フィールズ国際特許事務所 代表弁理士ブログ

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特許行政年次報告書2023年版

2023-08-31 20:46:45 | 知的財産制度

特許庁から先月末に特許行政年次報告書2023年版が発行されました。知財の各種動向が分かるため楽しみにしている報告書の一つです。気になったところをいくつかご紹介します。

特許出願件数は2013年以降減少傾向が続いていましたが、2020年以降は横ばい傾向となり、2021年、2022年は前年よりも若干増加傾向となっています(報告書2頁)。下げ止まったとみるべきか、分かりませんが、特許出願件数に増加傾向が見えていることは喜ばしいことです。国際出願の件数も48,719件であり、5万件前後の件数を維持している状況です。

審判・異議申立の動向も興味深かったです(報告書72-77頁)。特許異議申立件数は2020年から増加傾向が続いており、2022年は1322件の特許(以後権利単位の件数)が異議申立を受けています。この件数は2015年の特許異議申立制度導入後、最多となっています。一方で2022年の取消決定件数(一部取消含む)は95件、取消決定率(最終処分件数に対する割合)は7.5%となっており、2019年(取消決定:140件、取消決定率:13.5%)からはっきりした低下傾向(権利者有利の傾向)が見て取れます。つまり特許異議申立制度はユーザーに人気ではあるが、異議申立人にとって所望の結果は一般的にはなかなか得られないということでしょうか。

無効化割合が低下傾向であることは特許無効審判でも見られます。2022年の特許無効審判の請求成立件数(一部成立含む)は16件、請求成立率(最終処分件数に対する割合)は13.9%であり、請求成立率は2020年から低下傾向となっています。

一般的に異議申立制度は権利者に有利といわれてきました。2022年の取消決定率は請求成立率よりも低く、この点は依然として確かにそうですが、権利者有利の傾向は異議申立・無効審判の制度構造に依存するのではなく、審判部全体の傾向であるのかもしれません。

しかし、このような傾向は特許庁審判部の特許性判断基準が緩くなっているからとは即断できないと考えています。日頃の特許庁の審査・審理を見ていると新規性・進歩性・記載要件の判断が近年甘くなったとは思えません。審査の質が上がり、係争になってもつぶれにくい特許が成立している、ということなのかもしれません。

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