(殺せませんね)
私は、遅まきながら返事をした。
返事といっても、
口に出さないで言葉を脳内に浮かべただけだが。
(あなた、負けたんですよね)
(ずいぶん派手に負けましたね)
(どんな相手にやられたんですか?)
私は、泣き言を聞くのがあまり好きではない。
努めて突き放すように返事をしてみた。
だって当然だろう。
おそらくこの異能の持ち主である中年女性は、
被害者になる前は、ずっと加害者だったはずなのだから。
(あなた、かなりのやり手だったんじゃないですか?)
(この状態でこの強力な送信能力、スゴイですね)
(なかなかこんな人、お目にかかれませんよ)
(さぞかし絶頂期は強かったんでしょうね)
(それがまあ、こんな姿になってしまって)
私は、中年女性のことを、
とても攻撃的な性格なのではないかと感じていた。
だからこそ、
少し挑発的なことをいって怒らせた方が、
当時のいろいろな背景や事情を教えてもらえると予想した。
そしてその試みは、
激しく成功した。
(ナマいってんじゃないわよ!! 若造が!!)
中年女性は烈火のごとく激怒した。
私の送っている思念がどうやら理解できるようだ。
(あんたなんか、何も知らないくせに!!)
あまりに絵に描いたような注文通りの反応に、
私はかえってたじろいだ。
とりあえずコーヒーをひと口飲んでみる。
ゴクリと生唾を飲み込むように。
(あんたがいまノホホンと暮らしていられるのも・・・)
(みんなが我が者顔で生きていられるのも・・・)
(世界が、人類が、滅ばずに無事に済んでるのも・・・)
(誰のおかげだと思ってるのよ!!!)
私は目が細い方だが、
大きく開けられる限度いっぱいに、両目を見開いた。
世界? 人類? 滅ぶ? 無事に済んだ?
この中年女性は、はたして正気なのだろうか?
ひょっとしたら、
これも脳出血の後遺症のせいなのではないだろうか?