中国当局によるアステラス製薬の幹部拘束は、日系企業に強い衝撃を与えている。習近平(シージンピン)政権はゼロコロナ終了後の経済立て直しに向けて対中投資を呼びかけるが、巨大市場の商機と政治リスクのバランスをどう取るか、各企業は難しい判断を迫られている。(中国総局 山下福太郎、経済部 佐川友章)
■中国側は呼び込み躍起
1日夜、林外相は日中会談に先立ち、北京で日系企業幹部らと面会した。今回の邦人拘束や中国ビジネスの現状を巡って意見を交わし、林氏は「企業の正当な経済活動を保障するように、中国側に引き続き求めていく」と述べた。
日本外務省によると、2021年時点で日系企業の中国国内での拠点数は3万1047に上り、全海外拠点の4割を占める。在留邦人は10・2万人(22年時点)と米国に次ぎ2番目に多い。
中国政府は3月の全国人民代表大会(国会)で、外国からの投資拡大を経済政策の柱の一つに掲げた。日本の対中投資の比率は相対的に下がりつつあるものの、少子高齢化が進む中国としては「医療や介護といった分野で先進的な日本からの投資は重要だ」(中国政府関係者)と期待は高い。
厳しい新型コロナ感染対策の打撃を強く受けた地方都市は、日本からの投資呼び込みの熱意が特に高い。3月30日には、江蘇省蘇州市の地方政府が都内で投資イベントを開いた。日中の企業関係者ら約400人を前に地方政府幹部が「日本企業の投資と発展のため、質の高いサービスを提供する」と呼びかけた。
だが、出席した日本企業幹部は「いつでも日本に避難できるようにしておかないといけない」と語った。ここ数年、経済安全保障の面から日系企業や駐在員への圧力は一段と強まり、昨年は複合機でも全面的な国産化を通じた技術移転を求める動きが表面化した。
日本企業の対中投資は、両国関係に大きく揺さぶられてきた。10年に沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船の船長が逮捕された後、中国当局は建設大手フジタの駐在員ら4人を拘束した。12年9月に日本が尖閣諸島を国有化した直後、日系スーパーなどは反日デモの被害を受けた。翌13年の日本による対中投資額は108億ドル(約1・4兆円)と、前年比で31%も急減した。
22年も3月末~5月末に上海市が封鎖された影響などで同36%減の109億ドルにとどまる。急速な円安も響いたとはいえ13年以来の低い水準で「拘束問題の展開次第では23~24年も下押し圧力が強まる」(エコノミスト)との見方がある。
読売新聞