囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

川端康成「名人」

2019年02月03日 | 雑観の森/芸術・スポーツ






名作と名解説 の巻】

黒 木谷  實七段
  本因坊秀哉名人
コミなし、237手完、黒5目勝ち。
昭和13年6月26日から同12月4日まで。

■持ち時間各40時間、延べ15日間にわたって打ち継がれた空前絶後の一局。

■ノーベル文学賞作家、川端康成本人が新聞社から観戦記者を依頼され、64回にわたって連載した。わたしの手元にある新潮文庫の小説「名人」は、昭和63年12月25日の33刷版。定価240円。

■裏表紙に「盤上の一手一手が、終局に向かって収斂されていくように、ひたすら〝死〟への傾斜を辿る痩躯の名人の姿を、冷徹な筆で綴る珠玉の名作」とあります。

■わたしは文芸評論家、山本健吉(1907-88年)の巻末解説も好きです。

「誰もが予想できなかった黒百二十一の奇手が大きく響き、その手が名人を怒らせ、また動揺させ、そして白百三十の運命的な敗着を導き出し、すべてを決してしまうまでの径路は、劇的なクライマックスからカタストロフィーへの急坂のような傾斜として、強く印象づけられるのである」
「『不敗の名人』が敗れた。それは名人によって代表される『いにしえ』の世界の崩壊であった」
「碁でも将棋でも、その後スポーツと同じように、選手権を争う仕合と化してしまって、もう秀哉名人のような、古風な『芸道』の人として対局に臨む人はなくなった」

■どうですか。この古典芸能のような美文調の文体。わくわくしませんか。好悪分かれるところでしょうが、昭和の文芸評論はそれ自体が文学作品の高みにあったと、わたしは思います。

めいじん 「川端文学」の名作の一つ。十数年がかりで完成した。「不敗の名人」が敗れる姿を、敬尊の念を持って描いた。生死を賭けた孤高の敗着に「いにしえの日本文化への挽歌」「芸術家の理想像」を重ねた作品。女性を描くことが大半の川端が、あえて挑んだ異色のテーマで、大きな反響を呼んだ。

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