米島勉のセカンドオピニオン

ここでは,広い意味で健康に関するセカンドオピニオンを考えてみたいと思います。

金に転んだ八千草薫と三国連太郎―越えてはならぬところを越えてしまった

2009年06月04日 | Weblog

 最初にお断りしておきますが,八千草薫も三国連太郎も決して嫌いなわけではありません。むしろファンといってもいいでしょう。
 しかし,この二人は,ある「健康食品」のテレビコマーシャルに出演したことで,俳優が決して越えてはならない一線を越えてしまったのです。
 俳優は,有名であればあるほどテレビCM出演に際して守らなければならないモラルが求められます。それは,特定のメーカーあるいは特定の商品を名指しで推薦してはならない,ということです。なぜいけないかというと,メーカーや製品を特定して推薦するからには責任が求められる,ということです。どこまで責任が求められるか,ということは別に放送コードで規定されているとは思いませんが,効きもしないいわゆる健康食品のたぐいのテレビCMに出演して,「私はこれを長期服用しています」とか「私はこれを欠かせません」とか「私は一生使い続けます」といえば,一般消費者は八千草薫が,あるいは三国連太郎が本当に愛用しているかのように信じてしまうからです。
 商品名をはっきり特定しましょう。「皇潤」です。主成分は低分子量化したヒアルロン酸だそうです。ここ数年に急成長?したいわゆる「健康食品」の一つで,そのテレビ露出度はすさまじいものです。
 数年前にはわずかなチャネルにわずかな時間スポット広告を挟んでいただけなのに,今や東京12チャネルの2時間映画番組のスポンサーとしてばかりでなく,ほとんど絶え間なくテレビCMを挟んでいます。
 これだけの広告を続けるには,それなりの資金が必要でしょうが,「皇潤」の発売元は大変な資金をテレビに回す余裕ができたものと思われます。いや,見方を変えれば,乾坤一番テレビに打って出て顧客をつかむ戦略に出たとも見られます。そして,それが図に当たったのだと思います。
 そもそも,ヒアルロン酸を「内服して」関節の潤滑機能にどれだけまわるのか,まったく分かっていません。もちろんそういった研究がなされている気配もありません。
 それはそうです。関節の潤滑剤としてヒアルロン酸が機能している,ということは解剖学的に確認されているかも知れませんが,ではヒアルロン酸を「内服して」体内に吸収され,それが選択的に関節部分に集まる,ということはあり得ないのです。なぜなら,ある物質を経口的に服用した場合,まず胃の中で強塩酸の存在下で塩酸の作用を受け,内服したものが高分子量のものであればあるほど多くの場合分解されて低分子量化されます。当然です。低分子量化しなければ細胞膜を通して体内に吸収されないからです。そこが人体のうまくできているところです。
 例えばタンパク質ならば,その構成分子であるアミノ酸まで分解されます。もちろんこの過程には,胃から先の臓器での種々の分解酵素の働きがあってのことですが。そして,タンパク質や炭水化物などの分解物は小腸に至って血液中に吸収されて体内に行き渡るのです。
 ヒアルロン酸は元々吸水性が高く粘性の高分子物質です。とろろ芋みたいなものといってもいいでしょう。経口的に取り込まれたヒアルロン酸,あるいはそれを分解して低分子量化したと称する低分子量ヒアルロン酸であっても,それが小腸で血中に取り込まれる,という保証はまったくありません。いや,皆無のはずです。もしそんなことがあるとすれば,血中に取り込まれた時点で,血液はヒアルロン酸の増粘作用でどろどろになってしまい,血栓を起こしてしまうかも知れません。
 最近では,この矛盾に気付いたメーカーが,ヒアルロン酸の前駆物質と考えられているグルコサミンをヒアルロン酸の代わりに配合した,とする健康食品も流行り始めています。しかし,これも関節部分に選択的に分配されてヒアルロン酸に変化する,といった保証もありません。
 要するに,関節部分には潤滑剤としてのヒアルロン酸がある→加齢と共にこのヒアルロン酸が失われていく→だから,ヒアルロン酸を補充すればよい,という単純な三段論法の図式に根拠を置いているだけで,この連関が本当に起こっているのか,その作用のメカニズムはどうなっているのか,をまったく無視しているのです。どうしても関節にヒアルロン酸を送りたければ,粘度の高い天然のヒアルロン酸を,局部麻酔した上で関節に直接注射すればよいのです。経口内服などという持って回ったプロセスをとるからおかしいのです。もっとも,経口内服であれば,医師を必要としませんし,通院することもありません。手軽であることも販売元の狙いでしょう。
 ですから,ヒアルロン酸製剤のテレビCMには,必ず見えないような小さな字で「これはお客様の感想であって,製品の効果効能を保証するものではありません」と断り書きを入れているのです。しかし,お客様(カモ)と見られているテレビCM視聴者の大部分は高齢者であって,こんな小さな文字に注意を払う人は皆無に近いと思われます。そこが販売元の狙いでもあるのです。ちょうど保険会社の契約書のように,保険会社が免責になるような肝心な部分―契約者にとって損になり,保険会社にとって有利になる部分―のようなものです。虫眼鏡でもなければ,そして根気が無ければ読み切れないような小さな文字の部分と同じ狙いです。
 そして,こんな手口に乗せられる人が多いからこそ「皇潤」の発売元は大発展したわけでしょう。
 奇怪なのは,厚生労働省が,こういった半ば詐欺まがいの商品を黙認していることです。そもそも健康食品の類には効能を謳ってはいけない,という妙な制約まで設けてあるのです。
 つまり,サルノコシカケのようなある種のキノコががんに効く,といって販売したら犯罪なのに,作用するかどうかも分からないものを「健康食品」と称して販売するのは合法なのです。ですから,現下の法律では「ヒアルロン酸を販売すること自体は違法ではない」のです。ただし,カプセルあるいは錠剤といった医薬品を連想させる剤型で販売することには問題があるはずですが,なぜかこの部分はお目こぼしにあっているようです。お客には,カプセルや錠剤で売ることにより,いかにも薬まがいの薬効がある,と思わせているのです。
 そして,「ヒアルロン酸カプセルを売る」というテレビCMに,お客様の感想として「皇潤」を服用したら「階段が楽に上れるようになった」とか,「関節の痛みから解放された」とか,「お客様の声として」いわせておいて,「お客様の個人的感想であって,効果効能を保証するものではありません」と見えないような小さな文字で書き込んで免責の根拠にしているのです。この矛盾に関しては次の機会にさらに書くつもりです。
 こういった手口を使えば,儲かって儲かってしょうがないことになるのでしょう。当然です。原価が幾らか知りませんが,効かないものをいかにも効くと見せかけて売っているのですから。付け加えておけば,CMに出てくるいかにも粘りけのある液体は,食用の贈粘剤,たとえばカルボキシメチルセルロース(CMC)の1~2パーセント水溶液でも見た目は同じです。原価はただ同様です。
 この当然をこのまま見過ごしていてよいものでしょうか。
 金に転んだ八千草薫や三国連太郎の情けない姿を見たくはありません。