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誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護

老人性認知症の確実な予防方法と認知症高齢者の適切な介護方法をシリーズで解説します。

50 快の情動/不快の情動

2018-12-26 11:39:01 | 日記

〔お知らせ〕このブログの読者の方々に時々ご紹介している「高槻さんのブログ」(脳機能からみた認知症; https://blog.goo.ne.jp/ageinglife )ですが、最近のブログ『「レビー小体型認知症」って増えてますが(再々掲)』〔2018/12/20〕を是非閲覧して下さるようお勧めします。・・ 病名に 振り回される 認知症 ・・・

 今回のブログでは「大脳辺縁系シリーズ」の第3弾として「扁桃体」を中心とした情動機能(情動反応)である「快の情動」と「不快の情動」について整理しておきたいと思います。最も重要なことは、人(ヒト)を含めた動物が「自身の生存」や「種族の保存」のために、特に「不快の情動」を惹き起こす知覚情報(知覚刺激)には敏感に反応し、記憶し、学習し、行動することを知っておくことです。また、これらに伴う攻撃、威嚇、警戒、回避などの情動反応(本能行動や情動行動)は意志や知識とは無関係に、時には反射的に発現することを知っておくことも重要です。

 「快の情動」や「不快の情動」が惹起されやすい状況やそれに伴う情動反応については様々な対象や行動などを挙げられ、下図ように対比することができます。



 特に知的機能の進化に伴って豊かで多様な感性や理性、人間性が育まれた人(ヒト)においては「快の情動」は「快の感情」や「快の気分;元気」 を惹き起こします。そして「快の情動」によって惹起された「元気」が「快の情動」を惹起するという好循環(快のサイクル)が持続する状態が「心(脳)が健康である」状態であり、誰もが望んでいる理想的な心理状態(精神状態)であると考えられます。



 一方、「不快の情動」は「不快の感情」や「不快の気分;病気(こころの)」 を惹き起こします。そして「不快の情動」によって惹起された「(こころの)病気」が「不快の情動」を惹起するという悪循環(不快のサイクル)が持続する状態が「心(脳)が健康ではない」状態であり、誰もが望まない心理状態(精神状態)であると考えられます。
 ちなみに、このブログ「誰も知らない認知症」を熟読されてきた読者の方々は、「元気」や「病気」という言葉に含まれる「気」という文字は、知的機能の司令塔である「前頭葉」を表す文字であることに気付いておられると思います。つまり、物事(自身の内外からの知覚情報/知覚刺激)に対する前頭葉機能(統合機能)の使い方(気の持ち方、感じ方、考え方など)によって「心(こころ)の健康」に大きな影響を及ぼす「快の情動」や「不快の情動」をある程度は制御することが可能であり、その経験(体験)の蓄積(学習)によって「気質」や「性格」「その人らしさ」「人間らしさ」などが育まれていくものと考えられます。
 このような人(ヒト)の「心(こころ)の健康」に大きな影響を与える情動機能の「快のサイクル」(好循環)や「不快のサイクル」(悪循環)に関する知識は「認知症高齢者の適切な介護」や「老人性認知症の確実な予防」を実践するために必要不可欠な知識であるといっても決して過言ではありません。

 まず「認知症高齢者の適切な介護」における情動機能の重要性については、このブログの「16 認知症高齢者の介護(4)〔2018/06/18〕」で解説した「悪循環になってしまう介護」に関する記述を、以下に再掲しておきたいと思います。

 「悪循環になってしまう介護」では「情」に注目したいと思います。「情」とは「知られざる知的機能」である大脳辺縁系が担う情動機能のことで、他の知的機能の根底に潜在している知的機能と位置付けることができます。情動機能に関する知識は認知症高齢者の介護の基本中の基本、介護の真髄とも言える大切な知識ですので(大袈裟ですが、おそらく他の介護関連の書籍では取り上げていないと思います)、心して読み進めてください。

 動物脳とも呼ばれる大脳辺縁系(扁桃体、海馬、側坐核)の情動機能は、自己の生命を守り種族を維持するための「野性」(本能や習性)に従って「敵や味方」を判別し、敵に対しては「不快の情動」に伴って「攻撃行動」や「回避行動」を、味方に対しては「快の情動」に伴って「親和行動」や「接近行動」を、それぞれ「本能行動」や「情動行動」として発現させます。つまり、「危険や恐怖」を察知した時には「攻撃や回避」の行動が無意識に惹き起こされ、時には「パニック」(極端な不安や混乱)に陥ってしまう場合もあります。逆に「報酬や快楽」を察知した場合は、「危険や恐怖」に対する反応ほど強くないようですが、「親和や接近」の行動が惹き起こされます。また、豊かで繊細な「感性」を持つ人間の場合、危険や恐怖を感じて「敵」と判断した時には「不快の情動」が刺激されて「怒・哀・憎」の感情が表出され、「安心、安全」を感じて「味方」と判断した時には「快の情動」が刺激されて「喜・楽・愛」の感情が表出されます。

 大脳辺縁系の情動機能は「自己保存」や「種族維持」のために、意志や理由とは無関係に「安心、安全」が定着する「安定・安住」の生存環境を求める「基本的な知的機能」として培われ、特に弱い動物(人間を含め)においては「食欲」「性欲」「集団欲」(集団を作って危険から身を守る)という「動物の3大本能」を担っています。また、大脳辺縁系を構成する「海馬」は、危険や恐怖の体験や、安心や安全の体験、本能や習性として反復(学習)した体験を「知的機能に刻む」(記憶を形成する)神経核として発達し、「扁桃体」は自身の内外から得られた情報(内部からの情報は「視床下部/自律神経」や「脳下垂体/内分泌」を介して得られた情報、外部からの情報は「前頭葉/注意機能」を介して得られた情報)に反応して「不快の情動」や「快の情動」を惹き起こす神経核として発達してきました。

 「情」の「本能行動」や「情動行動」特に「不快の情動」に伴う「攻撃行動」や「回避行動」の暴走を制御しているのは「感」(感性)や「理」(理性)や「意」(人間性)です。しかし、防御反応を担う「情」を制御しすぎると「不快の情動」の蓄積(精神的ストレスの蓄積)に伴って内分泌系や自律神経系の変調(失調)による体調不良を招き、この体調不良に伴う「不快の情動」が「精神的ストレス」をさらに蓄積してしまうという「悪循環」に陥ることがあります。パニックやヒステリーなどの心因反応あるいは自傷他害行為などはこのような「悪循環」がもたらす結果であると考えられます。

 介護の「逆効果」の要因は「理」の不一致や対立であり、介護の「悪循環」の要因は「情」の不一致や対立です。そして、前述したように、「逆効果」の反復や連鎖によって惹き起こされる「悪循環」は「最悪の介護」であり「介護の敗北」でもあります。
 特に、介護する側と介護される側の不快の情動の対立が昂じて、介護する側の「止むを得ない対応(攻撃)」として叱責や暴力の反復、身体拘束や虐待行為などの「認知症高齢者に危険や恐怖をもたらす対応」が行われた場合には、重度の記憶障害がある認知症高齢者においても「心の傷」(危険や恐怖の体験)として記憶に深く刻まれます。このような場合には介護環境(悪循環)の修復は困難となり、在宅から施設に、あるいは現在の施設から他の施設に介護環境を変えるという方法以外の選択肢は閉ざされます。過剰な薬物投与による悪循環の回避は論外です。


 大脳辺縁系の情動機能を意識した「認知症高齢者の適切な介護」を実践するためには、上記で解説した介護の「悪循環」を避けることは当然ですが、そのこと以上に「快のサイクル」を意識した介護を心掛けることが大切であることを強調しておきたいと思います。ここで、久しぶりに一句(認知症川柳/川柳的標語、標語的川柳)浮かびました(笑)。



 次に「老人性認知症の確実な予防」(早期対応;脳リハビリ)における情動機能の重要性については、このブログの「11 老人性認知症の予防(3)〔18/06/04〕」で解説した「脳リハビリを実施する際の留意事項」に関する記述を、以下に再掲しておきたいと思います。

 家庭や施設、デイサービスなどにおいて「脳リハビリ」を実施する際には、以下に列記する7項目(①~⑦)に十分留意していただきたいと思います。

 ① 脳のはたらき(知的機能)を定期的に検査する
    「脳リハビリ」の実施前後に「MMS」と「かなひろいテスト」を定期的(概ね
   3ヵ月毎)に実施して「脳リハビリ」の効果を評価し、必要に応じて実施する内容
   を見直すことが大切です。
 ② 前頭葉機能が低下していることを意識する(忘れない)
    対象者に共通している特徴は「前頭葉機能の低下」です。「脳リハビリ」の評価
   を実施する際には「意欲がない」「集中力がない」「根気がない」「自発性がない」
   などの対象者の評価は禁句です。これらの症状や障害が認められるからこそ「脳リ
   ハビリ」が必要であることを忘れてはいけません。対象者の意欲や集中力、根気、
   自発性などが高まるようなメニューや実施方法を選択することが「脳リハビリ」の
   基本です。
 ③ 達成感や到達感、自信回復を重視する
    学習療法やパズル、クイズ、ゲーム、スポーツ、手工芸などを「脳リハビリ」と
   して実施する際に重要なことは、より高度な内容を選択してトレーニングを反復す
   ることではなく、対象者が容易に課題を達成し、目標に到達することによって自信
   を回復することです。そして、そのために「さりげない支援や助言」などを行う配
   慮も大切です。達成感や到達感は「快の情動」を刺激し「喜」「楽」「愛」の感情を
   もたらすので、「脳リハビリ」への意欲を高めることができます。
 ④ 性格の「長所的な側面」を評価し活用する
    集団であれ個別であれ、対象者の性格的な問題のために「脳リハビリ」を円滑に
   実施できない場合があります。しかし、人の性格には「長所的な側面」と「短所的
   な側面」があることを理解しておくことが必要です。そして、対象者の性格の「長
   所的な側面」を積極的に評価して、その性格を上手く活用することができるように
   「脳リハビリ」の実施方法や内容を工夫することが賢明な対応です。
 ⑤ 生活歴を把握し活用する
    一般に高齢者は生活内容の変化を敬遠する傾向がみられます。したがって、対象
   者の生活歴(職業歴や趣味、特技など)を十分に把握して「脳リハビリ」の内容に
   活用することが大切です。また、今までの人生や生活の延長線上で「脳リハビリ」
   が日々の生活に定着するよう配慮することが必要です。
 ⑥ 数年以上にわたって長期的に継続する
    どのような内容の「脳リハビリ」を選択した場合においても、重視すべきことは
   「数年以上にわたって長期的に継続すること」です。対象者のADLや生活環境が
   変化した場合には「脳リハビリ」の内容を見直すことが必要です。
 ⑦ 導入困難な事例には、受容的・共感的に対応する
    「脳リハビリ」への参加を拒否する導入困難な事例は決して珍しくありません。
   熱心な説得や勧誘は避け、本人の意思を尊重しながら受容的・共感的な対応を継続
   し「その気になる時期」や「実施できる機会」を待つことも一つの方法です。


 上記の「脳リハビリ」を実施する際の留意事項として列記した7項目(①~⑦)のうち、
  ② 前頭葉機能が低下していることを意識する(忘れない)
  ③ 達成感や到達感、自信回復を重視する
  ④ 性格の「長所的な側面」を評価し活用する
  ⑤ 生活歴を把握し活用する
  ⑦ 導入困難な事例には、受容的・共感的に対応する
の5項目はいずれも「快の情動」を念頭に置いた留意事項であり「快のサイクル」が持続する状態で実施することが「効果的な脳リハビリを実施するための最も重要なポイント」になると考えられます。

 今回のブログでは、大脳辺縁系の扁桃体を中心とした情動機能(情動反応)である「快の情動」と「不快の情動」について整理するとともに「認知症高齢者の適切な介護」や「老人性認知症の確実な予防」の実践における「快の情動」と「不快の情動」の重要性に言及しました。
 最近数ヵ月間は「脳のはたらき」(知的機能)に関するテーマが続き「脳のはたらきからしかみない認知症」「脳のはたらきばかりの認知症」になってしまったのではないかと反省しています。次回(来年)の51回目のブログからは「予防や介護の実践に関するテーマ」を意識的に取り上げていきたいと思っています。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・48 大脳辺縁系/情動機能 〔2018/12/12〕
     ・49 情動/感情/気分 〔2018/12/12〕



49 情動/感情/気分

2018-12-19 11:33:09 | 日記

 今回のブログでは大脳辺縁系が担う情動機能の「情動」と「感情」「気分」との関連について解説したいと思います。

 「感情」や「気分」は私たちが日常的に用いている言葉であり「感情とは何であるのか」あるいは「気分とは何であるのか」ということを理屈っぽく解説する必要はないかもしれません。しかし、誰もが良く知っている(分かっている)はずの「感情」についての正確な定義は見当たらず、人(ヒト)の多種多彩な感情を言葉で正しく表現することは意外に難しいようです。

 脳科学の領域では「感情」feeling は「情動」emotion と「気分」mood に分類されているようですが(感情=情動+気分)、感情心理学の領域では「感情」と「情動」とは同義語のように(感情≒情動)用いられることが多く「感情」は emotion 「気持ち」は feeling と表現されているようです。そして「気持ち」は具体的で「気分」は抽象的であり、ある特定の物事に対して「好き・嫌い」や「快・不快」などを言う場合は「気持ち」を用いると説明されています。
 一方、精神医学などの領域では「自分が感じる」のが「気分」mood で「他人の目に映る」のが「感情」affect であるとされ「気分」は「自分の心の動き」であると説明されることもあるようです。また「感情」を、情動や気分を含む「広義の感情」affection と「狭義の感情」feeling に分類する考え方もあるようです。そして「情動」「感情」「気分」と微妙に異なる類義語として、日常会話で多用されている「気持ち」や「感じ」だけではなく「気性」「情緒」「情操」「情状」「心地」「心境」「機嫌」などの様々な言葉(表現)を挙げることができます。

 このブログ「誰も知らない認知症」では、心(こころ)とは「脳のはたらき」(知的機能)であり「心は知的機能から創発されたものである」と説明してきました(参照;43 前頭葉と「心」「意」「気」〔2018/11/10〕)。したがって「情動」「感情」「気分」や他の類義語についても「脳(心)のはたらき」すなわち「知的機能」の視点から説明したいと思います。そして、脳科学や心理学、精神医学の先生方からお叱りを受けることを承知の上で、
  情動;大脳辺縁系(扁桃体)を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
  感情;情動に反応する、右脳を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
  気分;情動に反応する、前頭葉を中心とした「脳(心)のはたらき」(知的機能)
であると表現(定義)したいと思います。



 そして「情動」とは「扁桃体を中心とした一時的に発現する強い神経(精神)反応」であり「快の情動」と「不快の情動」に大別することができます(情動反応)。また、本能や習性に基づいた「情動行動」や「本能行動」を伴うことが多く、視床下部や脳下垂体の神経反応によって自律神経系や内分泌系の生理反応を惹起することも少なくありません。
 一方、「気分」とは情動の影響を受けて発現する「前頭葉を中心とした中長期的に持続する弱い心理(精神)反応」であり「快の気分」(良い気分)と「不快の気分」(悪い気分)に大別することができます。そして、動物的な「情動行動」や「本能行動」とは異なり、人間特有の多種多様で微妙な「表情」や「行動」「思考」「感情」などに反映され、意識されることもあれば、意識されないこともあります。

 これらに対して「感情」とは情動の影響を受けて発現する「右脳を中心とした多種多彩な心理(精神)反応」であり、基本的には「快の感情」である「喜」「楽」「愛」と「不快の感情」である「怒」「哀」「憎」の「六情」に分類されることもあります。しかし、前述したように「感情」を言葉で表現することや「定義」することは意外に難しく「言語を介して表現できる(認知できる)感情」もあれば「言語を介して表現できない(認知できない)感情」もあることは、このブログの読者の方々にも理解(実感)していただけると思います。そして「感情」は「気分」よりも分かりやすい「表情」や「行動」「思考」などに反映される心理(精神)反応で(感情反応)、前述したように「自分が感じる」のが「気分」で「他人の目に映る」のが「感情」という説(分類)にも一理があるように思われます。
 この多種多彩な「感情」の種類(分類)に関して、前述した「六情」(喜・怒・哀・楽・愛・憎」以外にも「27種類あるとする説」や「48種類あるとする説」があるようです。そして、驚くべきことに「感情マップ」(Emotion Map)を用いた解析によって「細かく分ければ感情の種類は2185種類ある」という論文が2017年9月に公表されているのです。この論文を発表したのはカルフォルニア大学の神経科学の分野で機械学習を学んでいる大学院生で「人の感情を数字で表すことは、何よりも難しく、何よりも僕を魅了するのです」とコメントしています。

 ここで「脳のはたらき」(知的機能)からみた「情動」「感情」「気分」に関連して「動物に感情はあるのか?」ということについて言及しておきたいと思います。冗長な解説は避けて結論を述べると、動物には「情動」はあっても人間のような多種多彩な「感情」や微妙な「気分」は認められないように思われます。その理由は、動物では人(ヒト)の脳にもある大脳辺縁系(情動機能)は発達しているものの、人(ヒト)において格段に発達(進化)した右脳や左脳(認知機能)や著しく発達(進化)した前頭葉(統合機能/心的機能)は、動物においては人(ヒト)のレベルまでには発達していないからです。
 人(ヒト)の脳(心)は「情動を感じる心(脳)のはたらき」である「知性」(右脳>左脳)や「情動を識別する心(脳)のはたらき」である「知性」(左脳>右脳)によって多種多彩な「感情」や微妙な「気分」を発現するとともに「脳と心の司令塔」である前頭葉によって「感情」や「気分」を制御(調節)しているのです。しかし「感情」や「気分」は制御(調節)しやすくても「情動」は制御(調節)しにくい「脳のはたらき」(知的機能)です。つまり「好きなもの(こと)は好き」「嫌いなもの(こと)は嫌い」「恐いもの(こと)は恐い」のです。本能や学習(習性)によって脳(心)の奥底に定着している物事だけではなく、強い情動を伴うような恐怖の体験も「トラウマ」として脳(心)の奥底に刻まれ、これらに伴う「情動」(情動反応)や「感情」「気分」を制御(調節)することは容易ではありません。また「情動の抑制装置」である前頭葉や左脳、右脳が過度に(長期に)不快の情動を抑制し過ぎた場合には「ストレス」が蓄積し、その結果として「ストレス病」と呼ばれる深刻な心身の不調(破綻)を招くことも決して珍しくありません。
 一方、人(ヒト)は必ずしも「理性」で考える(行動する)のではなく、「情動」や「感情」「気分」で考える(行動する)動物であるという視点を持つことも大切です。このブログの賢明な読者の方々には、人(ヒト)の「感情」や「気分」を生み出す「情動」に関連して「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しい」という脳科学の定説について一度だけでも考察していただきたいと思います。

 今回のブログでは「情動は感情の一部である」という脳科学や心理学の定説を承知の上で「情動を感じるのが感情である」という勝手解釈を押し付けてしまいました。ちなみに、心理学の領域では「理性=前頭葉」と位置付けられていることが多いように感じていますが、このブログでは〔 前頭葉;人間性、左脳;理性、右脳;感性、知性;理性+感性 〕と位置付けていることを付記しておきたいと思います。



【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・48 大脳辺縁系/情動機能 〔2018/12/12〕

48 大脳辺縁系/情動機能

2018-12-12 11:38:45 | 日記

 今回のブログで解説する「大脳辺縁系」が担う「情動機能」は、知的機能に位置付けられることが少ない「知られざる知的機能」です。しかし、老人性認知症の確実な予防や認知症高齢者の適切な介護を実践していくためには、このブログの読者の方々には是非とも理解しておいていただきたい重要な知的機能です。

 大脳辺縁系は大脳の内部に位置する神経組織で「海馬」「扁桃体」「側坐核」と呼ばれている3つの神経核を中心に構成されています(下図参照)。




 大脳辺縁系の最も本質的な機能は扁桃体が中心的な役割を担う「快の情動と不快の情動を調節する機能」であり、海馬は快・不快の情動と連動して「本能や習性に関連した記憶を形成する機能」という重要な役割を担い、側坐核は「報酬系」と呼ばれている「意欲や快感に関わる機能」を担っています。そして、大脳辺縁系を中心とした神経回路(ネットワーク)として、扁桃体を中心とした「情動回路」(ヤコブレフ回路)と海馬を中心とした「記憶回路」(パペッツ回路)が知られています。



 また、大脳辺縁系は自律神経系や内分泌系の調節を担う「視床下部」や「脳下垂体」との密接な関わりを通じて、内外からの様々なストレスに反応して身体の恒常性を維持する大切な役割を果たしています。そして、これらの大脳辺縁系を中心としたネットワークが担う「情動機能」は、内外からの様々な知覚情報に反応(情動反応)して様々な「情動行動」や「本能行動」を惹き起こします。

 大脳辺縁系は「自己の生存」や「種族の保存」のために人間や動物において特に進化してきた脳であり「野性」(本能や習性)として表出される様々な知的活動を担っています。また、大脳新皮質の前頭葉、左脳、右脳が「人間脳」と呼ばれているのに対して、大脳辺縁系は「動物脳」と呼ばれています。そして、下図に示されるとおり、動物から人間に至る進化の過程において、人(ヒト)の知的機能は大脳辺縁系から高次機能(右脳/左脳)、最高次機能(前頭葉)へと進化してきました。つまり、大脳辺縁系が担う情動機能は右脳や左脳が担う認知機能、そして前頭葉が担う統合機能(心的機能)の基盤となる知的機能であることを十分に認識しておく必要があります。



 動物から人間への知的機能の進化の背景には様々な欲求の変化(進化)や生活様式の変化(進化)があり、人(ヒト)は本能や習性に基づいて「たくましく生きる」ための知的機能(大脳辺縁系が担う情動機能)から「うまく生きる」ための知的機能(右脳や左脳が担う認知機能)を、そして「よりよく生きる」ための知的機能(前頭葉が担う統合機能/心的機能)を発達させてきました。この知的機能の進化の過程が人(ヒト)の知的機能の成長(発達)の過程に反映されていることは、このブログの「03 知的機能(2)〔2018/05/07〕」で詳しく解説したとおりです。



また、老化現象から老化廃用型認知症に至る過程においては、知的機能を担う大脳の神経組織の退行変性が進行していくために、まず最高次機能である前頭葉機能が担う統合機能(心的機能)が低下し(障害され)、この前頭葉機能の低下(障害)に伴って高次機能である左脳が担う認知機能が低下していく(障害されていく)ことを、このブログでは何度も強調してきました;参照「04 知的機能(3)〔2018/05/09〕」。

 つまり、人(ヒト)は乳幼児から成人への成長の過程で「たくましく」「うまく」「よりよく」生きるための知的機能を発達させて「なかま」や「やくわり」「いきがい」を育んでいくのです。しかし、特に後期高齢期において「いきがい」や「やくわり」「なかま」を喪失することによって老化現象や廃用性変化(頭の寝たきり)が進行していく場合には、「よりよく」そして「うまく」生きていくことが出来なくなっていくために老人性認知症の様々な症状の要因である「関係障害」や「適応障害」が徐々に顕在化してくるのです;参照「06 老化廃用型認知症(1)〔2018/05/16〕」。



 今回のブログでは私たちの知的機能の基盤である大脳辺縁系が担う知的機能(情動機能)について詳しく解説してきました。私たちの記憶(記憶機能)は、単に「左脳が担う認知機能(うまく生きるための機能)」を担う知的機能(知能)ではなく、本能や習性に密接に関連した「人(ヒト)が人(ヒト)として生きるための基本的な知的機能」であることを十分理解していただけたと思います。したがって、老人性認知症の終末期まで保持されている大脳辺縁系が担う情動機能を常に念頭に置いて、特に認知症高齢者の適切な介護の実践に活用していただきたいと願っています。

【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
     ・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
     ・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
     ・06 老化廃用型認知症(1)〔2018/05/16〕

47 理性と感性

2018-12-05 11:45:52 | 日記

 前々回のブログ「45 左脳と右脳〔18/11/21〕」では左脳(優位脳)と右脳(非優位脳/劣位脳)が担う認知機能の特性について解説しました。今回のブログでは左脳が担う「理性」と右脳が担う「感性」について整理しておきたいと思います。

 前回のブログで言及した「左脳と右脳の協同」に関して、左脳と右脳における知覚情報の入出力のパターンに注目し、下図に示されるように、左脳と右脳の協同のパターンを「ささ脳」「さう脳」「うさ脳」「うう脳」の4つに分類して知的機能の特性を分析する考え方を紹介しておきます。興味深いことは、その真偽はともかく、前記の4つのパターンは「指の組み方」と「腕の組み方」の組み合わせによって決定されるようです。

〔 左脳と右脳のおける知覚情報の入出力に基づいた4つの脳 〕
 (1)ささ脳(入力;左脳、出力;左脳)
     ・論理的にとらえ、論理的に処理
     ・物事を筋立ててマジメに考えるタイプ
     ・几帳面で努力家
 (2)さう脳(入力;左脳、出力;右脳)
     ・論理的にとらえ、感覚的に処理
     ・理想と現実のギャップに苦しむ自己矛盾型
     ・その反面、細かいことは気にしないタイプ
 (3)うさ脳(入力;右脳、出力;左脳)
     ・直感的にとらえ、論理的に処理
     ・完璧主義
     ・何事も自分で決めたい個性派タイプ
 (4)うう脳(入力;右脳、出力;右脳)
     ・直感的にとらえ、感覚的に処理
     ・楽天的でマイペース
     ・直感とひらめき重視の感覚人間タイプ



 次に、今回のブログのテーマである左脳と右脳が担う「理性」と「感性」のうち、このブログの読者の方々に「感性」を具体的にイメージしていただくために、老化廃用型認知症(本態性老年認知症)の提唱者である金子満雄博士が記述している「感性のない人の特徴」(30項目)を列記したいと思います。

〔 感性のない男性の特徴;家庭 〕
  ① 話がいつも理屈っぽく、くだけた話ができない
  ② 笑顔が少なく、いつも怒ったような顔をしている
  ③ 生活がワンパターン、着る服、通る道順も一定である
  ④ 地位や名誉を自慢し、それに固執する傾向が強い
  ⑤ 音楽や絵画には無関心、ゲームも賭け事と言い蔑視する
  ⑥ 家族の通俗的な話題には、まったく乗ってこない
  ⑦ 相談にも「○○は△△に決まっている」と怒りだす
  ⑧ 家族との休日の外出にも、背広とネクタイをする
  ⑨ 犬や猫、小鳥などを可愛いとは思わない
  ⑩ 外聞や面子をひどく気にする

〔 感性のない男性の特徴;職場 〕
  ① 会社の仲間ともあまり親しく付き合うことがない
  ② 上役には絶対服従で、部下には居丈高に振る舞う
  ③ 盆暮れの付け届けには、大変熱心である
  ④ 計算が細かく、ケチくさい
  ⑤ 仕事はキチンとするが、創意工夫や改善はしない
  ⑥ 仲間の昇進や栄転には、きわめて過敏に反応する
  ⑦ 部下の殊勲は自分の殊勲、自分の失敗は部下の所為にする
  ⑧ スポーツや麻雀など、職場対抗戦には付き合わない
  ⑨ 同僚や部下から好かれず、本人はそれに気付かない
  ⑩ 新しい職場や機器などに慣れることが苦手である

〔 感性のない女性の特徴 〕
  ① 心からの笑顔が少なく、ユーモアもうまく言えない
  ② 融通がきかず、決められた事を頑固に守ろうとする
  ③ 必要な時に、夫や子供に厳しい忠告が言えない
  ④ 子供に優しい言葉を掛けられず、小言や注文が多い
  ⑤ 子供には勉強だけを強制、教育ママと呼ばれている
  ⑥ PTAなどの役職を、極端に名誉に思う傾向にある
  ⑦ 外聞や体裁を過度に気にする、いつも見栄を張る
  ⑧ 人の噂をしたり陰口をたたくのが大好きである
  ⑨ 音楽やゲーム、スポーツを楽しむことを知らない
  ⑩ 衣装や装飾品のセンスが悪くブランド品にとびつく

 上記の30項目を「感性のない人」への悪口のように受け止める方もおられるのではないかと心配していますが、これらの30項目の多くに自分が該当し憤慨されている方は「感性のない人」は「理性が優れている人」であると解釈していただければ幸いです。一方、何事にも無頓着で逞しく生きている「ワイルド」(野性的)な人は、ある意味では「理性と感性」(知性)に乏しい人と思われてしまうかも知れません。



 左脳(理性)と右脳(感性)に関連する様々な考え方を紹介してきましたが、このブログの読者の方々に最も理解していただきたいことは、単なる老化現象から老化廃用型認知症に移行する過程において、まず前頭葉機能が病的に低下し(障害され)、これに伴って左脳が担う認知機能(理性)が病的に低下する(障害される)という事実です。また、右脳が担う認知機能(感性)や大脳辺縁系が担う情動機能(野性;本能/習性)は老人性認知症の終末期まで残存しているという事実です。

 そして、分からない(認知できない)ことが徐々に増えてくるために適応障害や関係障害に苛まれている認知症高齢者においても、右脳が担う認知機能(感性)はいわゆる「認知障害」(左脳が担う認知機能の障害)が進行した段階でも残存していることを十分に認識しておいていただきたいのです。
 つまり。本質的な問題(障害)は前頭葉機能の障害ではあるにせよ、左脳では認知できない(分からない、記憶できない)ことが知的機能の障害の進行に伴って増加する一方、特に「感性優位(残存)型」の認知症高齢者においては。右脳で認知できる(分かる、記憶できる)知的機能はそれなりに残っているという事実を理論と実践の両面から十分に理解して、老人性認知症の確実な予防と認知症高齢者の適切な介護に活用していただきたいと願っています。




【参照】 ・02 知的機能(1)〔18/05/01〕
     ・41 脳は「1つの脳」(重要)〔2018/11/07〕
     ・45 左脳と右脳 〔18/11/21〕