【悲劇は人生肯定の最高の形式である(ニーチェ) の巻】
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■物語「忠犬フィリップ」(昭和10年/要旨)
世界大戦の時のことです。
ロンドンから沢山の出征兵士が、
ロンドンから沢山の出征兵士が、
ベルギーへ、ベルギーへと送られてゆきました。
ジョージは予備歩兵少尉で、勇敢な青年でありました。
招集令状が来るとすぐ、出勤している会社から入隊してしまいました。
招集令状が来るとすぐ、出勤している会社から入隊してしまいました。
しかし停車場についてから、ふと思い出したのは、
下宿へおいてきた愛犬のフィリップのことでした。
「あっ、フィリップを部屋の中へ、鍵をしたまま入れて来てしまった」
そう思うと、さあ、心配です。
「あっ、フィリップを部屋の中へ、鍵をしたまま入れて来てしまった」
そう思うと、さあ、心配です。
ジョージは下宿のおばさんに電話を掛けます。
電話口でいつものように口笛を吹きます。
愛犬はワン、ワン。
おばさんの手から飛び降り。
窓から外へ飛び越えていってしまいました。
ジョージ少尉をのせた列車は、
ロンドンを発車して、
ドーバー駅へと全速力で走っていました。
「あれ、あれ、白いものが飛んでくる。何だろう」
「犬だ、犬だ」
列車いっぱいにつまった兵士たちは、
「あれ、あれ、白いものが飛んでくる。何だろう」
「犬だ、犬だ」
列車いっぱいにつまった兵士たちは、
さわぎはじめました。
しかしフィリップの姿は、
しかしフィリップの姿は、
見る間に小さく小さくとりのこされてしまいました。
ドーバーの駅につきました。
少尉がホームを歩いていると、
少尉がホームを歩いていると、
突然、嵐のような速さで、飛びかかってきたものがあります。
感激のあまり、固く固くフィリップを抱いて泣いてしまいました。
それが上官の耳に入り、
フィリップは軍用犬として
戦地につれていかれることになりました。
主従一緒に働いたのも束の間、
ジョージ少尉は名誉の戦死をとげてしまいました。
主人を失ったフィリップの悲しみようは、
いじらしいほどでした。
墓から一歩も離れず、死んでいきました。
兵隊たちはこれをみて、
声をあげて泣いたということです。
「金子光春全集 第八巻」より
◇
■反骨と離群の詩人、金子光晴(1895~1975年)は戦前、少年少女雑誌に多くの童話を書き、その数は55編に及びました。「忠犬フィリップ」は1935(昭和10)年、婦人子供報知に発表したものです。第二次世界大戦開戦前夜、巧みに世論を誘導したヒトラーの独ナチス政権が新しい法律を次々と作り、戦争準備を進めていた頃です。
■さて現代ニッポンに戻ります。政権中枢と取り巻きの皆さん。その後「ナチス研究」は進みましたか? あの「手口」を学びましたか? 準備万端、整いましたか? そして「同盟強化とその見返り」は今夏の参院選後ですか? 「改正」はいよいよ来年ですか?
■金子の戦争責任については、さまざまな研究発表があります。でも、それは研究者や活動家の諸君がしっかりおやりになればよろしい。わたしにとっては、こういった作品を味わうこと、透徹した歴史認識の醸成に役立てることに意味があるのです。