誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護

老人性認知症の確実な予防方法と認知症高齢者の適切な介護方法をシリーズで解説します。

49 情動/感情/気分

2018-12-19 11:33:09 | 日記

 今回のブログでは大脳辺縁系が担う情動機能の「情動」と「感情」「気分」との関連について解説したいと思います。

 「感情」や「気分」は私たちが日常的に用いている言葉であり「感情とは何であるのか」あるいは「気分とは何であるのか」ということを理屈っぽく解説する必要はないかもしれません。しかし、誰もが良く知っている(分かっている)はずの「感情」についての正確な定義は見当たらず、人(ヒト)の多種多彩な感情を言葉で正しく表現することは意外に難しいようです。

 脳科学の領域では「感情」feeling は「情動」emotion と「気分」mood に分類されているようですが(感情=情動+気分)、感情心理学の領域では「感情」と「情動」とは同義語のように(感情≒情動)用いられることが多く「感情」は emotion 「気持ち」は feeling と表現されているようです。そして「気持ち」は具体的で「気分」は抽象的であり、ある特定の物事に対して「好き・嫌い」や「快・不快」などを言う場合は「気持ち」を用いると説明されています。
 一方、精神医学などの領域では「自分が感じる」のが「気分」mood で「他人の目に映る」のが「感情」affect であるとされ「気分」は「自分の心の動き」であると説明されることもあるようです。また「感情」を、情動や気分を含む「広義の感情」affection と「狭義の感情」feeling に分類する考え方もあるようです。そして「情動」「感情」「気分」と微妙に異なる類義語として、日常会話で多用されている「気持ち」や「感じ」だけではなく「気性」「情緒」「情操」「情状」「心地」「心境」「機嫌」などの様々な言葉(表現)を挙げることができます。

 このブログ「誰も知らない認知症」では、心(こころ)とは「脳のはたらき」(知的機能)であり「心は知的機能から創発されたものである」と説明してきました(参照;43 前頭葉と「心」「意」「気」〔2018/11/10〕)。したがって「情動」「感情」「気分」や他の類義語についても「脳(心)のはたらき」すなわち「知的機能」の視点から説明したいと思います。そして、脳科学や心理学、精神医学の先生方からお叱りを受けることを承知の上で、
  情動;大脳辺縁系(扁桃体)を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
  感情;情動に反応する、右脳を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
  気分;情動に反応する、前頭葉を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
であると表現(定義)したいと思います。



 そして「情動」とは「扁桃体を中心とした一時的に発現する強い神経(精神)反応」であり「快の情動」と「不快の情動」に大別することができます(情動反応)。また、本能や習性に基づいた「情動行動」や「本能行動」を伴うことが多く、視床下部や脳下垂体の神経反応によって自律神経系や内分泌系の生理反応を惹起することも少なくありません。
 一方、「気分」とは情動の影響を受けて発現する「前頭葉を中心とした中長期的に持続する弱い心理(精神)反応」であり「快の気分」(良い気分)と「不快の気分」(悪い気分)に大別することができます。そして、動物的な「情動行動」や「本能行動」とは異なり、人間特有の多種多様で微妙な「表情」や「行動」「思考」「感情」などに反映され、意識されることもあれば、意識されないこともあります。

 これらに対して「感情」とは情動の影響を受けて発現する「右脳を中心とした多種多彩な心理(精神)反応」であり、基本的には「快の感情」である「喜」「楽」「愛」と「不快の感情」である「怒」「哀」「憎」の「六情」に分類されることもあります。しかし、前述したように「感情」を言葉で表現することや「定義」することは意外に難しく「言語を介して表現できる(認知できる)感情」もあれば「言語を介して表現できない(認知できない)感情」もあることは、このブログの読者の方々にも理解(実感)していただけると思います。そして「感情」は「気分」よりも分かりやすい「表情」や「行動」「思考」などに反映される心理(精神)反応で(感情反応)、前述したように「自分が感じる」のが「気分」で「他人の目に映る」のが「感情」という説(分類)にも一理があるように思われます。
 この多種多彩な「感情」の種類(分類)に関して、前述した「六情」(喜・怒・哀・楽・愛・憎」以外にも「27種類あるとする説」や「48種類あるとする説」があるようです。そして、驚くべきことに「感情マップ」(Emotion Map)を用いた解析によって「細かく分ければ感情の種類は2185種類ある」という論文が2017年9月に公表されているのです。この論文を発表したのはカルフォルニア大学の神経科学の分野で機械学習を学んでいる大学院生で「人の感情を数字で表すことは、何よりも難しく、何よりも僕を魅了するのです」とコメントしています。

 ここで「脳のはたらき」(知的機能)からみた「情動」「感情」「気分」に関連して「動物に感情はあるのか?」ということについて言及しておきたいと思います。冗長な解説は避けて結論を述べると、動物には「情動」はあっても人間のような多種多彩な「感情」や微妙な「気分」は認められないように思われます。その理由は、動物では人(ヒト)の脳にもある大脳辺縁系(情動機能)は発達しているものの、人(ヒト)において格段に発達(進化)した右脳や左脳(認知機能)や著しく発達(進化)した前頭葉(統合機能/心的機能)は、動物においては人(ヒト)のレベルまでには発達していないからです。
 人(ヒト)の脳(心)は「情動を感じる心(脳)のはたらき」である「知性」(右脳>左脳)や「情動を識別する心(脳)のはたらき」である「知性」(左脳>右脳)によって多種多彩な「感情」や微妙な「気分」を発現するとともに「脳と心の司令塔」である前頭葉によって「感情」や「気分」を制御(調節)しているのです。しかし「感情」や「気分」は制御(調節)しやすくても「情動」は制御(調節)しにくい「脳のはたらき」(知的機能)です。つまり「好きなもの(こと)は好き」「嫌いなもの(こと)は嫌い」「恐いもの(こと)は恐い」のです。本能や学習(習性)によって脳(心)の奥底に定着している物事だけではなく、強い情動を伴うような恐怖の体験も「トラウマ」として脳(心)の奥底に刻まれ、これらに伴う「情動」(情動反応)や「感情」「気分」を制御(調節)することは容易ではありません。また「情動の抑制装置」である前頭葉や左脳、右脳が過度に(長期に)不快の情動を抑制し過ぎた場合には「ストレス」が蓄積し、その結果として「ストレス病」と呼ばれる深刻な心身の不調(破綻)を招くことも決して珍しくありません。
 一方、人(ヒト)は必ずしも「理性」で考える(行動する)のではなく、「情動」や「感情」「気分」で考える(行動する)動物であるという視点を持つことも大切です。このブログの賢明な読者の方々には、人(ヒト)の「感情」や「気分」を生み出す「情動」に関連して「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しい」という脳科学の定説について一度だけでも考察していただきたいと思います。

 今回のブログでは「情動は感情の一部である」という脳科学や心理学の定説を承知の上で「情動を感じるのが感情である」という勝手解釈を押し付けてしまいました。ちなみに、心理学の領域では「理性=前頭葉」と位置付けられていることが多いように感じていますが、このブログでは〔 前頭葉;人間性、左脳;理性、右脳;感性、知性;理性+感性 〕と位置付けていることを付記しておきたいと思います。



【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・48 大脳辺縁系/情動機能 〔2018/12/12〕

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