MIN LEKPLATS

& Patrick Chan is the ONE

翔ぶ者たち その6

2010-04-18 00:23:27 | 翔ぶ者たち

三ヵ月後・・

「カリーナ、久しぶりね、どうぞ入って」
ドハニーは自室のドアを開けて、SÄPO(スウェーデン警察国家保安部)勤務の友人、カリーナ・スコーグを招き入れた。
「コーヒー、それともお茶がいい?」
「どうぞお構いなく。あんまりゆっくりしてられないの」
「相変わらず忙しいのね」
「残念ながら。私達が忙しいなんていいことじゃないのにね」
「・・・・」

「で、新しい子、・・アドリアンといったっけ、その後どんな感じなの?」
ソファに落ち着くなり、スコーグが聞いた。
「そうね、・・才能は確かにある。結構真面目に訓練にも励んでるわ」
「だけど?」
ドハニーは苦笑して首を振った。
「貴女にはかなわないわね」
それから姿勢をただし、しばらく考え込んでからゆっくりと話を再開した。
「巧く言えないんだけど・・なにか不安なのよね。当初あれほど反抗的だったのに急に素直になったのが不自然で、それが引っ掛かってるのかも知れない」
「考えすぎじゃない?性格教育とエバリュエーションにもちゃんと参加しているんでしょう?」
「ええ」
「クリストファーと比べちゃ駄目よ。あんな素直な子こそ珍しいんだから」
またドハニーの口元に笑みが浮かんだ。
「わかってるわ。ただね、アドリアンにはどこか見極められないところがあって、それが人を不安にさせるのよ」
「底知れぬ大人物な証拠かもよ」
今度は二人同時に笑った。
「だったらいいんだけど」
スコーグが真顔に戻って言った。
「急かせたくはないんだけど、異例なプロジェクトなだけにSÄPO内でも疑問視する者が多いの。援助継続のためには、確かな成果が必要なのよ」
「わかっているわ」
「今日からクリストファーとの合同訓練を始めたんでしょ?」
「ええ」
「彼はどう言ってるの?」
「仲間が出来て嬉しいって」 ドハニーは浮かぬ顔で答えた。

   
###########


「あんた、コンピューター技師なんじゃなかったの?」
食堂に向かう道すがら、アドリアンが聞いた。
「そうだよ」 とクリストファー。
「だけど、あんたスーパーヒーローだろ。なんでそんな平凡なことしてるの?」
「スーパーヒーロー?」
「うん、俺も今やその候補生だし」
クリストファーは苦笑した。
「あのね、世の中厳しいんだよ。スーパーヒーローだけではとても食っちゃいけない」
「え、そうなの?」
「そうさ。スーパーマンだって普段は新聞社で働いてるだろ?」
「むむ・・」
「バットマンがフルタイムなのは大金持ちなればこそだし」

「・・・・」

「どうした?」
「なんかがっかりした。スーパーヒーローでキャリア積もうと思ってたのに!」
「ははは、それは気の毒だったな」
「こんな厳しい訓練強要した上に仕事は別に探せなんて、ひでえ奴らだ」
「君さえ同意すれば、社内で適当な仕事をみつけてくれるよ」
「冗談じゃねえ、俺にどんな仕事が出来るっての?掃除夫か?」
「まさか・・」
「コンピューター技師だなんて、思えばあんた頭もいいんだな。そんなイケメンで性格良好でスーパーヒーローで、おまけに頭まで良いなんて一体どうなってるんだ?不公平にも程があるんじゃないか?」
「えっ?!なにを急に・・」
意表をつかれてうろたえているクリストファーを後に残し、アドリアンはさっさと食堂に入っていった。が、その間も声高な喋りをやめない。
「こんな待遇、俺は断固拒否するぞ。スーパーヒーローだけで食っていけるべきだ!贅沢する権利があるべきだ!労働組合は何をしている?!」
周りの者が驚いて振り向いた。
「こ、こら静かにしろ、そんなこと大声で・・」 慌てて後を追うクリストファー。

「立て万国のスーパーヒーローよ!・・むむ・・」
・・漸く追いついたクリストファーがアドリアンの口を塞いだ。


   ##############


夕食後・・


「どうだ、腹が一杯になって少しは落ち着いたか?」
「ん・・・」
「本当に面白い奴だな。でも、ちょっと冗談が過ぎるぞ」
「冗談じゃないよ。スーパーヒーローで飯食おうと思ったのは本当だ」
「普通そういう発想しないだろ」

「でもさ」アドリアンが急に矛先を変えて言った。
「やっぱり変だよ、ここ」
「え?」
「興味本位の実験にしては、みんな深刻過ぎる」
「・・会社の営利が掛かってるんだ、深刻で当然だろ」
「そういうんじゃなくて・・」

アドリアンの色薄い瞳が不思議な光を放ってクリストファーを捉えた。

「あんたら、まじで真剣だ」
クリストファーが顔を上げて相手を見る。二人の視線がぶっつかった。

「そうだろ?あんた、命懸けだよな」

「な、なにを馬鹿な・・」
相手の言葉をアドリアンは手を振って遮った。
「いいよいいよ、あんたの下手な言い訳なんか聞いたって仕方ねえ」
そのままそっぽを向く。

「あんたらの思惑なんて、どうせ俺にはどうでもいいんだ」

それっきり無言になって、じっと空間に眼をむけるシュルタイスの口元に微かな笑みが浮かぶのを、ベルントソンは不安な面持ちで見つめていた。


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2 Comments

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Unknown (はしるん)
2010-04-19 22:36:51
小説へのコメントは初めてですが、続きを楽しみにしておりました。
不思議系やんちゃ新米と温厚知的イケメン先輩のかけあい、性格の描写がとても彼らっぽくて、なんだかぐっときます。

あと、スーパーヒーローの解釈に目から鱗でした。
そうか、バットマンはぼんぼんだった…
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Thanks! ()
2010-04-20 21:31:14
はしるんさん
コメント有難うございます。

彼らっぽいと言っていただけて嬉しいです。
あの二人、想像してた以上に掴みにくいキャラで、実は難儀しています。フィリップやコーチ達はどんどん勝手に動いてくれるのに、肝心の二人はさっぱり・・

そうそう、バットマンは大財閥の御曹司ですからね。
クリスチャン・ベールが「太陽の帝国」の気品ある少年と同人物だってのがどうも納得できなかったんだけど、ブルース・ウェイン役の彼を見て納得したというか・・て関係ないですね(汗)

ではまた
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