今回は、老人性認知症の確実な予防と認知症高齢者の適切な介護を実践するために必要不可欠な2つの知的機能の検査法、すなわち①前頭葉機能を評価する「かなひろいテスト」と認知機能(主に左脳が担う言語性知能)を評価する「MMS」(Mini -Mental State )について解説したいと思います。
「かなひろいテスト」と「MMS」の2つの検査法(神経心理検査)を用いて知的機能を評価する手法は「浜松2段階方式」と呼ばれ、その臨床的有用性は以下の3点に集約できます。
1)認知症かどうかや進行度がわかる
前頭葉機能を含めた知的機能を評価することにより、高齢期における正常から
認知症への進行過程を簡便かつ的確に評価することができる。
2)早期発見が可能で認知症を予防できる
まだ認知症の症状が出現しない「早期認知症」のレベルで障害を発見すること
ができるため、「脳リハビリ」を実施することにより知的機能の改善や維持、
認知症への進行を防止できる。
3)障害や個性に応じた適切な介護ができる
神経心理検査を正しく実施し評価することにより欠落機能と残存機能を的確に
評価することができるので認知症の症状の発生要因の分析や適切な対応、発症
予防が可能となる。
1-4 「脳のはたらき」(知的機能)の検査法
1-4-1 かなひろいテスト
図12は「浜松2段階方式」で用いる「かなひろいテスト」の検査用紙(A3大)です。このブログでは「かなひろいテスト」の検査手順や検査成績の表記法などを列記しておくことにします。

1-4-1-1 かなひろいテストの検査手順
① 検査用紙の上段にあるテストの説明文「次のかな文の内容を…」を読みながら、
実施する検査の内容を被検者に説明する(教示)。
② 被検者が教示を理解できているかどうかを確認するために、練習問題を実施する
(教示を何度も反復しながら指示や誘導などを行ってもよい)。
③ 被検者が教示を理解できず、練習問題もできない場合には検査を終了する。
④ 教示を理解して練習問題ができることを確認できた場合には、本題の部分を指し
示して 「 あ・い・う・え・お 」の文字を拾いながら(丸印をつけながら)本題
の内容を読み取る(記憶する)作業を開始するよう被検者に指示する(作業時間
は2分間で作業中に再教示はしないこと。また、質問にも答えないこと。)。
⑤ 作業が終了した後、日付(検査の実施日)を質問し、被検者が答えた日付を検査
実施者が「実施日」の欄に記入する。
⑥ 検査用紙を回収した後、記憶している本題の内容(単語、短文など)を被検者に
質問し、「回答した内容」(意味把握)の欄に記入する。
⑦ 被験者が記入した本題の欄を確認し、作業を実施した範囲内の「正答数」「誤答
数」「脱落数」を集計し、検査用紙に記入する。
*正答数;「 あ・い・う・え・お 」に丸印がついている数
*誤答数;「 あ・い・う・え・お 」以外に丸印がついた数
*脱落数;「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけ忘れた数
⑧ 以上で検査を終了するが、検査時に観察した被検者の状況などを検査用紙の余白
に記入しておく。
(例1)「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけることを忘れてしまい、
声を出して本題の内容を読み続ける
(例2)「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけることだけに集中してし
まい、作業が終わってから本題の内容を読み取る(記憶する)
(例3)「い」だけに丸印をつける
1-4-1-2 かなひろいテストの検査結果の表記法
「かなひろいテスト」の検査結果は以下のように表記します。
( 「正答数」,「誤答数」+「脱落数」,「意味把握の評価」 )
「意味把握」は被検者が本題の内容を読み取った範囲に応じて「可」「不十分」「不可」の3つに分類して評価します。本題には全体で17行の文章が記載されていますが、「意味把握」は2分間の作業の中で被検者が「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけた範囲すなわち本題の内容を読み取った(記憶した)範囲に含まれている内容(単語や短文)を被検者がどの程度答えられるかどうかを確認して評価します。そして、1行目の「おばあさん」と10行目の「つぼ」という2つの言葉が「意味把握」ができているかどうかを評価する際の重要な指標になります(表4)。

1-4-1-3 かなひろいテストの検査結果の判定区分と判定の指標
「かなひろいテスト」の成績(検査結果)の判定は、以下のとおり、5つの判定区分に分類されています(表5)。
①「合 格」; 作業が教示どおりに実施でき、その結果「正答数」が
「概ね10個以上」、かつ「意味把握」が「可」または
「不十分」であった場合
②「不合格」; 作業は教示どおりに実施できたが、上記の「合格」の
判定の指標に該当しなかった場合
③「拒 否」; 何らかの理由で、被検者が検査を拒否した場合
④「障 害」; 何らかの障害(視聴覚障害や書字障害など)のために
教示の理解や作業の実施が困難であった場合
⑤「困 難」; 上記③、④以外の理由のために教示の理解や練習問題
の実施が困難で、本題を実施せず検査を終了した場合

1-4-1-4 かなひろいテストの成績の経年的推移
「かなひろいテスト」の成績は知的機能の老化現象の指標であると同時に後述する「早期認知症」を発見するための重要な指標です。したがって、「かなひろいテスト」が合格であった場合でも、特に老化廃用型認知症を確実に予防するためには、健康診断などの機会に「かなひろいテスト」を「年に1~2回程度」実施することによって「正答数」の経年的推移を観察していくことが大切です(図13)。

そして、「正答数」が相対的に著しく減少した場合、例えば75歳の時に実施した「かなひろいテスト」の「正答数」が30個であったある被検者の77歳時の「正答数」が12個に著しく減少したような場合には、その被検者が老化廃用型認知症に移行しやすいハイリスク者の状態になったと判断して、早期に後述する「脳リハビリ」などの何らかの対応を始める必要があります。
一方、毎年実施しているある被検者の「かなひろいテスト」の「正答数」が80歳以降においても12個前後で推移しているような場合には、その被験者の知的機能の老化現象は進行していないと判断することができます。
1-4-2 MMS
「MMS」(Mini-Mental State)は知的機能(認知機能)の簡易検査法として繫用され、一般的には「MMSE」(Mini-Mental State Examination)と略称される場合が多いようようです。しかし、浜松2段階方式においてはこの検査法についての詳細な解析や臨床応用が確立していることから、このブログにおいても敢えて「MMS」と略称したいと思います。
図14は「浜松2段階方式」で用いる「MMS」を含む神経心理検査の検査用紙(A4大)ですが、このブログでは「MMS」の検査手順の概要や検査を実施する際の留意事項などについて列記しておくことにします。

1-4-2-1 MMSの検査手順
①「時」と「場所」の「見当識」について質問し、被検者の応答を検査用紙に記入
するとともに正しく答えられた項目の得点(時の見当識;5点、場所の見当識;
5点)を粗点の欄に記入する。
②「記銘;3点」「注意と計算;5点」「想起;3点」について、正しく答えられ
た項目の得点を粗点の欄に記入する。
③「命名;2点」「復唱;1点」について、正しく答えられた項目の得点を粗点の
欄に記入していく。
④「口頭命令;3点」「書字命令;1点」「文を書く;1点」「図形の模写;1点」
について、指示に従った正しい作業や動作ができた場合の得点を粗点の欄に記入
する。
⑤ 最後に、粗点の欄に記入した得点の合計(合計得点)を所定の欄に記入する。
1-4-2-2 MMSを実施する際の留意事項
* 「時の見当識」関する質問への応答が終わった後、正しく答えられたかどうかにかか
わらず正しい答を教示し、後で再び質問することを被検者に伝えておく。そして「文
を書く」の作業を開始する際に「A4用紙」に検査日の日付を記入するよう指示する。
最後に、検査の終了後に引き続き実施する「かなひろいテスト」の際に検査日の日付
を質問し、被検者の応答を所定の欄に記入する。
*「注意と計算」を実施する際には「100から7を引き、その答から7を引く計算を
5回続けてください」と説明するが、「100-7は」と最初に質問した後は質問や
教示をしないこと。例えば、「93」と被検者が答えた後に「では、93-7は」と
質問してはいけない。
1-4-2-3 MMSの判定
「MMS」の検査成績の判定には、前述した「MMS」の検査項目(下位項目)の粗点の合計得点(MMS得点;30点満点)が用いられます。そして、合計得点が判定(検査成績)の指標となりますが、24点以上を「正常領域」、23点~21点以上を「境界領域」、20点以下を「障害領域」と判定する場合もあります。また、被検者が検査の実施を拒否した場合を「拒否」、視聴覚障害などのために検査を実施できない場合を「障害」、「拒否」や「障害」以外の理由のために検査を実施できない場合を「困難」と判定するのが適切だと思います(表6)。

一方、MMS得点は、身長や体重のような「連続数値」ではなく、通知表の5段階評価のような「スコア数値」であることを念頭に置くことが大切です。例えば、脳リハビリの評価をする際に実施前後のMMS得点を比較し、20点から21点に増加した場合を改善と判断する、あるいは26点から24点に減少した場合を悪化と判定するようなことは避ける必要があります。また、ある小集団に実施した脳リハビリの効果を判定する際に実施前後のMMS得点の平均値を比較し、安易な統計処理に基づいて有意差の有無を検定することなどは全く意味のないことです。
また、特に「時の見当識」の判定の際には、正答(1点)または誤答(0点)の二者択一の単純な判定に留めるのではなく、本質的に重要な「見当識の安定性」に着目することが大切です。したがって、前述の「MMS」の検査手順で説明したように、「日・年・月」が正答できるかどうかを3回確認して、「安定」、「不安定」、「不可」という3段階の評価をしておくことが適切だと思います。
1-4-2-4 MMSの「下位項目」と「項目困難度」
図14に示される「MMS」の様々な検査項目(時の見当識、場所の見当識、記銘、注意と計算、想起、命名、復唱、口頭命令、書字命令、文を書く、図形の模写)は「下位項目」と呼ばれています。そして、それぞれの下位項目に正答できるかどうかの“難しさ”(難易度)は「下位項目」の「項目困難度」という言葉で表現されています。
老化廃用型認知症における認知機能の障害や進行過程を十分理解して、主に左脳が担う認知機能の「残存機能」と「欠落機能」を的確に評価するためには下位項目の項目困難度を理解することが必要不可欠であると言っても決して過言ではありません。しかしながら、「MMS」を含めた「浜松2段階方式」に習熟していない方にはかなり難解な内容であると言わざるを得ません。
したがって、このブログでは、
☆ 左脳が担う認知機能の障害は「想起」「時の見当識」「注意と計算」「口頭命令」「記銘」の順序で障害されていく
☆ 時の見当識は「日」「年」「月」「季節」「時刻」の順序で障害されていく
という「エイジングライフ研究所」(http://www.ageinglife.jp)が解析した2つの貴重な知見を記載しておくことにします。
1-4-2-5 MMSの簡易な実施方法 ―「簡略法」と「超簡略法」
「浜松2段階方式」、すなわち「かなひろいテスト」と「MMS」を実施して知的機能を評価する際には、知的機能に関する理解を深めることや検査法に習熟する必要があることは述べるまでもありません。しかし、検査に要する時間は「かなひろいテスト」では概ね5分~10分程度ですが「MMS」では概ね40分前後の時間だけでなく所定の検査物品の準備などが必要であり、検査を実施する側の手間や被検者の負担も決して少なくありません。
そこで、このブログでは、実際の医療や介護の現場において簡便に実施できる「MMS」の「簡略法」と「超簡略法」を特別に紹介しておきたいと思います。
(検査の手順;簡略法)
① 日付の確認(時の見当識)
被検者に「今日は何月何日ですか?」と質問する。そして、その後に「今年
は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかかわらず「今日はX年
X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。
② 3つの言葉を言い返す(記銘)
被検者に「今から3つの言葉を言いますから、私が言い終わってから、その
3つの言葉を言ってください」と説明する。そして「みかん・電車・27」と
被検者に3つの言葉を伝えた後、被検者に「今言った3つの言葉を言ってみて
ください」と回答を促す。正答できたかどうかにかかわらず「今言った3つの
言葉を後で思い出していただきますから、しっかりと覚えてください」と伝え、
「みかん・電車・27」と言ってもらう(3つの言葉が正答できた場合)。
③ 「かなひろいテスト」を実施と日付の確認(時の見当識)
「かなひろいテスト」の終了後に「今日は何月何日ですか?と質問する。そし
て、その後に「今年は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかか
わらず「今日はX年X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。
④ 3つの言葉を思い出す(想起)
被検者に「先ほど覚えていただいた3つの言葉を言ってみて下さい」と伝えて
回答を促す。思い出せない言葉があればヒントを与えておもいだせるかどうかを
確認する。*ヒントの例 / みかん;「み」のつく言葉・くだもの、電車;「で」
のつく言葉・乗り物、27;数字・17? 27? 37?(三択)
(検査の手順;超簡略法)
① 日付の確認(時の見当識)
被検者に「今日は何月何日ですか?」と質問する。そして、その後に「今年
は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかかわらず「今日はX年
X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。5分程度の時間が経過して
から被検者に「今日は何月何日ですか?」「今年は何年ですか?」と再び質問
する。
「MMS」の「簡略法」は10分~15分程度の所要時間で「超簡略法」は5分以内の所要時間で実施することができます。そして、その結果から得られる「MMS」の判定は以下のとおりです。
(超簡略法、簡略法から得られる「MMS」の判定)
(1)「日」「年」「月」の全てが正答できる場合
→ MMS得点は「20点以上」
(2)「日」「年」「月」のどれかが正答できない場合
→ MMS得点は「20点未満」
(3)「月」のみ正答できる場合
→ MMS得点は「18点前後」(19点~15点)
(4)「月」が正答できない場合
→ MMS得点は「14点以下」
かなり簡便すぎる(大胆すぎる)判定であると思われる方が多いとは思いますが、判定の根拠や妥当性に疑問や興味などのある方は「脳のはたらきからみた認知症―予防と介護の新しい視点―」(真興交易㈱医書出版部)をご参照いただければ幸いです。また、直接ご連絡をいただければ時間の許す範囲で詳しく説明させていただきます。
「かなひろいテスト」と「MMS」の2つの検査法(神経心理検査)を用いて知的機能を評価する手法は「浜松2段階方式」と呼ばれ、その臨床的有用性は以下の3点に集約できます。
1)認知症かどうかや進行度がわかる
前頭葉機能を含めた知的機能を評価することにより、高齢期における正常から
認知症への進行過程を簡便かつ的確に評価することができる。
2)早期発見が可能で認知症を予防できる
まだ認知症の症状が出現しない「早期認知症」のレベルで障害を発見すること
ができるため、「脳リハビリ」を実施することにより知的機能の改善や維持、
認知症への進行を防止できる。
3)障害や個性に応じた適切な介護ができる
神経心理検査を正しく実施し評価することにより欠落機能と残存機能を的確に
評価することができるので認知症の症状の発生要因の分析や適切な対応、発症
予防が可能となる。
1-4 「脳のはたらき」(知的機能)の検査法
1-4-1 かなひろいテスト
図12は「浜松2段階方式」で用いる「かなひろいテスト」の検査用紙(A3大)です。このブログでは「かなひろいテスト」の検査手順や検査成績の表記法などを列記しておくことにします。

1-4-1-1 かなひろいテストの検査手順
① 検査用紙の上段にあるテストの説明文「次のかな文の内容を…」を読みながら、
実施する検査の内容を被検者に説明する(教示)。
② 被検者が教示を理解できているかどうかを確認するために、練習問題を実施する
(教示を何度も反復しながら指示や誘導などを行ってもよい)。
③ 被検者が教示を理解できず、練習問題もできない場合には検査を終了する。
④ 教示を理解して練習問題ができることを確認できた場合には、本題の部分を指し
示して 「 あ・い・う・え・お 」の文字を拾いながら(丸印をつけながら)本題
の内容を読み取る(記憶する)作業を開始するよう被検者に指示する(作業時間
は2分間で作業中に再教示はしないこと。また、質問にも答えないこと。)。
⑤ 作業が終了した後、日付(検査の実施日)を質問し、被検者が答えた日付を検査
実施者が「実施日」の欄に記入する。
⑥ 検査用紙を回収した後、記憶している本題の内容(単語、短文など)を被検者に
質問し、「回答した内容」(意味把握)の欄に記入する。
⑦ 被験者が記入した本題の欄を確認し、作業を実施した範囲内の「正答数」「誤答
数」「脱落数」を集計し、検査用紙に記入する。
*正答数;「 あ・い・う・え・お 」に丸印がついている数
*誤答数;「 あ・い・う・え・お 」以外に丸印がついた数
*脱落数;「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけ忘れた数
⑧ 以上で検査を終了するが、検査時に観察した被検者の状況などを検査用紙の余白
に記入しておく。
(例1)「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけることを忘れてしまい、
声を出して本題の内容を読み続ける
(例2)「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけることだけに集中してし
まい、作業が終わってから本題の内容を読み取る(記憶する)
(例3)「い」だけに丸印をつける
1-4-1-2 かなひろいテストの検査結果の表記法
「かなひろいテスト」の検査結果は以下のように表記します。
( 「正答数」,「誤答数」+「脱落数」,「意味把握の評価」 )
「意味把握」は被検者が本題の内容を読み取った範囲に応じて「可」「不十分」「不可」の3つに分類して評価します。本題には全体で17行の文章が記載されていますが、「意味把握」は2分間の作業の中で被検者が「 あ・い・う・え・お 」に丸印をつけた範囲すなわち本題の内容を読み取った(記憶した)範囲に含まれている内容(単語や短文)を被検者がどの程度答えられるかどうかを確認して評価します。そして、1行目の「おばあさん」と10行目の「つぼ」という2つの言葉が「意味把握」ができているかどうかを評価する際の重要な指標になります(表4)。

1-4-1-3 かなひろいテストの検査結果の判定区分と判定の指標
「かなひろいテスト」の成績(検査結果)の判定は、以下のとおり、5つの判定区分に分類されています(表5)。
①「合 格」; 作業が教示どおりに実施でき、その結果「正答数」が
「概ね10個以上」、かつ「意味把握」が「可」または
「不十分」であった場合
②「不合格」; 作業は教示どおりに実施できたが、上記の「合格」の
判定の指標に該当しなかった場合
③「拒 否」; 何らかの理由で、被検者が検査を拒否した場合
④「障 害」; 何らかの障害(視聴覚障害や書字障害など)のために
教示の理解や作業の実施が困難であった場合
⑤「困 難」; 上記③、④以外の理由のために教示の理解や練習問題
の実施が困難で、本題を実施せず検査を終了した場合

1-4-1-4 かなひろいテストの成績の経年的推移
「かなひろいテスト」の成績は知的機能の老化現象の指標であると同時に後述する「早期認知症」を発見するための重要な指標です。したがって、「かなひろいテスト」が合格であった場合でも、特に老化廃用型認知症を確実に予防するためには、健康診断などの機会に「かなひろいテスト」を「年に1~2回程度」実施することによって「正答数」の経年的推移を観察していくことが大切です(図13)。

そして、「正答数」が相対的に著しく減少した場合、例えば75歳の時に実施した「かなひろいテスト」の「正答数」が30個であったある被検者の77歳時の「正答数」が12個に著しく減少したような場合には、その被検者が老化廃用型認知症に移行しやすいハイリスク者の状態になったと判断して、早期に後述する「脳リハビリ」などの何らかの対応を始める必要があります。
一方、毎年実施しているある被検者の「かなひろいテスト」の「正答数」が80歳以降においても12個前後で推移しているような場合には、その被験者の知的機能の老化現象は進行していないと判断することができます。
1-4-2 MMS
「MMS」(Mini-Mental State)は知的機能(認知機能)の簡易検査法として繫用され、一般的には「MMSE」(Mini-Mental State Examination)と略称される場合が多いようようです。しかし、浜松2段階方式においてはこの検査法についての詳細な解析や臨床応用が確立していることから、このブログにおいても敢えて「MMS」と略称したいと思います。
図14は「浜松2段階方式」で用いる「MMS」を含む神経心理検査の検査用紙(A4大)ですが、このブログでは「MMS」の検査手順の概要や検査を実施する際の留意事項などについて列記しておくことにします。

1-4-2-1 MMSの検査手順
①「時」と「場所」の「見当識」について質問し、被検者の応答を検査用紙に記入
するとともに正しく答えられた項目の得点(時の見当識;5点、場所の見当識;
5点)を粗点の欄に記入する。
②「記銘;3点」「注意と計算;5点」「想起;3点」について、正しく答えられ
た項目の得点を粗点の欄に記入する。
③「命名;2点」「復唱;1点」について、正しく答えられた項目の得点を粗点の
欄に記入していく。
④「口頭命令;3点」「書字命令;1点」「文を書く;1点」「図形の模写;1点」
について、指示に従った正しい作業や動作ができた場合の得点を粗点の欄に記入
する。
⑤ 最後に、粗点の欄に記入した得点の合計(合計得点)を所定の欄に記入する。
1-4-2-2 MMSを実施する際の留意事項
* 「時の見当識」関する質問への応答が終わった後、正しく答えられたかどうかにかか
わらず正しい答を教示し、後で再び質問することを被検者に伝えておく。そして「文
を書く」の作業を開始する際に「A4用紙」に検査日の日付を記入するよう指示する。
最後に、検査の終了後に引き続き実施する「かなひろいテスト」の際に検査日の日付
を質問し、被検者の応答を所定の欄に記入する。
*「注意と計算」を実施する際には「100から7を引き、その答から7を引く計算を
5回続けてください」と説明するが、「100-7は」と最初に質問した後は質問や
教示をしないこと。例えば、「93」と被検者が答えた後に「では、93-7は」と
質問してはいけない。
1-4-2-3 MMSの判定
「MMS」の検査成績の判定には、前述した「MMS」の検査項目(下位項目)の粗点の合計得点(MMS得点;30点満点)が用いられます。そして、合計得点が判定(検査成績)の指標となりますが、24点以上を「正常領域」、23点~21点以上を「境界領域」、20点以下を「障害領域」と判定する場合もあります。また、被検者が検査の実施を拒否した場合を「拒否」、視聴覚障害などのために検査を実施できない場合を「障害」、「拒否」や「障害」以外の理由のために検査を実施できない場合を「困難」と判定するのが適切だと思います(表6)。

一方、MMS得点は、身長や体重のような「連続数値」ではなく、通知表の5段階評価のような「スコア数値」であることを念頭に置くことが大切です。例えば、脳リハビリの評価をする際に実施前後のMMS得点を比較し、20点から21点に増加した場合を改善と判断する、あるいは26点から24点に減少した場合を悪化と判定するようなことは避ける必要があります。また、ある小集団に実施した脳リハビリの効果を判定する際に実施前後のMMS得点の平均値を比較し、安易な統計処理に基づいて有意差の有無を検定することなどは全く意味のないことです。
また、特に「時の見当識」の判定の際には、正答(1点)または誤答(0点)の二者択一の単純な判定に留めるのではなく、本質的に重要な「見当識の安定性」に着目することが大切です。したがって、前述の「MMS」の検査手順で説明したように、「日・年・月」が正答できるかどうかを3回確認して、「安定」、「不安定」、「不可」という3段階の評価をしておくことが適切だと思います。
1-4-2-4 MMSの「下位項目」と「項目困難度」
図14に示される「MMS」の様々な検査項目(時の見当識、場所の見当識、記銘、注意と計算、想起、命名、復唱、口頭命令、書字命令、文を書く、図形の模写)は「下位項目」と呼ばれています。そして、それぞれの下位項目に正答できるかどうかの“難しさ”(難易度)は「下位項目」の「項目困難度」という言葉で表現されています。
老化廃用型認知症における認知機能の障害や進行過程を十分理解して、主に左脳が担う認知機能の「残存機能」と「欠落機能」を的確に評価するためには下位項目の項目困難度を理解することが必要不可欠であると言っても決して過言ではありません。しかしながら、「MMS」を含めた「浜松2段階方式」に習熟していない方にはかなり難解な内容であると言わざるを得ません。
したがって、このブログでは、
☆ 左脳が担う認知機能の障害は「想起」「時の見当識」「注意と計算」「口頭命令」「記銘」の順序で障害されていく
☆ 時の見当識は「日」「年」「月」「季節」「時刻」の順序で障害されていく
という「エイジングライフ研究所」(http://www.ageinglife.jp)が解析した2つの貴重な知見を記載しておくことにします。
1-4-2-5 MMSの簡易な実施方法 ―「簡略法」と「超簡略法」
「浜松2段階方式」、すなわち「かなひろいテスト」と「MMS」を実施して知的機能を評価する際には、知的機能に関する理解を深めることや検査法に習熟する必要があることは述べるまでもありません。しかし、検査に要する時間は「かなひろいテスト」では概ね5分~10分程度ですが「MMS」では概ね40分前後の時間だけでなく所定の検査物品の準備などが必要であり、検査を実施する側の手間や被検者の負担も決して少なくありません。
そこで、このブログでは、実際の医療や介護の現場において簡便に実施できる「MMS」の「簡略法」と「超簡略法」を特別に紹介しておきたいと思います。
(検査の手順;簡略法)
① 日付の確認(時の見当識)
被検者に「今日は何月何日ですか?」と質問する。そして、その後に「今年
は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかかわらず「今日はX年
X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。
② 3つの言葉を言い返す(記銘)
被検者に「今から3つの言葉を言いますから、私が言い終わってから、その
3つの言葉を言ってください」と説明する。そして「みかん・電車・27」と
被検者に3つの言葉を伝えた後、被検者に「今言った3つの言葉を言ってみて
ください」と回答を促す。正答できたかどうかにかかわらず「今言った3つの
言葉を後で思い出していただきますから、しっかりと覚えてください」と伝え、
「みかん・電車・27」と言ってもらう(3つの言葉が正答できた場合)。
③ 「かなひろいテスト」を実施と日付の確認(時の見当識)
「かなひろいテスト」の終了後に「今日は何月何日ですか?と質問する。そし
て、その後に「今年は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかか
わらず「今日はX年X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。
④ 3つの言葉を思い出す(想起)
被検者に「先ほど覚えていただいた3つの言葉を言ってみて下さい」と伝えて
回答を促す。思い出せない言葉があればヒントを与えておもいだせるかどうかを
確認する。*ヒントの例 / みかん;「み」のつく言葉・くだもの、電車;「で」
のつく言葉・乗り物、27;数字・17? 27? 37?(三択)
(検査の手順;超簡略法)
① 日付の確認(時の見当識)
被検者に「今日は何月何日ですか?」と質問する。そして、その後に「今年
は何年ですか?」と質問する。正答できたかどうかにかかわらず「今日はX年
X月X日ですよ(ですね)」と教示(確認)する。5分程度の時間が経過して
から被検者に「今日は何月何日ですか?」「今年は何年ですか?」と再び質問
する。
「MMS」の「簡略法」は10分~15分程度の所要時間で「超簡略法」は5分以内の所要時間で実施することができます。そして、その結果から得られる「MMS」の判定は以下のとおりです。
(超簡略法、簡略法から得られる「MMS」の判定)
(1)「日」「年」「月」の全てが正答できる場合
→ MMS得点は「20点以上」
(2)「日」「年」「月」のどれかが正答できない場合
→ MMS得点は「20点未満」
(3)「月」のみ正答できる場合
→ MMS得点は「18点前後」(19点~15点)
(4)「月」が正答できない場合
→ MMS得点は「14点以下」
かなり簡便すぎる(大胆すぎる)判定であると思われる方が多いとは思いますが、判定の根拠や妥当性に疑問や興味などのある方は「脳のはたらきからみた認知症―予防と介護の新しい視点―」(真興交易㈱医書出版部)をご参照いただければ幸いです。また、直接ご連絡をいただければ時間の許す範囲で詳しく説明させていただきます。
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