老朽化する「命のビザ」の舞台 旧領事館、修繕めどなく
外交官の杉原千畝(ちうね、1900~86)が1940年、ナチスに迫害されるユダヤ人に発給を続け、約6千人を救った「命のビザ」。その舞台となったリトアニアの旧日本領事館が老朽化している。屋根の一部が壊れ雨漏りもするが、修繕のめどは立っていない。
旧領事館は、リトアニア第2の都市カウナスの中心部にある。39年5月、教育大臣を務めたユオザス・トンクーナスが建て、第2次世界大戦中に日本に貸した。現在は「杉原記念館」として地元の民間基金が運営し、シモナス・ドビダビチュス館長(55)と2人のスタッフが勤めている。
2階建て延べ約360平方メートルで15室あり、「命のビザ」を発給した執務室が再現されている。2012年に5707人(うち日本人4239人)だった来館者数は、14年に1万486人(同9108人)に急増。15年は11月までで約1万5千人(同約1万2千人)に達している。
だが、老朽化で屋根の一部がはがれ落ち、屋根裏部屋は雨漏りがする。外壁もところどころはがれ、亀裂が入る。中庭に植えられた2本の木は、枝切りもされずに放置されている。
館長によると、リトアニアや日本からまとまった資金援助はない。日本からの寄付は少なく、「国際送金すると手数料が高くなり、ためらう人がいる」。記念館の運営は大人3ユーロ(約400円)、学生1・5ユーロの入館料と募金に頼り、修繕する余裕はないという。
在リトアニア日本大使館は取材に対し、地元の基金による修繕のための資金集めを支援する方針を明らかにした。ソ連から独立後の両国の外交関係樹立25周年となる今年、記念館にも目を向けてもらおうと、同館での文化行事も検討中だ。
杉原の出身地・岐阜県八百津町は今年、「命のビザ」の関連資料をユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に申請する。赤塚新吾町長は「具体的なことは決まっていないが、記念館に資金援助ができれば」。ドビダビチュス館長は「建物と庭を修復して千畝に尊敬の念を表し、日本語が話せるスタッフも雇いたい」と話す。(小林孝也)