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FBIクリストファー・レイ長官のバーチャル記者会見におけるジョージ・フロイド氏の押さえつけ死に関する社会不安に関する声明発言や起訴の法的取組みを検証(その2)

2020-06-10 18:27:24 | 国家の内部統制

Last  update 12 June ,2020

ジョージ・フロイド氏を悼む市民デモ

 筆者の手元に連邦司法省FBIの6月4日付けのリース「ジョージ・フロイド氏(George Floyd)の押さえつけ死にかかる社会不安に関する声明発言」が届いた。(筆者注1)この米国だけでなく海外の強い関心とりわけ著しい人種差別が警察等法執行機関でおこなわれている実態と、これに対する連邦政府および法執行機関への批判に応えたものである。

 前回の「ブログ(その1)」で取りあげたとおり、オーストラリア先住民に対する人種差別問題だけでなく、その前提として法執行機関の人権意識の低さは言うまでもなく、今回のFBI長官の声明も前半は迅速な調査と平和的な抗議者を支持する一方で、後段ではアジェンダ—・アンティファに関し、FBIは暴力を扇動し、犯罪活動に従事している個人を特定・調査し、阻止することにも力を注いでおり、さらにFBIが守ろうと誓っているコミュニティの公共の安全を維持することにより、法執行パートナーをサポートすることに注力していると述べている。また全米 56か所のFBIの現地事務所すべてに24時間制の司令部を設置することで、全国の州、地方、連邦の法執行パートナーと緊密に連携するようにしている点等を強調している。

 すなわち、FBIは全国200の「テロ合同タスクフォース」の活動内容や「国家脅威対策運用センター(National Threat Operations Center:NTOC)を通じて、犯罪行為の予兆ヒント、リード、およびビデオによる証拠を求めている等、米国法執行機関の本質的な課題に取り組む姿勢は十分読みとれない内容である。すなわち身内に優しく部下等を鼓舞するのみの内容ともいえる。

 今回は、時間の関係で第Ⅰ項で声明内容につき逐一問題点は指摘せず、記者会見の内容を仮訳するのみで終えるが、機会を改めて検討すべき課題を論じてみたい。

第Ⅱ項で以下の各項目につき、筆者の問題意識をもとに、詳しく解説する。

(1) 元白人警察官デクレ・M.ショービン被告や3名の元警察官の起訴内容とミネソタ州法の適用条文の正確な理解

(2)筆者はジョージ・フロイド氏の警察官4名による不幸な殺人事件の背景には、単なる人種差別や極右や極左集団のかかわりだけでない点に注目し、ミネアポリス市議会においてみられるとおり、警察組織の解散までに至る“Self- Governance”問題に注目した。

 特に、これらの市議会と市長の意見の対立、ミネソタ州司法長官の見解等の混乱の背景には、やはり米国のいまだに続く差別社会の現実にこだわざるを得ないし、ミネアポリスの地元メデイアを見るとその実態は我々が知りえる以上に悲惨である。その現状を理解する。

(3) 今回の事件に関し、筆者はスタンフォード大学法学部の刑事防衛クリニック(指導教授はロナルド・タイラー教授とスザンヌ・ルバン講師)の学生が取り組んでいる、サンタクララとサンマテオ郡の裁判所で犯罪で告発された貧しい人々を法的に裁判での擁護活動の内容に着目した。これらの訴訟には、薬物の使用や所持、暴行、盗難など、さまざまな軽犯罪が含まれる。

(4) 6月8日のハーバード大学JFケネディ行政大学院/科学および国際関係ベルファーセンター(Belfer Center for Science and International Affairs, John F. Kennedy School of Government, Harvard University)の米国の人種差別の根の深さ(システム化された米国の人種差別主義と警察活動(A Historic Crossroads for Systemic Racism and Policing in America)を読んで改めて問題の重要性を認識した。追加的にその要旨を紹介する。(この部分は後日追加更新する)

Ⅰ.6月4日のFBI長官クリストファー・レイ(Christopher Wray)氏の連邦司法省でのウィリアム・.バー司法長官等を伴う仮想記者会見の内容
 2020年5月25日のジョージ・フロイド氏の不幸な死をきっかけに起こった市民の不安に関連する調整努力について、次のように述べた。また、この記者会見では、司法長官ウィリアム・.P・ バー(Attorney General William P. Barr)、ドナルド・W・ワシントン司法省連邦保安官局長(U.S. Marshals Director Donald W. Washington,)、マイケル・カルバハール司法省連邦刑務所局長(Bureau of Prisons Director Michael Carvajal)、テモシー・シエイ麻薬取締局長代行(Drug Enforcement Administration Acting Administrator Timothy Shea)(2020年5月19日就任)、レジーナロンバルド麻薬・アルコール・タバコ・銃器・爆発物取締局の局長代行(Drug Enforcement Administration Acting Administrator Timothy Shea, and Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms, and Explosives Acting Director Regina Lombardo)(同局で初めての女性局長代行である)が同席した。

Christopher Wray長官(中央);後列左からTimothy Shea、Michael Carvajal、William P. Barr、
Regina Lombardo、Donald W. Washington(敬称は略す)(FBIサイトの動画から引用)

 今回の事件は、わが国にとって、また我々が奉仕するすべての市民にとって、非常に困難な時期といえる。まず、亡くなったジョージ・フロイド氏とその家族に心からお見舞い申し上げる。ほとんどの人と同じように、私はフロイド氏の悲劇的な死で終わった事件のビデオ画像に驚き、また深く悩んだ。

 5月25日のフロイド氏の死亡後数時間以内に、FBIは関与した元ミネアポリス警察官の行動が連邦法に違反したかどうかを決定するために犯罪捜査を開始した。我々はその調査を迅速に進めており、我々の正義の追求において、彼らが導く可能性のある場所ならどこでもその事実を追跡する。

 フロイド氏の家族は、ここ数週間で愛する人を亡くした多くの家族のように、現在苦しんでおり、前進する方法を模索している。実際、我々の国全体が前進する方法を模索している。すなわち、この問題は、ジョージ・フロイド氏だけの話ではないからであり、これは、長年にわたって、不当に殺されたか、または保護を委託された人々によって権利が侵害されたすべての人々についてのものである。

 法執行機関が市民、特に少数民族集団(minority community)のメンバーを保護し、奉仕するという最も基本的な義務を果たせなかった場合、すべての人々が身に付けているバッジの価値が損なわれるだけでなく、法執行機関における私たちの構築に懸命に取り組んできた信頼が損なわれることになる。そして、人々が私たちの中に置かれている信頼に応えていないと感じているとき、彼らは発言して抗議したいと思うのは当然である。

 FBIは、合衆国憲法修正第1(筆者注2)の自由を平和的に行使する個人の神聖な権利を保持している。非暴力の抗議行動は、病んでいる民主主義ではなく、健全な民主主義のしるしである。 FBIの使命は、アメリカ国民を保護し、憲法を守ることであり、その使命は二重かつ同時であり、矛盾するものではない。これらの抗議の際にコミュニティと協力する際、法執行機関は、コミュニティの安全とセキュリティを市民の憲法上の権利と市民的自由とバランスさせる必要がある。一方は他方を犠牲にする必要はないのである。

 近年、わが国の一部で見られた暴力、生命への脅威、財産の破壊は、平和的なデモ隊を含むすべての市民の権利と安全を危うくしている。これは止まらなければならない。この状況を悪用して、暴力的で過激なアジェンダ—・アンティファ(ANTIFA)(筆者注3)やその他の扇動者のようなアナキスト—を追求している人々がいる。これらの人々は、平等と正義の追求に加わるのではなく、不和と激動をまき散らすことに着手した。そして私たちを引き離すことによって、彼らは我々を一緒にしようとしているすべての人々、私たちのコミュニティと宗教指導者、選出された当局、法執行機関、そして市民の緊急の仕事と建設的な関与を弱体化させている。多くの人々が、これらの過激派や過激派を通じて引き起こされた暴力に苦しんでおり、我々自身の法執行機関要員の家族の一員を含む。仕事をしている間に殺害されたまたは重大な怪我をした法執行官吏は、すべての人を安全にしようとすることによって公衆への義務を果たした。

 明確にすべきことは、我々は平和的な抗議者を思いとどまらせることを決して試みようとはしていない点である。そして、平和で合法な抗議活動を通じてあなたの声が聞こえるように、そこにいる市民たちに、このことを私に言わせてほしい。

 我々の法執行機関ではあなたの言うことを聞いている。我々は、我々の警察活動(policing)と捜査があなたたち全員にふさわしい平等な正義へのプロフェッショナリズムとコミットメントで行われることを確認する必要がある。しかし、他方で我々は暴力を扇動し、犯罪活動に従事している個人を特定し、調査し、阻止することにも力を注いでいる。

 そのため、FBIでは、我々が守ろうと誓っているコミュニティの公共の安全を維持することにより、法執行パートナーをサポートすることに注力している。全米 56か所のFBIの現地事務所すべてに24時間制の司令部を設置することで、全国の州、地方、連邦の法執行パートナーと緊密に連携するようにしている。
 すなわち、我々は全国200の「テロ合同タスクフォース」(筆者注4)に対し、平和的な抗議活動をハイジャックしている暴力的な扇動者を逮捕し、告発することで地元の法執行機関を支援するよう指示した。全国レベルでは、「国家脅威対策運用センター(National Threat Operations Center:NTOC)を通じて、犯罪行為の予兆ヒント、リード、およびビデオによる証拠を求めている。そして過去数日間、私は米国のさまざまな地域の法執行機関のリーダーと話し合って、必要なサポートを確実に提供し、すべてのコミュニティでFBIがどこにいても支援する準備ができていることを彼らに知らせている。法執行機関やコミュニティ・パートナーとの関係は、これまで以上に重要になっている。なぜなら、アメリカ国民の信頼なくして我々の仕事はできないからである。

 最後に、FBIはアメリカ国民を保護し、憲法を守るという使命を堅持し続けることを改めて表明したいと思う。米国は公民権運動の時代以来、市民の自由と公民権の保護は我々の使命の一部であり、これらのFBIの捜査は、市民的自由と公民権が私たちアメリカ人としての私たち自身の中心であるという単純な理由で、私たちの活動の中心にある。

 「1964年公民権法(Civil Rights Act of 1964)」の前では、連邦政府は公民権の保護を州政府と地方政府に委ねていた。ミシシッピ州バーニング事件と連邦政府とFBIの公民権法が、傍観者から脱却し、有色人すべての公民権を完全に保護し始めた。それ以来、ヘイト犯罪の特定と防止、権力と権限の乱用の調査に努めてきた。FBIの公民権訴訟(civil rights suit)が行う最も重要な作業の1つであり、決して変わることはない。

 本日、私は法執行機関に勤める男性と女性について長い間信じてきたことを繰り返す。完全に見知らぬ人のために彼または彼女の人生を進んで受け入れるには、信じられないほど特別な人が必要である。そして、毎日起きること、そしてそれを行うことは並外れたことといえる。激動の時代にあって、私たちは、生命と安全を危険にさらしている法執行機関のメンバーの勇気を忘れないのである。

Ⅱ.元警察官の起訴とその具体的訴因および州の警察活動をめぐる議会との対立の内容
1.被告たる元警察官4名の起訴と罪状
 被告たるミネアポリスの白人警察官デクレ・M.ショービン被告(Derek Michael Chauvin )は懲戒免職となる一方で、ミネソタ州司法長官のキース・エリソン(Keith Ellison)は6月3日に、ジョージ・フロイドの殺害でショービン被告に対する起訴訴因につき、同州法にもとづき「第3級殺人」(筆者注5)に「第2級殺人」を追加・変更した旨報じた。

Keith Elliso司法長官

 なお、この起訴状の内容につきより正確性を期すため、ヘネピン郡の地方裁判所に出された起訴状にもとづき筆者の責任で条文を引用すべく、補足、仮訳した。(残念ながら、わが国や米国メディアでここまで正確に説明している記事はなかった)。

 訴因は3つである。正確を期するため条文(原文のまま)を併記する。

第一訴因(COUNT Ⅰ)は「第2級殺人:殺意を持った意図的な殺人であるが、事前に計画または計画されていない(Any intentional murder with malice aforethought, but is not premeditated or planned in advance)」:40年以下の拘禁刑
2019 Minnesota Statutes
609.19 MURDER IN THE SECOND DEGREE.
Subd. 2.Unintentional murders. Whoever does either of the following is guilty of unintentional murder in the second degree and may be sentenced to imprisonment for not more than 40 years: 
(1) causes the death of a human being, without intent to effect the death of any person, while committing or attempting to commit a felony offense other than criminal sexual conduct in the first or second degree with force or violence or a drive-by shooting; or
(2) causes the death of a human being without intent to effect the death of any person, while intentionally inflicting or attempting to inflict bodily harm upon the victim, when the perpetrator is restrained under an order for protection and the victim is a person designated to receive protection under the order. As used in this clause, "order for protection" includes an order for protection issued under chapter 518B; a harassment restraining order issued under section 609.748; a court order setting conditions of pretrial release or conditions of a criminal sentence or juvenile court disposition; a restraining order issued in a marriage dissolution action; and any order issued by a court of another state or of the United States that is similar to any of these orders.

第二訴因(COUNT Ⅱ)第3級殺人:著しく危険な行為を行いかつ堕落した気持ちを蘇らせた殺人Perpetrating Eminently Dangerous Act and Evincing Depraved Mind」:25年以下の拘禁刑
609.195 MURDER IN THE THIRD DEGREE.
(a) Whoever, without intent to effect the death of any person, causes the death of another by perpetrating an act eminently dangerous to others and evincing a depraved mind, without regard for human life, is guilty of murder in the third degree and may be sentenced to imprisonment for not more than 25 years.

第三訴因(COUNT Ⅲ)第2級殺人:重度の過失に基づく法外な危険を生じる殺人(Culpable Negligence Creating Unreasonable Risk):10年以下の拘禁刑または2万ドル以下の罰金、またはその併科あり
609.205 MANSLAUGHTER IN THE SECOND DEGREE.
A person who causes the death of another by any of the following means is guilty of manslaughter in the second degree and may be sentenced to imprisonment for not more than ten years or to payment of a fine of not more than $20,000, or both:

(1) by the person's culpable negligence whereby the person creates an unreasonable risk, and consciously takes chances of causing death or great bodily harm to another; or

2.地元メディアの報道内容
  

J. Alexander Kueng, from left, Thomas Lane and Tou Thao.
Hennepin County Sheriff's Office via AP
 

 2020.6.3 Minnesota Public Radio(MPR)「Floyd killing: 2nd-degree murder count for Chauvin; 3 other ex-cops charged」記事他から主要部を抜粋、仮訳する。

 ミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長は5月27日、男性を押さえつけた警官を訴追すべきだとの認識を示した。(5/28 CNN日本語版)

 司法長官はショービン被告に対し2度目の殺人容疑を加えた。彼はまた事件で解雇された他の3人の警官を起訴した。

 ヘネピン郡の刑務所の記録によると、上記3人全員が6月3日の午後に拘留されている。

ショービン被告は週の初めに逮捕された。 4人の元警察官全員の保釈金は100万ドルに設定されている。ショービン被告の最初の公聴会は6月8日である。

 エリソン長官は6月3日の記者会見で「捜査は進行中である。 私たちはすべての証拠の道をたどっているが、ショービン被告に対するアップグレードされた殺人容疑のほかに、検事総長は、また他の3人の元ミネアポリスの警察官であるトーマス・レーン(Thomas Lane)、トゥ・タオ(Tou Thao)、J.アレクサンダー・キュング(J. Alexander Kueng)に対する殺人を支援および禁ずる罪で起訴した」と 各被告の容疑を発表し、捜査の忍耐力を国民に訴えたため、記者団に語った。

 3.ミネアポリス市議会は警察組織の解体を誓う動きと今後の検討課題
2020.6.8 のBBCは次の記事を報じた。
 「13人の議員のうち9人は、法執行機関である警察が人種差別で非難されている都市で「公安の新しいモデル」が作成されるべきと語った。ジェイコブ・フレイ市長は以前、この動きに反対し、群衆からブーイングを引き寄せた。
何年にもわたってそのようなステップを要求してきた活動家たちは、それを転換点と呼んだ。

 しかし、ミネアポリス市は現在、警察活動に関する長くて複雑な議論を予想することができ、構造改革がどのような形をとるのかは不明確なままであると解説者は述べている。

 フロイド氏の警察官の拘束中の死は、人種差別と警察の残虐行為に対する大規模な抗議を引き起こした。」

 ところで、極めて困難な問題に取り組もうとする市議会の中心にあるリサ・ベンダー議長(Risa Bender)は5月31日、ARE.tv (バーチャルおよびVHFデジタルチャンネル11(米国ミネソタ州ミネアポリスにライセンスされているNBC系列のテレビ局)に「我々のコミットメントは、ミネアポリス警察との私たちの市の有毒な関係を終わらせることである」と語った。(注6)

Risa Bender氏

 警察組織の解体や改組問題につき6月8日、同議長がナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の取材記事「ミネアポリスの警察の解体はどのようになるか?」で詳しく解説している。(注7)短い記事であり、感心のある読者は読まれたい。

 なお、同議長のキャリアや市議会議員としての活動内容を公式サイトWikipedia 等で見ておくべきである。

4.ジョージ・フロイド氏の死亡事件に関連し米国のマイノリティ裁判支援に関する米国の大学の取り組み例

 今回の事件に関し、筆者はスタンフォード大学法学部の刑事防衛クリニック(指導教授はロナルド・タイラー教授(Ronald Tyler)とスザンヌ・ルバン(Suzanne A. Luban)講師)の学生が取り組んでいる、サンタクララとサンマテオ郡の裁判所で犯罪で告発された貧しい人々を法的に裁判での擁護活動の内容に着目した(これらの訴訟には、薬物の使用や所持、暴行、盗難など、さまざまな軽犯罪が含まれる)。

Ronald Tyler氏

 ところで、筆者は日頃、同大学からのレポートやニュースなどを読んでいるが、去る6月4日にタイラー教授などの刑法や刑事裁判の専門家であるタイラー教授等が本裁判につきどのように具体的解析を行っているかについての座談会記事「警察の武力行使、訓練、およびジョージ・フロイドの死後の新たな前進の道(Use of Force, Training, and a Way Forward After the Death of George Floyd)」を読んだ。

 さらに、強い関心を持ったのはロナルド・タイラー教授とスザンヌ・ルバン講師の監督のもと、Criminal Defense Clinicの学生は、捜査、証人へのインタビュー、裁判での答弁取引( Plea bargain;Plea negotiation とは、刑事手続において被告側の有罪答弁等と引き換えに訴えの対象を一部の訴因あるいは軽い罪のみに限る合意)、専門家との共同作業、抑止申立て(suppression motions )抑圧運動 (注7)裁判など刑事訴訟のすべての段階でクライアントを代表する。 同クリニックのメンバーは、犯罪で告発されることは個人とその愛する人にとって困難な状況であることを認識しており、裁判のあらゆる段階で、クリニックの目標は、熱心でクライアント中心の表現を提供することといえるとの解説を読んだ点にある。

 後者の問題については機会を改めて論じたいと考え、今回は前者に関する座談会の内容を重要部と思われる部分を抜粋、仮訳するにとどめる。きわめて時間の専門的な内容であり、筆者の翻訳力不足もあり、後日見直したい。

〇ショービン被告に対する刑事訴訟はどれほど強力か?

タイラー:デレク・ショービン被告に対して証明するのが最も簡単なのは、過失殺人(negligent homicide)に関する第2級殺人(609.19 MURDER IN THE SECOND DEGREE.)規定の適用問題である。

 確かに陪審は、妥当な疑いを超えて、ジョージ・フロイド氏の手首を下向きにして歩きながら顔を下にしてジョージ・フロイド氏の首に自身の膝を約9分間押し込むことにより、その時間のかなりの部分で他の2人の警察官を胸と脚に乗せたと結論付けることができる。ショービン被告は、ジョージ・フロイド氏が死んだり、大きな身体的危害を被るという不合理なリスクを不注意に作り上げた。ビデオの証拠、おそらく目撃証言、公式および私的検死に基づく医学的証言はすべて、フロイド氏が最終的に心停止になり、これらの行動のために死亡したという結論を支持する。

 しかし、検察官は実際にははるかに深刻な容疑についての有罪判決を求めているであろう。第3級殺人という事件の当初の容疑は残っている。ここでも、陪審員はショービン被告を有罪とする十分な証拠を持っているであろう。ミネソタ州は、州法上で第3級殺人罪を定めるほんの一握りの州の1つである。

 ショービン被告は、陪審員が人命にとって極めて危険な行為を行ったと判断し、人命を危険にさらしていることを認識し、その危険性を無視した場合に有罪判決を受ける。ショービン被告の行為は人間の生活にとって危険であり、彼はそれを認識していたことは確かに明らかであり、フロイド氏の絶望的な嘆願や見物人の嘆願にもかかわらず、彼はそのリスクを無視した。ニューヨークタイムズのビデオはこれを示している。

〇ショ―ビン被告に対する第2級殺人のより重大な告発と、他の3人の元警察官に対するより軽度の告発について話してもらいたい?
タイラー:明らかに、新しい検察の目玉は第2級殺人容疑である。州のエリソン長官は、それを証明できると思わなければ、自分は刑事告訴を起こさなかったであろうと述べた。確かに、請求は正当化される。
 ショービン被告が重罪殺人の罪を犯していることを証明するために、検察は彼がフロイド氏を殺害するつもりであったことを証明する必要はない。代わりに、彼らはショービン被告が重罪を犯したことを証明しなければならず(この場合、フロイド氏を襲撃した)、彼がその暴行を犯している間、彼はフロイド氏を死に至らせた。現在利用可能な証拠は、暴行(首の圧迫)、その結果としての意識の喪失、そして彼の悲劇的な終焉を示している。

 他の3人の元警察官に対する援助と教訓も同様に強いようである。結局のところ、キュング被告とレーン被告は、足と胴体を押し下げてジョージ・フロイド氏を舗装路に押し付けることに積極的に参加した。タオ被告は警備員として立ち、傍観者がフロイド氏の援助に来るのを防ぎ、彼らの嘆願を無視したのである。

 先週、ウィリアム・バー連邦司法長官が、フロイド氏の死に対する並行した連邦公民権調査の実施を発表したことにも注意することが重要である。ミネソタ州地区の米国弁護士はその努力に責任があります。明確にするために、連邦の告発は行われていない。検察が起訴された場合、それは法のもとで行動していた元警察官がジョージ・フロイド氏を米国憲法によって保護されている権利、この場合は明らかに彼の生命の権利から奪ったという告訴に基づいている。行為が個人の死をもたらした場合には、終身刑または死刑の可能性を含め、刑罰が高まる可能性がある。現時点では、連邦政府の告発が確実に行われるとは限らない。連邦公民権訴訟は現在のトランプ政権ではまれであることに気づくであろう。

〇有罪の確信はどのくらいありそうか?
タイラー:これらすべての有罪を証明する証拠があるに関わらず、また私の告発を切り抜けたにもかかわらず、実際には、多くの人々が知っているように米国でこれら4人の元警官の有罪判決の可能性は薄い。多くの人が抗議して通りに行った元警官に対する告訴は一般的ではなく、有罪の可能性はさらに少ない。有罪になる可能性が少ない理由の1つは、警官が自分たちの人生を恐れていたために合理的に行動したと首尾よく主張したことである。その防御は確かにこれら4人の元警官には利用できないように見えるであろう。また、有罪判決を得るにあたりもう1つの障害は、警察が通常の被告よりも疑いのはるかに高い利益を彼らに与えている多くの陪審員の心の中に保持されている高い地位である。

〇警察の訓練と武力行使の関係について話してもらえるか?

ルバン:警察官の訓練における重大な欠陥問題は、求められる力の程度が「警察が不本意な主体による遵守を強制するために必要とする努力の量」(筆者注8)であるという哲学である。 [https://nij.ojp.gov/topics/articles/overview-police-use-forceで引用された国際警察署長協会の定義による]
 警察は、容疑者の犯罪の性質や不遵守の種類によって保証されるよりも、より深刻なまたは有害な力を使用してしまう可能性がある。このような政策のもう一つの重大なリスクは、警察が抵抗のために容疑者を「処罰」するために力を行使することができるということである。 ジョージ・フロイドが閉所恐怖症を訴えた後、警官が彼をパトカーに押し込んだ後、警官は彼を車から引きずり出し、彼を路上にうつ伏せに押し付けた。3人の警官がひざまずいてフロイド氏の気道と胸に圧力をかけた。フロイド氏が叫ぶと、別の警官が彼を「起きろ。車に乗れ」と挑発したが、警官の首と背中への圧力が続き、彼は立ち上がることができなかった。

〇ショービン被告が使用したフロイド氏の「首の拘束」は、フロイド氏が手錠をかけられていたにもかかわらず、合法であったか?
 ショービン被告は膝を使って「頸動脈拘束」を行い、血管静脈に圧力をかけ、脳への血流を一時的に遮断し、意識を失った。フロイドがぐったりした後、彼がこのプレッシャーを3分近く続けたのをみんな見ている。NBCニュースによると、2015年以来、ミネアポリスの警察官は少なくとも237回首の拘束を使用し、人々を44回意識不明にしていた。ミネアポリス警察当局はNBCに、このホールドは制裁も教えもされていないと語った。

 この種の制御技術は、特に手錠をかけられ、したがって警官に重大な危険を及ぼす場合には、普遍的に合法でなければならない。そのホールドが合法であるかどうかの問題は陪審員によって決定されるが、我々は「ノー」と言うであろう。それは合法ではなかった。この拘束を呼吸を許可するよう懇願する手錠をかけられた男に対して使用することは、公民権侵害、捕虜の命を守る役員の厳粛な義務の違反、および米国憲法に基づく正当な手続きの違反であった。
 この殺害を受けて、多くの警察機関が独自の政策を再検討しており、いくつかのサンディエゴ警察機関など、のど輪攻め(chokehold)と頸動脈拘束の両方を禁止しているところもある。

〇ミネアポリス警察組合は、警察官の発砲を争う予定であることを示している。それは標準的な慣行であるか?
ルバン:はい、警察組合は、検察官が起訴された不正行為が殺人のレベルが上がると判断した場合でも、メンバー警官の熱心な代表者としての役割を見ている。過剰な武力で起訴された警官に代わって組合が擁護、介入することはしばしば成功する。

〇ミネアポリスは公民権調査を開始した。それは重要であるか? またそれはどういう意味か。
タイラー:実は、ミネソタ州人権局がミネアポリス警察の調査を開始した。彼らの目標は、警察署の大きな変更を強制することである。ミネアポリス・スター・トリビューンによると、同州のレベッカ・ルセロ人権委員は、この調査は、部門が全身差別に従事しているかどうかを判断するための過去10年間の政策、慣行、手続きをカバーしていると述べた。人権局は、裁判所によって執行可能な同意命令を交渉したいと考えています。驚くべきことに、ミネアポリス市議会は全会一致でこの調査を歓迎した。

〇フロイド事件は特に特別なものでなない。私たちは、警察がおもちゃの銃と非武装の男女を持つ子供たちを射殺したという報告を読んだ。有色人種に対して使用される過度の力のこのパターンに対処するための推奨事項があるか?

タイラー:特定の推奨事項は、何年もの間、改革者たちによって支持されてきた。リストの一番上にあるのは、警察官に対する市民の苦情を調査し、起訴された警察官に対して、公開の開示と制裁を含む意味のある行動を取り、削除と検察への紹介まで、独立機関に実質的な権限を与えることである。

 明示的な偏見に従事している警官を根絶することは重要であるが、暗黙の偏見に対処することも重要である。

 以下、略す。

5.ハーバード大学JFケネディ行政大学院/科学および国際関係ベルファーセンターの「米国の人種差別の根の深さ:システム化された米国の人種差別主義と警察活動(A Historic Crossroads for Systemic Racism and Policing in America)論文」の概要
後日、追加して更新する。                  

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(筆者注1)2020.6.1付けのWedgeがBBC記事(2020.5.31 「Antifa: Trump says group will be designated 'terrorist organisation'」)を翻訳、引用している。事実関係の箇所のみ引用する。
「ミネソタ州ミネアポリスでは25日、武器を持たない黒人男性ジョージ・フロイドさん(46歳)がデレック・チョーヴィン警官(44歳、5月29日に殺人罪で起訴)に膝で首を9分近く押さえつけられて亡くなった。この事件を受け、アメリカ各地でアフリカ系アメリカ人に対する警察の対応に怒りの声が上がっている。
抗議活動では暴力行為も多発し、各地の大都市で夜間外出禁止令が敷かれた。また、これまでに15州で、州兵が鎮圧に投入されている。アメリカ各州の州兵は、国内の緊急事態に対応するのが任務。
ミネアポリスではフロイドさんの死後、5日にわたって放火や盗難などが横行している。」

(筆者注2) 合衆国憲法修正第1につき米国大使館/国務省の訳文と原文を併記して載せる。
修正第1条[信教・言論・出版・集会の自由、請願権][1791年成立]
連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。

Amendment I
Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition the government for a redress of grievances.

なお、憲法の修正条項(Amendments)とは、アメリカ合衆国憲法本文第5章にもとづき、合衆国議会が発議し諸州の立法部が承認した、合衆国憲法に追加されまたはこれを修正する条項をいう。

(筆者注3) ANTIFAに関しては欧米主要国で大きな問題とされている。ここでは米国の場合をWikipedia から一部引用する。
アメリカ合衆国で最初のANTIFAグループとされているのは、2007年にオレゴン州 ポートランドで結成されたRose City Antifa (RCA)である。RCAは2016年アメリカ合衆国大統領選挙後に、治安当局やドナルド・トランプ大統領の支持者と衝突した。
2020年5月31日、ジョージ・フロイドの死に端を発する騒乱(2020年ミネアポリス暴動など)にANTIFAが関与しているとしてアメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプは自身のTwitterで「アメリカ合衆国は、ANTIFAをテロ組織として認定するだろう」とツイートしたが、CNNは「クレイジーな判断であり合衆国憲法に違反している」との同局の国家安全保障アナリストピーター・バーゲンの見解を掲載し、ロイター通信は、破壊・略奪などの行為は大半が騒ぎに便乗した一般人によるもので特定の政治的勢力が煽動したものは限定的と報じ、FBIは今回の暴動でANTIFAが関与していると発言した。以下略す。
 なお、ANTIFAのこれまで経緯や白人極右によるヘイトクライム(憎悪犯罪)との関係、主な活動については2018年8月22日ニューズウィーク日本版「アメリカで台頭する極左アンティファとは何か──増幅し合う極右と極左(3回連載)」が詳しく参考になる。一部抜粋すると「アンティファとはアンチファシスト(anti-facist)の略称で、人種差別や性差別などに反対する団体である。アメリカには白人警官による黒人容疑者への暴力を批判し、抗議デモで世論を喚起する「ブラック・ライブズ・マター」などの社会運動があるが、これらとの決定的な違いは、アンティファが暴力を辞さない点にある」とある。要するに米国の現状は極右と極左の激しい対立に政治や社会が巻き込まれていることは間違ない。」

(筆者注4) 共同テロタスクフォース(Joint Terrorism Task Forces)を通じて、FBIはテロリスの活動またはテロ活動準備行動等の疑惑活動報告の受取と解決に対する主たる責任を持つものである。

(筆者注5)米国の州で第3級殺人罪を定めている州は、ミネソタ州以外ではフロリダ州、ペンシルバニア州のみである。

(筆者注6)リサ・ベンダ-議長の考えの一端を見ておく(6/8 CNN記事)
「ベンダー氏はミネアポリスの街で知っているように、私たちは警察組織を解体し、コミュニティとともに実際にコミュニティを安全に保つ新しい公共安全モデルを再構築することを約束した。
 ベンダー氏によると、9票の投票で、市議会は市議会議員の13名のメンバーの拒否権を証明する過半数を持つことになる。すなわち、5月31日の誓約は、現在の警察システムが機能していないことを認めたものだという。
 特に、黒人の指導者や、警察が機能していないとするコミュニティの声に耳を傾け、解決策を私たちのコミュニティに実際に存在させるようにする必要がある。解体がどのように見えるかについての詳細を求めて、ベンダー氏はCNNに、警察の資金を地域密着型の戦略にシフトすることを検討しており、市議会は現在の警察署を置き換える方法について話し合うと語った。
 この問題は、警察署を持たないという考えは確かに短期的ではないと彼女は付け加えた。
 ベンダー氏と他の市議会のメンバーは、有権者による911コール(日本でいう110番)の性質を分析したが、そしてほとんどがメンタルヘルスサービス、ヘルスとEMTと消防サービスのためであることが分かった。
 9人の評議員がミネアポリスでの集会で発表を行い、発表のニュースは最初に控訴審により報告された。
 フロイド氏の死と警察の残虐行為に対する全米的な抗議の結果として、警察署を非難するか完全に廃止するよう求める声が一部で高まっていることは事実である。

(筆者注7) 2020.6.8 ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のリサ・ベンダー議員への取材記事(transcript)「ミネアポリスの警察の解体はどのようになるか?」)の内容も読んでおくべきである。
なお、NPRの概要をWikipedia から一部引用する。
 「ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)は1971年4月にアメリカ公共放送社 (CPB)によって設立された。前身はNERN(National Educational Radio Network)。本部はワシントンD.C.にあり、現在はNPRを正式名としている。約900の加盟局に番組を配信、組織化するとともに独自編成によるインターネット放送や、加盟局のストリーミングサービスの代行を行っている。加盟局そのものが独自の組織体であり、編成権は各放送局に委ねられている。加盟局はNPR以外の公共ネットワークから番組の配信を受ける事も出来る(日本語でいうクロスネット局)。
 配信する番組はNPR独自制作のほか、加盟局制作の番組も配信する。独自番組はニュース・文化系が中心であり、通勤時間帯に放送されるワイド番組『Morning Edition』及び『All Things Considered』がある。クラシックやジャズなどの音楽番組も制作している。
 NPRの予算は12%が政府からの交付金、50%が聴取者とスポンサーからの寄付金、残りは財団や大学などから提供される」。明らかに大手民放メディアと異なる。

(筆者注8) 原文は"amount of effort required by police to compel compliance by an unwilling subject"である。

なお、この定義もわかりにくい。参考までに該当箇所を仮訳、補足する。

法執行官が使用しうる力の量

法執行官(警察官)は、出来事・事件を緩和したり、逮捕したり、自分や他人を危害から保護したりするのに必要な力だけを使用すべきである。警察力の使用のレベル、または力の連続体(continuum)としては、基本的な口頭および肉体的拘束、致死的でない力および致死的な力が含まれる。

力の連続体の詳細を参照されたい。

警察官が使用する力のレベルは状況によって異なる。このバリエーションがあるため、武力行使のガイドラインは、警察官の訓練や経験のレベルなど、多くの要因に基づいている。

警察官の法執行の目標は、コミュニティを保護しながら、できるだけ早く管理された状態を取り戻すことである。武力の行使は、警察官の最後の選択肢である。他の慣行が効果がないときのみコミュニティの安全を回復するために必要な行動方針である。

武力行使事件では、対象者が怪我をする可能性があり、警察官は、けが人が医療援助を受け、けが人の家族に通知されるようにする必要がある。

過度の力の行使
正当化または過度と定義される可能性のある警察の武力行使事件の頻度を推定することは困難である。これまで警察が過度の武力を行使した、警察による銃撃や事件の全国データベースはない。このため、2019年1月1日、FBIは全国的な力の使用実績データ収集サイトを運用開始した。

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