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映画「ビューティフル・ボーイ」

2019-08-04 10:33:48 | 映画
映画「ビューティフル・ボーイ」第76回 ゴールデングローブ賞(2019年)
監督はベルギー出身のフェリックス・バン・ヒュルーニンゲン。
父デビッドとドラッグ依存症だった息子ニックがそれぞれの視点から描いた2冊のノンフィクションを原作に、家族の愛と再生を描いたドラマ。スティーブ・カレルとティモシー・シャラメが父子を演じる。

もし、自分や家族がドラッグ依存症になってしまったら……? 一見すると、心に突き刺さる重厚なテーマをはらんだ本作だが、その“本質”は全てを包み込む“愛”の尊さ。闘いの日々に、父と息子の“思い出”や“葛藤”が混ざり合い、単なる実話の映画化にとどまらない良質な「父子のドラマ」に仕上がっている。フラッシュバックする過去の温かな日々と、心身がむしばまれていく現在の苦闘……時系列を巧みに組み替え、「8年」という年月の重さを「父から息子への愛」「息子から父への思い」の観点で構成した斬新でエモーショナルな物語は、見る者の心を強く揺さぶるだろう。

身も心もボロボロに崩れていく息子を支え抜き、文字通り「共に生きた」父の愛に驚かされ、胸を打たれるだろう。どんなに振り回され、裏切られても見捨てない――。「子どもだから」なんて言葉では表現できない、“本当の愛の形”が、この映画には宿っている。
更生を試みるたび、禁断症状に屈してドラッグに再び手を出してしまうニック。彼の心のよりどころは、どんな時もデヴィッドだけだった。父と息子として、互いの最大の「理解者」として――8年という時間の中で、2人の結びつきが「再生」へと歩みを進める“つえ”になっていくさまに、心が洗われる。

息子役がシャラメであることは重要だ。ボロボロに堕ちていきながらも、彼はやはり美しい。外見だけでなく、魂の底にある「純粋な美しさ」を感じさせるから、観客も父親と一緒になって彼の再生を信じ、裏切られ、落胆を繰り返す。苦しみは簡単に終わらない。劇的な解決も劇中では訪れない。ただ、彼がいま状況を抜け出し、成功しているという事実だけが救いだ。父親役のスティーヴ・カレルも実にいい。これまでにないほど抑制を効かせた芝居が心に沁みる。

それにしても「問題は“ドラッグ”じゃない。ドラッグは(抱えている)“問題”から逃げる手段なんだ」というセリフにハッとさせられる。アルコールやそのほかの依存症も、根っこは同じだろう。「問題」に気づき、向き合ったときがようやく一歩。ニックにとっての「問題」は、良き場所だったはずの「家庭」にもあった。解決法は結局、当事者にしかないが、周囲が辛抱強く待てば、いつか本人に必ず届く。だってこれは実話なのだから。どんな親子にも、この映画は必要なのかもしれない。(映画.com 中村千晶)


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