「さて古手君」
「なんでしょうボス」
「傭兵暮らしという君に対して,ここに読者からのお手紙があります」
「ふむん?」
「ほどほどに安く見積もったらしい僕に何か言いたいことはある?」
「いえー…『うまくやったなあ』ってくらいですかねえ?」
「あははははは」
以上,わりと実話。
とある会議の席だ。私は以前,ボスと交わした会話を思い出した。
「人事の要諦はね」とボスは言ったことがあるんだ。「自分より優れている人を採ることだよ」。
ふーむ,私より優れている人かあ,と私は幾人かを思い浮かべた。そして言う,「北条さんという人がいまして。どうですかね。その人なら,私とちょっと毛色が変った同格。彼がいれば,うちの部署の業績は二倍に増えますが」。
「あのねえ,古手さん」,人事部長が私に言い聞かせた。「今日は人員削減の話をしたのでしてね」。
「はい,知ってます」そして爽やかに言い返す―「でも,よその部署で減らせばいいじゃないですか」。
鬼のような発言である。
「いや,あの」
「うちに彼を呉れれば,うちのセクターの業績は二倍から,相乗効果で2.5倍くらいになります。一人あたりの生産性なら,よその2倍から4倍以上になります。それでいてパートタイマーを減らして,内製率を高めることもできます」
これが元部長仕込みの,最若手主任の発言である。
「ちなみにこれがその場合の試算です」
ずらり,シミュレート6パターン。数字でカリカリ締め上げるのが私のスタイル(※出身は文系)。
「あの,まあその話はまた今度―ああ,内製率はそんなに気にしなくて結構ですよ。うちはそんなに悪くないので。むしろ『あっち』がねえ」
「ああ,そうなんですねえ…」
系列の別事業所の問題があるのである。
「ちなみに古手さん,この事業表にある社内講習のデューティですが,古手さんは心配することないですよ―講師の先生は,後任に打診中です」
「ああ,それはよかった。理論なら,私もやれと言われればやれますけど,私があまりでしゃばるのもねえ」
「ええ,まあ,安心していてください」
なお上掲の会話は社長の面前で行われた。
『大人しくしてろ,小娘』
『分はわきまえてますよ―でも数字は自前で抑えてますから,ただ支配されはしませんから』
『利用価値があることは認めてやる』
『ご存分に。上手く使えれば,ですけどね?』
微妙な暗闘をこなす程度には古手さんは外面如菩薩内心如夜叉なのである。
ちなみに社長は“古手さんは現場だけみているわけじゃなく,一歩上からの視点をおもちのようで,これからもよろしくお願いします”と超大人発言(そりゃ事務方も用意してない数字を,末端の資料から自分で再構成して用意したものね,私)。
まあそれが3週間前の話ね。
で今週の話はこんな感じなの―
「ああ,古手さん」
「はい?」
「先日の,講習の講師の先生の件なんですけど」
「はあ」
「交渉が不調におわりました。なので,古手さん,よろしくお願いします。あの,先日,古手さんが出したご提案の方向で。私も腹案がありますから,それでそれとこれとを組み合わせましょう。いやあ,内製率も高まりますし,いいことだらけですね」
「…はい?」
「いえ,ですから後任講師(予定)さんとの交渉が不調におわ」
「で,私にやれと」
「はい」
「ぬぁああああああっ?!」
「まあ全部やれとはいいませんから。まあ全15回の講習のうち,6回くらい」
「ちょぉ,まって! あのっ! 資料購入とか用意がですねっ?!」
「いくらぐらい?」
「まーあの,*万くらいで」
「じゃあ,出します」
「をう?」
「部長裁量経費があるんですよね。そこから出しときますから」
「…はい…」
そんなこんなで,講義の概要5回分をさっくり作り,裏付け参考資料の一覧表と購入するべき参考図書の一覧表を部長(等)にさっそく送りつける破目に陥ったワタシ。今週,忙しくなくなったはずなのにステルス開催さえなかった理由はこんなワケ。あうあう。
実際,私はお買い得物件だと思うのだけど,あのさすがに使いべりしますのよ? それに私がカバーする範囲がやたら広がるのも,なんというかいろいろマズイ点がですね? ものには限度というものがあるのよー(泣)。
「なんでしょうボス」
「傭兵暮らしという君に対して,ここに読者からのお手紙があります」
「ふむん?」
古手さんに頼るのは かなり要求されそう…
っていうか,そんな状況になった時点でもう詰み,じゃない?
っていうか,そんな状況になった時点でもう詰み,じゃない?
「ほどほどに安く見積もったらしい僕に何か言いたいことはある?」
「いえー…『うまくやったなあ』ってくらいですかねえ?」
「あははははは」
以上,わりと実話。
実際安い(が,モノには限度というものが)
とある会議の席だ。私は以前,ボスと交わした会話を思い出した。
「人事の要諦はね」とボスは言ったことがあるんだ。「自分より優れている人を採ることだよ」。
ふーむ,私より優れている人かあ,と私は幾人かを思い浮かべた。そして言う,「北条さんという人がいまして。どうですかね。その人なら,私とちょっと毛色が変った同格。彼がいれば,うちの部署の業績は二倍に増えますが」。
「あのねえ,古手さん」,人事部長が私に言い聞かせた。「今日は人員削減の話をしたのでしてね」。
「はい,知ってます」そして爽やかに言い返す―「でも,よその部署で減らせばいいじゃないですか」。
鬼のような発言である。
「いや,あの」
「うちに彼を呉れれば,うちのセクターの業績は二倍から,相乗効果で2.5倍くらいになります。一人あたりの生産性なら,よその2倍から4倍以上になります。それでいてパートタイマーを減らして,内製率を高めることもできます」
これが元部長仕込みの,最若手主任の発言である。
「ちなみにこれがその場合の試算です」
ずらり,シミュレート6パターン。数字でカリカリ締め上げるのが私のスタイル(※出身は文系)。
「あの,まあその話はまた今度―ああ,内製率はそんなに気にしなくて結構ですよ。うちはそんなに悪くないので。むしろ『あっち』がねえ」
「ああ,そうなんですねえ…」
系列の別事業所の問題があるのである。
「ちなみに古手さん,この事業表にある社内講習のデューティですが,古手さんは心配することないですよ―講師の先生は,後任に打診中です」
「ああ,それはよかった。理論なら,私もやれと言われればやれますけど,私があまりでしゃばるのもねえ」
「ええ,まあ,安心していてください」
なお上掲の会話は社長の面前で行われた。
『大人しくしてろ,小娘』
『分はわきまえてますよ―でも数字は自前で抑えてますから,ただ支配されはしませんから』
『利用価値があることは認めてやる』
『ご存分に。上手く使えれば,ですけどね?』
微妙な暗闘をこなす程度には古手さんは外面如菩薩内心如夜叉なのである。
ちなみに社長は“古手さんは現場だけみているわけじゃなく,一歩上からの視点をおもちのようで,これからもよろしくお願いします”と超大人発言(そりゃ事務方も用意してない数字を,末端の資料から自分で再構成して用意したものね,私)。
まあそれが3週間前の話ね。
で今週の話はこんな感じなの―
「ああ,古手さん」
「はい?」
「先日の,講習の講師の先生の件なんですけど」
「はあ」
「交渉が不調におわりました。なので,古手さん,よろしくお願いします。あの,先日,古手さんが出したご提案の方向で。私も腹案がありますから,それでそれとこれとを組み合わせましょう。いやあ,内製率も高まりますし,いいことだらけですね」
「…はい?」
「いえ,ですから後任講師(予定)さんとの交渉が不調におわ」
「で,私にやれと」
「はい」
「ぬぁああああああっ?!」
「まあ全部やれとはいいませんから。まあ全15回の講習のうち,6回くらい」
「ちょぉ,まって! あのっ! 資料購入とか用意がですねっ?!」
「いくらぐらい?」
「まーあの,*万くらいで」
「じゃあ,出します」
「をう?」
「部長裁量経費があるんですよね。そこから出しときますから」
「…はい…」
そんなこんなで,講義の概要5回分をさっくり作り,裏付け参考資料の一覧表と購入するべき参考図書の一覧表を部長(等)にさっそく送りつける破目に陥ったワタシ。今週,忙しくなくなったはずなのにステルス開催さえなかった理由はこんなワケ。あうあう。
実際,私はお買い得物件だと思うのだけど,あのさすがに使いべりしますのよ? それに私がカバーする範囲がやたら広がるのも,なんというかいろいろマズイ点がですね? ものには限度というものがあるのよー(泣)。