誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護

老人性認知症の確実な予防方法と認知症高齢者の適切な介護方法をシリーズで解説します。

46 長谷川先生が認知症?

2018-11-28 11:23:06 | 日記

 先日「認知症?になった長谷川和夫先生」のテレビ放送を偶然に見る機会がありました。そして「新聞記事・長谷川和夫・認知症」のキーワードでウェブ検索(田舎に住んでいる小生の貴重な図書館です)してみると幾つかの興味深い内容を目にすることができました。
 そこで、今回投稿する予定だったブログ「46 理性と感性」は次回に投稿することにして、今回は上記のウェブ検索で目に止まった内容を読者の方々にご紹介し、若干のコメントを述べさせていただくことにしました。

(1)『認知症になった認知症専門医「なぜ私が」患者の問いに』(Q&A)

 Q 自身の認知症を疑ったきっかけは、どんなことでしたか?
 A これはおかしい、と気づいたのは1年くらい前かな。自分が体験したことに
   確かさがなくなった。たとえば、散歩に出かけ「かぎを閉め忘れたんじゃな
   いか」と、いっぺん確かめに戻る。確かに大丈夫だ。普通はそれでおしまい。
   でも、その確認したことがはっきりしない。そして、また戻ることもあって。

 (このブログからのコメント)
   ・老化廃用型認知症の早期(「初発期;小ボケ」から「境界期;中ボケ」の
    始まり)の段階では、症状を自覚できるのです。「かなひろいテスト」を
    実施することによって「前頭葉機能の病的老化」の有無や程度を客観的に
    評価することができます。

 Q 昨年11月に病院に行き、診断を受けたそうですね。
 A 弟子が院長をしている専門病院に家内と行ったんだ。MRIや心理テストを
   受けたら「嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症」っていう診断がついた。
   物忘れ以上のものを自覚していたから、あーやっぱりと、戸惑いはなかった。

 (このブログからのコメント)
   ・「 病名(診断)に 振り回される 認知症 」
      ⇔ 何のための診断なのでしょうか? 決して批判ではなく、
        現在の認知症医療は「残念な医療」だと痛感しています。

 Q 初めて聞く名前です。
 A このタイプは物忘れや頑固になるといった症状が出るが進行は遅い。昔より
   多少イライラする頻度が増えたかな。認知症になるリスクは年を重ねるごと
   に高まる。長寿化に伴って、僕のように80歳、90歳を過ぎてからなる人
   は増えていく。これを「晩発性認知症」と言う一つのカテゴリーだと唱えて
   いる。100歳でも全然ならないピカピカの人もいると思うんだ。それはエ
   リートだな、ごくわずかの。

 (このブログからのコメント)
   ・100歳でも全然ならないピカピカの人は必ずしも「エリート」ではなく
    感性が豊かで「秀才ではなくても脳が若い(前頭葉機能の老化が進行して
    いない)人」だと思います(反論ではありません)。
   ・頑固でイライラしやすいタイプの人は、アリセプトの服用を避けたほうが
    良いのではないかと思っています。

 Q 公表することに、ためらいや迷いはなかったですか?
 A いやいや僕が認知症であることは知られていて、その僕が告白して講演など
   で体験を伝えれば普通に生活しているとわかってもらえる。認知症の暮らし
   の障害で、暮らしがうまくいくかどうかがいちばん大事。僕の話から多くの
   人が理解してくれれば、認知症の人の環境にもプラスになる。

 (このブログからのコメント)
   ・長谷川先生は「患者さんや介護するご家族の方々に常に暖かい思いを寄せ
    ている尊敬すべき名医」であると感じました。
   ・ただ気になることは、認知症の人の知的機能の障害の程度や性格、生活歴、
    生活環境などは様々で、長谷川先生の現在の状態と異なる場合には認知症
    の人の「個々の障害や個性に応じた適切な介護(自立支援や生活支援)が
    必要なのではないか」ということです。
   ・以下に記述する長谷川先生の近況や言動などから、長谷川先生の「認知症」
    は老化廃用型認知症の早期(「小ボケ」から「中ボケ」の始まり)の段階
    ではないかと推察しています。その理由は、89歳という男性としては超
    高齢であること、最近は悠々自適(無為無欲)の生活を過ごしておられる
    様子であること、日付(年月日)が「不安定」であること、などです。

 A 今は1日をどのように過ごしていますか?
 Q 朝6時半ごろに起きて朝昼晩の食事。その間に散歩したり、図書館や近所の
   コーヒー店に行ったりする。今日が何月何日なのか、時間がどれくらい経過
   したかがはっきりしないけれど不便だと感じることはあまりない。夫婦2人
   だけの生活で、やるべきことは毎日ほぼ同じだからね。

 (このブログからのコメント)
   ・89歳というご高齢の長谷川先生の現在の日課に、小生のような若輩者が
    あれこれと口出しすることは恐れ多いと思います。ただ「やるべきことは
    毎日ほぼ同じ」という生活や「今日が何月何日なのかがはっきりしない」
    という言葉については大変心配に思わざるを得ません。

 (以下にも「Q&A」は続きますが、有料会員記事になるそうです)


(2)『認知症の第一人者が語る「みずから認知症になってわかったこと」-ありのままを受け入れるしかない-』(文春オンライン)



 精神科医の長谷川和夫氏(89歳)は1974年に認知症診断の物差しとなる「長谷川式簡易知能評価スケール」を公表した認知症医療の第一人者だ。認知症ケア職の人材育成にも尽力してきた長谷川氏は、昨年10月の講演で自らも認知症であることを明かした。
半世紀にわたり認知症と向き合ってきた長谷川氏が、当事者となった今の思いを率直に語った。
以下の(A)~(E)は長谷川先生が語った内容の記述を抜粋したものです。

(A)私の場合は、自分が話したことを忘れてしまうことから始まりました。話したと思うんだけれども、どうもそうでないような気もする。さらに、昨日の日付は分かっていたのに、翌日になると、今日が何日か分からなくなる。自宅を出るとき鍵を閉めても、鍵を閉めたことがはっきりしないから、来た道を戻って確認しなければ気が済まない。ひどいときは一度確認したことを何度も確かめたくなる。こうしたことから、自分が認知症ではないかと疑いはじめました。
 (このブログからのコメント)
   ・これらの言動から長谷川先生の「認知症」は「老化廃用型認知症」の早期
    (「小ボケ」から「中ボケ」の始まり)である可能性が高いと思いました。
    「自分が認知症ではないかと疑いはじめる」ではなく「歳のせい」と「ボ
    ケの始まり」の境界ではないかと判断していただきたいと思っています。

(B)私は当初、自分をアルツハイマー型認知症ではないかと考えました。認知症の診断では、私が開発した「長谷川スケール」(1991年に改訂)を用います。長谷川スケールは、「お齢はいくつですか」「今日は何年の何月何日ですか、何曜日ですか」といった9つの質問によって構成されており、それぞれの得点を合計して、認知症の有無を診断します。しかし、開発者の私は、この質問項目を全て覚えているので、正しい診断ができない(笑)。なので難しい心理テストをいくつも出してもらうことになりました。その結果、私は「嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症」と診断されました。
 (このブログからのコメント)
   ・「長谷川スケール」の歴史的意義は評価に値するものですが、このスケール
    が「主に左脳が担う認知機能を評価するスケール」であることが認識され
    ていないことや、老人性認知症という病態の本質的な原因が「前頭葉機能
    の病態」であることが認識されていないことを、大変残念に思っています。
   ・このブログの読者の方々には「長谷川スケール」は「認知症の有無を診断
    する」スケールでなく「認知障害の有無を診断する」スケールであること
    を認識していただきたいと思っています。

(C)自分が認知症になって初めて体験したことの1つは、週に1回、デイケアに通うようになったことです。私はこれまで、患者さんに「ケア職の人に接するのはとても良いことだから、週に1度や2度でもいいから行ってごらんなさい」と勧めてきました。それが、いまでは勧められる立場になったわけです。
 デイケアに通うようになって、まず驚いたのは、スタッフ一人ひとりが、利用者の情報をよく知っていることです。スタッフがそれぞれ何人かの利用者を受け持っている、というのではなく、スタッフ全員がみんなのことを把握している。こちらは馴染みのないスタッフでも、向こうは私のことをよく知っている。利用者としては、大きな安心感があります。それに、こちらが少しでもボーッとしていると、「長谷川さん、どうしたの? 何か困ったことでもある?」「ちょっとこっちへ来て、こんな体操をやってみない?」と、すぐさま声がかかります。すれ違ったときにも「長谷川さん、お昼ご飯は美味しかった?」とかね。簡単なゲームをする時間もあって、それがまた面白いものばかり。雰囲気は非常にゆったりとしていて、人と人とのつながりが温かい。デイケアというのは、すごいものだなと、本当に感心しました。

 (このブログからのコメント)
   ・一般に老化廃用型認知症の早期(「小ボケ」から「中ボケ」の始まり)の
   高齢者、特に左脳偏重型の頑固な男性は「何で俺がそんな所に行かなければ
   ならないのか」と怒り出しデイケアに通うことを頑なに拒否する傾向がみら
   れます。
  ・上記の長谷川先生の言動から、長谷川先生の「感性が豊かで心が広いお人柄」
   が伺われ、改めて長谷川先生の人間性に敬意を表したいと思っています。
  ・さらに、デイケアの様子の記憶や描写などからは長谷川先生の鋭い観察眼が
   伺われ、改めて長谷川先生が「認知症ケア」の「プロ中のプロ」であること
   を再認識できました。

(D)発症すると、まず「時間」の見当がつかなくなります。先ほど私の症状として申し上げたように、今日が何月何日か、いつも確認しなければならないような状態です。
 こうして、時間、場所、人間についての記憶が、それぞれ約3年ずつかけて失われていく。そんな症状の進行を遅らせることができるアリセプトは、たいへんメリットの大きい薬でした。ただし、症状の原因を取り除く「原因療法」になるような薬ではありません。状況を元に戻すことはできない。それで満足するしか、いまのところは仕方がないのです。

 (このブログからのコメント)
   ・長谷川先生の現在の知的機能の障害のレベル(「小ボケ」から「中ボケ」の
    始まり)であれば「状況を元に戻すことはできない。それで満足するしか、
    いまのところは仕方がない」ではなく「まだ大丈夫」であると考えていた
    だきたいと思っています(アリセプトを常用しなくても)。
   ・このレベルであれば、前頭葉機能の改善は難しいと思われますが認知機能
    の改善や維持は決して難しいとは思われません。双子の100歳高齢者で
    国民的な話題となった「きんさん、ぎんさん」の「きんさん」は「中ボケ」
    から「小ボケ」に回復したという事実もあるのです。

(E)私はいま、子どもたちに認知症のことを理解してもらうための絵本を作りたいと考えています。海外には、すでにそうした絵本があります。認知症の症状が進んでいくおじいちゃんを目の当たりにした孫が、いろいろな工夫をしながら、一緒に生活していく様子を物語にしたものです。僕はそれを真似して、おじいちゃんのところをおばあちゃんに変えて作ろうとしているんだけど(笑)、なかなかはかどりません。なんとか、今年の夏ごろまでには完成させたいと思っています。
 (このブログからのコメント)
   ・89歳になられた長谷川先生の「私はいま、子どもたちに認知症のことを
    理解してもらうための絵本を作りたいと考えています」という言葉は素晴
    らしいの一言に尽きると思います。つまり、まだまだ「意欲」や「自発性」
    や「計画性」があるのです(前頭葉が活発に活動する時があるのです)。

 今回のブログ「長谷川先生が認知症?」では、ウェブ検索で知り得た長谷川先生の言動などから、長谷川先生は老化廃用型認知症の「初発期;小ボケ」から「境界期;中ボケ」の始まりの段階であると勝手に診断し、いろいろと勝手なコメントを述べてしまいました。
 現在の認知症医療の専門医の先生方だけではなく、このブログの読者の方々からもお叱りを受ける覚悟はできています。しかし、今後の認知症を取り巻く様々な問題に対応していくためには、既存の認知症医学/医療(形態的、症候的、概念的アプローチ)ではなく機能的アプローチに基づく認知症医学/医療(脳のはたらきからみた認知症)の視点が必要不可欠であることを強調しておきたいと思っています。

 最後に、長谷川先生の周囲の方々が「脳のはたらき(知的機能)からみた現在の長谷川先生の状態」に早く気付いて「脳リハビリ」を意識した必要な支援の手を差し伸べられるようお願いしたいと思います。そして、長谷川先生が末永く「元気で、楽しく、逞しく」生活され、絵本の作成や講演活動などを通じ、生涯現役として笑顔を絶やさずに活躍されることを心から願っています。

【参照】 ・07 老化廃用型認知症〔2018/05/21〕
     ・39 かなひろいテスト不合格(1)〔2018/10/24〕
     ・42 再び知的機能(重要)〔2018/11/09〕

45 左脳と右脳

2018-11-21 11:09:13 | 日記

 『認知症の「事実」』すなわち「老人性認知症の本質的な病態」にアプローチするために必要不可欠な前頭葉機能(統合機能、心的機能)に関する知識を深めてこられた読者の方々には、今回のブログで「左脳」と「右脳」が担う「認知機能」についてもさらに知識を深めていただきたいと思います。

 このブログで用いている「左脳」とは、正確には「言語野のある大脳半球(大脳新皮質)の後半部」(優位脳)を言い表している言葉であり、「右脳」とは「左脳の対側の大脳半球(大脳新皮質)の後半部」(非優位脳/劣位脳)を言い表している言葉です。通常、右利きの人の大多数は「左側の大脳半球が優位脳」、左利きの人の約半数は「右側の大脳半球が優位脳」であることから、このブログで用いている「左脳」(大脳新皮質の左後半部の感覚野と連合野を含む領域)とは「優位脳」を表現した言葉であり、「右脳」(大脳新皮質の右後半部の感覚野と連合野を含む領域)とは「非優位脳/劣位脳」を表現した言葉であると再確認していただきたいと思います(参照;41『脳は「1つの脳」(重要)〔2018/11/07〕』。



 このブログ「02 知的機能(1)〔18/05/01〕」で記述したように「うまく生きるための知的機能」である「認知機能」の「認知」とは「五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)で得られた知覚情報を処理して内外の事象や状況などを認め知る」ことで、分かりやすく言えば「見たり、聞いたり、感じたりしたことが分かる」ことです。
 左脳が担う認知機能は「言葉や数字などを用いて論理的に分かる機能」で「理性」を担っています。これに対し、右脳が担う認知機能は「言葉や数字などを用いないで直観的に分かる機能」で「感性」を担っています。そして、思考や計算などの知的活動においては左脳が、スポーツや芸術などの知的活動においては右脳が、それぞれ中心的な役割を担っています。また、一般に「頭が良い」とか「頭脳が優れている」などと評価する場合の「知能」や、老人性認知症の診断に際して「MMS」や「長谷川式」などの簡易知能検査で評価されている「認知機能」は「主に左脳が担う認知機能」であることを再確認していただきたいと思います。
 以下の図表に示されるとおり、左脳と右脳が担う認知機能とその特性について対比しておきます。



 しかし、『41 脳は「1つの脳」(重要)〔18/11/07〕』で述べたように、左脳と右脳は別個に(対立して)機能するのではなく、前頭葉機能の司令に基づいて「協同して機能している」ことを十分理解しておくことが大切です。ただし、協同の仕方(使われ方の特性)は様々であり、必ずしも同程度に協同している訳ではないようです。そして、その理由は大脳の正中部に位置する「脳梁」(のうりょう)に求めることができます。
 脳梁は左右の大脳半球を連絡している神経束で、皮下脂肪や骨格などにみられるような性差(男女差)があり、一般に女性の脳梁は太くて大きく左脳と右脳の協同が行われやすいと言われています(女性脳)。これに対して男性の脳梁は細く、左脳と右脳の協同が行われにくくいために左右どちらかの脳が使われやすくなる「側性化」がみられることが知られています(男性脳)。そして、この「側性化」の有無(程度)が男女の「左脳と右脳の使われ方」(物事の考え方や感じ方など)の差異を反映していると説明されています。



 ただし、男性だから「男性脳」であり、女性だから「女性脳」であると単純に決め付けられるものではなく、左脳と右脳の使い方(協同の仕方)が「男性脳的な脳梁」や「女性脳的な脳梁」を形成するという考え方もあるようです。
 いずれにせよ、ひと昔前には「女は愛嬌、男は度胸」「女は感性、男は理性」という表現が日常的に用いられ、「女らしさ、男らしさ」や「女のくせに、男のくせに」という言葉も何の抵抗もなく用いられてきましたが、セクシャル・ハラスメントに過敏な昨今においては迂闊に口にすることはできなくなりました。このブログの賢明な読者の方々には、今回のブログで言及している「男性脳」や「女性脳」の差異は決して「性差別」ではなく「性差」のことであり、むしろ「女性的な男性」や「男性的な女性」を理解するために必要な「脳(知的機能)に関する知識」であると受け止めていただきたいと思います。

 最後に、左脳と右脳の協同に関して、誰もが認める優秀な科学者(左脳の達人)であるアルベルト・アインシュタイン博士や湯川秀樹博士が後世に残る偉大な業績を発見した契機は「論理や計算」ではなく右脳が担う「直感(ひらめき)」であったことを付記しておきたいと思います。そして、このような左脳と右脳の協同の基盤となる前頭葉機能(知的機能の司令塔)の重要性も強調しておきたいと思います。

コラム 男性の脳/女性の脳


【参照】 ・02 知的機能(1)〔18/05/01〕
     ・41 脳は「1つの脳」(重要)〔2018/11/07〕

44 こころの知能指数

2018-11-12 12:15:08 | 日記

(お知らせ1;必見のブログです!是非とも閲覧して下さい)
 このブログ「誰も知らない認知症」の読者の方々には「29 高槻さんのブログ」〔2018/08/15〕以降、エイジングライフ研究所副所長の高槻絹子さんのブログ「脳機能からみた認知症」( https://blog.goo.ne.jp/ageinglife )をこれまでに何度もご紹介してきましたが、最近のブログ『「チコちゃんに叱られる」にエイジングライフ研究所のグラフ登場』〔2018/11/8〕を是非とも閲覧していただくようお勧めします。

(お知らせ2;緊急企画です)
 このブログ「誰も知らない認知症」には最近毎週1回のペースで投稿(更新)していますが、上記の「高槻さんのブログ」に刺激された緊急企画として、11月中旬から下旬に予定していた3つのテーマのブログ
 ・42 再び「知的機能」(重要)
 ・43 前頭葉と「心」「意」「気」
 ・44 こころの知能指数
を3回(11月9日、10日、12日)連続で投稿することにしました。


 今回のブログでは、読者の方々に「知的機能のネットワーク」や「前頭葉が担う心的機能」に関する理解をさらに深めていただくために、「こころの知能指数」(EQ)について解説したいと思います。

 一般に「頭が良い」(知能が高い)という言葉は主に左脳が担う認知機能(理性)を反映する「知能指数」(IQ;Intelligence Quotient)が高いという意味で用いられているようです。数学者や物理学者は「頭が良い人」とよく言われますが、右脳が担う認知機能(感性)が優れた画家やスポーツ選手が「頭が良い人」と言われることはあまり耳にしたことがありません。しかし「あたまの知能指数」とも表現できる知能指数とは異なった視点から「こころの知能指数」(EQ;Emotional intelligence Quotient)という言葉が社会科学などの領域で注目されてきました。

 EQは「情動知能」とも呼ばれ「自分の感情を適切にコントロールして、自分の持っている能力を最大限に発揮するための社会的知性」と表現されることもあります。EQを理解するための参考書籍としては、ダニエル・ゴールマンの著書を訳した「EQ こころの知能指数」(土屋京子;翻訳、講談社+α文庫)などが基本になると思いますが、このブログでは臨床心理学者の内山喜久雄博士の「EQ、その潜在力の伸ばし方」(講談社)をお勧めしたいと思います。



 このブログの「知的機能の分類と担当領域、特性」で示した前頭葉が担う「心内知能」や「対人知能」は、「EQ」を構成する中心的な要素として位置付けられ、心内知能は「自分自身を動機づける」「自分自身の情動を知る」「自分の感情を抑制する」知能であり、対人知能は「他人の感情を認識する」「人間関係をうまく処理する」知能であると説明されています。そして、内山博士は「EQ」を評価するために「楽観性」や「共感的理解」などの10項目の「EQファクター」を紹介しています。このように「EQ」は優しさや思いやりが欠如しがちな「IQ重視の社会」(競争原理の社会)の弊害に対処していくための知的機能として重要視されるようになりました。





 一方、「IQ」が「考える知性」と表現されるのに対し、「EQ」は「感じる知性」と表現されています。人間は他の動物とは比較にならないほどの豊かな知性を発達させた「感じ考える」動物に進化してきました。「EQ」は「IQ」と対立する考え方ではなく、前頭葉を中心とした知的機能のネットワーク、特に前頭葉が担う心的機能を理解するために有用な考え方であると考えられます。
 このブログの読者の方々に「EQ」(こころの知能指数)がどのような知能であるのかを実感していただくために、内山博士の著書「EQ、その潜在力の伸ばし方」の末尾に掲載されている「EQを測る」方法を紹介させていただきます。ご自分の「EQ]を実際に測定していただければ「EQ」(こころの知能指数)を具体的に理解していただけると思います。なお、「EQ]は「IQ」のような数値ではなく「EQプロフィール」として示されます。

 「EQ」を測るための最初の手順は、60項目の設問からなる「EQテスト」(10項目の「EQファクター」に対して各々2項目の「下位項目」が設定され、20項目の「下位項目」に対して各々3項目の設問が設定されています)に「設問に対する自己評価」を入力(記入)することです。設問への回答は、〔0〕まったく違う、〔1〕少し違う、〔2〕どちらとも言えない、〔3〕そういう傾向がある、〔4〕ほとんどそうである の〔0〕~〔4〕の数字を入力(記入)します(回答の表現は一部改変しています)。



 実際に「自分のEQを測ってみよう」と思われる読者の方々は、以下に示す(60項目の設問からなる)「EQテスト」などの参考図表をプリントアウトして必要事項に記入(入力)し、それらの集計作業を進めていただければご自分の「EQプロフィール」をご覧いただけると思います。しかし、プリントアウトや集計が面倒な方は下記のファイルの入手をお勧めします。

   ※「EQプロフィール」を測るファイル( Microsoft Excel )の入手方法
     このブログの連絡先( fuchi@hakuaikai.jp )宛に「EQプロフィール測定用の
     ファイル希望」と「メール」でご連絡ください。特定医療法人博愛会、社会福祉法人
     博愛会の関係者の方々は「法人内LAN](老健施設長)でご連絡ください。


【記入例1】



【記入例2】



【集計例】


【EQプロフィールの例】


 ご自分の「EQプロフィール」をご覧になってどのような感想をお持ちになられたでしょうか?「こんなはずではない」と憤慨された方がおられるかもしれません。
 ちなみに内山博士の著書「EQ、その潜在力の伸ばし方」では、臨床心理学の領域における「EQを高めるための有効な訓練法」として、社会スキル訓練法、合理情動行動療法、レジェリンシー法などの治療の手法が紹介されています。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
     ・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
     ・05 知的機能(4)〔2018/05/15〕
     ・39 かなひろいテスト不合格(1)〔2018/10/24〕
     ・40 かなひろいテスト不合格(2)〔2018/10/31〕
     ・41『脳は「1つの脳」(重要)』〔2018/11/07〕
     ・43 前頭葉と「心」「意」「気」〔2018/11/10〕


(44 訂正とお知らせ)・・・ 削除しました 2019/01/25

(訂正させていただきます)
 前回のブログ〔2018/11/12〕では「44 こころの知能指数」とすべき表題を「43 こころの知能指数」と表記してしまいました。謹んで訂正しお詫び申し上げます。実は、以前のブログ「27 かなひろいテストの集計方法」〔2018/08/01〕でも計算ミスをしています(お気付きの方もおられると思います)。他にも???
 尤もらしい言い訳を書き述べますと、このブログ「誰も知らない認知症」は勤務時間外である昼休みの時間に食事しながら投稿しています。したがって、時間に余裕がない時などは十分にチェックしないまま「エイヤッ」と投稿ボタンをクリックしてしまうのです。もちろん、年々前頭葉機能が低下しつつあるので「歳のせい」(ボケの始まり?)であることも決して否定はいたしません。

(お知らせ;必見のブログです!是非とも閲覧して下さい)
 このブログ「誰も知らない認知症」では「高槻さんのブログ;脳機能からみた認知症」をこれまでに何度もご紹介しています(特に最近は)。今回は『前途多難な「大恋愛~僕を忘れる君と」』〔2018/11/11〕を是非とも閲覧していただくよう、お勧めしたいと思います。



 今回ご紹介する「高槻さんのブログ」では「アルツハイマー病」という病気(病名)に関する深刻な誤解が分かりやすく記述されています。ただし、このブログで「エイジングライフ研究所」が「アルツハイマー型老年認知症」と表現している病名(病気)は、ブログ「誰も知らない認知症」の読者の方々には「老化廃用型認知症」と同様の病気であると理解していただきたいと思います〔 病名に 振り回される 認知症 〕。

〔参照〕 ・06 老化廃用型認知症(1)〔2018/05/16〕
     ・29 高槻さんのブログ〔2018/08/15〕
     ・31 アミロイドβの蓄積 〔2018/08/29〕
     ・32 海馬の萎縮 〔2018/09/05〕



43 前頭葉と「心」「意」「気」

2018-11-10 12:52:43 | 日記

(お知らせ1;必見のブログです!是非とも閲覧して下さい)
 このブログ「誰も知らない認知症」の読者の方々には「29 高槻さんのブログ」〔2018/08/15〕以降、エイジングライフ研究所副所長の高槻絹子さんのブログ「脳機能からみた認知症」( https://blog.goo.ne.jp/ageinglife )をこれまでに何度もご紹介してきましたが、最近のブログ『「チコちゃんに叱られる」にエイジングライフ研究所のグラフ登場』〔2018/11/8〕を是非とも閲覧していただくようお勧めします。

(お知らせ2;緊急企画です)
 このブログ「誰も知らない認知症」には最近毎週1回のペースで投稿(更新)していますが、上記の「高槻さんのブログ」に刺激された緊急企画として、11月中旬から下旬に予定していた3つのテーマのブログ
 ・42 再び「知的機能」(重要)
 ・43 前頭葉と「心」「意」「気」
 ・44 こころの知能指数
を3回連続(11月9日、10日、12日)で投稿することにしました。


 「心意気」とは「物事に積極的に向かってゆく、きっぱりとした態度。また、そういう気性や気概」のことですが、今回のブログでは、「心意気」ではなく、「心」「意」「気」について解説し、前頭葉が担う「心的機能」(心理機能/精神機能)に関する理解を深めていただきたいと思います。

 「気」は「心」、「心」は「気」という言葉を時々耳にすることがあります。「気持ち」の意味で用いられる「気」という言葉は、物事に接した際や体調の変化などから生じる「意志や思考などの状態」を言い表す言葉です。例えば「気がある」という言葉は「意志や意欲がある」「興味や関心がある」という意味で用いられ、「気が合う」という言葉は「考え方が似ている」「考え方が通じ合う」という意味で用いられていますが、この「気」という言葉は前頭葉の心的機能を表現する言葉であると考えられます。つまり、前頭葉機能と「心」との関係をイメージするためには「前頭葉」という言葉を「気分」や「気持ち」のような言葉の中にも用いられている「気」という言葉に置き換えるのも一つの方法です。
 一方、「意」という言葉は、意欲や意志、注意、意識、意外など、前頭葉が担う様々な知的機能を表現する言葉の一部に用いられ(無意識ではあっても)、日常的に用いられる言葉として定着しています。

 このブログの『41 脳は「1つの脳」(重要)〔2018/11/07〕』で紹介した神経心理学者の山鳥重博士は、時間軸(過去、現在、未来)を用いて「心」(こころ)と意識、注意、意志との関係を表現し、「意志」や「注意」は自分の「心」が立ち上げる主観的現象であると述べています。そして、注意が内部に向かうことが「思考」であり、注意が将来に向かうことが「意志」であると説明しています。このような関係を参考にすれば、「気」は「心」から生まれ「心」は「気」として表出されるというイメージが浮かぶのではないでしょうか。



 「気」や「意」という言葉で表現することができる前頭葉機能は、外界や体内からの情報に単純に反応する知的機能ではないことを、日常生活の様々な場面で実感することができます。そして、前頭葉機能と「心」の関係を整理することによって、前頭葉の機能が心的機能を基礎とした総合的かつ人間的な知的機能であり、「人間らしさ」や「その人らしさ」を表出する個性的な知能であることも十分理解していただけると思います。

 このブログ「誰も知らない認知症」では「心」(こころ)とは「脳」のはたらき(知的機能)であるという見地から知的機能を解説し、「心」という漢字は「前頭葉」「左脳」「右脳」「大脳辺縁系」から成り立っているという珍説まで紹介してしまいました〔参照;コラム2/02 知的機能(1)〕。



 しかし、「脳=心」と単純に説明できるものではないとも感じています。山鳥重博士は最近出版された著著『「気付く」とはどういうことか;こころと神経の科学』(筑摩新書)の中で『こころは「神経過程」から「創発」したもの、あるいは「創発」するもの』であると述べています。「神経過程」とは「脳(知的機能)の活動」であると理解できますが、「創発」(emergency)とは難解な言葉だと思います。「創発」とは辞書では「部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れること」と説明されていますが、山鳥重博士は「これまでとは性質の違う現象が科学的因果関係の枠を超えて出現すること」と記述し、この「こころ」の「創発」は2番目の「創発」であり、1番目の「創発」は「いのち」(生命)の「創発」であると解説しています。そして「物質」から「いのち」、「いのち」から「こころ」、「こころ」から「思想」へと「創発」が繰り返されたと主張する学者の「創発説」を紹介しています。




 このブログの賢明な読者の方々の中には、何故「いのち」(生命)があるのか、何故「こころ」(心)があるのか、という素朴な疑問を抱いた経験がある方もおられると思いますが、『宇宙の根本的な性質として「創発」は存在し続けている』という難解な言葉を一度だけでも意識(考察)していただく機会になれば幸いです。前頭葉が担う「心的機能」に関連して「心」「意」「気」について解説してきましたが、心的機能を含む知的機能の司令塔である前頭葉機能(最高次機能)にさらなる興味や関心を持っていただきたいと願っています。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
     ・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
     ・05 知的機能(4)〔2018/05/15〕
     ・15 認知症高齢者の介護(3)〔2018/06/13〕
     ・41 脳は「1つの脳」(重要)』〔2018/11/07〕

42 再び「知的機能」(重要)

2018-11-09 13:15:27 | 日記

(お知らせ1;必見のブログです!是非とも閲覧して下さい)
 このブログ「誰も知らない認知症」の読者の方々には「29 高槻さんのブログ」〔2018/08/15〕以降、エイジングライフ研究所副所長の高槻絹子さんのブログ「脳機能からみた認知症」( https://blog.goo.ne.jp/ageinglife )をこれまでに何度もご紹介してきましたが、最近のブログ『「チコちゃんに叱られる」にエイジングライフ研究所のグラフ登場』〔2018/11/8〕を是非とも閲覧していただくようお勧めします。

(お知らせ2;緊急企画です)
 このブログ「誰も知らない認知症」には最近毎週1回のペースで投稿(更新)していますが、上記の「高槻さんのブログ」に刺激された緊急企画として、11月中旬から下旬に予定していた3つのテーマのブログ
 ・42 再び「知的機能」(重要)
 ・43 前頭葉と「心」「意」「気」
 ・44 こころの知能指数
を今日から3回(11月9日、10日、12日)連続で投稿することにしました。


 老人性認知症が「後期高齢期における知的機能(知能)の障害」によって惹き起こされる病態であることを否定する方は皆無であると思います。前回のブログ『41 脳は「1つの脳」(重要)』〔2018/11/07〕で知的機能に関する理解を深められた読者の方々には、引き続き老人性認知症の原因である「知的機能の障害」に関する理解をさらに深めていただき、老人性認知症の確実な予防と認知症高齢者の適切な介護を実践していただくことを願いながら、今回のブログの解説を進めていきたいと思っています。

 このブログの読者の方々が「誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護」を初めて閲覧し理解されるまでは、おそらく「認知症=知能の障害=長谷川式」というイメージの中で老人性認知症の予防や介護に向き合ってこられた方々が大多数だと思います。この悲しむべき現状を批判するつもりは全くありませんが、認知症の医療や介護の領域だけではなく一般社会においても依然として「認知症=知能の障害=長谷川式」の発想が定着し続けていることを危惧しています。そして、「長谷川式」はともかく、「知能」が曖昧模糊とした知識やイメージで捉えられている限り老人性認知症の確実な予防や認知症高齢者の適切な介護は実践できないことを、一人でも多くの方々に早く気付いていただきたいと心から願っています。

 幸いにしてこのブログの存在に気付かれた賢明な読者の方々には、「認知症を正しく理解する」ためには「知的機能を正しく理解する」ことが必要不可欠であり、「知的機能を正しく理解する」ためには「知的機能の司令塔(最高次機能)である前頭葉の機能を正しく理解する」ことが必要不可欠であることを、特に強調しておきたいと思います(重要)。



 老人性認知症の原因としての「知的機能(知能)の障害」については、「認知障害」という言葉が医療/介護関係者の間で定着するまでは「記憶障害」という言葉が用いられてきました。そして、昨今の認知症関連の研修会などでも「老人性認知症の病態は単なる記憶障害ではなく認知障害である」と説明されるようになってきました。しかしながら、「認知機能」や「認知障害」という言葉が「痴呆」から「認知症」という用語に転換された背景の一つになったものの、言葉だけが独り歩きしている「認知機能」や「認知障害」の内容は正しく理解されていないと言わざるを得ません。
 さらに、知的機能全体の司令塔である前頭葉機能(統合機能)については、一部の医療/介護関係者の間で「実行機能」や「実行機能障害」という言葉が用いられている現状に留まり、「ワーキングメモリー」や「前頭葉機能」「統合機能」という言葉を見聞きする機会は稀であると言っても決して過言ではありません。

 つまり、「知的機能」や「老人性認知症における知的機能の障害」の理解が不十分な現状が続く限り、老人性認知症の確実な予防や認知症高齢者の適切な介護の実践は不十分な状態が続くという警鐘として、今回のブログのテーマ『再び「知的機能」』について記述してきたつもりです。「老人性認知症の本質的な病態は前頭葉機能(統合機能)の障害である」という『認知症の「事実」』に一人でも多くの医療/介護関係者が気付き、それぞれの医療や介護の現場での実践を通じて実感していただくことを心から願っています。
 そして、老人性認知症の原因としての知的機能の障害が、「記憶(機能の)障害」では説明できず、「認知(機能の)障害」だけでは説明できないことに気付き、老人性認知症の本質的な病態である「前頭葉機能(統合機能)の障害」に目が向けられることを願っています。



 「認知症」を「統合症」(統合機能低下症)と改称すべきであると主張するつもりは全くありませんが、少なくとも「認知症=知能の障害=長谷川式」という図式や「認知症=アルツハイマー=ア※セ※ト」という短絡的な発想(神話?)(都市伝説?)から脱却しない限り、認知症高齢者の著しい増加、認知症高齢者の生活や人権の保護、介護負担の増加や介護者不足の深刻化、医療関連の諸問題(有効な治療法の開発、薬剤の副作用、医療費の増大など)、認知症を取り巻く社会問題(社会保障費の増大、徘徊、交通事故、火災)などの解決策は見通しが立たないのではないかと危惧するばかりです。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
     ・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
     ・05 知的機能(4)〔2018/05/15〕
     ・23 認知症の「事実」〔2018/07/11〕
     ・41 脳は「1つの脳」(重要)』〔2018/11/07〕