職業、鍛冶手伝い。

現代の迷工、未来の虚匠

岩手県工業技術センター所蔵品②

2010-10-27 19:02:55 | 古作に学ぶ

鉉とのバランスが非常に良いです。



鉉ははめ込み式ですが、紙一枚の隙間もないような作り込みです。
シンプルですが技術がぎっちり詰まった逸品です。


大霰の鉄瓶です。きっちり作り込まれた木瓜の鉉がよく合っています。

派手に遊んでいらっしゃいます。しっかりとした技術と、その使いどころを心得ていること。「腕がいい」とはそういうことかもしれません。

その他、茶の湯釜が数点ありました。どれも一点一点が素晴らしい作品でした。今回は鉄瓶をメインに紹介させていただきました。
また拝見できる機会があれば嬉しいです。

岩手県工業技術センター所蔵品①

2010-10-25 18:04:06 | 古作に学ぶ
10月8・9日(金・土)に私たち鉄器業界も普段大いにお世話になっています岩手県工業技術センターの一般公開が開催されました(詳しくは下記URLでご覧下さい)。
http://www.pref.iwate.jp/~kiri/open-copy/open_H21.html
今年は技術センターさんの所蔵している古作の鉄器(主に釜、鉄瓶)を公開するとともに、ぜひ現在の鉄器業界の若手の作品展示を、とお声を掛けていただきました。丁度鉄器まつりの新作展もありましたのでそちらの作品を展示させていただくことになりました。その展示作業の際、技術センター所蔵の古作の数々を写真に収めさせていただきました。
「意匠に遊び心あり」古作の自由な発想や驚くような造形には高い密度で積み重ねられた技術という裏づけがあります。見ていると目眩がするもの、寒気がするもの、途方にくれるもの、ほんの一部ですが紹介していきたいと思います。

南部型の鉄瓶です。全体の形、紋様の繊細さや美しさもさながら、昔の鉄瓶は鉉が小振りなものが多いです。袋鉉の割り鋲止めですが、この方式で鉉が小振りだと鉄瓶がとても上品に見えます。あくまで個人的な感覚ですが。

銅蓋付の鉄瓶です。鉉は立張り鉉(袋)で、こちらも割り鋲止めです。鉉も小振りで霰の間隔が広め、どこか現代的な印象すら受けます。



大小の霰が押してあります。「親子アラレ」と呼ばれます。

摘みは蛙です。今にも飛び跳ねそうなくらい生命感があります。親子アラレと相まって朝露の中に佇んでいるようです。




寸胴型です。松葉の紋様です。

摘みも松の実です。開いている松の実を摘みにしているものははじめて見ました。本物を象ったような細密さです。

続きます。

手元から離れて

2010-10-19 18:44:00 | 私事

作品展でお客様にお求めいただいた作品を梱包しました。

人様の手元に旅立つ作品です。出来る限りのお粧ししてやります。外装も気合を入れて制作しました。

この作品を制作したことで、新たな技術を学ぶことが出来ました。思い入れの強い作品です。そのことについてはまた後ほど記事にします。

「作者の完成」と「ものの完成」は異なるものだと思います。使われて、使っている方の癖が付くくらい古びて、もしかするとその役割を終えるときが「完成」なのかもしれません。
いってらっしゃい、大切に使っていただけますように。

第23回 盛岡南部鉄器まつりの様子

2010-10-18 05:58:15 | 日常
一ヶ月も後の事後報告の形となってしまいましたが、「第23回盛岡鉄器まつり」の会場の様子などを簡単にですが掲載させていただきます。

鉄器の新作・創作展と伝統工芸士の皆さんの作品展示です。





鉄瓶で沸かしたお湯でお茶をサービスします。

好評のお茶請けは南部煎餅とたんきりです。どちらも会場の手づくり村で販売しています。

新作・創作展の展示です。

伝統工芸士の皆さんの作品です。

鉄の花器に花を生けた展示です。重々しくなりがちな展示に彩りが出来ます。ご尽力いただきました女性陣の皆様、誠にありがとうございます。



鉄にまつわる雑学などを詳しく分かりやすくパネル展示しています。



一日だけの限定で吹き(鋳込み)の実演もありました。お客さんが大勢集まっていました。


偶然・・・。

2010-10-17 20:20:46 | 日常
以前、秋田の「大館曲げわっぱ」について調べていた時に興味深いブログを見つけました。

 「shojiの伝統産業を巡る旅」
http://shojifujii.blog106.fc2.com/
名古屋の大学の学生さんで、全国各地の伝統産業(伝統工芸)の産地を巡る旅の真っ最中だそうです。始まりは秋田の大館曲げわっぱの取材をされています。大館では約4ヶ月間もの長期滞在で曲げ物の工房を訪れ、直接作り手の方とお話されて、非常に詳しいところまで調べられています。しっかりとした目的意識があり、手仕事に目を向けて深く考察されていて、ブログを拝見する度に大変勉強にさせていただきました。

ある日のことでした。その日は親方(師匠)はご不在でしたが普段どおり仕事をしていると、隣の釜屋さんの親方と若い方が工房の中でお話をされていました。名古屋からいらした学生さんだそうです。
私の勤める工房は、見学・体験施設を兼ねた様々な手仕事や地場産業の工房が集まっている施設の中にあるので、よく県内や県外の学生さんが大学での研究のため見学や取材などにいらっしゃることがあります。
数日後、私の親方にも取材の了承を得るためにいらっしゃいました。翌日に取材をされることに。
次の日、私の親方への取材中にその学生さんが
「岩手に来るまでは大館に4か月ほど滞在していました。」
・・・どこかで聞いた話です。
取材終了後に「もしかして、ブログやっていらっしゃいます?」と聞くと、「はい。やってます。」
まさかご本人だとは・・・。偶然ってあるんですね。
ほんの少しですが私もお話をさせていただきました。ブログの記事からも分かりますが実際にお会いして、ご自分の足を使ってしっかりした目的をお持ちになっての旅をされていらっしゃると感じました。私は普段「作り手の立場」寄りで伝統産業や手仕事について考えていますが、この学生さんの旅は、今の社会の中での手仕事の位置づけを、作り手の「主観」に耳を傾けながら「現状での伝統産業・手仕事」を「良い意味で」客観的に考えるベストな形(研究形態)ではないかと思います。現在、全国の伝統工芸の実態は軒並み良いとは言えるものではありません。この学生さんが今後様々なの産地を巡ってどのような出会いをされて、様々な考察をされていかれることと思います。
10月とはいえ岩手や東北の朝晩の冷え込みは厳しいので、お体には十分お気をつけて下さい。今後の旅のご様子も楽しみにしております。

岩手県産鉄の研究⑤たたら製鉄(姫神砂鉄)後編 

2010-10-13 18:16:14 | 私事

2日目の朝は火入れからスタートします。まだ暗い朝の5時から作業開始です。
空が明るくなってくると、一気に快晴の青空になりました。絶好のたたら日和です。

岩手県産鉄の研究③http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/817e05dcbdf828631ebb53b0f5903b62
過去にケラから制作した火打ち金で、切り火により火を起こしました。
写真は、火打ち金、火打ち石、火口(ほぐち:火花を種火にするためのもの)です。籠のようなものは「ぶんまわし(仮称?:正式名称がお分かりの方、ぜひご一報下さい。)」で、種火と燃えやすいものを入れて振り回し、空気を送って着火させます。本来は「付け木」というものを用いますが、手元になかったので急拵えで針金で作りました。
起こした火を炭に移して、炉の中に入れます。

最初のうちは底羽口から送風して、炉頂まで炭を入れていきます。ある程度炎と炉内の状態が安定したら砂鉄を入れていきます。
木炭が燃焼して、下がって来ます。木炭の下降具合を見ながら砂鉄と木炭を入れていきます。
今回は送風量が足りなかったようです。木炭の下降が遅いです。
投入した砂鉄が燃焼している木炭の中で一緒に下降していきます。炉内で最高温になる羽口付近まで下降すると砂鉄が半溶融状態になり、炉底に塊を作ってきます。


一回につき投入した砂鉄は1キロで、後半は1.5キロ、木炭は2キロです。

底羽口として使っていた部分から、「ノロ」を出します。ノロとは、金属が溶ける際に出る鉱滓(スラグ)分の事ですが、たたらの場合、砂鉄の鉄以外の成分や炉壁など、鉄より低融点のものが高温により溶け出したもののことを指します。ノロは高温状態では流動性があります。冷えて固まると発泡性があり、脆いガラス質です。このノロの性質からもたたら製鉄の良し悪しが分かることもあります。

今回は炉内の温度が上がらないせいか、出てくるノロは少なく、粘り気があります。
最終的に炉底に鉄の塊(ケラ)ができます。ノロ出しを適度にしないと、ケラにノロが絡んだまま冷えて固まり、不純物が多い状態となりケラの製錬が難しくなります。
一定量の砂鉄を入れ終えると、砂鉄と炭の投入を止め炉内の木炭を自然降下させます。ゆっくりと木炭を燃焼させ、ケラの凝固を待ちます。
今回は12キロ弱の砂鉄を投入しました。
一定のラインまで木炭が下降したらたたら炉を上から外していきます。釜屋さんが考案された分割式たたら炉なので、便利です。再利用も出来るので、また次回の操業でも使えます。

炉底まで外して底に出来たケラを取り出します。


取り出したケラをその場で冷やし、切断面を見ました。歩留まりはあまり良くなかったようですが、きちんと鉄が出来ています。



年1回、城内でたたら製鉄をさせていただけることになっております。地域の皆さんのご理解とご協力をいただきながら、イベントとしても盛り上がっていけば嬉しいです。
今回の操業でお力添えをいただきました皆様、本当にありがとうございました。また来年もぜひよろしくお願いします。

岩手県産鉄の研究④たたら製鉄(姫神砂鉄)前編

2010-10-12 18:58:23 | 私事
たたら製鉄とは、古代から行われている鉄の作り方のことです。
過去の記事でも何度か触れていますので、参考までにお読み下さい。

岩手県産鉄の研究①http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/38fdd7aed5c742b1f5a062aeceb9fcbe
岩手県産鉄の研究②http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/f380bb3a39309ef11927e8ea2ebae8a5
岩手県産鉄の研究③http://blog.goo.ne.jp/forginer1984/e/817e05dcbdf828631ebb53b0f5903b62

現在一般的に使用されている「鉄鋼」と呼ばれている素材は、鉄の原料となる鉄鉱石を鉱炉で完全溶解したものが様々な工程を経て、素材としての用途によって分類されたもののことを指します。
現代の鉄は鉄鉱石から作られますが、古来から日本では「砂鉄」を原料とした製鉄が行われてきました。


9月の25・26日(土・日)に盛岡市玉山区の城内地区で姫神砂鉄でのたたら製鉄を操業しました。盛岡市の釜屋さん方での操業で、私もお手伝いで参加させていただきました。たたらの操業の経験は過去に3回ありますが、久しぶりのたたらとなりました。
ちょうど良い機会ですので、たたら製鉄について今回の操業の記録とともに記事にさせていただきます。2日間に渡り行われましたので、前半と後半に分けて掲載します。

1日目

あいにくの曇り空で、時折小雨が降っていました。朝8時より、製鉄のための炉「たたら炉」の設置を開始しました。たたら炉の大きさは大小様々あり、最終的に得られる鉄の量によって規模が変わります。今回の操業で使う炉はは小型のたたら炉に分類されます。炉自体が半分ほど地中に埋没する大型のものもあります(作られる鉄は数トン単位です)。昔は赤土などを使って、一回の製鉄ごとに壊していたようです。

今回はレンガ製丸型のたたら炉です。釜屋さんが、鉄瓶の鋳込みの際の甑(こしき:熔解炉)の原理を元にして製作されました。これが炉底(できた鉄が落ち着き固まる部分)です。底羽口(送風口)が三カ所あります。炉内に木炭を入れて一番始めに風を送る場所です。


二段目です。上羽口があります(パイプがつながっている部分です)。炉内で木炭を燃焼させ、ある程度安定した後、製鉄のための風を送る場所です。この上羽口の角度によって、操業の結果が変化します。

三段目から五段目まで積み上げます。
炭を起こして炉内に入れます。底羽口から送風します。炉底と炉全体をしっかりと乾かします。

初日のこの日は炉の乾燥や翌日(操業本番)の打ち合わせなどであっという間に過ぎていきました。この後、道具類の不備などを確認して、必要なものは調達します。または鍛冶屋なのでつくります。
翌日は朝5時に炉に火入れです。
参加される方の安全と製鉄の歩留まり(取れる鉄の量)が多いことを祈りながら、眠りに就きました。
後半に続きます。