昨日の「パクリを考える」の話と繋がってくるんですが、「模倣」とか「影響を受ける」といったことは、結局は「独立した曲として良いものであるか」ということが最終的に重要になってくるため、受け取る側のリスナーとしては、それほど気する必要のないことであると思います。「Over」と「言えずのI Love You」みたいに、似ていたとしてもそれぞれ独立して評価できるほど完成度が高いというパターンなら、たとえ似ていることに気付いても、根本的にそれぞれ良さがあるのだから、リスナーはそれで素直に感動していればいいわけです。「良いと思うけど、似てるから駄目なんじゃないか」といった余計なことは考えなくていいと僕は思います。
しかし、作った本人がこのことを考えるとなると、少々事情が変わってきます。例えばミスチル自身が上記の事実に気付いた場合、「Over」は日の目を見ることなく、お蔵入りさせられていた可能性があるのです。なぜなら、あの曲を作った桜井和寿が、自分の曲が既存の曲に似ていたという事実によって、作曲家としてのプライドを傷つけられ、自分の表現として自信を無くしてしまうからです。まあ実際のところは分かりません。未だに気付いてないのかもしれないし、あえて知っていながら「オリジナル」としての自信を持ってリリースしたのかもしれません。もちろんリスナーとしては全く問題無いことだったのですから、それで正解だったわけですが。
しかし、そこまで自分の曲の良さを信じきることなんて、普通はなかなかできません。僕の場合も、作った曲が既存の曲に似ていたといったことがありましたが、そうなるとやはり自信が無くなるものです。その事情を説明した上で他人に聴かせても、「まあ良いんじゃない?」と受け入れてもらえるとは思うのですが、どうしても怖いというか、なかなか胸を張って「オリジナル」と掲げることができないのです。
このように「模倣」や「影響を受ける」ということに対して、どこにボーダーラインを引くかが、作曲家のプライドであり、ポリシーになるのです。これを持つことで、本能的に自分のオリジナリティが他人に食われることを防いでいるのでしょう。
やはり作曲家というのは、演奏家とかに比べ、ことさらに自分の表現に高いプライド持っているものなのです。なにせ、音楽が形成される上でのスタート地点を担当しているわけですからね。そこは大変に自我が強く表れる領域なのでしょう。
まあ、きっとそういう人の方が、最終的には作曲家に向いているのだと思います。作曲家としての魅力って、単純な技術よりも、いかにオリジナリティのある世界観で表現できているかだと思うので、それを追求するためには、少し「似る」ということに潔癖なぐらいが丁度良いのでしょう。
なので、意図的にパクったり、露骨に似ていることを分かっていながらオリジナルとして発表しちゃうっていうのは、やはり作曲家としてのプライドが無いんじゃないかと思ってしまうし、モラルを著しく欠いているとも思います。アマチュアが遊びでやってるならともかく、プロがこれをやるっていうのは本当にどうかしてます。一体何の為に音楽やってんだと問い詰めたい気分になりますね。
ちなみに、意図的にパクるにしても、ある種のパロディーとか、オマージュ的に他人の作品を借りるというのは、これはあくまで借り物と分かった上でさらに自分の手を加えて新たな解釈を見出すとか、パロディー映画みたいに借り物をネタとして使うということですから、これは「オリジナル」として認められる手法と言えるでしょう。が、これはよっぽどセンスが良くないと、単なる他力本願とみなされてしまいかねないため、これで面白いものを作るのは、想像以上に難しいことでしょうね。
まあ結局は何にしても、「オリジナルで表現する」という、芸術の基本原理に行き付くわけですね。
今日(2/4)このサイトを見つけて、過去ログを今最初から読んでます。これだけ説得力のある文章をほぼ毎日書いているということに驚きです。
さて、表題にもあるようにミスチルのover、それがKANの言えずのI Love Youに似ていることについてなんですが。ちょっと補足したいことがありまして。
95年に発売されたMr. Children [es]というドキュメント本で言及されていたんですが、overはレコーディング時に「2beatでKAN」という仮題がつけられていたそうです。
はじめから意図的なものなのか自然と似てきてしまったからなのかは、今その本が手元にないので確認できませんが・・・
>あえて知っていながら「オリジナル」としての自信を持ってリリースした
というのは間違いないと思います。
桜井和寿という人は、自分のメロディーセンスに絶対的な自信がある人なんでしょうね。
ちなみに僕はミスチルがきっかけで頻繁にポップスを聴くようになりました。くるりも好きでよく聴いてます。
はじめまして、mobitさん。
ええ、ほんとに毎日更新は大変なんですよ。それでも読者がいてくれるのですから、全力で書きつづけております。
なるほど、「over」に関しては桜井さんは知ってたんですね。しかし意図的に似せたのだとしたら、本当に凄い自信ですね。結果的に名曲なのだからいいんですけど、僕にはちょっと怖くて真似できないなあ…。
では、これからもヨロシクお願いしますね。