部下へのパワハラなど兵庫県の斎藤元彦知事を巡る一連の疑惑で、県議会の調査特別委員会(百条委員会)が実施した職員アンケートの詳細が明らかになった。「知事の顔」を前面に押し出し、マスコミへの露出に強いこだわりを見せる一方、庁内協議や裏方との調整の場面では高圧的な態度に終始した、と複数の職員が回答した。「(俺は)知事やぞ!」。アンケートの記述からは〝裸の王様〟ともいうべき、1期目の新任知事の特権意識がのぞく。
「何が悪いか分かるか?」。昨年7月、県が独自に発行するプレミアム付きデジタル商品券の知事レクの際、資料に目を通した斎藤氏は舌打ちとため息の後に、職員をこう詰問した。
職員が答えあぐねていると、斎藤氏は「知事の肝煎りの事業なのに写真やメッセージがない」ととがめ、PR用のうちわに自身の顔写真を入れるよう指示したという。
あるイベントでは、スタッフ用のポロシャツに目を留めた斎藤氏がMサイズを所望。「新品の在庫がない」と秘書課に返答しても折れてもらえず、すでに着用済みのMサイズを家まで取りに帰り、袋に入れて新品を装って渡した、と記す職員もいた。
兵庫県職員約9700人に対するアンケートのうち4568件の回答を取りまとめた今回の中間報告。斎藤氏のパワハラを見聞きしたと答えたのは約4割に上り、具体的な場面として、イベントの前後や記者会見のための事前の知事レクについての記述が目立った。
「知事が参加するイベントでマスコミが来ないことは許されない」
「『知事の顔』の発信につながることは何より優先」
対外的発信への執着と相まって、「見栄え」への強いこだわりについても複数の職員が言及。イベント時は知事専用の控室、姿見、三面鏡が必須だったという。
一方、職員への接し方では「知事ファースト」ともいうべきエピソードが並ぶ。
斎藤氏が神戸市内のイベント候補地を視察した際、目の前でエレベーターの扉が閉まったため、職員に激高したことがあったという。「お前はエレベーターのボタンも押せないのか」
同様の記述は他にも多数あり、これ以降扉を開けておくための「エレベーター係」が配置されたと記されている。
マスコミ取材に強くこだわりながら、自分の知らないところで報道が出ると、いらだちをあらわにした。ある職員は「空飛ぶクルマ」の関連事業が新聞に載ったとき、斎藤氏が担当者を知事室に呼び、「聞いてない」「空クルは知事直轄。勝手にやるな」と厳しく叱責したと書いた。
喫茶コーナーでの打ち合わせの際、営業時間が過ぎたため店番の女性が退店を求めると、「自分は知事なのに、なぜ出て行かないといけないのか」と怒鳴ったとの記載もある。
アンケートの回答には斎藤氏が気に入らない職員を「飛ばした」という人事権の乱用が疑われる事例も複数ある。百条委は、個々の回答内容の真偽について今後の調査で明らかにする方針だ。
「職員との関係修復不可能」 片山善博・大正大特任教授(元鳥取県知事)
百条委員会が実施した職員アンケートで、回答者の約4割が斎藤元彦知事のパワハラを目撃したり聞いたりしたと回答している状況は、常識では考えられないケース。斎藤氏は定例会見で業務上必要な指導だと説明していたが、アンケート結果を見ただけでも、斎藤氏と職員の考えには随分と大きな開きがあることが分かる。
「視察先の施設でエレベーターに乗り損ねた」「施設の約20メートル手前で車から降ろされた」など、斎藤氏が叱責したとする職員の対応は業務上のミスではない。ミスがあれば、原因を究明し再発防止に向けて注意をする場合もあるが、このような内容で叱責するのは間違っている。
斎藤氏は職員との信頼関係を再構築したいと強調していたが、それは不可能だろう。一連の経緯を見ても片山安孝副知事が辞職し、側近の幹部が病欠するなど崩壊状態だ。県政運営は修復不可能で、今後の展望は開けないのではないか。
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