午後からぽっかりと仕事があいてしまいました。
こんな日は気分転換するチャンスです。
平日の箱根登山鉄道はさすがにすいておりました。
終点までの30分間、車窓の景色を眺めながらのカップ酒は最高です。
強羅駅の裏側に位置する温泉ホテル強羅館の日帰り入浴でまったりと湯につかります。
少し青みをおびた濁りの湯はぬるめで長湯するにはちょうどいい温度です。
数年前、まだ改装する前のこの宿に家族旅行に来た思い出があります。
あの頃、まだ父は杖をつきながらも歩けていたっけ・・・
ひとりになると、まだ父のことを思い出してしまいます。
ICUに移された父の容体について医師から絶望的な説明を受けました。
その後、母と兄と三人で交代しながらずっと父に寄り添っておりました。
人工呼吸器が装着された父は、もうほとんど意識はありませんでしたが、むくんだ手を握ると目を開いてくれました。
俺だよ、わかる?
言葉は返ってはきませんが、ゆっくりとうなずく父。
退院したら、みんなで札幌に旅行しような。
しっかりとこちらを見ながらまたうなずいてくれた父。
父にとっての札幌は僕ら以上に特別な思いがつまった土地です。
元気な頃、酒に酔った上機嫌の口からは決まって札幌の時の話をたくさん聞かせてくれたものでした。
最後の父との二人きりの時間は、辛くもあり、悲しくもあり、なぜか穏やかな時間でもありました。
湯船につかりながら、帰りの計画を考えます。
そうだ、あの店に寄ってみよう。
宿の窓から眺める山肌には“大の字”が刻まれております。
ずっと昔の8月16日、就職につく前日に僕はこの風景を地元仲間と一緒に見ていました。
今度、母を連れてまたこの宿に泊りにこようかな・・・
強羅駅で父の好きだった温泉卵を購入し小田原へと下ります。
4時50分、目当ての店に到着。
まだ暖簾は掛けられておりませんが扉を開けてみるとすでに地元常連客で半分の席は埋まっておりました。
温泉で汗と涙を流したまま一滴の水分補給もしていなかった僕の喉は間違いなく瓶ビールを要求しております。
グラスに注ぎ一気に飲み干します。
うまい!
かわはぎ刺身と白子天ぷらを注文。
熱燗にきりかえちびりちびりはじめた頃には、店内はすでに満員になっておりました。
おしつけの味噌漬け焼きと烏賊刺しを追加。
このお店はどれを食べても本当に美味しいのです。
僕が高校卒業間近だったと思います、一度だけ父と兄が酔っ払って帰宅したことがありました。
あの時の父は珍しくぐでんぐでんに酔っておりまして、額からは血が流れておりました。
後から聞いた兄の話ですが、偶然見かけた父は藤沢駅の近くで泣きながら電信柱にしがみついていたそうです。
家族を支えるため、あの頃の父がどんな苦しい思いを秘めていたのか・・・今となってはもう聞くことはできません。
燗酒を追加します。
危うく涙酒になる寸前でしたが、横に座った常連の方が気さくに話しかけてくれましたので助かりました。
しばし父のことを忘れ楽しい会話で酒がすすみます。
6時半、店を出ました。
こんなお店で、父とサシで飲んでみたかったな・・・
冷たい風が、頬をいじめながら通り過ぎます。
ひとり酒にはまだちょっと辛すぎた、小田原の夜のことでした。
こんな日は気分転換するチャンスです。
平日の箱根登山鉄道はさすがにすいておりました。
終点までの30分間、車窓の景色を眺めながらのカップ酒は最高です。
強羅駅の裏側に位置する温泉ホテル強羅館の日帰り入浴でまったりと湯につかります。
少し青みをおびた濁りの湯はぬるめで長湯するにはちょうどいい温度です。
数年前、まだ改装する前のこの宿に家族旅行に来た思い出があります。
あの頃、まだ父は杖をつきながらも歩けていたっけ・・・
ひとりになると、まだ父のことを思い出してしまいます。
ICUに移された父の容体について医師から絶望的な説明を受けました。
その後、母と兄と三人で交代しながらずっと父に寄り添っておりました。
人工呼吸器が装着された父は、もうほとんど意識はありませんでしたが、むくんだ手を握ると目を開いてくれました。
俺だよ、わかる?
言葉は返ってはきませんが、ゆっくりとうなずく父。
退院したら、みんなで札幌に旅行しような。
しっかりとこちらを見ながらまたうなずいてくれた父。
父にとっての札幌は僕ら以上に特別な思いがつまった土地です。
元気な頃、酒に酔った上機嫌の口からは決まって札幌の時の話をたくさん聞かせてくれたものでした。
最後の父との二人きりの時間は、辛くもあり、悲しくもあり、なぜか穏やかな時間でもありました。
湯船につかりながら、帰りの計画を考えます。
そうだ、あの店に寄ってみよう。
宿の窓から眺める山肌には“大の字”が刻まれております。
ずっと昔の8月16日、就職につく前日に僕はこの風景を地元仲間と一緒に見ていました。
今度、母を連れてまたこの宿に泊りにこようかな・・・
強羅駅で父の好きだった温泉卵を購入し小田原へと下ります。
4時50分、目当ての店に到着。
まだ暖簾は掛けられておりませんが扉を開けてみるとすでに地元常連客で半分の席は埋まっておりました。
温泉で汗と涙を流したまま一滴の水分補給もしていなかった僕の喉は間違いなく瓶ビールを要求しております。
グラスに注ぎ一気に飲み干します。
うまい!
かわはぎ刺身と白子天ぷらを注文。
熱燗にきりかえちびりちびりはじめた頃には、店内はすでに満員になっておりました。
おしつけの味噌漬け焼きと烏賊刺しを追加。
このお店はどれを食べても本当に美味しいのです。
僕が高校卒業間近だったと思います、一度だけ父と兄が酔っ払って帰宅したことがありました。
あの時の父は珍しくぐでんぐでんに酔っておりまして、額からは血が流れておりました。
後から聞いた兄の話ですが、偶然見かけた父は藤沢駅の近くで泣きながら電信柱にしがみついていたそうです。
家族を支えるため、あの頃の父がどんな苦しい思いを秘めていたのか・・・今となってはもう聞くことはできません。
燗酒を追加します。
危うく涙酒になる寸前でしたが、横に座った常連の方が気さくに話しかけてくれましたので助かりました。
しばし父のことを忘れ楽しい会話で酒がすすみます。
6時半、店を出ました。
こんなお店で、父とサシで飲んでみたかったな・・・
冷たい風が、頬をいじめながら通り過ぎます。
ひとり酒にはまだちょっと辛すぎた、小田原の夜のことでした。