米島勉のセカンドオピニオン

ここでは,広い意味で健康に関するセカンドオピニオンを考えてみたいと思います。

メタボリックシンドローム・シンドローム―病気を創る厚生労働省

2008年05月17日 | Weblog
 この4月からメタボリックシンドロームの基準が設定され,これに該当する人は一定の指導を受けたり治療を受けたりしなければならなくなりました。正式名称は「特定健康診査・特定保健指導」と云います。具体的には,ウエスト周囲径(へそ周り径),最高・最低血圧,中性脂肪値,空腹時血糖値などの基準を設定して一定期間(6ヶ月)以内に適正値に近づけるように指導する,というものです。これには罰則とも云うべきペナルティを課することが検討されているそうです。そのペナルティとは,期間内に適正値を達成できない人は自己責任を問われ,最大10%増の医療費を自己負担させられる,というのです。対象は,40歳から74歳までの約5700万人,つまり日本の人口の半数近くです。
 しかし,一律の数値基準で日本人の半数をメタボリックシンドローム患者と健常者に分けることができるのでしょうか。
 40歳と74歳では,体力も違えば代謝も変化してきます。絶対に一律で分けられるものではありません。
 特に今回の法制化では,ウェスト周囲径だけが独り歩きはじめ,男性で85㌢以上,女性で90㌢以上という数字だけでメタボリックシンドロームと見なされてしまう,という妙な基準がテレビのコマーシャルまで巻き込んで通用し始めてしまいました。
 東海大学医学部の大櫛陽一教授は,これを“メタボ狩り”と呼んでいます。
大櫛教授によれば,そもそもこのウェスト周囲径自体がおかしいところだらけだそうです。まず,男性よりも女性の方が数値が大きい。このような決め方は世界でも日本だけで,欧州では男性94㌢,女性80㌢,南アジアや中国では男性90㌢,女性80㌢,アメリカでも男性103㌢,女性89㌢とのことです。
 こんな日本の基準に対する評価として,国際糖尿病連合は「日本の基準は奇妙だから使わないように」として,この基準に依拠した論文は認められない,との宣言文を出したそうです。さらに「日本人のウェスト周囲径は男性90㌢,女性80㌢とする」と修正して,日本の基準に基づくメタボリックシンドロームは根本から否定されているそうです。(→文藝春秋07年12月号,302-303頁)
 現状では,日本のメタボリックシンドローム基準推進派と,これに疑問を呈する否定派が真っ向から対立してしまって,いずれもそれぞれの主張を譲らないようです。
 しかし,こんなに論争が多い基準で“メタボ狩り”を始めてしまってよいのでしょうか。
 どうも,これには厚生労働省の思惑が深く関わっているように思えてなりません。残念ながら,日本の厚生労働省は国民の方を向いてはいません。向いているのは仲間内,保身と天下り,そして有力な天下り先としての医療機関と製薬会社。よく知られているように,これまで年金を管理する社会保険庁は厚生労働省の役人にとって金城湯地でした。勝手放題に国民が拠出した保険料を,どうせ50年先の話だとタカをくくって利用者も集まらないホテルを造ったり保養所を建てたりしてきました。ところが本人確認もできない加入記録が5000万件という天文学的数字に上り,国民の怒りを買い,ついには自民公明政権を危うくする事態を招き,とうとう社会保険庁の改組までが日程に上ることになってしまいました。要するに,もはや社会保険庁は厚生労働省の役人にとっての打ち出の小槌ではなくなったのです。この事態が遠からずくることを察知した役人どもがかなり前から練りに練ったのがメタボリックシンドロームという奇妙な病気創成術なのです。もちろん表向きの「国民の病気を減らして,医療費を引き下げる」という大義名分も用意してあります。
 しかし,病気を増やすほど有利なのです。この点は,前のブログに書いたように血圧の上限と下限を引き下げて高血圧症の患者を増やし,降圧薬の売り上げを増やすのと同じ手口です。高血圧症では,血圧の上限を5㍉引き下げるだけで数百万人の高血圧症患者を増やせました。これにより1日に数百万錠の降圧薬需要を増やせました。毎日です。まさに病気を創る厚生労働省なのです。
 こんな基準で国民が一喜一憂するのは,まさにメタボリックシンドローム・シンドロームです。


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病気を作る人々―厚生労働省の恐怖

2008年05月05日 | Weblog
 世界でもっとも売れている薬は何だと思いますか。風邪薬でも胃腸薬でもありません。それは高血圧の薬,すなわち降圧薬です。
 先進国における高血圧人口は総人口の10~15%とされており,日本だけでも1500万人,あるいは3000万人とされています。数字が倍も離れていますが,これは高血圧症の定義にもよります。そのうち診療機関を受診している人だけでも約800~1000万人とされています。1000万人の患者に,たとえば現在用いられているもっともポピュラーな降圧薬の一つであるカルシウム拮抗薬アムロジピン(一般名)5mgを1日1錠服用したとします。それだけで1日1000万錠,保険薬価80.50円として8億500万円が消費されているのです。しかも降圧薬は一度服用を始めたらよほどの改善が見られない限り一日たりとも休むことなく続けなければなりません。1日8億円として年間2920億円,約3000億円が消費されているわけです。
 それではどんな基準で投薬を開始するのでしょうか。それがきわめてあいまいなのです。通常はかかりつけの医院なり病院の医師が開始時期を判断します。判断の根拠となるのは心臓の搏動に伴う収縮時と拡張時の血圧です。
 しかし,よく知られているように,血圧は毎日,朝夕,いろいろな場面でも容易に変動します。医師の白衣を見ただけでも血圧は上下します。ですから,どの時点で高血圧患者と診断するかはきわめてあいまいなのです。
 さらに困ったことに,厚生労働省はこれまでになんども高血圧症の定義域を変更してきました。それも収縮期,拡張期血圧とも低い方へと移行させたのです。その根拠もけっして疫学調査などの確固とした客観的根拠によるものではなく,低く抑えてよければよかろう,程度の理由で引き下げていったのです。
 上限血圧を引き下げれば,とうぜん高血圧症と診断される患者が増えることになります。そうすれば降圧薬はもっと売れるのです。収縮期血圧を5mg引き下げると数百万人高血圧症患者が増える,と言われています。これは血圧の分布がベル型(釣鐘型)であれば当然です。
 では,現在の降圧薬は本当に効果があるのでしょうか。この問題に関しては,アメリカの国立衛生研究所(NIH)と国立心肺血液研究所(NHLBI)が高血圧患者を対象とした史上最大規模の臨床試験 "ALLHAT"(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)を実施しました。その結果は2002年に発表され,アムロジピンなどの降圧薬の効果は利尿薬と同程度である,とされてしまったのです。製薬業界はこの結果に焦り,「降圧薬は利尿薬と同程度の効果がある」ときわめて修辞学的表現にすり替えたのです。つまり「同程度の効果しかない」と言うべきところを「同程度の効果がある」と表現したのです。なぜなら,利尿薬の薬価は降圧薬の数分の一に過ぎないのですから,「同程度の効果がある」として降圧薬を投与すれば,投薬コストは数倍に跳ね上がるのです。
 こういったまやかしが厚生労働省の主導の下で行われているのです。このような偽計が厚生労働省では数多く行われています。この4月から実施されたメタボリックシンドロームの検診義務化もそうです。メタボリックシンドロームについては,改めて書くつもりです。