1999

~外れた予言~

脳出血後遺症(4)

2006-10-21 22:42:07 | Weblog

(殺せませんね)

私は、遅まきながら返事をした。
返事といっても、
口に出さないで言葉を脳内に浮かべただけだが。

(あなた、負けたんですよね)

(ずいぶん派手に負けましたね)

(どんな相手にやられたんですか?)

私は、泣き言を聞くのがあまり好きではない。
努めて突き放すように返事をしてみた。

だって当然だろう。
おそらくこの異能の持ち主である中年女性は、
被害者になる前は、ずっと加害者だったはずなのだから。


(あなた、かなりのやり手だったんじゃないですか?)

(この状態でこの強力な送信能力、スゴイですね)

(なかなかこんな人、お目にかかれませんよ)

(さぞかし絶頂期は強かったんでしょうね)

(それがまあ、こんな姿になってしまって)

私は、中年女性のことを、
とても攻撃的な性格なのではないかと感じていた。
だからこそ、
少し挑発的なことをいって怒らせた方が、
当時のいろいろな背景や事情を教えてもらえると予想した。

そしてその試みは、
激しく成功した。


(ナマいってんじゃないわよ!! 若造が!!)

中年女性は烈火のごとく激怒した。
私の送っている思念がどうやら理解できるようだ。

(あんたなんか、何も知らないくせに!!)

あまりに絵に描いたような注文通りの反応に、
私はかえってたじろいだ。
とりあえずコーヒーをひと口飲んでみる。
ゴクリと生唾を飲み込むように。

(あんたがいまノホホンと暮らしていられるのも・・・)

(みんなが我が者顔で生きていられるのも・・・)

(世界が、人類が、滅ばずに無事に済んでるのも・・・)

(誰のおかげだと思ってるのよ!!!)

私は目が細い方だが、
大きく開けられる限度いっぱいに、両目を見開いた。
世界? 人類? 滅ぶ? 無事に済んだ?

この中年女性は、はたして正気なのだろうか?
ひょっとしたら、
これも脳出血の後遺症のせいなのではないだろうか?