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日々・戯言の叫び

感じた事とか色々、表に出せない事を吐き出す独り善がりで嘘つきな日記

忘却。

2008-04-10 18:49:19 | 零崎
ぼ~っとしてると色々ネタを思いつき、そしてメモるわけでもないのでどんどん忘れていきます。ええ、駄目駄目ですねー。
零崎小話――誰かさんの過去、かな?


「初めまして」

血のように赤い眼をして、男は言った。
男というか、青年だ。
真っ白い肌に銀色のフレームが光る。
うふり、と。
三日月のように目を細め、笑う。
誰だろうか?と首を傾げた。
記憶力は悪くは無いが、見覚えが無い。
けれども、やはりどこかで会った事があるような。
懐かしい感じもする。
綺麗な黒髪。細くて長い手足。針金細工みたいな長身。
簡素なシャツとズボン。
眼鏡がまったく似合っていない、綺麗な顔立ち。
こちらが戸惑っているというのに、青年はまったく気付こうともせずに笑っている。
「迎えに着たんだ」
そう、手を差し出されてもどうすれば良いのか。
「俺たちはね、家族なんだよ」
うふり。底の見えない笑みを絶やさずに。
自分には家族なんていないのに。
馬鹿なことを言う。
確かに、懐かしさは感じるけれど。
ああ、そういえば。
なぜだろうか? この青年を殺そう、とは思わない。
人を見れば、例えそれがどんな人物であれ、誰であれ。
殺せると、そう思ってしまうのに。
そう、思わずにはいられないのに。
ますます困惑してしまう。
そんな心情を見透かしたかのように、青年が一歩近付いた。
「殺す気にならなくて驚いてるのかい? うふ、うふふふ。
俺たちは家族だからね。家族を殺そうなんて思うわけ無いだろう?」
笑って。微笑って。哂って。
至極当然のように。世界の真理だと言わんばかりに。
さぁ、と。
白い手を差し出される。
穢れ一つないと、錯覚しそうになるほど白い手。
青年は笑っている。
目の前の手を、取らないはずが無いと確信めいた光を宿し。
この手を、取ってはいけない気がした。
取ってしまえば、逝けない気がした。
けれど、取らなければ活けない気が、した。
初めからどこにも行けない自分が、どこかに往ける気がした。
ゆるゆると、伸びてゆく自分の手。
白い白い手と重なって。
優しく柔らかに握られて。
青年が、いっそう深く笑った。
幸せそうに。天使みたいに。悪魔のように。

どこかで何かが、死んで生まれたような、気がした。


この世には偶然も必然もありません。全ては回帰の為の過程です。

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