米島勉のセカンドオピニオン

ここでは,広い意味で健康に関するセカンドオピニオンを考えてみたいと思います。

血液製剤全般での肝炎訴訟危機―泥沼化の恐れあり

2008年01月15日 | Weblog
 かつては輸血といえば血液そのもの―全血―が用いられてきましたが,現代の輸血では血液をいろいろの成分に分けた血液製剤―分画製剤―が使われるようになりました。症状に応じて必要な成分だけを輸血することにより,貴重な血液を有効に利用しようと云うわけです。
 しかし,分画製剤といえども原料はヒトの血液ですから,もし提供された血液に肝炎ウイルスが含まれていれば,それが分画製剤にも受け継がれる危険性があります。
 フィブリノーゲンによる「血液製剤肝炎訴訟」がその典型です。もっとも,かなり前になりますが,血友病患者のHIV感染訴訟があり,これがミドリ十字の血液製剤による感染訴訟の嚆矢となりました。
 「血液製剤肝炎訴訟」が曲がりなりにも一応落着した現在,共産党系とみられる肝炎訴訟弁護団のターゲットは,血液製剤によらない患者も含めたB型C型肝炎患者の一律救済です。そのことの是非はともかく,この論法を用いると,今後ある期間に製造された血液製剤全般の肝炎患者が含まれることになることが考えられます。すでに,フィブリノーゲンに若干の加工を施したフィブリン糊(止血,組織縫合に使われる)に由来する肝炎は補償対象に含まれましたが,懸念されるのは同じ血液製剤であるアルブミン由来の肝炎です。
 アルブミンはかなり広範囲に用いられる血液蛋白製剤ですが,日本では高齢者の体力回復などにまで安易に使われ,WHOからも非難された経緯があります。アルブミンの製造にあたっては比較的高温に晒されるのでウイルスが混入しにくい,とは云われていますが,現にアルブミン由来のC型肝炎患者もあるのです。ミドリ十字を前身とするウェルファイド,さらにはその後の三菱ウェルファーマ,さらにその後の田辺三菱製薬株式会社は,血液分画アルブミン経由の肝炎を回避するため,遺伝子組み換え酵母菌を使ってアルブミンを産生する方法を開発し,札幌の工場で製品化にこぎつけて厚労省の販売認可も得ております。この遺伝子組み換えアルブミンについては,欧米でも開発が行われていたのですが,治験の途中で酵母菌に起因すると見られる重篤なアレルギーが被験者に見られ,中止になりました。日本の厚労省認可が世界最初と見られます。
 それはともかく,かつては世界でも異常な量の血液由来のアルブミンが日本で使われていたのです。もし,これらの血液製剤全てに由来する肝炎患者を補償対象にするとしたら,天文学的金額が使われることになるでしょう。
 今回の第一次フィブリノーゲン,フィブリン糊由来の肝炎患者の補償に関しては,1人当たり1500~4000万円が支払われ,これには「訴訟費用は含まれない」そうです。つまり,弁護費用は別途国の負担になるのです。現在,弁護費用の公定額は明記されないことになっておりますが,かつては日本弁護士連合会(日弁連)制定の標準弁護報酬額表がありました。この旧表によって試算すると,今回の訴訟だけで弁護団にはざっと50億円が国から支払われることになるはずです。こんな調子で血液製剤由来の肝炎患者,さらには原因の別なく肝炎患者を救済するとなると,その数字は何倍,何十倍にもなるでしょう。これは小さな県の年間予算にも比肩する額になります。もちろん原因となった血液製剤に関与した製薬会社,あるいはその管理責任者である国の責任は重大かも知れませんが,結局支払うのは国民です。こんなことをいつまでも限りなく続けてもよいのでしょうか。