの病気が克服されました。
 しかし,ウイルスは細菌ではありません。細菌でないどころが生物とも云えないのです。その大きさは細菌とは比べようもないほど小さく,電子顕微鏡でしか見ることができません。ですから,ウイルスを濾過性病原体と呼んだ時代もあったのです。
 つまり,ウイルスは通常の濾過法では分離できないのです。
 こんな小さなウイルスを相手にガーゼや不織布で作った穴だらけのマスクを着用しても,何の役にも立ちません。マスクに効用があるとすれば,すでにウイルスに感染した患者が咳やつばきとして排出するウイルスを遠くに飛ばさないだけなのです。患者の咳で飛散したウイルスが唾や痰の乾燥と共に粉末化して空気中に浮遊するようになれば,もはやこれをガーゼのマスクで濾し取ることはできません。ウイルスは乾燥に強いのです。
 ですから,健常者がいくらマスクをしても予防にはならないのです。マスクを付けるとしたら感染済みの患者です。
 それにしても,これほどマスク姿が横行する日本の街は異常です。いや,最初に書いたように日本人はマスク姿に抵抗がないのです。
 今回のメキシコにおける豚インフルエンザに始まる新型インフルエンザでも,日本以外の国ではマスク姿はごく稀です。日本人がテレビを見て外国人は衛生観念が低いから新型インフルエンザが蔓延するのだ,などと考えるのは誤りです。
 彼らの方がむしろ合理的なのです。彼らは意味のないことはしません。それに,マスクを付けた姿は彼らにとって不気味なのです。強盗かも知れないのです。
 5月20日付けの読売新聞朝刊には,新型インフルエンザ対策の各措置に関するEU,米,WHOの立場を表にまとめてあります(14版6面)。
 その表の中のマスクに関する項だけを書き出すと,
1. 非感染者のマスク着用に関しては,EUは効果不明,米国は推奨されない,WHOは不要としています。
2. 感染者のマスク着用に関しては,EUは効果ありそう,着用した感染者が出歩けば感染を広げる,米国は不記載,WHOは着用すべきだ。
 というわけで,マスク自体の効用が疑問視されており,非感染者のマスク着用は無意味とされています。
 それなのに日本では非感染者までマスクを着用するように推奨しています。
こんな馬鹿馬鹿しい話はありません。おかげで街中にマスクは払底して,並んで買うような有様です。
 これで喜ぶのはマスクメーカーだけでしょう。日本中で夏のボーナスの減額が確実とされているのに,マスクメーカーの従業員は大喜びでしょう。
 本当に,日本という国はおかしな国です。日本は厚生労働省に潰されます。


緑青汁1億杯だって?―員数が合わない

2008年11月11日 | Weblog

 主として大麦若葉を原料とする、と称する緑青汁のうちの1つが発売後1年ほどで1億杯を売り上げた、と宣伝しています。緑青汁と書くといかにも汚らしい漢字ですが、緑とか青を単独で使うと特定の製品を暗示させますから、ここでは緑青汁としておきます。
 さて、くだんの緑青汁は、ネットで調べると1回分が3.3グラムとありますから、これを基礎にちょっと計算してみましょう。計算に誤りがあるといけないので、逐次書き出してみます。
 3.3グラムが1杯分で1億杯ですから、粉末として3億3千万グラム(330,000,000 g)になります。キログラム(kg)にすると33万キログラム(330,000 kg))、さらにトンに直すと330トン(330 t)になります。ただしこれは乾燥粉末です。
 多くの植物は90パーセント以上が水分(例えばキャベツは92~93パーセント)ですから、ここでは仮に大麦若葉の水分を90パーセントとしておきます。そうすると、乾燥粉末でなく生の大麦若葉とすれば乾燥粉末の10倍の重量となります。すなわち3千3百トン(3,300 t)です。こんな量は調達可能なのでしょうか。
 ここに興味深い資料があります。中国四国農政局による「有限会社スプラウト島根」の紹介です。この会社は島根県江津市桜江町市山429 (電話0855-92-1233)に所在し、業種は「大麦若葉の製造・販売」です。法人の設立は平成16年11月、資本金は3百万円とあります。
 問題の生産量ですが、資料によるとこの会社は、「年間2回~3回収穫するため、順次播種するとともに、1日当たり20 aで収穫し、生葉で2 t(乾燥後200 kg=0.2 t)を生産している。また、収穫専用機の導入と作付回数を増やすことで生葉で200 tを収穫、乾燥品で20 t生産する予定にしている。乾燥後は、安来市の食品工場で超微粉砕・殺菌加工処理を行い、健康食品会社に原料として販売している。なお、同社は有機JAS認証を取得している。出荷は、殺菌・粉砕し10 kg単位の袋に詰め、医薬品・健康食品製造販売会社や茶製造販売会社、緑茶関連商品販売会社へ直接出荷している」そうです。
 ですから、生葉としてはもちろん、乾燥粉末としても員数が合わないのです。どうやって1年で3,300 t の生葉、330 tの乾燥粉末を調達したのでしょうか。どれだけの作付面積が必要かは、上の資料からでも計算できます。
 もちろん緑青汁の販売会社では、「大麦若葉など…」としており、大麦若葉の調達先も「阿蘇の大地など…」だそうですから、上記の島根の会社とは限りませんし、大麦若葉単独の製品でないことも断っています。しかし、年間330 tの乾燥粉末というのは簡単に調達できる量ではありません。あえて云えば大麦若葉よりも調達しやすく安価な葉緑素含有粉末、たとえばクロレラとかスピルリナなどの方が多いことも考えられます。
 なぜここまで緑青汁に疑問を抱くかと云うと、今の緑青汁ブームが異常すぎるからです。、
 このブログでは以前にも「お客様の感想であり効用ではありません―サプリメントの怪」と題して薬事法に触れずに効能を謳う栄養補助食品の商法に疑問を投じてきましたが、大麦若葉もそのたぐいです。大麦若葉商法がいかに儲かるかは、テレビコマーシャルに見る緑青汁メーカーの占有率で分かります。1億杯売り上げたという会社は、1年前にはほとんど無名の会社でした。いまでは昼の2時間の映画を連日1社でスポンサーになるほどです。ヒアルロン酸を売りまくる会社も同様です。名優と云われる映画俳優に、「私は○○を毎日服んでいます」と商品名を云わせるまでになりました。
 よほど儲かるのですね。これも「効能を謳ってはならない」サプリメントだからこそできることです。成分の百分率も表示する必要はありません。世の中、医薬品を出そうものならC型肝炎で訴えられることもあるのに、サプリメントなら気楽なものです。「お客様の感想」を並べておけば効くも効かないも無関係なのですから。イメージだけ膨らませればいいのです。
 どうも人間は、緑色のものに健康を連想するらしく、ポパイのほうれん草から始まって、たとえば笹の葉エキス、葉緑素、クロレラ、スピルリナと色々の緑ブームが起きました。そして浮かんでは沈み、流行っては廃れてきました。大麦若葉の「お客様」が一生飲み続けると「感想」を述べていても、やがては廃れて忘れ去られてしまうかも知れません。
 いや、そうでないとこのボロ儲けがいつまでも続くことになります。そしてひたすら健康を願う善良な人達が高いお金を払わされることになります。

お客様の感想であり効用ではありません―サプリメントの怪

2008年09月16日 | Weblog

 サントリーのサプリメントのテレビCMでは、画面の上の方に「お客様の感想であり効用ではありません」と白い小さな字で書いてあります。視聴者に見せたいのか見せたくないのか、ともかく控えめに書いてあります。たぶんなるべくなら見てほしくないのかも知れません。視聴者からなにかクレームがついたときに、「テレビCMでちゃんとお断りしています」と逃げるつもりかも知れません。似たような文言を同じように出しているCMが他にも1件ありました(健康家族)。他にもあるのかも知れませんが、共通するのは画面の目立たないところに目立たない大きさと色のフォントで書いてある、ということです。
 私もサントリーのサプリメントを複数服用していた時期がありました。その感想としては他のメーカーよりも良心的かも知れない、と云うことでした。ここで良心的、というのは商品としてその取り扱いが良心的だったというだけの話で、効いたか効かなかったか、と訊かれれば、はっきり云って効きませんでした、ということです。そのサントリーにしてこの有様です。
 もし私が「テレビの宣伝のようには効かなかった」と抗議しても、「お客様のごらんになったテレビCMは、すべてCMに『出演された』お客様の感想ですから」と逃げられてしまうでしょう。
 しかし、「お客様の感想であり効用ではありません」とは、結局このサプリメントが効いた効かなかったかはお客様次第ですよ、当社では効くとは云ってませんよ、ということではありませんか。
純正の医薬品のCMではこんなことは許されないでしょう。頭痛薬の宣伝に「この薬で頭痛が治ったと思ったのはお客様がそう思っているだけで、私どもはそんなつもりで薬は売っていません」
 こんな薬の売り方はあり得ません。とうぜんです。医薬品だからです。それではなぜサプリメントではお客様の感想をいかにも効能のように思わせて売ることができるのでしょうか。サプリメントは、その名の通り栄養補助食品であって直接の薬効は保証していないからです。いや、保証してはならないのです。厚生労働省の定めるサプリメントの定義がそうしているのです。ですから逆に、サプリメントでは効能を謳ってはならないことになっており、その規制は非常に厳しく、外箱から添付説明書に至るまで、また新聞雑誌・テレビCMにいたるまで徹底しており、「癌に効く」などもってのほかで、成人病一般にも「効果がある」といった文言は絶対に入れてはならないのです。実際にこの規則に違反して薬効を謳って逮捕起訴された人も数多くあります。
 ところが最初に挙げたサントリーはもちろんのこと、まったく治験報告がないヒアルロン酸内服カプセルなどでも、いかにも効いたと思わせる「お客様の感想」がまかり通っているのです。これでは一種の詐欺、誇大広告と同じではありませんか。体内に存在して一定の役割を果たしていることが知られた物質でも、それを外部から補給してそれが体内に存在する物質と同じく機能するという例は決して多くはないのです。ヒアルロン酸がいい例です。CMではいかにも粘りけがある液体を見せて、これを服用したら膝の関節に集まって歩行が楽になる、と思わせているだけです。手品ではあるまいし、そんなことはあり得ません。
 それを、あるサプリメントを服用したら登れない階段を楽々登れた、というようなテレビCMを絶え間なく流して、画面に小さく「お客様の感想であり効用ではありません」と書くのはいかがなものでしょうか。有名俳優を使ってCMを作り、これを絶え間なく流して売りつける、というのはよほど儲かるからできることでしょう。
 この点では、サントリーも同じです。各界の有名人を『出演』させていることではヒアルロン酸よりも派手でしょう。いったい『出演料』にいくら払っていることやら。
 お客様が服用してその気になればいいじゃないか、とは無責任過ぎませんか。


ヒアルロン酸は飲んでも効かない―なぜこんなものが横行するのか

2008年06月10日 | Weblog

 ヒアルロン酸は,サプリメントとしては最近のヒット商品でしょう。湿潤剤・保湿剤としての美容分野,医薬品分野などでの利用はかなり古い歴史を持っていますが,最近では関節の潤滑剤の補給に有効と銘打って「飲むヒアルロン酸」なるものがもてはやされています。
 しかし,不思議に思うのは,いったいヒアルロン酸は飲んでも有効なのでしょうか。この問題を考えてみます。
 ヒアルロン酸は,ムコ多糖類と総称されるヘテロ多糖類の一種で,これも古くから知られているコンドロイチン硫酸などと同様な粘稠高分子物質です。植物で云えば粘りけのあるトロロイモのようなものと考えていいでしょう。直感的にいかにも潤滑油かグリースのような滑りが期待できるわけで,実際に関節部分の潤滑液として存在しています。また湿潤性が高く眼の水晶体,皮下にも存在します。
 薬用などに利用されてきたヒアルロン酸は,これまで鶏のトサカが主原料で高価でした。鶏のトサカを集めて煮込んでヒアルロン酸を集めるのです。しかし,鶏のトサカだけでは足りなくなり,現在では乳酸発酵法や遺伝子組み換え細菌による合成法などが導入されています。
 それではこんな方法で製造されたヒアルロン酸をカプセルや錠剤に加工し,経口摂取してどんな効果があるのでしょうか。
 テレビのCMなどでは,ヒアルロン酸のカプセルを飲み続けると関節痛が治り,つらい階段の上り下りも楽になるように見えます。しかし冷静に考えてみて下さい。テレビでは映像の切り貼りでいかようにも編集できるのです。とくに最近のCMの加工度は行き過ぎで,CG技術の向上も悪用されて目に余るものがあります。
 口から飲む(経口摂取)ものは食料も含めてすべて胃内で強い塩酸の洗礼を受け,さらに様々な酵素の作用を受けて分解してしまいます。この分解は,小腸内で吸収可能な大きさまで分子鎖を切断するのが目的です。こうしなければ体内には吸収されないのです。分解されなかった高分子物質はすべて大腸を通じて排出されてしまいます。ですから,高分子であったムコ多糖類も,そのままでは吸収されず,分解されてはじめて体内に取り入れられるようになります。そして体内では,こうして分解された低分子量の物質が,改めて再構築されて筋肉になったり,脂肪になったりするのです。この理屈を逆用して,高分子のヒアルロン酸を何らかの方法であらかじめ分解して比較的低分子量化して,いかにも吸収しやすくしたかのような見せかけも,ヒアルロン酸の宣伝には現れています。
 しかし,残念ながら,いちど分解されてしまったヒアルロン酸の残骸が再構築されてテレビCMで見られるようないかにもねばねばした滑りやすそうな粘液になることはあり得ないのです。これについては,ウィキペディアでヒアルロン酸の項目をごらんになれば,「ヒアルロン酸の経口摂取に関する、科学的実証結果はこれまでのところ存在しない。 ......ヒアルロン酸の基本構造はヘキスロン酸(GlcUA)とヘキソサミン(GlcNAc)の連続であり それぞれのグリコシド結合はα1→3結合が大半であり、アミラーゼで分解されると思われる。 それゆえ経口摂取によって軟骨やマトリックス組織に補充されるという考えは生化学的マジョリティにおいて否定されている。」と書かれています。
 これが現実なのです。量産化された安価なヒアルロン酸製剤を,有名な俳優を何人も起用したテレビCMでいかにも効果があるように見せかけ,高値で売りつける商法は良心的とは思えません。


中国四川省での注射器の使い回しが心配だ―肝炎,HIVの不安

2008年06月05日 | Weblog

大震災に見舞われた中国四川省では,小児を始めとして被災者に感染症の危険が迫っている,としてワクチンの予防接種を始めたようです。
 予防措置として非常によいことではありますが,外から見ていると心配なことがあります。注射器の使い回しです。
 日本でさえ,血糖値検査の針を何百人にも使い回すような非常識な検査職員が存在します。今回の被災者が600万人と云われていますから,現地にそれに見合うだけの注射器が準備されているとは思えません。
 当然注射器の使い回しがありうると思います。感染症ばかりでなく放射性物質の拡散も危険ではありますが,注射器の使い回しによるB型肝炎,C型肝炎,さらにはHIVの感染拡大は被災者以後の世代にも継承されてしまうことが懸念されます。
他国のことでもあり,余計なお世話かもしれませんが,将来感染者が日本人と接触する機会もありうることを考えると,なんらかの勧告なり協力を行っておくことも必要かと思います。


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メタボリックシンドローム・シンドローム―病気を創る厚生労働省

2008年05月17日 | Weblog
 この4月からメタボリックシンドロームの基準が設定され,これに該当する人は一定の指導を受けたり治療を受けたりしなければならなくなりました。正式名称は「特定健康診査・特定保健指導」と云います。具体的には,ウエスト周囲径(へそ周り径),最高・最低血圧,中性脂肪値,空腹時血糖値などの基準を設定して一定期間(6ヶ月)以内に適正値に近づけるように指導する,というものです。これには罰則とも云うべきペナルティを課することが検討されているそうです。そのペナルティとは,期間内に適正値を達成できない人は自己責任を問われ,最大10%増の医療費を自己負担させられる,というのです。対象は,40歳から74歳までの約5700万人,つまり日本の人口の半数近くです。
 しかし,一律の数値基準で日本人の半数をメタボリックシンドローム患者と健常者に分けることができるのでしょうか。
 40歳と74歳では,体力も違えば代謝も変化してきます。絶対に一律で分けられるものではありません。
 特に今回の法制化では,ウェスト周囲径だけが独り歩きはじめ,男性で85㌢以上,女性で90㌢以上という数字だけでメタボリックシンドロームと見なされてしまう,という妙な基準がテレビのコマーシャルまで巻き込んで通用し始めてしまいました。
 東海大学医学部の大櫛陽一教授は,これを“メタボ狩り”と呼んでいます。
大櫛教授によれば,そもそもこのウェスト周囲径自体がおかしいところだらけだそうです。まず,男性よりも女性の方が数値が大きい。このような決め方は世界でも日本だけで,欧州では男性94㌢,女性80㌢,南アジアや中国では男性90㌢,女性80㌢,アメリカでも男性103㌢,女性89㌢とのことです。
 こんな日本の基準に対する評価として,国際糖尿病連合は「日本の基準は奇妙だから使わないように」として,この基準に依拠した論文は認められない,との宣言文を出したそうです。さらに「日本人のウェスト周囲径は男性90㌢,女性80㌢とする」と修正して,日本の基準に基づくメタボリックシンドロームは根本から否定されているそうです。(→文藝春秋07年12月号,302-303頁)
 現状では,日本のメタボリックシンドローム基準推進派と,これに疑問を呈する否定派が真っ向から対立してしまって,いずれもそれぞれの主張を譲らないようです。
 しかし,こんなに論争が多い基準で“メタボ狩り”を始めてしまってよいのでしょうか。
 どうも,これには厚生労働省の思惑が深く関わっているように思えてなりません。残念ながら,日本の厚生労働省は国民の方を向いてはいません。向いているのは仲間内,保身と天下り,そして有力な天下り先としての医療機関と製薬会社。よく知られているように,これまで年金を管理する社会保険庁は厚生労働省の役人にとって金城湯地でした。勝手放題に国民が拠出した保険料を,どうせ50年先の話だとタカをくくって利用者も集まらないホテルを造ったり保養所を建てたりしてきました。ところが本人確認もできない加入記録が5000万件という天文学的数字に上り,国民の怒りを買い,ついには自民公明政権を危うくする事態を招き,とうとう社会保険庁の改組までが日程に上ることになってしまいました。要するに,もはや社会保険庁は厚生労働省の役人にとっての打ち出の小槌ではなくなったのです。この事態が遠からずくることを察知した役人どもがかなり前から練りに練ったのがメタボリックシンドロームという奇妙な病気創成術なのです。もちろん表向きの「国民の病気を減らして,医療費を引き下げる」という大義名分も用意してあります。
 しかし,病気を増やすほど有利なのです。この点は,前のブログに書いたように血圧の上限と下限を引き下げて高血圧症の患者を増やし,降圧薬の売り上げを増やすのと同じ手口です。高血圧症では,血圧の上限を5㍉引き下げるだけで数百万人の高血圧症患者を増やせました。これにより1日に数百万錠の降圧薬需要を増やせました。毎日です。まさに病気を創る厚生労働省なのです。
 こんな基準で国民が一喜一憂するのは,まさにメタボリックシンドローム・シンドロームです。


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病気を作る人々―厚生労働省の恐怖

2008年05月05日 | Weblog
 世界でもっとも売れている薬は何だと思いますか。風邪薬でも胃腸薬でもありません。それは高血圧の薬,すなわち降圧薬です。
 先進国における高血圧人口は総人口の10~15%とされており,日本だけでも1500万人,あるいは3000万人とされています。数字が倍も離れていますが,これは高血圧症の定義にもよります。そのうち診療機関を受診している人だけでも約800~1000万人とされています。1000万人の患者に,たとえば現在用いられているもっともポピュラーな降圧薬の一つであるカルシウム拮抗薬アムロジピン(一般名)5mgを1日1錠服用したとします。それだけで1日1000万錠,保険薬価80.50円として8億500万円が消費されているのです。しかも降圧薬は一度服用を始めたらよほどの改善が見られない限り一日たりとも休むことなく続けなければなりません。1日8億円として年間2920億円,約3000億円が消費されているわけです。
 それではどんな基準で投薬を開始するのでしょうか。それがきわめてあいまいなのです。通常はかかりつけの医院なり病院の医師が開始時期を判断します。判断の根拠となるのは心臓の搏動に伴う収縮時と拡張時の血圧です。
 しかし,よく知られているように,血圧は毎日,朝夕,いろいろな場面でも容易に変動します。医師の白衣を見ただけでも血圧は上下します。ですから,どの時点で高血圧患者と診断するかはきわめてあいまいなのです。
 さらに困ったことに,厚生労働省はこれまでになんども高血圧症の定義域を変更してきました。それも収縮期,拡張期血圧とも低い方へと移行させたのです。その根拠もけっして疫学調査などの確固とした客観的根拠によるものではなく,低く抑えてよければよかろう,程度の理由で引き下げていったのです。
 上限血圧を引き下げれば,とうぜん高血圧症と診断される患者が増えることになります。そうすれば降圧薬はもっと売れるのです。収縮期血圧を5mg引き下げると数百万人高血圧症患者が増える,と言われています。これは血圧の分布がベル型(釣鐘型)であれば当然です。
 では,現在の降圧薬は本当に効果があるのでしょうか。この問題に関しては,アメリカの国立衛生研究所(NIH)と国立心肺血液研究所(NHLBI)が高血圧患者を対象とした史上最大規模の臨床試験 "ALLHAT"(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)を実施しました。その結果は2002年に発表され,アムロジピンなどの降圧薬の効果は利尿薬と同程度である,とされてしまったのです。製薬業界はこの結果に焦り,「降圧薬は利尿薬と同程度の効果がある」ときわめて修辞学的表現にすり替えたのです。つまり「同程度の効果しかない」と言うべきところを「同程度の効果がある」と表現したのです。なぜなら,利尿薬の薬価は降圧薬の数分の一に過ぎないのですから,「同程度の効果がある」として降圧薬を投与すれば,投薬コストは数倍に跳ね上がるのです。
 こういったまやかしが厚生労働省の主導の下で行われているのです。このような偽計が厚生労働省では数多く行われています。この4月から実施されたメタボリックシンドロームの検診義務化もそうです。メタボリックシンドロームについては,改めて書くつもりです。







○○青汁,△△緑汁は安全か―原料がよく分からない

2008年02月06日 | Weblog
 テレビのCMを見ていると,このところ○○青汁とか△△緑汁と称する健康食品(飲料?)の宣伝がさかんです。共通するのは大麦若葉を主原料としているらしく,形は粉末状で水などで溶いて飲むようです。なかにはビタミンやミネラル類も混入されているようです。
 大麦若葉と称するものは,テレビで見る限り大麦若葉を真空乾燥などの方法で乾燥後に粉砕微粉化しているように見受けられます。
 しかし,大麦若葉が一体どこで栽培されて,どのように加工されているのかはテレビCMを見る限り不明です。テレビに出てくるのはほとんどイメージ画像で,大麦畑らしい一面緑の農地が撮されたりしています。
 不思議ではありませんか,本来大麦若葉は,穀物としての大麦を収穫することを目的として栽培しているはずです。若葉のうちに葉を刈り取ってしまえば大麦は採れなくなってしまうでしょう。とすると,若葉を採取するだけの目的で大麦を栽培しているのでしょうか。採算に合うのでしょうか。
 数年前に,大学の農学部と提携して,ある木の葉の薬効性に着目してこれを健康茶に仕立てる技術を開発しました。大学発の技術展示会で発表したところ多数の大手企業がペットボトル飲料として興味を示しました。ところが,彼らが求める供給量はとんでもない数字なのです。最低毎月数トン,それも年間を通じてです。青汁緑汁が乾燥粉末として販売されるにしても,テレビで宣伝する規模であれば,大変な量が必要とされるはずです。結局私たちの木の葉の茶は供給量に限界があって断念せざるを得ませんでした。
 この経験からすれば,青汁緑汁の原料が一体どこでどのように栽培されているのか疑わざるを得ないのです。
 それと薬効ですが,緑色の粉がなにか効果がありそうに見えるについてはかなり古い歴史があり,よく知られた葉緑素やスピルリナが流行を繰り返してきました。ところが葉緑素の細胞膜が硬いことから,実際には吸収も体内での有効利用もされないとされ,このところ不評のようです。また,木の葉としては笹の葉があり,笹の葉を乾燥粉砕したり,抽出したものが流行を繰り返しながら今日に至っています。
 大麦若葉にどのような特別な薬効があるのか分かりませんが,これも一種の流行といえるかも知れません。メーカー側も,薬効に懸念があるからこそビタミンやミネラル類を添加したりしているのでしょう。
 しかし,最大の問題は,テレビCMで宣伝するような販売量の多い品物でありながら,各社が売りまくるだけの原料を一体どこでどのようにして栽培しているのでしょうか。気になってなりません。まさか中国で栽培しているのではないでしょうね。


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血液製剤全般での肝炎訴訟危機―泥沼化の恐れあり

2008年01月15日 | Weblog
 かつては輸血といえば血液そのもの―全血―が用いられてきましたが,現代の輸血では血液をいろいろの成分に分けた血液製剤―分画製剤―が使われるようになりました。症状に応じて必要な成分だけを輸血することにより,貴重な血液を有効に利用しようと云うわけです。
 しかし,分画製剤といえども原料はヒトの血液ですから,もし提供された血液に肝炎ウイルスが含まれていれば,それが分画製剤にも受け継がれる危険性があります。
 フィブリノーゲンによる「血液製剤肝炎訴訟」がその典型です。もっとも,かなり前になりますが,血友病患者のHIV感染訴訟があり,これがミドリ十字の血液製剤による感染訴訟の嚆矢となりました。
 「血液製剤肝炎訴訟」が曲がりなりにも一応落着した現在,共産党系とみられる肝炎訴訟弁護団のターゲットは,血液製剤によらない患者も含めたB型C型肝炎患者の一律救済です。そのことの是非はともかく,この論法を用いると,今後ある期間に製造された血液製剤全般の肝炎患者が含まれることになることが考えられます。すでに,フィブリノーゲンに若干の加工を施したフィブリン糊(止血,組織縫合に使われる)に由来する肝炎は補償対象に含まれましたが,懸念されるのは同じ血液製剤であるアルブミン由来の肝炎です。
 アルブミンはかなり広範囲に用いられる血液蛋白製剤ですが,日本では高齢者の体力回復などにまで安易に使われ,WHOからも非難された経緯があります。アルブミンの製造にあたっては比較的高温に晒されるのでウイルスが混入しにくい,とは云われていますが,現にアルブミン由来のC型肝炎患者もあるのです。ミドリ十字を前身とするウェルファイド,さらにはその後の三菱ウェルファーマ,さらにその後の田辺三菱製薬株式会社は,血液分画アルブミン経由の肝炎を回避するため,遺伝子組み換え酵母菌を使ってアルブミンを産生する方法を開発し,札幌の工場で製品化にこぎつけて厚労省の販売認可も得ております。この遺伝子組み換えアルブミンについては,欧米でも開発が行われていたのですが,治験の途中で酵母菌に起因すると見られる重篤なアレルギーが被験者に見られ,中止になりました。日本の厚労省認可が世界最初と見られます。
 それはともかく,かつては世界でも異常な量の血液由来のアルブミンが日本で使われていたのです。もし,これらの血液製剤全てに由来する肝炎患者を補償対象にするとしたら,天文学的金額が使われることになるでしょう。
 今回の第一次フィブリノーゲン,フィブリン糊由来の肝炎患者の補償に関しては,1人当たり1500~4000万円が支払われ,これには「訴訟費用は含まれない」そうです。つまり,弁護費用は別途国の負担になるのです。現在,弁護費用の公定額は明記されないことになっておりますが,かつては日本弁護士連合会(日弁連)制定の標準弁護報酬額表がありました。この旧表によって試算すると,今回の訴訟だけで弁護団にはざっと50億円が国から支払われることになるはずです。こんな調子で血液製剤由来の肝炎患者,さらには原因の別なく肝炎患者を救済するとなると,その数字は何倍,何十倍にもなるでしょう。これは小さな県の年間予算にも比肩する額になります。もちろん原因となった血液製剤に関与した製薬会社,あるいはその管理責任者である国の責任は重大かも知れませんが,結局支払うのは国民です。こんなことをいつまでも限りなく続けてもよいのでしょうか。





市販の目薬を買う前に

2007年05月22日 | Weblog
 日本人はことのほか目薬が好きなようです。薬局では色とりどりの箱に入った目薬が店の一角を占めています。目薬に関しては,同じく薬好きな韓国よりも圧倒的に多いようです。
 眼が疲れるから,眼が痒いから,眼がショボショボするから,眼が充血するから,などなど色々な理由で市販の目薬を購入使用することが多いようです。ですから,製薬会社も実に多様な目薬を毎月のように新発売しています。
 それでは消費者が目薬を購入するときの商品選択の判断はどこにあるのでしょう。箱の表の商品名やキャッチコピーで選ぶことが多いのではないでしょうか。
 商品名にも,いかにもすっきりするような単語が含まれていることが多く,たとえばクール,爽快,クリヤー,清涼,すっきりといったいかにも疲れがとれるような言葉が使われています。
 問題は値段です。新製品と称するものは当然のように高く,何年か連続して販売されているものは値崩れを起こしています。
 さて,ここで商品を選択する前に,箱の裏側あるいは側面に表示を義務づけられている「有効成分」を見てください。なんと,複数の製薬会社の目薬が,全く同じ成分から構成されていることが少なくないのです。それも1種類や2種類でなく。しかも,同じ成分でありながら値段は30~50%も違っていたりします。同じことは,花粉症対策としての有効成分を含む目薬にもいえます。とくに花粉症用とされる目薬は値段が高くばらつきがあります。
 市販の目薬を買うときは,ぜひとも有効成分を確認してください。もし,差が分からないときは店の薬剤師に確認してください。ただし,店によっては同じ成分なら値段や利潤で薦める場合もありますから注意してください。

“ドリエル”は高すぎる

2007年05月17日 | Weblog
 あえて商品名をあげます。「睡眠改善薬」と称して,寝つきが悪い,眠りが浅い,などの自覚症状を改善する薬として2003年発売開始直後から大ヒットとなっている市販薬です。最大の特長は,いわゆる催眠薬,睡眠薬と異なり副作用も習慣性もほとんどなく,医師の処方箋が必要な「要指示薬」ではなく,薬局で自由に買える(Over-the-Counter,OTC薬)ことです。
 それはいいのですが,成分が塩酸ジフェンヒドラミンで含有量は1回2錠中50mgであることに注目してください。この塩酸ジフェンヒドラミンという薬品は古典的とも云うべき抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)で,過去にはじんま疹などのアレルギー症状に投与されていたものです。したがって,その安全性などはとっくの昔に立証されており,何ら新しい薬品というわけではないのです。抗アレルギー薬として風邪薬にも配合され,副作用として眠くなることが最初から明示されており,風邪薬の服用後に自動車運転をしないよう注意書きされているのは,主としてこの塩酸ジフェンヒドラミンの配合によるものです。ドリエルは,この「眠くなる」欠点を逆手に取ったものといえますが,これも製造販売元エスエス製薬の独創ではなく,アメリカでは1980年代に,ヨーロッパでも90年代には承認販売されていたのです。日本では,エスエス製薬が睡眠改善薬として最初に許可申請し,市販後調査期間を経て2003年4月に販売開始されたのです。
 それでは,値段を見てみましょう。ドリエルの末端販売価格は,12錠1箱で1900円前後です。1回2錠ですから,1回当たり300円程度となります。
 一方,同じく塩酸ジフェンヒドラミンを成分とする抗ヒスタミン剤「レスタミンコーワ糖衣錠」は,ネット通販価格で220錠入り1瓶1300円程度です。もちろん薬局や薬の量販店で自由に買えます。ただし,こちらは1錠当たりの含有量が10mgですから,ドリエル1回分と同じ量を摂るには5錠必要です。ですから,220錠入りであればドリエル44回分に相当します。したがって,睡眠改善薬として服用する場合は1回当たり約30円程度となります。
 つまり,ドリエルの代わりにレスタミンコーワ糖衣錠を服用するようにすれば,コストは10分の1で済むわけです。
 研究開発に数十年の歳月と数千億円といわれる開発費を投じる新薬とは違うのです。ちょっと高すぎるのではないでしょうか。睡眠改善薬としての塩酸ジフェンヒドラミンが「儲かる」と知ったメーカーが続々出現しているのも,この薬が「おいしい」からでしょう。塩酸ジフェンヒドラミン含有の抗ヒスタミン薬をのんでも眠れないが,塩酸ジフェンヒドラミン含有の睡眠改善薬ならば眠れる,というのならなにをかいわんや,でしょう。そういう人は砂糖の錠剤(プラセボの1種として)でも眠れます。

怖いお話

2007年01月08日 | Weblog
ひと月ほど前に,42歳になる女性がしばらくぶりに電話してきました。
どうしたのかと訊いたら,「出産で行きつけの医者で産婦人科の定期検診をしていたが,卵巣がんの腫瘍マーカーの値が上昇して,卵巣と子宮の一部,それに周辺を切除しなければならないと云われ,1週間後の手術日まで決めたんです」というのです。
彼女は,以前会社に勤めていたので,亡くなった僕の妻が卵巣がんだったこと,僕が今医学関連の調査をやっていることを知っていて電話してきたのです。
腫瘍マーカーの名前はCA-125,正常値は35で卵巣がんに特異的に反応する,といわれているものです。
彼女の数値は76,たしかに多少高くはなっています。
僕は即座にキャンセルするように勧めました。
健康状態をかなり突っ込んで訊いたところでは,自覚症状も心当たりもない,というのです。
マーカーだけが高いというのです。
そこで,ともかく待ちなさい,調べてみるから,ということでひとまず電話を切ったのです。
さっそくネットで調べると,このマーカーはたしかに卵巣がんにもっとも反応しますが,子宮内膜症にもある程度反応するので,子宮内膜症の二次的な診断にも有効である,とあります。しかし,彼女は何も自覚症状がないのです。それで,行きつけの産科病院とかに,セカンドオピニオンを貰うように人に云われたから,といって近くの総合病院に行きなさい,と勧めたのです。
ネットで調べると,ある大学病院の付属病院のひとつが近くにあることを確かめました。幸い,僕の甥がその大学の東京の医学部で産婦人科の講師をしていたところなのでちょうどよかったのです。その付属病院の医師をしている助教授を彼女に推薦しました。学会のHPなどで,その助教授と甥がごく親しいことも分かりました。
彼女がその助教授を受診したところ,急いで切る必要はないからマーカーに注意するように,といわれたそうです。投薬などの処置は全く必要なかったそうです。
つい最近になって彼女から電話があり,「マーカー値が37になりました」というのです。正常値が35ですからほとんど正常に戻ったわけです。
しかし,その間何らの治療も行っていないのですから,逆になぜ下がったのかが分かりません。
僕の方は,医学論文のデータベースであるPubMedで,CA-125関連の最近の論文を調べたのです。すると,卵巣がんの場合,このマーカー値は1000とか2000まで上昇することが分かりました。甥が筆頭著者の論文も多数有りました。
そこで,このところ疎遠だった甥のメールアドレスにメールしたら,次のような回答がありました。
「CA-125は,たしかに卵巣がんのマーカーで,子宮内膜症にも反応するが,風邪や月経のような一種の炎症にも反応するから注意してください。治療を行わずにマーカー値が下がることはあり得ない。この患者さんの場合は何らかの炎症があって,それが自然治癒したのでしょう。正常値35に注意していれば大丈夫です。」と教えてくれました。

とすると,最初の産科医院の院長が卵巣と子宮と周辺を切除する,といった根拠は何だったのでしょうか。
こんな怖ろしい話を身近に聞くのは初めてでした。

医者の言葉にはくれぐれもご注意ください。セカンドオピニオンを得ること。米山公啓著「医学は科学ではない」(ちくま新書)はその辺のことも書いています。