がんばろう、シニア(団塊世代)

右側のブックマークには私の作ったシニア関連のページを掲載しています。此方もご覧下さい。

死蔵されゆく巨額資産 上級論説委員 大林 尚 「金融老年学」を生かそう

2018-03-09 17:22:58 | シニア

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27622220S8A300C1TCR000/?n_cid=MELMG011

日経デジタルより抜粋

 クイズをひとつ。サザエさんの父、波平さんはいくつか。みずほ総合研究所チーフエコノミストの高田創氏が講演で披露する持ちネタだ。

 

 作中では年寄り扱いされているが答えは54歳。そう明かすと、ほーっと感心したような納得したような反応が返ってくる。なるほど、朝日新聞が4こま漫画にサザエさんを連載した1960年代、日本の名だたる会社の多くは55歳定年制を採っていた。

 当時の男の平均寿命は65歳前後。「世界に冠たる」と厚生労働省が自賛する国民皆年金が確立したのが61年だ。人口ピラミッドは末広がり。経済は高度成長ただ中。人生のなかで年金に頼って暮らす時期を年金期と呼ぶとすれば、波平さんの年金期は10年ほどだ。長生きのリスクという概念など、おそらく微塵(みじん)もなかったに違いない。

 昭和末期から平成にかけて産業界は定年を60歳に延ばした。65歳までの雇用を厚労省が義務づけたのは、つい5年前だ。今や平均寿命は男81、女87。乳幼児期の死亡率の高さを考えれば、もっと長生きする人がたくさんいる。四半世紀を超す年金期もざらだ。

 安倍政権の政策看板のひとつ「人生100年時代」は、いいことずくめ感を醸し出している。だが、だれもが長生きのリスク、なかでもお金にまつわるリスクを意識せざるを得ないのが現実である。

 人口高齢化は一般に一国の貯蓄率を下げる要因になる。しかし実際に金融市場で起こるとみられるのは株式など有価証券の高齢層への偏りだ。加齢にともない無職の人も消費を減らすようになり、貯蓄をあまり取り崩さなくなる可能性が大きいからだ。70歳以上の人が持つ有価証券は2015年の106兆円から35年に468兆円に増えると、みずほ総研は試算する。個人が持つ有価証券のじつに半分。金融資産の高齢化である。

 ここで問題になるのが保有者の認知機能だ。その低下にはさまざまな度合いがある。ふだんの暮らしに大きな影響がない人も、仕組みが込み入った金融商品を前にすれば落ち着いて判断できるとは限るまい。まして認知症を患っている人は500万人だ。30年には総人口の7%、830万人に増えるおそれがある。どんな対応が考えられるか。

 2000年、介護保険と時を同じくして法務省が制度化したのが成年後見人だった。家裁が選んだ後見人は認知症患者などの財産管理と暮らしの手続きをする。ただし患者名義の口座開設や患者の生活に必要なお金の引き出しはしても、元本の保証がない金融商品を運用してはならない。

 みずほ総研の高田氏は一定の前提をおいたうえで、35年に150兆円の有価証券を認知症患者が持つ可能性があると推計する。この巨額資産の何割かが塩漬けになるだけでも、日本経済には重荷だ。

 金融機関は座して待つわけにゆくまい。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は「成年後見の利便性向上について関係省や裁判所と対話を深めたい」と話した(2月15日・全国銀行協会会長記者会見)。判断力が衰えた高齢者にどう向き合うかという難題が念頭にあろう。

 行動経済学はすべての世代が同じように考え、動くのを前提にしている。たとえば認知機能の衰えが投資判断におよぼす影響などは想定していない。この足らざる点を補おうと、金融老年学という研究領域を切り開いた駒村康平慶応大教授らは、思考力や数を処理する力が弱った高齢者が論理より経験と直感を頼りにしがちになる点に着目し、次の仮説を導きつつある。

▼相手の表現のしかたに自己の決定が左右されやすい

▼多くの選択肢への対応が難しくなり、明快な情報と単純な選択肢を好む

▼意思決定を先延ばししがちになり、選ばなかったことへの後悔を感じにくい。手に入れたものは手放したくない

▼ポジティブな出来事や情報を記憶に残し、ネガティブ情報は忘れる傾向がある

 効果と値段を連呼する健康器具やサプリメント。持病があってもOKという保険のうたい文句。BS放送などで目にする高齢者向けとおぼしき通販番組はよくできている。

 もちろん高齢投資家の保護ルールはある。金融機関は(1)相手の目標、知識、経験、資産に適した商品を勧める(2)認知機能が下がった人に複雑な商品は売らない――などだ。だが営業担当者が認知機能の度合いと変化をつかむのは骨が折れる。ひたすら年齢で判断しているのが実態だ。

 「状況がAなら対応はB」式に陥りがちなファイナンシャルプランナーなどの画一的な助言は、さほど役に立つまい。結果として、超高齢だが判断能力が高い人は投資機会を逃し、逆の立場の人は身の丈にあまる金融商品を抱え込むことになりうる。

 金融庁は新行政方針に「退職世代の資産運用・取り崩しをどう幸せな老後につなげるか、金融業がどう貢献できるか検討する」と盛り込んだ。金融老年学の研究に名乗りを上げた三菱UFJ信託銀行は「ビッグデータなどを使って高齢顧客の状況を的確につかめるようにしたい。それに応じて遺言信託の助言や画一ではない運用を丁寧に提案する社員を育てる」(石崎浩二執行役員)のを目標にする。

 経済学のみならず法学、医学などの知恵を結集させてこその金融老年学だ。国の行政にも司令塔が要るだろう。波平さんの余命が40年あっても不思議ではない時代は続く。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿