誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護

老人性認知症の確実な予防方法と認知症高齢者の適切な介護方法をシリーズで解説します。

48 大脳辺縁系/情動機能

2018-12-12 11:38:45 | 日記

 今回のブログで解説する「大脳辺縁系」が担う「情動機能」は、知的機能に位置付けられることが少ない「知られざる知的機能」です。しかし、老人性認知症の確実な予防や認知症高齢者の適切な介護を実践していくためには、このブログの読者の方々には是非とも理解しておいていただきたい重要な知的機能です。

 大脳辺縁系は大脳の内部に位置する神経組織で「海馬」「扁桃体」「側坐核」と呼ばれている3つの神経核を中心に構成されています(下図参照)。




 大脳辺縁系の最も本質的な機能は扁桃体が中心的な役割を担う「快の情動と不快の情動を調節する機能」であり、海馬は快・不快の情動と連動して「本能や習性に関連した記憶を形成する機能」という重要な役割を担い、側坐核は「報酬系」と呼ばれている「意欲や快感に関わる機能」を担っています。そして、大脳辺縁系を中心とした神経回路(ネットワーク)として、扁桃体を中心とした「情動回路」(ヤコブレフ回路)と海馬を中心とした「記憶回路」(パペッツ回路)が知られています。



 また、大脳辺縁系は自律神経系や内分泌系の調節を担う「視床下部」や「脳下垂体」との密接な関わりを通じて、内外からの様々なストレスに反応して身体の恒常性を維持する大切な役割を果たしています。そして、これらの大脳辺縁系を中心としたネットワークが担う「情動機能」は、内外からの様々な知覚情報に反応(情動反応)して様々な「情動行動」や「本能行動」を惹き起こします。

 大脳辺縁系は「自己の生存」や「種族の保存」のために人間や動物において特に進化してきた脳であり「野性」(本能や習性)として表出される様々な知的活動を担っています。また、大脳新皮質の前頭葉、左脳、右脳が「人間脳」と呼ばれているのに対して、大脳辺縁系は「動物脳」と呼ばれています。そして、下図に示されるとおり、動物から人間に至る進化の過程において、人(ヒト)の知的機能は大脳辺縁系から高次機能(右脳/左脳)、最高次機能(前頭葉)へと進化してきました。つまり、大脳辺縁系が担う情動機能は右脳や左脳が担う認知機能、そして前頭葉が担う統合機能(心的機能)の基盤となる知的機能であることを十分に認識しておく必要があります。



 動物から人間への知的機能の進化の背景には様々な欲求の変化(進化)や生活様式の変化(進化)があり、人(ヒト)は本能や習性に基づいて「たくましく生きる」ための知的機能(大脳辺縁系が担う情動機能)から「うまく生きる」ための知的機能(右脳や左脳が担う認知機能)を、そして「よりよく生きる」ための知的機能(前頭葉が担う統合機能/心的機能)を発達させてきました。この知的機能の進化の過程が人(ヒト)の知的機能の成長(発達)の過程に反映されていることは、このブログの「03 知的機能(2)〔2018/05/07〕」で詳しく解説したとおりです。



また、老化現象から老化廃用型認知症に至る過程においては、知的機能を担う大脳の神経組織の退行変性が進行していくために、まず最高次機能である前頭葉機能が担う統合機能(心的機能)が低下し(障害され)、この前頭葉機能の低下(障害)に伴って高次機能である左脳が担う認知機能が低下していく(障害されていく)ことを、このブログでは何度も強調してきました;参照「04 知的機能(3)〔2018/05/09〕」。

 つまり、人(ヒト)は乳幼児から成人への成長の過程で「たくましく」「うまく」「よりよく」生きるための知的機能を発達させて「なかま」や「やくわり」「いきがい」を育んでいくのです。しかし、特に後期高齢期において「いきがい」や「やくわり」「なかま」を喪失することによって老化現象や廃用性変化(頭の寝たきり)が進行していく場合には、「よりよく」そして「うまく」生きていくことが出来なくなっていくために老人性認知症の様々な症状の要因である「関係障害」や「適応障害」が徐々に顕在化してくるのです;参照「06 老化廃用型認知症(1)〔2018/05/16〕」。



 今回のブログでは私たちの知的機能の基盤である大脳辺縁系が担う知的機能(情動機能)について詳しく解説してきました。私たちの記憶(記憶機能)は、単に「左脳が担う認知機能(うまく生きるための機能)」を担う知的機能(知能)ではなく、本能や習性に密接に関連した「人(ヒト)が人(ヒト)として生きるための基本的な知的機能」であることを十分理解していただけたと思います。したがって、老人性認知症の終末期まで保持されている大脳辺縁系が担う情動機能を常に念頭に置いて、特に認知症高齢者の適切な介護の実践に活用していただきたいと願っています。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
     ・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
     ・06 老化廃用型認知症(1)〔2018/05/16〕

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