クロ騎士物語

某画像掲示板画像レスラー派生SS集(試行)

機動戦士物。

2011-12-31 22:49:08 | レスラー☆メモリアル
 連邦軍駆逐艦《サンジハル》は護衛任務で哨戒行動中だった。
「くだらん任務だ」
 ナカガワ大尉は指揮卓に肘杖をついて,ひとりごちた。

 海賊の脅威は現実のものではある。だが,それを避けるのはそう難しいことではない。単独行を避け,船団を組む。これに護衛艦をつければ,なおよい。
 いや,船団を組むまでもないこともしばしばだ。交通の要所と言うのは,交通が頻繁なものだ。各船は相互に視線を投げ合い,相互に周辺を警戒しあっているのに等しい。

 所詮,海賊どもなど,大した装備をもっているわけではない。ケチな連中だ。はぐれ貨物船を襲うのが精々だ―
「通信士。この―」
 と,ナカガワはやや航路をはずれ気味の貨物船を示す輝点をチェック。航路図上の位置データを通信士のモニタに送る。
「この船に警告。貴船は推奨される航路を外れつつある。変針されたし,と」
「はい,大尉」
 と,通信士は所定の手順に従って通信を送る―。その姿を見やりながら,ナカガワは思う。しかしあの船,なんだってあんな低速なのかな?

「大尉」
 デッキに入ってきた足音は,ナカガワの脇で止まって彼を呼んだ。いや,足音ではない。
「何か」
「これを」
「ふむ?」

 ホロ・ペーパーを差し出す彼は,ナカガワのスタッフだ―“副官”として修行中の,士官学校主席のエリート様。
 軍隊も官僚組織だ,エリート様の“下積み”用に相場のコースというものがある。二年ほども現場勤めをすれば御栄転―ふん,まあ,この若造に精々いい顔をしておくさ。将来,“恩師”たる俺を,多少は出世させてくれるかもしれんしな。

「―確かか?」
「十中,八,九は。先ほどの通信の反応待ちですが」
「なるほど。では」念のため,と言いさして,ナカガワはその語を飲み込んだ。不用意な言葉は言わずにおくべきだ。
「そうだな,クライン軍曹の分隊に出動準備をさせておけ。追って指示する」
「了解しました」
 踵を返す彼に「少尉」と呼び止めて,自分は何を言おうとしたのだろう,ナカガワは惑った。
「は,何か」。珍しく,少々戸惑いの気配を漂わせるこの冷たい目の,細面の,優秀な補佐官に。

 ―出すべき指示までシナリオを描いて,仮初めの上官に手柄を確保してくれたことへの感謝か? 出過ぎるな,と言うべきではないのか。
 杞憂なら良いな,などとこれからを予感させるような事を言い,ブリッジ・クルーを無駄に緊張させるのか? それでは自分は,この若造が書いた喜劇の道化だ。

 少し考えて,「序でに補給部に一言,言ってくれんか。ブリッジ要員にコーヒーを,と」
「―承知しました」,少尉は敬礼して去ってゆく。

 あの,底冷えのする目!こちらの魂胆など,見透かされている―ような。
 今まで,何人もの“エリート”を見てきた。だが奴は別格のように思う。さて,しかし,オレの目が正しかったことなど―どれほどあったかな。バプテマス・シロッコ少尉。しかし彼は,どこまで行くだろうな。

「大尉,艦長」と通信士が振り返る。
「どうした」
「例の貨物船,木星航路社の定期船《シャクティ》より,入電。『ワレ,機関不調。ナレド航行可能。先ニ行カレヨ』」
「管制,クライン分隊に発艦準備を指示。目標,《シャクティ》。臨検だ。通信,《シャクティ》に本航路の治安状況を説明せよ。当方としては単独行を推奨しない,護衛としてモビルスーツ2機を送る用意があると。《シャクティ》の船籍を再確認しろ―」

 矢継ぎ早の指示にクルーは驚く。けれどそれも一瞬。誰もが目の前の仕事にかかりきり。ああ,近代の人間はこんなふうに,まるで単機能の機械のようになるよう,仕向けられている―そんな哲学説をいった思想家がいたな。ナカガワは,大学時代をふと思い起こした―ナカガワは一般大学卒だった。

 何が悪いというのだろう? 人間はみんな,それぞれの場所で任務を果たすべきだ。我々はみんなそうして生きている。近代のシステムだ。人間のシステムだ。だがそれが悪いのだと,俺に熱弁をふるった同級生はどうなったっけな?

 シュゥン! ドアが開いて,「艦長」,補給部員とコンテナを引き連れ,シロッコ少尉が戻ってきた。「コーヒーです」,その手のトレイに,コーヒーとチョコレートバーを載せて。ナカガワの瞳に瞬間差した不審の念を見て取ってか,シロッコは「もし,多少長丁場となるならと」と言い添えた。
「いい仕事だ」,ナカガワは感情を見せぬ声で返答した。チョコ・バーについては,補給部員の気配りではあるまい,この少尉の発案に違いない。

「《シャクティ》,進路やや変更。推奨航路に並行するコースかと思われます。速度,微減」
「《シャクティ》より返電。『気遣イ感謝。我ニ構ワズ先行サレタシ』」
「再度送れ,本艦としては単独行動を推奨しない,と」,視線を副官に向けて,ナカガワは言う。「少尉」
「はい,大尉」
 そこに通信士が割り込む,「船籍再確認! 木星航路社《シャクティ》は三か月前に除籍,廃船として売却済みのはず!」
「クライン分隊,出撃。《シャクティ》を『適切に護衛』せよ」

 一通りの指示を出した後,ナカガワは椅子に深く身を沈め,副官に声をかけた。
「―少尉,状況をどう見る?」
「小官にはわかりか―」
「それはナシだ,少尉。貴官の見解を聞きたい」

 ナカガワは年長者の威厳を視線に込めてみた。当たり障りのないエリート少尉のふりはナシだ,さあ,お前の有能さをクルーに見せろ…!

「…海賊どもの物資補給船でしょうか? 航路を外れようとしたのを,我々に見とがめられた―」
「に,してはモノが大きすぎる。そうだな?」
「そうですね―あの規模の船腹ですと,まるで―」
「―護衛空母,軽空母に匹敵する規模だ。そんなフネを,海賊が? 運用するか?」
「―何らかの武装勢力に関与している可能性―」
「万が一だが,考慮しておくべきだと?」
「小官には判断しかねます」
 シロッコ少尉は口早にセリフを吐いた。逃げたな,とは思うが,逃げる隙をつぶせなかったのはこちらの未熟だ。それに今は,この少尉を意識すべき時ではない。

「通信士。僚艦に通信。不審船発見。援護を乞う,と」
「艦長!」とソナー員が叫ぶ。「《シャクティ》,変針! デブリ群に向かいます! あれ,これ…?」
「あれ,これ,ではわからん! 何だ!」
「―《シャクティ》に―動きあり。熱源反応複数。この規模は―モビルスーツ…?!」
「クライン分隊に急告! 火器使用許可! ただし自衛のためのみとす! 僚艦《グロヲハル》に増援要請! 本艦も,直衛に第三小隊のみ残して全MS出動せよ!」

 そうして《サンジハル》艦内に緊急事態発生を告げる放送が鳴り響いていたころ―対する元《シャクティ》 艦 内 にも,同様の音が響いていた。さすがに元は民間の機材だけあって,まるで小中学校の火災報知機のような間の抜けた音だったけれど。

「艦長」
「これは,バレたね」
「こちらの素性まで―?」
「そうでなくとも,後ろめたい物を積んでるだろうって―MSが2機。あれは臨検しようって腹だね」
「許可しますか?」
「冗談!」
「では―」
「―実戦だね。我がネオ・ジオン軍初の―」

『艦長! MS隊,準備完了! いつでも行けます!』

 MSハンガーから意気軒昂な声があがる。

「対空砲座! 発砲は許可を待て! MS部隊,出撃用意!」

 息詰まるような数瞬。みんな,大切な一言を待っている。歴史に残るはずの一言を待っている。自分たちの命を歴史に刻む一言をまっているのだ。

「艦長!」

 さあ,さあ! 新たな人類史に俺たちを刻め!

「総員,傾注! 本船は現時点を以て偽装を放棄する! ネオ・ジオン軍,護衛空母《ヤネウーラ》総員! 本艦は戦闘行動を発起するッ!」


---to be continued


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-01-10 01:50:41
海賊がもう骸骨背負ったCVしか浮かばないそんな夜
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