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職業、鍛冶手伝い。

現代の迷工、未来の虚匠

鉄とタンニン①

2010-08-10 19:02:13 | ひとりごと
前回ご紹介しました鉉の修理(http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/a0b5f43be13dafdcea6e9ac10af744d5)の続きです。
鉉は鉄瓶本体と同じ色に着色されて、本体に取り付けられます。ご存知の方も多いと思われますが、着色には主に漆(生漆)を使います。鉄瓶本体をある程度の温度まで加熱し、漆を焼付けます。漆の焼きついた被膜ができ、黒系統の色合いになります。茶系統の着色がされた鉄瓶のありますが、そちらはまた別の方法となります。どちらも塗装では得ることのできない趣があり、使い込むほどに風合いが出てきます。
今回鉉を修理した鉄瓶本体は内側も外側も大変状態が良く、いい古び方をしていました。鉉だけ漆で着色をし直すと雰囲気を壊しかねないと思い、今回ある方法を取りました。

普段「私事」で着色に使う「錆出し液」で黒錆を付けます。この錆はまだ不安定ですので、赤錆に変化する場合があります。

この日の朝飲んだお茶(煎茶)の出涸らしをさらしに包んでおいたものです。金属製の器に水を張り、少し沸かしておきます。お茶が煮出してきたら常温まで冷まします。

錆付けした鉉を炭火で加熱し、表面に水を落とし蒸発するくらいの温度になったら先ほどの布タンポで軽く叩く感じで押していきます。黒っぽく色が変化しているのがお分かりいただけるでしょうか。この方法は「お茶刷き」といい、鉄とお茶に含まれる「タンニン」の反応を利用した方法で鉄瓶の着色の仕上げにも使われます。鉄とタンニンが反応してできる「タンニン鉄」は比較的安定した被膜となり、赤錆などを発生しにくくしてくれます。
普段鉄瓶を使っていらっしゃる方はお手入れの方法としてご存知かもしれません。

左側がお茶刷きをした部分です。画像では分かりづらいと思いますが、タンニンの力で驚きの黒さになります。

余談ですが、時代劇などで既婚の女性が歯を黒くする「お歯黒」ですが、あれも鉄とタンニンの反応を利用しています。
まず、カルシウム質の歯に鉄漿(てっしょう/おはぐろ)液を塗ります。この後タンニンが含まれたお茶でうがいをすることによって、鉄漿の鉄分とタンニンが反応し、カルシウム質の歯の上に被膜を作ります。
もちろん風習の意味合いが強かったのでしょうが、栄養状態も悪く、歯科学も発達していなかった時代ですので女性は出産などでの体への負担で歯を悪くすることが多かったのかもしれません。ある意味予防医学だったのでは、という話を大学時代聞いたことがあります。

続きます。

プライベート・ゼロ

2010-08-06 18:50:31 | ひとりごと

今後の予定(今年度~来年度前半)を整理していて背筋が凍りました。

9月18日~      第23回南部鉄器まつり 南部鉄器新作展・創作展
9月23日~10月11日 「絵画・陶・金属工芸展」旧石井県令邸
11月       岩手工芸美術展 出展予定(公言すれば後に引けないと考えました。)
12月22日~24日     岩手の工芸 手仕事展 in Tokyo Χmas 東京・南青山
2011年
4月        盛岡市芸術祭 工芸部門 出展予定
6月        第21回 工の会展
7月13~24日    花巻市、湯本美術記念館で初個展開催決定
以降未定

・・・ゆとりを持って計画的にいきたいと思います。 

 

鉄の種類

2010-07-09 18:24:02 | ひとりごと
工房にいらっしゃるお客さんからよく「鉄」について質問されることがあります。私もそうだったように一般的に金属について、特に「鉄」についての知識はなかなか得る機会がありません。実は身の回りには見える部分見えない部分に多くの金属が使われています。一番私たちの生活に身近な金属で、最も使用されているのは「鉄(鉄合金)」または「アルミニウム」ではないかと思います。地球上の埋蔵量・産出量も一番多いと思われます。
ステンレスと呼ばれる金属も実は鉄と「クロム(Cr)」と呼ばれる鉱物の合金で、その錆びにくさから“stain-less steel”つまり「錆の少ない鉄(鋼)」とされました。今では身近なステンレスも、実は20世紀に入ってから実用化された鉄合金です。
鉄瓶本体に使われる鉄(鋳鉄)と鉉の材料の鉄(軟鋼)は全く性質が違います。鉄瓶本体は「鋳造」でつくられるため、熔けやすく(可熔性)、湯流れが良い(流動性)ことが素材の性質として求められます。鉉の場合、打ち延ばす(延性・展性)ことや引っ張りに強い(弾性・靭性)、仕上げで削る(可削性)ことなどが重視されます。
鉄(鉄合金)を性質ごとに分類する際、重要なのは鉄の中に存在する「炭素(C)」の量が決め手となります。
一般的に鉄の中の炭素が少ないと、粘っこく柔らかい性質となります(鉉の材料に使われる「軟鋼」など)。多いと硬く、かつ脆くなってしまいます。また、高温で溶かした場合、炭素量が少ないと流動性が悪く、多いと流動性が上がります。知識は半端ですが、ごく簡単にまとめると以下のようになります。

・炭素量少ない(0%-0.3%以下):軟鋼、軟鉄
「鉄」と言うと一般的にこの分類のものだと思います。軟らかく延性や展性に富み、「削る・曲げる」など鉄合金の素材の中でも加工が容易であらゆる場面で使用されます。
・炭素量中(0.3%-2%以下);鋼
長い歴史の中で、刃物などに使用されていて「刃金」と呼ばれていたことからこの名前になったとされています。適温の加熱状態から適温に急冷すると組織が変化し、硬さと粘りをバランスよく併せ持つ性質を持っています(熱処理;焼き入れ・焼き戻し)。刃物や工具などの利器や、強度が必要な部品などに使用します。
・炭素量多い(2%-6.67%);鋳鉄
硬く脆いですが高温で熔解した場合流動性が高いです。あらゆる鋳造鉄製品に使われます。

鉄といっても大雑把に分けると上の3つに分かれます。この3種類の鉄を簡単に識別する方法があります。これもまた大雑把ですが「火花試験」と言う方法で見分けることができます。グラインダー(回転砥石)に当てた際に出る火花で判断できます。
実際にやってみました。


鉉の材料と同じ軟鉄(軟鋼)を切断した際の火花の出方です。直線状の長い火花が出ます。


次は鋼です。線香花火のように先の分かれた火花が出ます。


鋳鉄は極端に短い先の分かれた火花が出ます。

資料用に撮影した写真です。同じ「鉄」でも金属自体の性質も全く異なるのですが、この火花試験の違いも個人的に面白いと思います。

私なりの答え

2010-06-14 05:57:44 | ひとりごと
前回の記事(http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/601667f279a8b9591a53e822b8f4a50f)で書かせていただきました出来事について、公私ともに多くの方からご助言と激励のお言葉をいただきました。この場を借りてお礼をさせていただきます。本当にありがとうございます。
様々なことを考えさせられる1週間を過ごしました。

喉につかえていたものは、腐ることなく上手く消化できました。
尊敬する先輩職人さんからいただいたお言葉、「腐るのは一番簡単、消化するだけじゃなく昇華できればいい。」
一歩間違えば腐っていたかもしれない自分です。

人の数だけ意地がある。作り手の意地と売り手の意地。相手が私の意地を土足で踏み荒らしていったのは確かですし、私も相手の意地に踏み入ろうとしたのも事実です。ただ、「南部鉄器」として使い手の方、作り手、売り手がそれぞれ一番いい状態になってほしいという気持ちは分かっていただきたいですし、今でもその気持ちは曲げたくありません。
南部鉄器のこれからのため、きちんとした仕事ができるよう精進していきます。


昨日は天気も良かったので「私事」を午前中で切り上げて気分転換にドライブに行ってきました。本当に久々の自分の時間を過ごしました。

落石するような場所へ

地元から近い山沿いの渓流です。

滝もあります。

また忙しくなるので数ヶ月先の分までマイナスイオンを補給です。


今回、私の拙い仕事に対して、温かく見守ってくださる方がこんなにいらっしゃるということを身にしみて感じました。また、そういった方々への自分の甘えも痛感しました。
まだまだ先は長いです。今回の出来事は、自分の仕事を冷静に見るきっかけにもなりました。勇み足で結論に達するのは早すぎますし、一つ一つの答えの積み重ねに本当の意味があるとも思いました。

「これだから、手仕事はやめられない。いいものをつくっていきたい。」
これが作り手としての今の自分の答えです。

鉄瓶の選び方?鉉屋の立場より

2010-05-19 18:35:02 | ひとりごと

今まで何度か「鉄瓶の選び方」について質問されたことがありました。うちは鉉屋ですのでで、盛岡市内の釜屋さん、鉄瓶屋さんに対して平等な立場である必要があります。工房がある施設内には3軒の鉄瓶屋さんがありますので、実際にお店で品物を選んで販売員の方や職人さんに質問してみて下さい、と答えることにしています。
しかし実際のところよく考えると鉉屋という仕事上、盛岡市内の釜屋さん、鉄瓶屋さんの品物を観察することが多いので、例えば「これくらいの容量で、金額はいくら」などの条件を提示された場合、自然と頭の中に数種類の鉄瓶が浮かんでしまいます。
もしお客さんの立場で「鉄瓶を選ぶ」としたら、結局「条件づけ」で決めていくのが一番ではないかと思います。実際に鉄瓶を選ぶとして、鉉屋の立場から私なりに一例を挙げてみます。

①予算
「南部鉄器」として製品化されているものは製造上大きく2種類に分けられます。伝統的な鋳造技法の「焼き型(惣型)鋳造」によるもの(参考記事http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/a98a63981956b29fa238c6b905a35df4)と、機械によって鋳型製作をする大量生産向けの「生型(なまがた)鋳造法」によるものです。
「焼き型」技法は鉄瓶や湯釜の制作に古くから使われた技術で、「南部鉄器」の歴史を長く支えてきました。「生型鋳造法」は大量生産向きでコストも押さえられますが、焼き型より製品の厚みが大きく、表面の粗さなどの問題があります。風鈴や急須などの小物、調理器具などのほとんどは生型鋳造によって作られています。
鉄瓶でも「焼き型」のものと「生型」のものがあります。盛岡で作られている鉄瓶は焼き型のものが圧倒的に多いですが、生型のものもあります。価格帯で判断しやすいです。もちろん生型の鉄瓶の方が値段は格段に安いのですが、しかし大量生産の宿命で、仕上がりの荒さや厚みがあるのでどうしても重いなど、個人的には長く使う道具としてだいぶ物足りない感があります。生型の技術を否定するつもりはありません。鋳造技法として確立し長い歴史の中、幅広い分野で用いられてきた技術です。ただ、鉄瓶や湯釜が「焼き型技法」で作られる理由そのものが長い間培われてきた「南部鉄器」らしさ、アイデンティティであると思います。「鉄」の「鋳物」であればいい、という単なる機械的合理性だけで割り切れる部分ではないと考えています。
生型の鉄瓶にはほぼ100%手打ちではない「機械で作られてた鉉」が付いています。持ってみて重く、本体表面の質感が粗めで、鎚目や焼き肌のないつるんとした鉉が付いていれば、生型の鉄瓶と見ていいと思います。
「焼き型」の手仕事で作られた鉄瓶でも釜屋さんの努力により、かなりお手頃な価格帯のものもあります。鉄瓶をお求めの際にはよく探して、実際に品物を見ていただくことが一番良いと思います。

②容量・使用用途
単に「鉄瓶」といっても大きさや形、様々な種類があります。一日に何回、何人分のお湯を沸かすか、薬缶として使用するか急須として使用するか、などによって選ぶ鉄瓶の種類が絞り込まれます。大きさは1リットル以下の小振りなものから、3リットル以上のお湯を沸かすものまであります。
お湯を沸かすときに鉄瓶の内側から微量に溶け出す「無機鉄」によって鉄分補給ができることが知られていますが、鉄瓶の内側の処理方法は2種類あります。「金気止め」といわれる処理で安定した酸化被膜が付いているものとホーローで処理されているものです。焼き型の鉄瓶のほとんどは金気止めがされていて、内側にも鉄の肌が見えます。お湯を沸かすと鉄分が溶け出します。ホーロー引きで処理されたものは生型による鉄瓶、急須がほとんどです。もちろん鉄分の溶出はありません。内側に光沢があるのですぐ分かります。薬缶として使う場合はお湯を沸かした余熱で鉄瓶内側を乾かして錆の予防ができますが、急須として使う場合はホーロー引きしているものはあまり手間がかかりません。

③外観・使用感
ずっと使う道具として、見た目も大事です。同じ程度の容量で同価格帯であれば気に入った形のものが良いですよね。
また、輪口(お湯を沸かす際水を入れる口)の大きさや蓋(摘みの大きさ・形など)、鉉の形や位置、大きさ、注ぎ口の位置や形、大きさなどによって使いやすさが変わってきます。底(熱源に接する面)の大きさなども、最近ではIHヒーターでつかう際などにあまり底の直径が小さい鉄瓶の場合、加熱が難しい場合もあるようです。
実際に使わないと使用感については分かりづらい部分も多いと思いますが、作られている工房の方や販売店の方などに聞いてみるのがいいと思います。

・最後に
しっかりと選んだ道具には自然と愛着が湧くはずです。普段のお手入れをきちんとされて一つのものとしての役目を終えるまで使っていただけることが道具にとっての「本望」だと私は考えています。
職人さんによって作られた鉄瓶を購入された場合、お求めになった工房で鉄瓶のお手入れ方法の説明や、もしもの場合のアフターケアを受け付けているところが多いです。これも手仕事ならではですね。

以上、長文となってしましましたが鉉屋の立場から考える鉄瓶の選び方でした。これから鉄瓶をお求めになられる方の参考になればと思います。

錆・銹・鏽

2010-04-29 19:09:44 | ひとりごと

「鉄」は新字体で、旧字体は「鐵」と書きます。磁性鋼であるKS鋼、新KS鋼を開発されたことで有名な、日本金属学会初代会長の本多 光太郎さんはこれを「鐵は金の王なる哉」と評されたと言われています。
しかしそんな鉄にも大きな弱点(一概に弱点とは言えませんが)があります。「錆び」です。工房を覗いて行かれるお客さんから鉄瓶の「錆び」のことで相談されます。私は鉄瓶屋さんではないので、できる限りですが丁寧に説明させていただきます(手が離せないときはすみません)。
詳しいことは南部鉄器協同組合HP「南部鉄器のご使用法・お手入れ法」http://www.ginga.or.jp/~nanbu/txt/g01.htmをご参照下さい。

一番大切にしていただきたいのは「物を使いながら育てる」感覚を持つことだと考えます。特に手仕事によって作られたものは「生き物」と同じと考えていただければ幸いです。きちんと正しい方法で世話をすれば「自分の道具」として育ち、怠れば持ち主から離れていきます。同時に、大切な自分の道具として一つのものを使うことで、ものが人(持ち主)を育ててくれます。長い時間をかけて、暮らしや自分の手に馴染んだ「もの」は何物にも換えがたく、「相棒」のような存在になります。かつて、「物」の一つ一つにも魂が宿っていると考えられていた時代があったことにも頷ける気がします。

長い前置きになってしまいましたがそろそろ本題に入りたいと思います。
幾つかの資料や文献を参考に日本人の「錆び(主に鉄の錆)」に対しての感覚には不思議な点があるようです。過去には生活の中で「錆」を活用していたことや、茶道の「侘び・寂び」に通ずる部分や、研ぎ澄まされた刀剣の世界の中に、実は錆を楽しむ要素があるなど。
基本的に鉄は必ず錆びます。ほとんどの金属は「鉱物」の状態が元の姿ではないかと考えます。自然界では金属のほとんどは化合物の状態で存在しています。鉄の場合は大気中の酸素や土中の酸性成分などと結びつき、「酸化鉄」の状態のものが多いです。
一言で「錆」と言っても、鉄の錆には種類があります。大きく分けると「赤錆」と「黒錆」です。鉄の「錆」として広く認識されているのは「赤錆」ですね。これは鉄の表面に自然に
発生しやすい錆で、酸素や水によって誘発します。赤錆は放っておくと鉄の内部まで侵食してぼろぼろにします。赤錆の進行をコントロールすることも鉄製品の一つの愉しみでもあると思いますが、ゆっくりと時間をかけて土に還ってもらうには毎日使うことが一番良いようです。黒錆は自然に発生することはあまりなく、鉄を高温で強熱した際に表面にできる被膜や、薬品処理によって人工的に発生させることができます。黒錆は鉄のごく表面に皮膜状に発生し、内部まで侵食せず、赤錆の発生や内部への侵食をしにくくする役割も持っています。火床で真っ赤になるまで熱し、鍛造した鉄にも黒っぽい被膜がつきますが、このような状態の鉄に赤錆が浮きにくいのも黒錆と同じ作用によるものだそうです。
他にも鉄とタンニンの反応により赤錆を防ぐ方法などもあります。
しかし黒錆の赤錆防止作用は完璧なものではなく、鉄という素材は土に還りたがる性質を持っているようで、手をかけなければどんどん鉱物だった元の姿に戻っていきます。私個人としてはそういった鉄の姿もまた、素材として魅力あふれるものとして映ります。
タイトルの3つの漢字は全て「さび」と読みます。
私は真ん中の字が一番好きです。時間の移ろいや鉄の意志など、あまり良いイメージがない「錆」という言葉ですが、是非ともゆっくり時間をかけながら「銹びて」もらえるようなものを作っていきたいと思います。

師走突入です

2009-12-07 18:40:29 | ひとりごと
当然ですが年内の仕事(締め切り・納期が年内のもの)は年内に終わらせます。年末には仕事場の一年分の煤払い(すごい量が出ます)と仕事場の掃除もあります。今年でこの仕事に就いて3回目の冬となります。不思議と師走に入ると忙しくなります。寒くなるこの季節、まさに鉄瓶が恋しくなる季節かもしれません。
写真は火鉢や囲炉裏で鉄瓶をかける「五徳」です。円形の輪に三本の足がついたシンプルな形状です。ガスコンロの鍋などをかける部分も「五徳」といいます。現代では調理器などを火にかけるための補助具を総称してそう呼ぶようです。以前工房にいらしたお客様が九州の方で、九州では「三足(さんぞく)」と呼ぶと教えて下さいました。五徳には鋳造のものと鍛造のものがあります。古くは「鉄輪(かなわ)」と呼んだそうです。能の演目でも同名のものがあり、陰陽師、安倍晴明が登場するお話です。怪談の範疇に入るお話で、小道具として五徳が効果的に使われています。
最近よく、一つの「もの」でも様々な側面・物語を見せてくれるものだなあと感じます。

シンメトリー

2009-11-30 18:40:34 | ひとりごと

南部鉄器の鉄瓶や茶の湯釜を製作する際に使われてきた伝統的鋳造技法の「焼き型(惣型)法は基本的に「回転体」形状のものを作る技法です(例外もありますが)。焼き型技法の詳細については下記URLを参考にしていただければおおよそご理解いただけるかと思われます。
南部鉄器協同組合HP「鉄器製作工程」
http://www.ginga.or.jp/~nanbu/txt/f01.htm
私も大学時代、専攻は伝統的鋳造法を主としていましたので焼き型法は経験済みです。中心軸をぶらさずに木型を回すまで(工程の中では基本中の基本)だけで結構苦労した記憶があります。
「回転体」形状、つまりは真横から見たとき回転中心軸によって「左右対称(シンメトリー)」になります。鉄瓶も注ぎ口を除いては左右対称の形です。シンメトリーの安定形状に取り付けられる鉉の形も基本は左右対象です。中には左右対称の鉉がつかない鉄瓶もありますが、あくまで鉄瓶の形、全体感を損なわないことが大事です。「左右対称で違和感なく」また、実際に左右対称であることと「左右対称に見える」ことは微妙に違います。それを手打ちで行うことは一朝一夕でこなせるような技ではありません。時間をかけてでも、着実に一歩一歩進んで行きたいです。

南部鉄?

2009-10-27 18:46:44 | ひとりごと
 私の勤めさせていただいている工房は、見学を兼ねた施設内にあるので、よく窓越しにお客さんから質問されたりします。
お客さんの一言でちょっと気になったことがあったので備忘録として書き留めておこうと思います。
「南部鉄」
という言葉です。結論から言うと、「南部鉄」というものはありません。釜や鉉に使われる材料は日本で製造(製鉄)された鉄ではありませんし、増して岩手県産の鉄を使っているわけでもないです。
ほんの一部の試みや工房独自の製品として岩手県産の砂鉄を使用した鉄瓶や茶の湯釜を製作することはありますが、コスト面での問題で産地全体として県産鉄による鉄器製作はほぼ不可能とされています。
「南部鉄」を謳い文句にあたかも普通の鉄とは違う、特別な材料を使用しているように宣伝される場合がありますが、むしろ南部鉄器の鉄瓶・湯釜などの「手仕事」に限っていえば、材料はいたってありふれた「鋳鉄」ですが、鋳型のつくりや紋様押しなどの「手仕事の技術」が「南部鉄器」であると私は思います。